省三の父、秀雄が経営する渡瀬手袋工場は、この白い砂浜の奥の松並木の防砂林を超えたところに3棟の平屋で建てられていた。



港のない白鳥町の手袋は工場のすぐ近くまで伝馬船が来て沖に停泊している貨物船まで運ぶのだった。車がまだ発達していない時代ののんびりした運送方法だった。




「源さん遅うなって。すみませんね」省三の母の美奈子がせんべいとお茶を盆に載せて出口で不機嫌そうな顔で突っ立っている源三の前の机においた。工場の壁にかかっている古ぼけた時計はあと数分で夜の10時になるところだった。



「まーせんべいでもかじっていってや」工場長の橋本は愛想笑いを浮かべて源三に話しかけた。源三は最後の1個の木箱を若い工員がリヤカーに乗せるのを見ながらせんべいをかじりお茶を音立ててすすった。
リヤカーには6個の木箱が積まれていた


「今日は6個や、源さんの船なら1回でつめるやろ」橋本は送り状を源三に渡しながら最後のあと片付けをしている20人ばかりの工員に聞こえるように大声で叫んだ。
橋本の声を合図にこの1週間残業徹夜でほとんど寝ていなかった行員たちがいっせいに工場を出て行った。




先ほどまで手袋の出荷を手伝っていた小学5年生の省三は眠い目をこすりながら源三と話をしている母と橋本のそばへいった。



100mくらいの沖に黒い巨大な貨物船が碇を下ろして停泊しているのが工場の窓からも見えていた。省三は出荷の仕事を手伝いながら貨物船をちらちら見ながらあの船に乗ったら大阪の父さんに会えるかもしれない。そう思い始めるとなおいっそう荷物と一緒に大阪まつぉえじで行きたくなっていた。


ー-第4話に続く-