「まだ忘れられない?」


絵梨香は、仏壇に目をやる。


「おまえこそ、彼氏、待ってるぞ。」


「出て行っちゃった。」


「出てった?何人目だ?」


「・・・忘れた。」


「おまえ、いいかげん・・・。」


「結婚は向いてません。」


冬沢は口をつむぐ。


絵梨香が前の結婚に失敗したのは、十五年前だった。

三十歳を過ぎての結婚だったが、仕事を優先するあまり半年で破局。

それからの絵梨香は、何度となく男と住み始めるが結婚には至らず、
その都度男が出ていくことで、終焉を迎えていた。

 


「冬沢さんこそ、再婚は?」


「馬鹿言え、もうすぐ還暦だぞ。」


「熟年結婚、ありじゃないの?相手が若くたっていいと思うけど。」


「若い女には、責任が持てない。」


「子どもが欲しい女ばかりじゃないと思うよ。」


「それでもだ。子どもは、もう・・・いいんだ。」

 


「私、今日泊まろうかな。」


「馬鹿言ってないで、帰れ。」


「いっつも、本気なんだけどなぁ」


「帰れ。」

続く