鯖学☆(サバガク)63

 

ブログ小説です☆

高校二年生の主人公、新宿ネロの学園ストーリーがメインとなるお話しです☆

 

※注意!「聖夜の鐘編」続編モノです☆本編を読む前に前回のお話しを読む事を推奨します

 

聖屋の鐘編①

「秘密のプレゼント」は、こちら

https://ameblo.jp/rum-xxx-03/entry-12562033975.html

 

聖夜の鐘編②

「流れ星のキヅナ」は、こちら

https://ameblo.jp/rum-xxx-03/entry-12562708427.html

 

聖夜の鐘編③

伝えてあげてください・・・」は、こちら

https://ameblo.jp/rum-xxx-03/entry-12563715881.html

 

一話から読まれる方は、こちら

https://ameblo.jp/rum-xxx-03/entry-12439136779.html

 

キャラクター紹介は、こちら

https://ameblo.jp/rum-xxx-03/entry-12560151465.html

URLをクリックすると、各話に進みます。

 

 

 

 

【本編】

「なんだよ・・・それ、納得いかねぇよ!!」

ネロは、喫茶店の向かい側の小さな公園で、代々木詩織と二人きりで話していた。

 

ネロと詩織は、交際している関係では、あるが・・・詩織は、既婚者であった。

その為、ネロと詩織の関係は、決して公に出来る関係では無かった。

 

「やっぱり、このまま続けていく事は出来ないわ・・・旦那とは、離婚をしようと思っているけど、この環境で同じ生活を続ける事は出来ないの・・・だから、私は一度実家に戻ろうと思って・・・貴方は、まだ学生だし、ここで生活を続けていく方がいいわ。」

詩織は、ネロに真剣な顔で話した。

 

ネロと詩織の関係は、元々同じマンション内の隣人という関係性であり、「沢山作った料理をお裾分けする」というごく普通のご近所付き合いから始まったモノである。

同じ月曜日に、燃えるごみを捨てた際に簡単な挨拶をし、近所のスーパーで安いお肉を買う際出くわしたりと近所故に日曜日になると会う機会は増えたのだ。

 

ネロ自身が一人暮らしている事から、詩織は家に招き手料理をご馳走する機会も増えた。

知り合いが少ない事もあり、互いに悩みを打ち明ける用な関係になってから、親しい関係になるまでは時間はかからなかった。

 

「代々木(詩織)さん、実家ってどこなんですか?」

 

「北海道・・・函館よ。フフフ、貴方の学校からじゃあ・・・遠いでしょ?元々、無理だったのよ?貴方と私の関係は・・・だから、終わりにしましょ☆キレイな思い出にしましょう・・・」

詩織は、ネロに笑いかけた。

 

「詩織さんと離れるのは、嫌だ・・・俺、連絡取れなくなってから、ずっと詩織さんの事を考えてたんだ!!俺、高校中退して・・・働くよ!俺も、引っ越すよ・・・それで、函館まで行くよ!」

ネロは、彼女に二度と会えなくなると考えた時に自身の選択肢は、一択になった。

 

「名前で呼んでくれたね・・・」

「えっ、?」

詩織は、真顔でネロを見た。

 

「今まで、そーいえば・・・私は、ネロくんを名前で呼んでたけど、ネロくんは・・・」

「あっ、その・・・恥ずかったから・・・」

「やっぱり、良いわね・・・男の人に名前で呼んでもらえるのって・・・じゃあ、一緒に行く?函館・・・」

ネロと詩織は、静かに寄りそった。

 

 

そこへ、金髪を振り乱し一心不乱で立ちこぎの自転車で向かってくる女子高生がやってきた。

 

シャー シャー シャー シャー

 

渋谷実尋である。

 

 

「し、渋谷っ!?」

ネロは、まさかの実尋の登場に目を丸くした。

 

「!!!・・・新宿クン・・・」

実尋は、ネロに気づくと勢い良く急ブレーキをかけた。学校の用務員の自転車は若干古い為、ブレーキが中々効かなく、実尋は力いっぱいハンドルのブレーキを握りしめた。

 

