「あ!」
絵梨香がふいに起き上がると、いつのまにか畳の部屋だった。
「起きたか?タクシー呼ぶぞ。」
絵梨香はキョロキョロしている。
「シャワー借ります。」
冬沢は、自分の家のようにふるまう絵梨香に苦笑していた。
冬沢は、仏壇に線香をあげた。
そこには、楽しかった頃の妻と娘の写真が飾ってあった。
目を閉じて手を合わせると、いつも隣に妻と娘が座っている感覚に襲われる。
しかし、目を開ければ、冬沢はやはり一人なのだ。
「なんだ、帰らないのか?」
「泊まっていく。」
「おまえ。いくつになったんだ?」
「四十五歳。冬沢さんとは、十五歳違い。」
「俺の齢なんていい。
おまえは、いい年の女なんだぞ。
昔の子供だった時ならいざ知らず。」
「会った時、二十二歳でした。」
「・・・それでも、俺には子どもだ。」
「私は娘さんじゃないわ。」
冬沢は黙った。
冬沢が鈴原絵梨香と初めて会ったのは、まだ冬沢がライフプランの下請けで働いていた時だった。
鼻っ柱の強いライフプランの新人は、触れれば切れそうな勢いで、スキのない、余裕のない生意気な女だった。
三年後、冬沢がヘッドハンティングでライフプランに入社した時も、女豹のようにつっぱっていた。
そんな絵梨香は冬沢には子どもにしか見えず、そしてそれが気に入らない絵梨香と、ぶつかる日々が続いた。
一級建築士 冬沢秀雄#3へ続く