先週、20年以上お掃除をお願いしているマリアさんが来てくれました。
わたしたちはいないことも多く、合鍵を渡しているので、久しぶりに彼女に会えました。
ひとしきり、最近の情報交換をしました。
1月に彼女はマンモで引っかかり、胸に小さな腫瘍があるということで、追加で悪性や良性かを見極めるバイオプシーをしました。
乳がんの疑いということで、彼女もかなりショックを受けており、わたしも気軽に「きっと大丈夫」ともいえず、こういう時は抱きしめることしかできない無力感を味わいました。
バイオプシーの担当医師が下手くそだったようで、めちゃくちゃ痛くて胸が半分紫になっちゃったと言っていました。
けれど、結果は悪性ではありませんでした。
ああ、本当によかった。
彼女は20年もうちの中の隅々まで知っている家族の延長のような人です。
さて、そのマリアさんがなんだか嬉しそうに言いました。
「るみ、見せたいものがあるの」
「何、何?」
彼女はポケットから自分のスマホを取り出しました。
「これ」
と、見せてくれたのは、何やら筆跡に見覚えがあるメモのスクショでした。
そこにはこんなふうに書いてありました。
「マリアさん、いつもお部屋をきれいにしてくれてありがとう。マリアさんが来てくれる日は、いつも帰るとお部屋がすごくきれいになっていてとても幸せな気持ちになります。」
というようなことが書かれていました。
娘がマリアさんへのお掃除のお支払に包んだお金と一緒に添えたメモ書きでした。
「本当にいい子ね、るみ」
と、マリアさんは5、6歳ぐらいの頃から知っている娘について、目を細めて嬉しそうに言ってくれました。
実は、マリアさんには1ヶ月に一度だけ娘のアパートにお掃除に行ってもらっています。
これはわたしが提案したことですが、最初娘は躊躇していました。
小さい頃から知っているマリアさんに、自分のような小娘の部屋をお掃除してもらうなんて申し訳ない、というのです。
わたしはそんな感覚を娘が持っていることは心から嬉しく思っていますが、一方で、コロナ以来、仕事が減って困っていたマリアさんの事情も知っています。
コロナの間、彼女の仕事はなくなってしまいました。
そのため、うちでは半年以上、来てもらうことはなくても、普段の70%のお支払いは継続していました。
普段は現金で払っているのですが、会えないのでその間は、心配しているけれど、家族はみんな元気? と一言つけて小切手を郵送しました。
みんな生活がかかっていますものね。
彼女には、また通常に戻ったらお世話になることがわかっていたので、それを前提に、しばし身近な大切な人への寄付というか人助けだと思って続けたのです。
あの時は、たとえば行きつけのレストランやヘアサロンも、顧客たちに寄付を募りました。
店は閉めていても、従業員に支払いをしないわけにはいきません。
こうして出せる人たちは、周囲の大切な人やお店をサポートしたのです。
彼女はその時、どれほど助かったか、そして嬉しかったかということを、コロナが明けた後、何度も何度もありがとうという言葉と共に伝えてくれました。
けれどわたしとしても、自分にはできないレベルのお掃除を提供してもらえるのは、自分の限られた時間を有意義に使うためにWinーWinです。
しかも、彼女ほど信頼できていちいち言わなくてもピカピカにお掃除できる人を見つけるのは簡単ではないでしょう。
ただ、うちでは昨年夫がセミリタイアしたため、家を長期間留守にすることも多くなりました。
かといって、彼女にきてもらう回数を減らすのは申し訳なく、考えた挙句、仕事で忙殺されている娘のために、お支払いは娘と折半で月に一度は娘の部屋のお掃除をお願いすることに決めたのです。
マリアさんは、自分の仕事に矜持を持っていて、本当にそれだけの価値があるお掃除をしてくれます。
キッチンやバスルーム、ベッドの下、ガラスのテーブルなどは、さすがプロ、素人にはとても真似ができないほどきれいになるのです。
また、マリアさんは娘の部屋を掃除することに関しても、まったくバイアスはない様子。
娘も大人になり、それなりにストレスも高い仕事を長時間していることも知っています。
リモートワークが可能とはいえ、いや、リモートワークが可能だからこそ、家で過ごす時間が多いわりに、家のことに手が回らず家が散らかるのはわたしも娘も同じです。
マリアさんはもちろん、娘の部屋に行くことをとても喜んでくれています。
ただ、娘には心のどこかで、自分のような小娘のお部屋のお掃除をしてもらうなんて、申し訳ないという気持ちがどうしても付きまとうようです。
そこでわたしは、
「気になるのなら、マリアさんへのお支払いと一緒にサンキューカードを書けば」
と提案しました。
それで書いたのが上記のメモだったのです。
それをマリアさんがスクショして大切にしているほど喜んでくれたことをすぐに娘に知らせました。
今も昔も、このほんの少しの手間が大きなインパクトにつながるんですね。
特にサンキューカードの威力はいつの時代も大きいのです。
小さい頃から、お礼状を自筆で書くことに関してはくどく娘に言ってきました。
が、こういうお支払いの際はさらに気を使って、プロである彼女の仕事ぶりをねぎらって、それをマリアさんがとても喜んでくれて、わたしもとても嬉しかったです。
今は特にだれも直筆で何かを書かなくなったため、余計そのパーソナルタッチが心に響くのでしょうね。
さて、その半分のお支払いですが、これはいつも娘にアクセサリーのモデルになってもらっているささやかなお礼です。
零細企業のRish NYでは商品をギリギリお値打ち価格で提供したいと考え、極力経費は節約してがんばっています。
東京には広尾にオフィスがありますが、ニューヨークはずっと自宅がオフィスです。
家の一間はコーディネイトルーム兼ストーレージ。
だから家の中がいつも片付きません。
また、撮影のモデルも、娘にお願いしています。
彼女は、耳の形に関してはだれよりも完璧なのです。笑
昔は嫌がった彼女も、円安の最近は私の大変さがわかるらしく、気持ちよく協力してくれます。
でも、モデル料を会社からは払いません。
そのかわりに、月に一度、我が家のクリーニングレディさんを彼女のアパートに送ることにし、わたしがポケットマネーから半分出すことにしました。
まさにWinーWinとはこのことですよね。
手書きのお礼状はガラ系マナーな今こどマスターすると一生の財産になります1
日々感じたこと、ファッションのことなどはこちらで書いています。