キキィィィィ・・・・

 

ネロと詩織のいる公園に、ブレーキ音が鳴り響く。カナリの高音であり、ネロと詩織は、耳が痛いと言わんばかりに一瞬「ぎゅっ」と目を閉じた。

 

実尋は、小走りでネロ達の元へやってきた。

 

「新宿クーーーン!!!」

 

「ふぅ・・・・」

以前、追いかけてきた遠慮気味な実尋ではなく、ネロを呼ぶ声に迷いは無い。詩織は小さくため息をついた。

 

詩織の顔つきは、先ほどまで、恋人に見せてきた女性らしい表情から一変した。

「フフフ・・・真打ち登場って、とこかしら?」

目は、細く鋭く、切り刻む刃の用な視線を実尋に向けた。

 

「・・・っ!?・・・むっ!!」

実尋も、(ほとんど殺意に近い)詩織の視線に気付き、自分の持っている最大限の(ジャンケンに勝つ時のw)視線で睨み付けた。

 

 

「渋谷?・・・詩織さん?・・・うおっ!!?」

ネロは、実尋と詩織の激しい睨み合いの火花を五感で感じとり、後ろに後退りした。

 

 

ーー新宿クンは、必ず連れ戻す!霧恵ちゃんも、イ・ヤムチャさんも、みんな待ってるんだ!!

 

ーー旦那と別れて・・・ネロくんと、一緒に暮らす!!この際、誰を敵に回してもいいわ・・・誰にも邪魔させない!!

 

 

☆☆

 

ネロの学校と、彼のバイト先・・・その中間駅の喫茶店の向かい側の公園で・・・

実尋と詩織は、少しの間、沈黙状態が続き睨みあった。

その気まず過ぎる空気に耐えられなくて、ネロは口を開いた。

「そ・・・そろそろ遅くなってきたし、その・・・一度解散しないか?・・・その、もう・・・日も暮れたし・・・外寒いし・・・」

 

「新宿クン!さぁ・・・ワタシと学校に戻りましょう♪今日は、みんな遅くまで残ってクリスマス会の準備してるよ・・・一緒に戻りましょう☆」

実尋は、ネロに呼びかける。

 

「ネロくん・・・・私の為に、ここまで来てくれたのよね?・・・・家は、こっちよ?一緒に帰りましょう☆」

詩織も、ネロに呼びかけた。

 

「あ・・・ワリィな、俺・・・今日は詩織さんと帰るわ・・・」

ネロは、詩織と共に帰ろうとした。

 

――やっぱり、こーいう展開になるわよね・・・もう、こーなったら・・・正攻法じゃないけど・・・やっぱり、新宿クンをこれ以上、あの人に(不倫の問題に)関わらせる訳にはいかない・・・

 

「うーん・・・そういえば、今日からドロップ率300%なんだけどなぁ・・・新宿クンも、家に帰ったら・・・ファンタシーコスモオンラインやるのかな?・・・まぁ、忙しそうだから、やらないか・・・・」

実尋は、ネロを「チラっ」と横目で見ながらネロが食いつきそうな話題(ゲームの話題を)一人言のように呟いた。

 

 

ピキィィィィン

 

ネロは、大好きなゲームの話題が聞えてしまいとっさに実尋の方へ向き直った。

「・・・・何っ?300%??だと・・・一体、どのクエストだ?・・・っていうか、なんで・・・オマエが、そのゲームを知っているんだ??」

 

「ちょっ・・・・ネロくん・・・・」

詩織は、ネロが帰ろうとしていた足を止め、実尋の方へ寄って行った。

 

「な・・・なぁ?渋谷・・・なんでそのゲームを知ってるんだ?もしかして、お前も・・・そのゲームやってるのか?・・・それとも、雑誌とかで知った情報か??最新情報か??なぁ?その・・・・ドロップ率が上がるクエストは・・・どのクエストだ?全部か??期間限定なのか??いつまでだ??」

