「船が出るぞう」

伝馬船の船頭の源三が工場の出荷場までやってきて大声で叫んだ。


出荷場では最後の一個の木箱のふたをしてかねのバンドで厳重に木箱の周りを釘で止め終わったところだった。


木箱の中には女の子用の白い綿の手袋に小さな赤やピンク、黄色の花が手で刺繍されアメリカ向けに輸出されるものだった。


アメリカでは4月のキリストの復活を祝うイースターデーに女の子がこの白い手袋をして両親と一緒に教会に行く風習があった。


香川県の東の端、徳島県との県境にある白鳥町は全国でも唯一の手袋の産地であった。


秋から冬にかけて毛皮やネルの裏地の入った羊革や牛革の防寒用の手袋が作られ日本国内および欧米各国に出荷されていた。


冬から夏にかけてはイースター用など綿の春物の手袋を輸出していた。


この白鳥町では全国の90%以上の手袋が生産されていた。

香川県そのものが面積の小さい県で農家も少ない田畑で自家で食べるだけのものを作るのが精一杯だった。


そんな農家の副業として家内内職的にできる手袋が唯一の現金収入としてこの町の特産として栄えたのであった。渡瀬手袋工場も100件ほどの農家にミシンを1台ずつ貸し出して農家の主婦に手袋の縫製を依頼していた。


毎日夕方頃になって各農家から縫いあがった手袋が工場に回収されてアイロンなどで仕上げされ出荷作業となるのである。工場ではいつも夕方頃から深夜にかけて出荷作業が行われていた。


瀬戸内海に面するこの小さな町は背後に讃岐山脈が横たわり山脈の中央には700mを越える虎丸山がこの白鳥町を見下ろしていた。


白鳥町の東のはずれは讃岐山脈が瀬戸内海にまでせり出してきてその先端は白と黒の岩が均等に縦縞のするどい断崖となって海に立ちこんで岬となっていた。


町の人々はこの奇妙な縦縞の断崖をランプロファイアとよんでいた。


~第二話に続く~