隼人は小さな門を開け先に家の中に入っていった。省三は秀雄と手をつなで一緒に門の中に入っていった。


「お帰りなさい」キューピー人形のような丸い目をクリクリ回しながらおかっぱ頭の女の子が家の中から出てきた。

「キュウちゃんですか。省三です。よろしくお願いします」

小さいエプロンをつけたおかっぱ頭の女の子はキュウちゃんという呼び名がぴったりだった。

「省ちゃん、よく来たわね。疲れたでしょう。お風呂沸かしてありますからゆっくり入って一眠りしたほうがいいわ」

省三は湯船につかりながら明日、早朝に起きて巨人軍の選手たちを見られると思うとうれしくてわーい、わーいと一人で湯船の中ではしゃいでいた。


翌朝5時頃目覚めた。まだ薄暗らかったが公園に一人で行った。2,3人の若い選手がTシャツと短パン姿で公園の周りをランニングしていた。省三の知らない選手だった。

省三は公園の入り口付近のベンチに腰掛けてずっと彼らのトレー-ニングを見続けた。


30分くらいすると選手は急に増えて20人ほどになった。テレビでよく見る選手も混じっていた。ランニングするもの、ストレッチするもの、朝の涼しいうちにトレーニングをして汗を流していた。やがて隼人が色紙とサインペンを持って省三の座っているベンチの横に来て座った。何人かの人が色紙を持って省三たちの近くに集まって来た。

「このベンチに座っていると選手たちが横を通って帰っていくからそのときサインをもらえるよ」隼人は省三の耳元でささやいた。

「ほらあそこで柔軟体操をしているのが別所、バットで素振りしているのが川上、青田はあそこでランニングしている」隼人は指差しながら選手の名前を教えてくれた。

やがて選手たちが軽い練習を終わってぱらぱらと省三たちのいるベンチの近くを通って出口を出て行った。


「サインお願いします」

選手たちは省三の指し出す色紙に気持ちよくサインをしてくれた。十数名のサインをもらった。もちろん別所、川上、青田のサインはもらえた。隼人がサインをもらった色紙の裏に鉛筆で選手の名前を書いてくれた。

「みんな独特のサインをするからこうして裏に名前を書いておくと誰のサインかわかるだろ」隼人は省三にウィンクしながら笑顔で省三に言った。

省三はサインをもらう度に丁寧に頭を下げて「ありがとうござました」とお礼を言った。

四国へ帰ったらみんなに自慢できるぞと色紙を胸に抱えて夢を見ているような気持ちだった。

「隼人兄ちゃん、色紙持ってきてくれてどうもありがとう。僕の一生の宝物が出来ました。四国の友達はうらやましがるやろな」


第18話に続くー