ネロは、目を輝かせ・・・ガッツリと実尋の方へ寄り添い、ゲーマー(やりこみゲームプレイヤー)として情報交換を求めた。

 

――ゲームかぁ・・・私は、スーパー●リオしか知らない私にとって・・・ゲームの話は、非常に入りにくい・・・そして、ネロくんは非常にゲームが大好きで、ゲームの話になってしまうと人が変わってしまう。独特のオタク特有の早口で相手が聴き取っているかも考えず、マシンガンの様に話し続ける・・・ゲームの話になると、かつてのダメ人間だった頃に戻ってしまう・・・この娘(実尋)それを逆手に取って、私とネロくんの分断を図ろうとする作戦ね・・・・

 

――このままじゃ、どんどん・・・ゲームだけの話を続けて、時間だけが過ぎてしまう・・・っていうか、ゲームの話をしている彼(ネロ)には、私(詩織)が見えてない・・・・ここは、彼の目を覚ませないと・・・

 

「ちょっと・・・ネロくん・・・・今日は、私と大事な話をしに来たんじゃないの?私の事を真剣に考えてくれるんじゃないの?」

詩織は、少し大きな声を出した。

 

 

はっ!

 

ネロは、素の感情を取り戻した。

 

「ワリィな・・・渋谷・・・やっぱり俺・・・今日は帰らないと・・・・」

ネロは、再び詩織の方へ歩み寄った。

 

「ふふふ・・・ネロくんったら、ゲームの話に夢中になっちゃうと・・・全部忘れちゃうんだから、今日・・・私の家、お父さん(旦那)が出張で泊りに行ってるから・・・良かったら、泊りに来る?冷凍モノだけど、ステーキのお肉があるわよ?☆」

詩織は、クスっと笑った。

 

「食べ物で釣るなんて、卑怯な・・・・」

「どっちが卑怯なのよ!」

実尋と詩織は、再び視線をぶつけあい、火花を散らした。

 

「あっ・・・・新宿クン・・・そのレアドロップが反映されるクエストだけどね・・・雑誌に載ってた情報だと・・・・」

詩織と共に帰ろうとするネロを引き止める様に、慌てて話す実尋だが・・・ネロは、詩織と共に少しずつ離れていった。

 

 

――マズイ・・・このまま、新宿クンが・・・代々木さんの家に行ってしまっては・・・なんか、お泊りとか言ってたし・・・既婚者の家に、旦那の留守に泊るとか・・・そんなのバレたら裁判沙汰に・・・・どんどんマズイ方向になっていく!こーなったら・・・・アレを使うしか・・・

 

実尋は、懐から・・・2枚のチケットの様な大きさに紙を(ワザと)落とした。

 

「あっ・・・落としちゃった・・・・これ、新宿クンにあげるつもりだったけど・・・忙しいなら、仕方ないか・・・・」

実尋は、ネロを「チラっ」と見ながら、小さな声で言った。

 

ぴく

 

ネロは、実尋の懐から紙が2枚落ちた音に敏感に反応した。

 

「この紙の落ちる音は・・・・・もしや??」

ネロは、詩織と共に帰ろうとした足を再び止めた。

 

「えっ・・・ネ、ネロくん・・・・」

詩織は、再び足を止めたネロの方を見たが、ネロはダッシュで実尋の方へ引き返していた。

 

「渋谷、これは・・・ま、まさか・・・・・」

「うん・・・・WebMoney☆5000円分・・・2枚あるから・・・・クリスマス会の準備を頑張ってくれている所に、差し入れで上げようかと思ったんだけど・・・・」

「な、なんだと!!!WebMoneyカードを・・・この俺に!?」

ネロは、目を輝かせた。

 

WebMoneyカードとは、ネット上での買い物に使う・・・・電子マネーであり、つまり課金ゲームに使えるお金である。高校生には、簡単に手を出す事が出来ないモノだ。

 

 

「・・・・・・ネロくん・・・やっぱり、アナタは・・・まだまだ子供なのね。遊びたい時期なのよ・・・・・アナタは、何かを犠牲にしてまで・・・私についてくる必要性はないのよ・・・これで、お別れにしましょう・・・・」

詩織は大きな声を出して言った。

 

 

はっ!

