「おい!起きろ。とっくに神戸に着いとるぞ」

 

昨夜の若い船員に毛布をはぎ取られて起こされた。省三は寝ぼけまなこで腕の時計を見た。八時に近かった。目をこすってもう一度腕時計を見た。間違いない七時五十分だ。昨夜眠りにつくまで体中に響いていたゴトゴトというエンジンの音も止まって貨物室がシーンと静まり返っていた。

 

 

「降りる支度しろ。おやじさんも迎えに来とるぞ」

「えー!お父さんもう来とんですか」

 

省三は昨夜工場の仕事を手伝ったままの半ズボンとTシャツを両手でパタパタと叩いて「はい!降りる支度できました」右手をあげ指をこめかみに付けて敬礼の仕草をした。

 

若い船員はわっはは!と大きな口をあけて笑いながら省三の手を引いて貨物室の階段を上がって行った。甲板に出ると埠頭に大きな倉庫がたくさん建っているのが見えた。

{ここが神戸か!}重油の匂いが混じった港の空気を大きく深呼吸して胸に吸い込んだ。

 

貨物船が横付けされた大きな倉庫の事務所に入っていくと鼻ひげを蓄えた浅黒い顔の父と若い社員の井沢隼人が大きな応接用ソファーに座っていた。

 

「省三よく来たな」父は咥えていた大きなパイプを右手に持ち替えて省三に声をかけた。久しぶりに聞く父の低いしわがれた声だった。

省三は思わず泣きそうになったが横でニコニコしている隼人兄ちゃんの笑顔につられて笑顔で「おはようございます」と父と隼人兄ちゃんにぺこんと頭を下げた。

 

「びっくりしたぞ!母さんからの電話で省三が一人で貨物船に乗ったちゅうから。無茶するやっちゃな」

 

いつもは厳つい父のまなざしはやさしかった。

 

「昨日出荷を手伝っていてこの荷物と一緒に貨物船に乗ったらお父さんに会えるんじゃないかと思って。そしたら伝馬船の源爺さんが貨物船に乗せてくれるちゅうもんじゃけん」

 

「省ちゃんは誰にも好かれる得な性分やなー」

 

隼人が父の横で感心しながらいつものニコニコした笑顔で言った。

 

「隼人兄ちゃん、またよろしくお願いいたします」

 

隼人は父の代わりによく白鳥の工場に来ていた。隼人は仕事が終わるといつも省三と将棋をさしたりしてよく遊んでくれた。

 

「それにしても船が着いて二時間もたって起こされるまで寝とるとはええ度胸しとるな―社長!」

 

隼人は父、秀男の同意を得るように言った。

 

「だって若い船員さんが着いたら起こしてくれるゆうたけん」

 

省三は頭を掻きながら二人に説明した。

 

「ほんまになんちゅうやっちゃ。あの船は間もなく大阪へ向かって出帆や。起こされなんだら大阪まで連れて行かれるところだったんだぞ。

おかげでこっちの仕事も早く済んだから帰ろうか」

 

秀男は父に会いたさで貨物船に乗ってきた省三がかわいくて仕方なかった。