米(1957) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

1957年 東映

監督:今井正 主演:江原真二郎、中村雅子、望月優子、木村功、中原ひとみ


昨今は、ミニシアターでかかる発展途上国の映画が話題になることがよくある。たぶん、この映画がそういう国の現状として今、公開されていたら、かなりの話題作になるかもしれない。半世紀とちょっと前の日本の農家の現状は今の途上国の現実とさほど変わらなかったのだ。日本の土地は、米を与え、魚を与えてくれる。そして、ここにでてくる若者たちは、農業をするが、漁師になるかの選択しかなく、それがいやなら自衛隊といった感じなのである。今、観ると、やはり不景気だとはいえ、失業者が多いとはいえ、今の方がよい。第一次産業から2次3次と職業の領域は変わってきたが生きるための選択肢は増えているような気もする。50年間、日本は何をしてきたのか?それをかんがえなおすためには有効な映画だと思った。


江原は農家の二男だった。ぶらぶらして、楽しみは川向うの女たちを覗きにいくことくらいである。そして、中村に好意をよせる。江原は船で漁にでていたが、自衛隊帰りの木村とともに船を借りて仕事をすることになる。領域を超えて、無理な操業で金をためる。木村の指示だが、江原は気後れしていた。一方、中村の家は借りた田を返せといわれ、漁もなかなかうまくいかず、母親の望月はイライラしていた。ある日シラスすくいをしていると、そこで禁止されている刺し網を見つける。そして、それで漁にでると監視船に見つかってしまう。暴行も働き、罪が重くなる。同じ夜、江原は木村と漁に出て流される。そこを中村に助けられ、家で休ませてもらうのだった。木村は流されて死んでしまう。望月は警察によばれ、向かうが前までいって怖くなり帰ってくる。一万円あれば上に口をきいてやるといわれるが、田は返せと言われる。江原は助けてもらったお礼に一万円を置いていくが、望月は受け取らず、中村と喧嘩してでていってしまう。そして命をたってしまうのだ。葬列が流れるとき、挨拶にきた江原がそこを通るのだった。


この映画もキネ旬ベストワン作品である。つまり2年連続で今井正は勲章をえる。そして、この年は2位も今井の「純愛物語」であり、ワンツーフィニッシュということなのだ。まさに、今井正の時代だったのだ。そして今井としては初のカラー作品であり、江原真二郎も初主演。さまざまな記録と記憶が残る映画なのだ。そのわりには、知っている方は少ない。(それが日本の映画文化の悲しさである)


話は地味だし、でてくるドラマは救いようがない。木村が儲けの話をするところくらいが明るい感じであるが、それも彼の不遇の死で消えてしまう。1957年頃、まだ、所得倍増論の出る前の日本の農家の実態はこんなものだったのだ。それを教えるだけでも教科書になる貴重な映画である。


舞台は茨城県霞ヶ浦。筑波山が望め、農業と湖の漁で成り立っている。しかし、まだ機械化される前である。牛を使った田植えや、人の力が最大限使われることで、生活がやっとなりたっている。食べるコメがなくなったので、育ち切ってない稲を刈り、食用にするシーンなど、今では考えられない事だろう。土と水とともに生活する姿が日本にも確かにあったのだ。


そして、漁域を破って漁をしたり、禁止されている網を使ってつかまるという話が悲しい。ある意味、ずるしないとまともには生きられない国だったのだ。(それは、今も変わらないか・・・。)


江原は主役だが、何かボーっとしていて、あまり存在感はない。フレッシュではないが、農家の息子という役柄はあっている気はする。同じく新人の中村と二人だけ、他の青年たちとちょっと違う感じには描けている。そして、結構、露骨なセリフが飛び交う中で、彼らの恋愛がプラトニックのままなのは、映画を観終わって、「こういう若者たちがこれからこの地を守っていく」という符号にとれたのだが、どうだろうか?


だが、映画の核となるのは望月優子である。せっぱつまった母親は見事である。それは、うなぎを土産に警察の聴取にでかけ、前でうなぎをこぼしてしまい、その騒動に怖くなってたたずむところから、最後、田んぼの中に崩れるまでのシークエンスで最高潮に達する。農家の話で、自然に翻弄されるならともかく、その作られたシステムに翻弄され死を選ぶというのは日本的なのかもしれない。今もって、再度システムが機能していないのだから、日本って奴はというところか・・・。


その望月の葬列で終わるラストは悲しすぎる。未来に対する不安だけを残し映画は終わる。この時代の空気はそんなものだったのかもしれない。


今井の演出は冷静に主人公たちを捕え、ドラマチックにしようとするわけでも、映画を壊すでもなく、バランスがすこぶる良い。迷いがない感じは見ていて気持ちいい。そして、初のカラー映画ということもあるのだろうが、色使いが素晴らしい。日本の緑と空の青さの素晴らしさを感じさせ。肥える大地の力強さを感じさせる。(昨今の途上国の映画と違うのはここである。日本はかけがえのない土地と水という資源を持っているのだ)


霞ヶ浦の当時の風景はまんべんなく映されている。そして、当時の土浦駅舎、土浦警察もでてくる。みな、泥だらけ、埃だらけといった感じである。そんな中、出てくるバスがボンネットバスではなく、当時の最新のピカピカのものだったのが気になった。宣伝なのだろうか?


まとめ。ここまで発展した日本の源流はここにあるという感じの映画である。ここに起こっている事象は何が問題で、どう改善されたか。そして現在はどういう問題が起こっているかという議論をするにはよい映画である。是非、そのために多くの方に見てもらいたい映画である。


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