 

ネロは、再び正気を取り戻した。

 

 

☆☆☆

 

 

「待ってくれ!俺には・・・詩織さんが必要なんだ!詩織さんが・・・今まで俺を支えてきてくれたんだ!・・・俺は、学校を中退してでも、詩織さんの所にいくよ・・・俺も、一緒に・・・・」

ネロは、実尋を離れ詩織の方へ向かおうとした・・・その時・・・

 

ガッ

 

実尋は、ネロの制服の袖を掴んだ。

 

「待って・・・行かないで・・・・学校を中退するなんて・・・そんな事言わないで!」

実尋は、泣きそうな声を出しながら必死にネロに訴えた。

 

「渋谷、離してくれ・・・俺は、・・・俺には、やはり詩織さんが・・・必要なんだ・・・あの人に傍に居て欲しいんだ!あの人は・・・かつて孤独だった俺の事を理解してくれている・・・俺が、辛い時の・・・苦しい時の声を聞いてくれた・・・・」

 

「ワタシだって、新宿クンが・・・高校に入ったばかりで、ずっと友達が出来なくて・・・一人暮らしで、家に帰った後・・・ただいまを言う相手が、居なかったから・・・毎日オンラインゲームのネット上のギルド仲間に、ただいま!ってチャットで話しかけ続けていたの・・・知ってるもん!」

 

「・・・・!!!・・・・どーして、それを・・・・なんで、ギルドの事まで・・・・」

ネロは、自身がやっているオンラインゲームの自分だけしか知らない事を実尋が知っていた事に驚きを隠せない。

「ギルドの事だけじゃない!!!」

実尋は、声を大きくした。

「新宿クンが、ゲームの・・・ネット上の事かもしれないけど・・・新宿クンが困っている仲間に丁寧に接している所も・・・ワタシは、全部しってるもん!」

「ネットのゲームなのに、自己紹介の時に、自分の学校の事とか、自分の住所とか全部話しちゃってる事だって知ってる!」

 

ネロは、眉間にシワを寄せながら実尋の話を聞いた。

渋谷実尋は、間違いなく・・・自分と同じオンラインゲームをやっているプレイヤーの一人で、チャットどころか同じギルド(グループ仲間)である事も明白になった。

 

「だって・・・ワタシが、ギルドマスター(ギルド、グループ仲間を創設するプレイヤー)のJINだもん!」

 

 

「・・・・・!!!!!!!!」

ネロは、目を丸くした。ネット上で顔も解らないチャット相手の一人・・・しかも、社会人の男性だと思っていた・・・大人びたチャットをしていた相手が・・・最も身近にいたのだ。

 

 

「新宿クンは・・・あのゲームで、最初に流れた製作者のキャッチコピー・・・覚えてる?合言葉は・・・ジャスティス!困っている人助けるって・・・意味・・・ワタシの知っている新宿クンは・・・ゲームの中でも、リアル(日常の生活)でも・・・困っている人に手助けしていた・・・例え手助け出来なくても・・・助けようと考えていた・・・だから・・・そんな新宿クンだからこそ・・・ワタシは・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・渋谷・・・」

 

「新宿クン!良い?生徒会長補佐として・・・ギルドマスターとして・・・今度は、新宿クンにワタシが教えてあげる!」

「ワタシは、キミに嫌われても・・・私自身厄介者として嫌われても・・・キミには、伝えておきたい!・・・」

 

「・・・・・!?」

ネロの脳裏に、実尋の言葉が・・・ギルドマスターJINとしての台詞と被った。

 

「学校で、共に頑張っている仲間達を放置して・・・今まで、一緒に過ごした友達を置いて・・・学校を中退する・・・そして、一人で去っていく・・・」

 

「それは、間違ってるんだよ!!!」

 

