「母の家は新城を治めていた涼原家です。母の兄は涼原洸綱、その娘は葵殿と申すはず」
兵衛はやっと、自分も腰をついた。
「疑ってすまなかった。我々は追われている身。
つい警戒してしまったのだ。
わたしは涼原兵衛。幼名は丈丸だ。
まさか、生きて会えるとは思っていなかったぞ。伯父の洸綱も葵も健在だ」
そこまで言って、兵衛は後ろを振り返った。
あまりの衝撃的な出来事に、一瞬芹乃のことを忘れていた。芹乃は駆け寄って来た。
「兵衛様、どうしたのだ」
大悟は驚いて立ち上がった。
「芹乃、芹乃ではないか。父上は、源じいはどうした。無事なのか」
「大悟・・・生きていたのか。あの美しい姫御はどうした?」
菊之介が、気まずそうにゆっくりと立ち上がった。
「あの節はご迷惑をおかけしました。わたしがあの時の菊葉です。
すみません。騙すつもりはなかったのですが‥‥‥」
芹乃は自然と兵衛に寄り添っており、ただただ驚いている様子だった。
だがその様子を見て、菊之介も大悟も、兵衛と芹乃がただの知り合いではないことに、気づいていた。
また兵衛は、芹乃が大悟の知り合いであることに驚き、そして遅かれ早かれ、葵のことが芹乃に知れるに違いないと、体全体で冷や汗をかいていた。
兵衛はまず自分の家を教え、洸綱や葵に知らせておくので、先に芹乃の家に行くことを勧めた。
まるで自分は、ただ判決を先延ばしにしようとする罪人のようだ、と兵衛は思った。
芹乃は親方にことわり、今日は午後から休みにしてもらった。
そして、丈之介と住む家に大悟たちを案内した。
帰る道すがら源じいの死や、ここでの生活、刀鍛冶にになろうと思ったこと、そして兵衛と知り合ったいきさつを語るのだった。
大悟は源じいの死に驚きながら、また、芹乃の嬉しそうに語る兵衛の話を聞いて、納得のいかないものがあった。
来良(らいら)での書き付けによれば、兵衛はすでに葵と夫婦のはず。
その兵衛と芹乃は、端で聞いたら、約束した仲のようではないか。
同じことを、菊之介も感じている様だった。
父・丈之介に会える喜びより、芹乃が心配になる大悟だった。
続く
ありがとうございましたm(__)m
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そして、またどこかの時代で