「ねぇ、三つ子なんだって。私

と、主人へ電話で伝える。


最初の言葉は
どうする?」
だった。

 

「どうするって?なにが?」
と私は怪訝な気分で答えると

 

「だってさ、大丈夫なの?」と不安気な声が帰ってきた。
主人は医療関係者だ。

きっと私の想像をはるかに超える心配が襲ってきたのだろう。

 

私は、そんなことを察することができず、

「とりあえず。病院に、また来て。って、言われたよ」

と言って、電話を切る。


(なんか大変なんだなあ。

でもさ、どうするって、おろすってこと?

まーったく何考えてんだ?)


と、これから起こる妊娠生活の

数々の事件を予測することもできない、能天気な私は
(さて、帰って、母と姉ちゃんに電話しよーっと)

と、自転車で家に戻った。

 


その自転車さえも、

「もう危ないから、禁止ね!」

と主人に言われる日はもうすぐだった。

 


帰り道、「三つ子の妊娠」をなんとなく重大だと感じ始めた私。


スーパーで夜ご飯の買い物をしたのであるが、

何を買ったか覚えていない。

宙を歩くような、気持ちだった。

 

なんか大変なんだな。

 

とりあえず、母と姉に報告しないと。

と、帰り道の自転車をこぐ足が強かったことだけは覚えている。

 

 

買った荷物を冷蔵庫に入れることもせず、母に電話する。
「はなし中かあ。じゃあ、姉ちゃんに電話しよう」


私より二つ年上の姉は私の人生の先輩でもあった。

なんでもよくできる優等生。

生徒会役員も学級委員もこなす、クラスでも一目置かれる存在の姉。

 

私はいつも姉の後を追っていればよかった。

下の子ってとりあえず、姉ちゃんが言う通りにやっておけば

難なくことは進むのだ。

 

 

 

そのことに気づいたのも、

姉より早く出産することになった私の戸惑いからだった。

 

出産が私のほうが早くなったという事は

この妊娠に関しては何でも初体験なのだ。

 

あー。お姉ちゃんって割と大変なのね。

 

と妊娠して初めて気づく妹の能天気ぶり。
ようやく姉が電話に出た。

 

「ねえ、あのね。」

と言ったとたん

 

「あ、ごめん。あとで電話するわ・・。

今カップラーメンができたばかりだから。」
と言ってきた。

 

私は
「え?姉ちゃん、ちょっとまってよ。

三つ子なんだって。私。」
というと


「えーー?三つ子って?

どうすんの?

島谷さんはなんていったの?」と
矢継ぎ早の質問。

 

答える間もなく、うーん。と考え込んでいると、姉が
「あ。ママからキャッチフォンだ。

とりあえず、あんたから、ママに電話しなっ。」

と電話を切られてしまった。


そっか、とりあえずママに電話するか。

と、今度は母に電話を掛ける


母が心配そうに
「りかちゃん(姉)がなんか言っていたけど、どうしたの?」と

 

私が
「三つ子なんだって。なんか大変みたいだよ。」というと


母は
「え?みつご?」


言葉が無くなっていた。


そんなに大変なことなんだ。

なんだかやらかしてしまったような気分になる私。


母が
「大丈夫なの?

とりあえず病院に島谷さんと話をしてきなね」

と言われて電話を切る。


その後、姉に電話をし直す。
少し冷静になった姉は


「カップラーメンがのびたよ。

あんたはどうしてこんなことが起こるんだろうねー。」


と笑っていた。

笑い声に私も少し気が楽になった。
あの後母は、激しい心配が押し寄せて、寝込んだようだった。

 

つづく。