「学校の友達は・・・仲間達は、・・・少なくとも・・・ワタシは!!!キミを大切な友達だと思っているんだよ!?・・・そんなキモチを無視して、去っていく・・・・そんなのは、間違っている!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ネロは、言葉を失い・・・その場に立ち尽くした。

 

 

「フフフ・・・はぁ~・・・熱くなっちゃって、バカみたい・・・・」

詩織は冷めたように言った。

 

「詩織さん?」

ネロは、何事か?と耳を疑った。

 

「悪いけど・・・私は、最初から・・・ネロくんとは、遊びよ♪・・・こんな子供にホンキなハズ無いでしょ?」

詩織は、振り返らずそのまま一人歩き始めた。

詩織は、ネロと実尋を残し少しずつ遠ざかっていく。

 

「あっ・・・詩織さん!遊びって・・・どーいうことだよ!?・・・そんな、嘘だろ・・・」

詩織は、まるで人が変わったかのような冷たい言い方をしてその場から離れ始めた・・・ネロには、その言葉が直ぐに理解出来なかった。

ネロは、詩織を追いかけようとした。

 

「行かないで!!!」

「!!」

ネロの腕をガッツリと実尋は掴んでいた。

 

「・・・・・・離さないよ・・・この手は!・・・もう離さない・・・・」

実尋は泣きそうに、声を振るえさせながら訴えた。

 

離さない・・・離さないんだから・・・・・・

 

ネロと実尋は、しばらく公園に佇んでいた。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

詩織は、ネロ達を公園に残し一人駅まで向かった。

 

 

詩織は、なんとなくスマートフォンを手に取り意味もなく、LINEの画面を覗いた。

誰かから連絡が来ている訳でもなく・・・再びカバンの中にしまった。

 

小さくため息をついて、力なくの入り口の壁に寄り掛かった。

 

-最初からネロくんとは、遊びよ♪・・・-

 

心無いウソをついたが・・・もう、この言い方しか出来なかった。

かつては、恋愛結婚を望んだが・・・最終的に、お見合い結婚という形になった詩織・・・

夫に構ってもらえない寂しさという、心の隙間に入ってきた新宿ネロに、もう少しだけ学生生活の頃に戻って恋愛を楽しみたい・・・少しだけなら・・・というキモチが、いつの間にか本気になってしまった。ネロの真っすぐとしたキモチが、自分の中の心の制御するキモチを消してしまった。

 

夫に内緒で、年下の(学生である)ネロと隠れて恋愛をした・・・実際は、夫にバレては居ないのが、不幸中の幸いだったが・・・・

心の中に出来た罪悪感と、失恋という傷心の傷は・・・徐々に痛みを増してきた。

 

情熱の代償・・・と一言で纏めてしまえば、聞こえは良いが・・・

こんな時、誰かに傍に居てもらいたい・・・異性のいい男とまでは言わない、同性の飲み友達でも居れば別だが・・・学生時代の友達の多くは、専業主婦になっている。

 

そこへ、一台のスクターが通りかかった。

スクターに乗っていたのは、銀色のヘルメットをかぶった男だった。

「よぉ?お嬢さん・・・今、一人??送っていくぜ!」

銀色のヘルメットを被った男は、少し荒々しい口調で、魚の死んだような目をした男だが、真っすぐとした真の通ったモノをどこ感じさせる男だった。

 

「・・・・め、目黒センパイ?」

詩織は、かつて高校時代の一年上の学年だった、目黒ギンである事に気づいた。

 

「それっ!」

目黒ギンは、スクーターのハンドルにかけてある、予備のヘルメットを詩織に投げて渡した。

 

「あっ・・・」

「ナイスキャッチ☆・・・さぁ、そこ!通行人の邪魔だからァ・・・乗った乗った!」

ギンは、詩織にスクーターの後ろに乗る様に指示した。

 

詩織は、通行人の邪魔になっている事に気づくと慌ててヘルメットをかぶり、ギンのスクーターの後ろに乗った。

「さーて、お客さん!どこまで乗っていく?」

「じゃあ・・・少しだけ、遠くまで・・・・」

詩織は、しっかりとギンの背中に捕まった。

 

