芹乃は首を振った
「いや、私は丈おじのおかげで今日まで生きてこられた


何かできることがあれば、何でもしたい

大悟とは幼なじみだし、兵衛様とも・・・」
そこまで言って、芹乃は悲しい顔をした。


「芹乃、兄上のことだが、芹乃を騙そうとしたわけではないのだ。
考えてみれば、兄上はあの伯父に育てられたのだ。


俺たちのように自由な生活ではなかったはずだ。
実の父ではないし、遠慮もあっただろう。

まして、葵殿とのことは生まれた時から決まっていたことなのだ。
兄の気持ちなどおかまいなしに」


そこまで言って、大悟はいつのまにか兵衛をかばっている自分に気づいた。

それと同時に、兵衛を殴ったことも後悔し始めていた


大悟は変わらず優しいのう
芹乃はふと涙ぐんだ。だがすぐに気を取り直すと
「まだ気持ちの整理がつかないけれど、ちゃんと立ち直るから、見守ってくれ、大悟」
と、しっかりした口調で言った。大悟は静かに頷いた。

 

 

桐紗の病は思いのほか重く、一週間たっても熱が下がらなかった。
丈之介と大悟は山に入り、薬草を探して煎じて飲ませたが、なかなか良くならなかった。菊之介は献身的な看病を続けていた。

 

 

また、兵衛は約束通り、きちんと芹乃と話し合った
どんな話だったのか、大悟は知ることはなかったが、何か吹っ切れるものがあったようで、その日戻ると、大悟にこう申し出た。


「実は今日、兵衛様にも申し上げたのだが、バラバラになっている桔梗様の柄、太刀、鍔、莢を私に打ちなさせてはくれまいか。


私も刀鍛冶に弟子入りして、もう一年になる。
親方さえ許してもらえれば、桔梗様の太刀を私の手で甦らせたいのだ


「太刀のことは兄上に聞いたのか」
「ああ、興味深い話だった

 

それぞれが形見として持ち、出遭った時にひとつになろうと呼応しあうなど桔梗様の思いが太刀に込められていたであろうな」


「そうか、兄上から。・・・俺に異存はない

菊之介はそれどころではないだろうが、俺から話しておく。反対する理由もないだろう」
大悟は努めて兵衛との話題を避けようとした。

 

芹乃は嬉しそうに頷くと
「さて、夕げの支度でもするかな」
と土間に下りた。

 

そして後ろを向いたまま、大悟に言った。
兵衛様を殴ったそうだな。大悟・・・ありがとう
大悟は胸の内が熱くなるのを感じた。

 

続く
ありがとうございましたm(__)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