1672年 松竹(製作:松竹、渥美清プロ)
監督:今井正 主演:渥美清、財津一郎、小川真由美、北村和夫、長山藍子
原作は「兵隊やくざ」でも有名な有馬頼義の「遺書配達人」。その題名のとおり、戦争で生き残った渥美清が預かっていた戦友の遺書を配達して歩く話である。企画も渥美のものであり、その力の入りようは演技からよくわかる。戦争が終わり8年間でその悲しみが風化していくことに対して戦争の意味を探る感じの映画である。そして、そこには完全なる反戦の声も聞こえる。そう、戦後10年もたたずに日本人は朝鮮戦争もあって自衛隊ができ、また愚かな道を歩き始めたように感じた人も多いのだろう。ましてや戦後69年、他国の戦争に参加しようなどというキチガイが政治をやっていたりするわけである。この映画に描かれる戦争の悲劇を見たら、そんな政治を行うなどありえないのだが・・・。
渥美は戦地で病気になり内地に送り返されることになる。その際、部隊のものたちが彼に遺書を託した。そして、すぐに部隊の全滅を知る。そして終戦。彼はもってた遺書を渡して歩こうとみなの家を探し出す。そんな中、買い出しの列車で担ぎ屋をやっていた小川と知り合い、身体の関係を持つ。彼女は夜は身体を売っていて渥美には惚れてしまっていた。だが、渥美の持っている遺書の中に自分あてのものを見つけてしまい姿を消すのだった。渥美は食うために進駐軍の残飯でシチューを作って売って歩いた。相棒は財津で渥美の板前の腕をみて一緒に店を開こうというが、渥美は遺書を渡す旅を始めることにする。残された父親や母親、恋人たちに手紙を渡していくうちにさまざまな思いが巡る渥美。九州から北海道、東北とめぐるが、妻が発狂していて渡すこともできないこともある。渡す弟が死刑になっていたりもした。東北の米沢では渡す相手はみつからないが、マッサージをたのんだ相手(市原悦子)がその本人だと知る由もなくすれ違ったりもする。東京に戻るとアパートに手紙が入っていた。小川が危篤だという。彼女は手紙の封を切る勇気がないといったまま息絶える。財津に店をやらないかと声をかけられるも、輪島に。渡す戦友の妻(長山)にあえるが、一緒にいる男(江原真二郎)に見覚えがあった。昔の上官だった。長山は夫は昭和17年に死んだと言う。江原が長山の写真を見て惚れて死んだことにして長山を奪ったのだった。渥美は許せずに江原をなぐる。そんな出来事に遺書配達をやめようかと思い財津に仕事の世話をしてもらうことにする。だが、その宴席であった芸者(香山美子)の話に彼女の恋人の遺書を持っていることに気づく。香山にそれを渡すが、香山はそんなもの持ってこられても困るとさめた反応をするのだった。そして、また遺書を配達する。その先は見つかるがそこから差し出した本人(北村)が現れる。驚く、渥美。一緒に酒を酌み交わし、北村は、戦争など過去のことだという。そして渥美の配達の話を無駄だというのだった。それを聴き、渥美は自分が遺書を配達していた意味を知る。それは「怒り」だったんだと。
今井作品だが、渥美清の映画としてできあがっている。ある意味、「寅さん」よりも意志の強い渥美清がいて、彼の演技が反戦を強く感じさせる一篇になっている。戦争は、さまざまなものを壊し、人間をも狂わせ、百害あって一利なしということを強く感じさせる映画だ。
配達する者たちのそれぞれのエピソードは時間も短く、それほど濃いものではないが、それが連続的に語られることにより、なにかせつなくなっていく。その導入部にある、小川真由美との関わりはかなり印象的であり、戦争やその時代などの環境には関係なく、男女が惹かれあうさまをなかなかうまく描いている。ここでの渥美は寅さん的でもある。そう、寅さんは、女たちが関わりやすい楽さからもてるのである。
そんな優しさをみせたところで、遺書の配達に出る渥美。しかし、地方でもそれをありがたく受け取る人々は皆無に近い。戦争が、さまざまな暮らしを破壊しているのだ。そう、戦争という事象が幸せとか不幸とか言う前に家族を壊していくことがよくわかる。そこに何も言えない渥美がいる。
それを繰り返すうちに観客が渥美の心中にシンクロしていく感じはなかなかよくできた反戦映画といっていいだろう。いまでこそそう思うのだから、公開当時は、もっとそう感じた人がいたのかもしれない。公開されたのは1972年。ちょうど沖縄が返還された年である。
ラストの方に、戦争などすっかり忘れた香山と、忘れてしまおうとふっきる北村がでてくるのもなかなかうまい構成である。渥美の静かな怒りの高揚をみせる演出はなかなか決まっている。
結果的には、遺書を配ることで怒りの本質を知るという悲劇なのかもしれないが、簡単に「戦争しよう」などというご時世にはこたえる映画である。戦争は人を幸せにするものではない。日本人はそれを知っているからこそ、それを叫び続ける義務がある。地球上からそういう不幸がなくなるために・・・。自分から戦争する行為は「ひとでなし」の行為だということがよく理解できる映画である。静かで熱い一篇といっていいだろう。
こういう映画を鑑賞できる機会が少ないのも、日本の政治がとんでもない方向に行こうとする原因であろう。「寅さん」はよくやっているが、是非、こういう渥美清の映画も繰り返し見る機会を作って欲しいものである。
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