ギンは、かなりの速度を出して走った。

慣れていない詩織には、最初は怖かった様だが・・・次第に速度に慣れてきた。

 

ギンは、少しだけ速度を落とし詩織へ話始めた。

 

「どうだ?少しは気分は晴れたか?」

 

「えっ?」

 

「ほら・・・さっき、お前泣きそうな顔してたろ?」

 

「うん・・・・」

 

「まぁ・・・・なんとなく、事情は察してるつもりだ・・・」

「なぁ・・・藤崎(代々木詩織の旧姓)・・・俺は、いつも人生で後悔ばかりしている・・・生徒には、後悔するなよ?とか言っときながら、テメェがこれじゃあ・・・言葉に力が無(ね)ェよ・・・」

 

「人生ってのは、厄介な事に・・・やり直しの効かないモノでよ・・・過ぎ去った時間は、どんなに努力をしても・・・もう二度と戻っては来ねぇ・・・でもな・・・」

 

「失った時間を後悔する暇があるなら、これからの時間をどれだけ楽しく過ごせるかを考えた方が・・・前向きな生き方になると・・・俺は思う!」

 

「フフフ・・・センパイは、いつもそうです・・・言葉が、凄く前向きで・・・まるで、どこかの主人公みたい・・・・私には、無理・・・私は、主人公どころか・・・その辺にいる脇役。いつもバカばっかりしているけど・・・誰もに気にかけてくれないし・・・」

 

「藤崎・・・いいか?一度だけしか言わねぇから・・・よーく聞け!」

 

「えっ・・・・・」

 

「主人公ってのはな!生きとし生ける全ての馬鹿どもの事だァ!」

ギンは、ハンドルをグリっと回し再び速度を上げた。

エンジンの音は、再び大きく響き渡るが、エンジンよりも遥かに大きな声で雷鳴の様に轟かせた。

 

「今までやってきた事が、正しくても・・・仮に全部間違っていても・・・テメェのやった事なんだから、心の中で誇りやがれ!」

 

「人間ってのは、同じように・・・みんな母(かぁ)ちゃんから同じ様に産まれて生きていくんだ!母ちゃんの腹の痛みとケツの痛みに、感謝するキモチが、ほんの少しでもあるのなら・・・背筋伸ばして生きやがれぇ!!」

 

 

 

ギンと詩織の乗っていたスクーターは、再び速度を緩め、道の真ん中で止まった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

詩織は、しっかりと抱きしめる様にギンに捕まっていた。

 

「さぁーて・・・大分遠くに来ちまったな・・・そろそろ、戻るか・・・?」

ギンは呟くように言った。

 

「もう少しだけ、遠くに行きたいな////・・・なーんてね・・・」

遠くに行きたいという意味ではなく、もう少しだけ二人で居たいという意味を込めて詩織は言った。

 

ギンは、バイクを降りて詩織に手を差し出した。

「延長料金は、しっかりいただくからなー?」

 

「くすっ・・・フフフフフ」

詩織は、笑った。

目黒ギンは、どんな時でもそうだった。如何なるシビアな場面でも・・・真面目な事を言ったと思うと、なにかしら面白い事を言ってくれる。場の空気を和ませる為に、ワザと言っているのか・・・それとも天然なのか・・・しかし、そんな所が・・・かつては好きだった。

 

ギンは、手を引っ込めなかった。

 

「・・・・・・もしかして・・・」

「ワリィ・・・財布家に忘れちまった・・・ガソリン代は、頼むわ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

詩織少しだけ、沈黙してから「クスっ」と笑った。

 

「あと、ガス欠だ・・・この辺りから、5キロくらい押せば・・・ガソリンスタンドまで着くから、コイツ押すの・・・手伝ってくれ・・・・」

ギンは、スクーターを押し始めた。タイヤが転がり始めれば多少楽だが・・・最初の一押しは意外と力がいるのだ。

 

