芹乃が山小屋から離れるように目で合図したので、菊之介、桐紗、大悟は、芹乃について歩き出した声が届かないところまできて、芹乃が振り返った。

「さっきの話だが、葵様と兵衛様は、まだほんとうの夫婦ではないのだ
芹乃がそう言うと、皆一様に驚いて言葉がでない。


め…夫婦ではないとは、どういう意味だ。兄上と葵殿は一年以上前に祝言を上げたと聞いたぞ」
大悟が言うと、ほかの三人がじろりとにらんだ。


大悟、この私に夫婦というのがどういうことなのか、説明せよと言うのか」
芹乃があきれてため息をつくと


無骨な兄ですみません
と菊之介が頭を下げた。大悟は不服そうにしていたが、芹乃はかまわず話を続けた。



「葵様に相談されたのだ。このまま兵衛様と別れることになれば、生涯後悔することになる。
朱欄に入る前に追いついて、思いのたけを語り、どうしても夫婦の契りを交わしたいと…。

 

同じ女の私には、葵様の気持ちが痛いほどわかった。
だから、葵様に頼まれた時、同行することを承諾したのだ」
それまで黙っていた桐紗が大きくうなずいた。

 

 

 

 

女という者は、いつの世も悲しいものですね。私にも葵様の気持ちがよくわかります。
何故お二人が、祝言を上げたの後も夫婦ではなかったのか、それは私たちには、わかり得ないことです。

 

でもせめて、今宵お二人が無事結ばれることを、心から祈らずにはいられません」
芹乃は微笑んで、それから背伸びをした。


「さて、今夜はどこを宿としようか。眠れるところを探さねば」
芹乃が歩きはじめると、大悟の背中を菊之介がつついた。


「兄上、今宵は兄上にとっても、この上ない好機ではありませんか。
いつまでも、奥手だなどと言ってはいられませんよ。

 

兵衛兄上が祝言を上げたのは、十七の正月と聞いております。大悟兄上も今、十七、年に不足はありません」


大悟は珍しく顔を赤らめた。
な・・・何を申す・・・
と、後姿の芹乃をちらりと見た。

 

さらに菊之介は強く言った。
もうそろそろ自分の気持ちに、素直になるべきと存じます

 

続く
ありがとうございましたm(__)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そして、またどこかの時代で