1938年 松竹
監督:佐々木康 主演:三宅邦子、高杉早苗、森川まさみ、佐野周二、笠智衆
戦前のオフィス恋愛もの。不倫アリ、嫉妬アリ、足の引っ張り合いアリと、今のテレビドラマとあまり変わらないような題材。それなのに、冒頭でスキー場がでてきたり、途中でアイススケート場がでてきたりするのは、企業タイアップなのか?そんなことを考えながらも、この映画でのもっとも見所は黒い笠智衆。恋人を出世させ、出世させたその彼女と結婚して玉の輿に乗ろうと考える悪い男の役を、あの御前様の台詞まわして演じきり、最後は失脚するというもの。それだけで、見る価値はある映画である。
スキー場に遊びに来たタイピストの同僚(三宅と森川)は会社の男の話をしている。高杉は三宅に笠と一緒に食事をしようと誘う。なりゆきで返事をして東京に戻る。すると、約束の日、森川は都合が悪いといい、しかたなく笠と二人で銀座で食事する三宅。そこで、上司の佐野が女癖が悪いという話をしたあと、結婚してくれという笠。三宅は少し心が動くが、その夜、佐野から電話があり話をしたいという。笠の話から警戒した三宅は妹(高杉)をつれていく。そこで、佐野は三宅に仕事でフランス行きをすすめる。妹はいい話だというが、三宅は佐野が信じられず返事をしなかった。それを笠に話すと、「すぐにでも結婚しよう」という話をしてくる。そこに森川が現れる。そんな中、高杉は佐野を訪ね、三宅のことを話すが、実際は佐野を好きになったのだ。笠は森川と愛人関係に有り、森川をフランスにやり、出世させて玉の輿になろうと算段していた。そのために三宅を誘いフランス行きをあきらめさせようとしていたのだ。なかなかうまくいかない中、佐野と高杉が一緒にいるのを見て、佐野が高杉を妾にしていると会社中に噂させる。それがきっかけで高杉は家出し、佐野が話を聞くことになる。そして、三宅に好きだと告白する佐野。だが、病気の妻を持つ佐野はそれ以上は三宅に強要はしなかった。そんな中、まじめにピアノを習うと佐野に約束した高杉がいなくなる。山の温泉宿に佐野が訪ねていくと、部屋はひとつしかなかった。次の日、。三宅が着いたとき、佐野は高杉と関係を持ってしまったと告白する。そして、佐野は命をたち、笠と森川はクビになる。そして、三宅はフランスに旅立つのだった。
今、見ると、三文芝居である。でも、戦前のこういうドラマが少なかったときはこれでも十分に楽しめたのだろう。しかし、この頃の現代劇は「家出」というのがひとつのドラマを動かす原動力なのだろうと思ったりした。情報が取りにくい世界では、いなくなるというのが、一番のドラマの導線なのである。とはいえ、当時としてはめずらしい電話がでてくるのは、この時代のOLがかなりハイソサエティにあったことを感じさせる。
会社は化粧品会社だからだろうか、トイレで化粧直し、よもやま話をしている姿はいまとあまりかわりない。そう、こういう女の文化はこの当時、もうできていたようだ。妹役の高杉のファッションなどは、モガと呼ばれるような颯爽としたもので、こういう映画が東京のモードを宣伝していたのだろう。
だからこそ、そこにでてくる、スキーのバカンスやスケートのような娯楽も一般人がやったというよりは流行のさきがけとして描かれているように見える。そんな中に、当時の銀座の風景はよく似合う。まだ、綺麗な日劇。その前に確かに数寄屋橋がかかっているのがわかる。都電が都会のスピード感をかもしだすのも当時の空気感なのだろう。昭和13年の東京がある意味、堪能できる。そこにはまだ、戦争の痛みは感じられない。そう、戦争の前は意外にノー天気なのだろう。そう考えると、今が戦前の雰囲気といってもなんら不思議ではない。
ここにでてくる女たちはみな、自分の主張をはっきりする。途中で高杉が石坂洋次郎の「若い人」を読んでいるシーンがあるが、そういうものが流行った時期であり、(この映画の前年に出版されて映画にもされている)女たちが主張し始めた時代だったのかもしれない。
それにひきかえ、男たちは欲望に勝てない、自己のアイデンテティもあまり強調しない軟弱モノである。笠智衆は、先にも書いたように、プレイボーイ気取りの女たらしで、出世欲があるが、ずる賢いほうが先に立ち失脚する男。一時代前なら羽賀研二がやるような役だ。それを御前様のセリフまわしでやるのだから、結構笑える。しかし、当時、松竹は笠に何を望んでいたのだろうか?これでも、二枚目でいけると思ったのか?謎の配役である。
佐野も、一見紳士だが、最後は高杉を食ってしまうという狼に変わる。それも、どうかと思う。そして、それで死んでしまうのも弱すぎる。つまり、化粧品会社の男たちはクズだということなのだろうか?いや、男たちはみな、このような紋切り方にみえたのかもしれない・・。
そんな事件に巻き込まれた三宅が最後に颯爽とした格好でフランスに船で旅立つのもどうも、いまひとつ納得がいかない話である。
ラスト、桟橋でテープがわざとらしく巻き付いた高杉がたちつくすシーンで終わり。昭和13年の映画と思うから興味深くは見られるが、なかなか、不思議な映画である。しかし、タイトルの「風の女王」とは誰の事なのか??それから、この映画の脚本は戦後小津映画に欠かせない野田高梧であります。
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