「センパイは・・・・」

 

「あっ?」

 

「そーいえば・・・・私より・・・バカでしたね・・・・」

詩織は、荷物をギンのスクーターに入れて後ろから押し始めた。

 

「へっ・・・黙って押しやがれ・・・・」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

詩織が立ち去った後の公園で、残されたネロと詩織は佇んでいた。

 

少し涙を拭きながら、呼吸を整える実尋。

「ゴメンね・・・大きな声を出しちゃって・・・・でも、ワタシ・・・・」

実尋は、やはり「ワタシ」の後に続く言葉が言えていない。

 

「・・・・・・・その、ワリィな・・・・渋谷・・・・みんなが準備している中で、急に体育館抜け出しちまって・・・その・・・俺、やっぱり自分勝手だったわ・・・・」

 

「ううん・・・いいの・・・ワタシだって、店の手伝いあるから・・・殆ど準備の手伝いなんかしてないし・・・それに、」

「それに・・・・」

 

「新宿クンが、お母さんから貰った大切な飾りつけを壊しちゃったし・・・・みんなのクリスマスの準備をめちゃくちゃにしちゃったし・・・・」

「そんなに、自分を責めるなよ・・・・ワザとやった訳じゃねぇんだ・・・・それに、」

「えっ?」

ネロは、実尋の顔じっと見た。

 

「壊れたって、ちゃんと元通りになったろ?・・・」

「新宿クン・・・」

「形あるモノって・・・誰かのきっかけで壊れる事がある・・・それでも、力を合わせて元に戻す事だって・・・」

 

「/////うん。そうだね☆」

実尋は笑顔になった。

 

「あっ・・・・それと、クリスマス会当日は・・・その出られそうなのか?・・・店番とかあるみたいだし・・・・」

 

「あ・・・・うん、やっぱり・・・・冬場のラーメン屋って混むんだよね・・・レイジさん一人じゃ大変だし・・・やっぱり、ワタシも店の手伝いしなくっちゃ・・・」

実尋は、少しだけ上を向いて話した。

 

「クリスマスだけ・・・お休みにしてもらうとか・・・ダメなのか?」

「いや・・・そういう訳にはいかないよ・・・元旦休み意外は、ウチは大体やってるんだ・・・・レイジさん一人のラーメン屋の稼ぎで、ワタシの学費を出してくれて育ててくれた・・・大学にも行かしてやる!って・・・張りきって働いてるんだ・・・・だから、冬場の手伝いは、やっぱりしないと・・・」

 

「それじゃ・・・・」

 

「ごめんね・・・クリスマス会・・・行けないや・・・・」

 

 

「そ・・・・そっかぁ・・・」

ネロは、残念そうに言った。

 

「あ・・・ほら、今は恋華風邪ひいてるみたいだけど・・・・そろそろ治ると思うし!イ・ヤムチャさんも、なっちゃんも、盛り上げてくれるから!キッと楽しいと思うよ?去年は引きこもってた新宿クン!いや・・・ネロよ!ギルドマスターとして命じる!緊急ミッションだ!クリスマス会を楽しんで盛り上げてくるのだ!・・・なーんてね☆」

 

「ふっ・・・・解りました!不肖ソードマスターのネロ!マスターの命に応え、必ずやクリスマス会を盛り上げてきます!っと・・・・」

ネロが、話終わると実尋は自転車の籠から中華まんを持ってきた。

 

「えっ?」

「はい☆お腹すくだろうと思って、途中で買ってきた肉まん☆・・・・ワタシは、あんまん☆っと・・・・」

 

「あ・・・わざわざ、ありがとうな・・・・」

 

「ほら・・・えっと、ワタシ達・・・・そのケンカをしていた訳じゃないけどさ・・・・なんとなく、気まずい空気を出してたじゃん?その・・・いい加減、仲直りしちゃお☆・・・もうじきクリスマスだしね・・・・」

 

