六個の木箱を積み込んで省三と源三を乗せた伝馬船は白鳥の砂浜を離れた。
源三の漕ぐ長い櫓がギーギーと音を立て始めると砂浜で大きく両手を振っている美奈子、橋本の姿がだんだんと小さくなり沖にに停泊している黒い貨物船が次第に大きく前方に迫ってきた。
伝馬船が貨物船に近ずくと甲板に三人の人影が現れた。
「すまんの、子供一人神戸まで乗せてやってや」
源三が甲板の三人に向かって大声で叫んだ。
「あいよ。後ろに低いところがあるからそこからあがんな」
船長らしい帽子をかぶった男が貨物船の後方を指さしながら叫んだ。
「まず荷物を上げるのが先や。省ちゃんもちょっと手伝ってくれや」
源三と省三は甲板のリフトから降りてきたロープのフックに木箱を引っ掛け次々と伝馬船の荷物を貨物船に荷上げしていった。
十分くらいで荷上げが終わり源三は軽くなった伝馬船を貨物船の後ろに漕いで行った。
貨物船の後ろには甲板から鉄の梯子が海面まで降りてきていた。
「省ちゃん。その鉄の梯子を上っていくんや。大丈夫か?」
源三は櫓を漕いで伝馬船を鉄の梯子に近ずけながら船首に立っている省三に声をかけた。
「わかりました。これなら簡単に上って行けそうです」
省三は鉄の梯子を両手で掴んで伝馬船から梯子に飛び移った。
「源爺さん、どうもありがとうございました。行ってきます」
「気つけてな」
源三は省三がするすると鉄の梯子を上っていくのを眺めながら「いつもわしの船で遊んでいるだけあるわ、達者なもんや」
省三に聞こえるように大きな声をかけた。
甲板では帽子をかぶった船長が鉄の梯子を上ってくる省三を見下ろしていた。
「僕 一人で神戸行くんか?」
船長は登ってきた省三の手を握って甲板に引き上げながらあきれ顔で声をかけた。
「はい、神戸の港に父が来てくれることになっています。渡瀬省三です。よろしくお願いいたします」
省三は無精ひげを生やした船長にぺこんと頭を下げた。
「そうか、渡瀬手袋のセガレさんか」
船長は急に改まった口調で言うと省三の手を引いて貨物船の中央の大きな穴の開いた甲板に連れて行った。
「今夜はあの貨物の横で寝るんや。大丈夫か?」
船長に言われて省三は甲板から船底の貨物室を見下ろした。
木箱がたくさん積まれていたがまだ二割ほどの空きスペースがあるようだった。
「貨物室に下りた階段の下に畳を敷いた部屋がある。そこで寝ればええ。枕も毛布もあるから好きなように使ってくれ」
「すぐ,出帆すっからな」
船長は甲板にいた若い船員に省三を貨物室の畳の部屋に案内するよう指図して運転室の中に入って行った。
若い船員は省三の手を引いて貨物室の降り口の階段まで連れて行った。
「危ないから階段の手すりにつかまりながら降りてきな」
船員は先に手すりのつかみ方などを教えながら鉄製の急な階段を降りて行った。
続いて省三も手すりをつかみながらゆっくり降りて行った。
階段の裏側に6畳ほどの畳を敷いた部屋があり裸電球の入ったカンテラがぶら下がってうっすらと明るかった。
船腹には海面すれすれに丸い穴があり波が後方に飛び散っていくのが見えた。
「着いたらたら起こしてあげるからゆっくり休んだらええ」
枕と毛布を渡すと若い船員はにっこり微笑んで階段を上って行った。
省三は毛布にくるまってしばらく丸い窓ガラスに波しぶきが勢いよくぶつかって後方に飛んでいくのを眺めていたが
いつの間にか眠ってしまっていた。
