まってました転校生!(1985) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

まってました転校生!
1985年 にっかつ(製作:にっかつ児童映画)
監督:藤井克彦 主演:皆川欣也、新井康弘、蟹江敬三、入江若葉

昔は、小学校の課外授業みたいに映画を見る機会があり、結構、楽しみでもあった。私の頃は東映の児童映画が多かった気がするが、私の少し下の世代(80年代に小学校生活)を過ごした世代には、にっかつの児童映画を懐かしく思う人も多いだろう。ロマンポルノを作る傍で製作されたこれらの児童映画群は今見ても質は高いものが多い。そして、たぶん、ここに、どこかに忘れてきた昭和の優しさ的なものを多分に感じる方も多いだろう。そういう意味で貴重な作品の一本がこの作品である。  

東京の4年生のクラスに転校生(皆川)がやってきた。彼は32回目の転校だという。皆川はクラスの強そうな相手に喧嘩を仕掛けた。彼なりの馬鹿にされない方法だったのだ。彼は街の芝居小屋で芝居をうつ一家の息子だった。そのことで、女の子とも仲良くなれたが、ガキ大将たちはおもしろくなかった。クラスでバイキンと呼ばれる子と仲良くする皆川だった。先生(新井)を巻き込み、彼のそんな根も葉もない噂も打ち消してやる。クラスに馴染んだ頃、女の子の家に招待され舞い上がる皆川。だが、その子のオルゴールを壊してしまい、芝居にも集中しなくなる。オルゴールは劇団の人に直してもらい、またもとの生活に。そして、犬が捨てられないで困った子のために、クラスで隠れて犬を飼うことにする。先生がなんとか飼えるようにしてくれて、このことで、結果的にはクラスのみんながまとまるのだった。そんな矢先の遠足で皆川が転校しなくてはいけないと話を切り出す。皆は、笑顔で旅立たせるのだった。そして、旅先から手紙を送りつづけて、転校40回目になるというとき、学校の門の外に皆川がいた。まっていた皆は部屋を飛び出した。  

とても、素直な話である。まだ、テレビゲームも携帯も子供立ちの世界には存在せず、真正面からともだちというものを受け止めていた時代である。こういうものを見ると、やはり今の時代はさまざまに生きにくい気がする。大人が作った、経済的な道具に子供達が疲弊する姿はやはりおかしい気がする。  

舞台は、東京の北区周辺。今も現存する十条の篠原演芸場を中心にロケが行われている。舞台一家は蟹江敬三のお父さん、入江若葉のお母さんという、実によいキャストを得て、子供達の演技を包んでいる。こういう大人たちの演技がこういう児童劇には不思議な力を与える。  

先生役の新井康弘は、子役出身の役者だから、彼らの気持ちもよく分かってるのだろう。子役との掛け合いの良さが光る。音楽の先生役で「の・ようなもの」の麻生えりかが出ているのは珍しい。  

話全体としては、今見るとシンプルすぎるし、子供達のいさかいが収束するのも簡単すぎる気もする。だが、銭湯での洗いっこや、犬という動物をつうじての仲間意識の形成など、子供に対するわかりやすさが重要なキーなのであろう。  

児童映画にしたら、長めの1時間40分近い作品である。最後の方は少し間延びしてる感じはあるが、最近では見られなくなったこういうドラマを久々に味わった。そう、テレビドラマでさえ、こういう児童向けのものがなくなったのは寂しい気がする。教育が国の方向性を決めることは今も変わりはない。政府の言いなりの番組作るだけがテレビの役割では無いだろう。世の中の未来のために子供番組は作られるべきである。そして、映画もまた同じである。

80年代に作られたにっかつ児童映画は、いまは保存こそされ、見る機会もなくなっているのが現実である。デジタル化もしっかりできてはいないはずだ。道徳を教科にするというなら、こういう作品はみなおされてもいいはずなのだが、下村さんは金集め以外は興味ないと思われるので、まあ、存在も知らないでしょうな。  

作品の最後、このタイトル「まってました転校生」の意味がわかる。児童劇らしいさわやかなラストである。


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