「くっそ~、ちっくしょ~、ふざけやがって~、…」
およそ正義のヒーローとは思えないような悪態をつきながら逆走したコースを逆上して戻るデビルマン。体はボロボロな筈なのに、何故かあまりの悔しさにさっきは歩いて登るしかなかった坂道を駆け上がる。
「肉体を支配するは魂!!」
トキが言っていたのはこの事だったのか…。
もう一度うどんステーションを通り、更に先へ。一路精進湖を目指しデビルマンは進む。
ここで72キロの部に参加していたchallengerさんとすれ違いざま声をかけられる。
「そうだよな…。闘っているのは俺1人じゃないんだ…。」
一瞬の回復を見せたデビルマンの肉体であったが、やはり限界は近く、精進湖周辺のコースではまたもや風デーモンの攻撃にさらされ、無惨な姿を見せることに。
しかし、デビルマンにはもう迷いは無い。デビルウィングが半分へろへろになりながらもひたすら前へ進むのみ。
やがて、ここまでデビルマンを影で支えてきた、腕に装着された『ガーミン 405』が
ピー
と言う音とともに電池切れになる。
ここまでこんな俺を支えてくれてありがとう。今はゆっくり休んでくれ…。
全てのものに感謝したくなるような、ある種悟りの境地に似た気分になるデビルマン。やがて、前方に右足を引きずりながら歩いている女性を発見。
「大丈夫ですか?良かったらエアサロ使いますか?」
「良いんですか?」
「どうぞどうぞ。こういう時のために持ってるんですから」
そういってデビルリュックからエアサロを取り出し貸してあげるとその女性は靴を脱いで右足の甲に吹き付ける。
(そうか、この人も俺と同じ箇所を痛めたんだ…)
「ありがとうございます。そういえばデビルマンさんは横浜ロードレースに出場してましたよね?」
「ええ、いらっしゃってたんですか?」
等という会話を交わしながら歩き始める。
「私は次で棄権しますので…、頑張ってください。」
デビルマンは再び走り出す。例え負けると判っている闘いでも、こんな弱い俺でも、闘い続ければ救える人もいるのだ…。もしかして走り続けると言うことはそういうことなのか?
そして、なんとか精進湖と国道139号線の合流地点にあるエイドまで辿り着いた…。
「今何時ですか?」
「2時10分だから、あと20分でこの先3キロちょっとにある関門まで行けば間に合うよ。」
20分で3キロちょっと…。いつもなら余裕だが、65キロ+3キロ走ってきたデビルマンにはあまりにも厳しい条件だ。しかしやるしかない、例えそれがどんなに厳しい条件でも…
「あきらめたらそこで試合終了ですよ?」
一瞬安西先生の言葉が頭をよぎった…。
ここから先はまた対面コース。本栖湖を折り返してきたランナーさん達とすれ違う。みんなデビルマンなんかよりもずっと強い人達だ。仮装でウルトラを走るランナーなんて…と思われても仕方がないのかなと思いながら最後の力を振り絞って関門通過を目指していると、すれ違うランナーほとんど全ての人から
「デビル頑張れ!!」
「あと少しだ、関門突破できるぞ!!」
「ファイトだ頑張れ!」
と声をかけていただいて本当に多くのランナーさんとハイタッチをしながらデビルマンは走る。向こうから来る人波がみんな右手を挙げているようだ。中にはカメラを取り出して記念撮影をする人までいて、立ち止まってそれに応えるデビルマン。ここまで走ってきてみんな疲れているだろうに…。
そうか、デビルマンで走ると言うことはこういうことなのか…。無表情のマスクの下は恐らく満足した顔であったと思われる…。
「例えデビルマンが死んでも、これだけのウルトラランナーさんがいる限り富士五湖の平和は守られるだろう…」
ここでは姫さんとtomoさんともすれ違う。ウルトラを走る人達は本当に強い…。
こうして、本栖湖の関門にはあと30秒届かなかったデビルマン。
最後にここまで一緒に闘ってきたデビルマスクを脱ぎ、デビルウィングを降ろし、パイプ椅子に腰をかけて天を仰いだとき、初めて目頭が熱くなった…。
悔しさと安堵と感謝とが入り交じった感情に涙を抑えきれなかったのだ…。
デビルマンの初ウルトラ挑戦は終わってしまいましたが、最後にウルトラ川柳を。(連歌です)
「ハイタッチ タイムロスでは? 仕方ない」
「撮影を するとき止まる タイムロス」
「かと言って それが無ければ デビルじゃない!(字余り)」
ということで、この美しいものを守るために、デビルマンは新たな目標に向けて歩き出すのでありました。