「あ・・・あぁ・・・・その、ケンカしているつもりは無いが、気まずい空気の原因を作ってたのは・・・俺だ・・・その、渋谷は俺の事に気を使ってくれてただけだし・・・悪く無(ね)ぇ・・・・」

ネロは、下を向いた。

 

「はい!肉まん!・・・冷めちゃったけど・・・食べよう?これ食べて・・・体育館戻ろっ☆」

 

「あ・・・う、うん・・・今戻ったら、気まずくないか?」

「大丈夫☆ワタシが無茶苦茶フォーローするから☆」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

ネロと実尋は、共に体育館に戻り・・・ネロは、クリスマス会の最後の仕上げを・・・

そして、実尋は家の店番がある為、帰宅した。

 

 

 

夜の23時頃、渋谷軒(渋谷家のラーメン屋)が閉店となった。

 

実尋は、ラーメンを入れる大きな鍋を洗っていると・・・スマートフォンに電話がかかってきた。

 

「ん?電話だ・・・あっ・・・恋華からだ。なんだろ・・・」

実尋はスマートフォンを手に取り電話に出た。

 

「はーい☆もしもし、恋華~どーしたの?風邪治った?・・・・・ん?」

実尋は明るい声で恋華からの電話に応答した。

 

「もしもし、みひろん・・・・・・・・明日のクリスマス会なん・・・・・・だけど・・・・・・・・参加できそ・・・・?店番とか・・・ある感じ?」

恋華の電話が途切れ途切れで聞えてきた。

 

恋華の声が時々聞こえない・・・・

 

「もしもし?大丈夫???・・・・まだ、風邪治らないの?」

実尋は、少し声を大きくして恋華に聴いた。どうやら、電話先の恋華は、時々咳が出るらしく・・・受話器を押さえて咳をしているらしい。

実尋は敏感に察した。

 

――そういえば、恋華は去年も風邪ひいて、クリスマス会出れてないな・・・

 

「私の風邪は、そのうち治るから心配しないで・・・・それより、みひろんは・・・クリスマス会の参加は?」

「うーん・・・・ちょっと、ウチも店番が忙しくてさ・・・クリスマス会は行けないんだ・・・あっ!そうだ!!恋華の家にラーメンの配達ついでにお見舞いにいくよ~☆」

 

「お見舞い・・・配達ついでに・・・・・みひろんは、ラーメンの配達で少しなら店を抜ける事が出来るの?」

 

「うん☆ラーメンの出前はワタシがするんだ!バイク乗れないから自転車だけどね☆恋華の家にラーメンのプレゼントだ~!」

 

「みひろん・・・私の事は、いいの・・・それより、少しの時間でもいいから・・・クリスマス会に参加して欲しいの・・・・」

恋華の声は、弱々しくいつもより小さく聞こえた。

「・・・・恋華・・・クリスマス会って・・・それ・・・・」

実尋が恋華にクリスマス会に参加して欲しい理由を聞こうとすると、

 

「あのね・・・・ホントは、内緒にする予定だったけど・・・・ネロがみひろんの為に、クリスマスプレゼントを買ったの・・・だから、それだけでも受け取って欲しいの・・・・」

実尋は、恋華の話を聞いて・・・買い物に行った時に、たまたま恋華とネロが自分のプレゼントを内緒で選んでいる所を思い出した。

 

その買い物の帰りに、恋華は座り込むように風邪でダウンしそのまま病院に行ったのだ。

 

「みひろんと、ネロ・・・最近、気まずそうな空気だったから・・・ネロは、みひろんの為にプレゼントを選んだの・・・そんなに良いものじゃないけどさ・・・だから、受け取って欲しいの・・・・」

 

 

「恋華・・・・・」

実尋は、静かに名前を呼んだ。

 

実尋は、知っていた。

そのプレゼントをネロに買う様に誘導していたのが恋華である事を・・・

 

 

 

実尋は、感じていた。

恋華が好きだと言っていた大崎秀は、生徒会選挙演説の際、大塚知恵先生に公開告白をしていた時・・・

 

実は誰よりも傷ついていた事を・・・

そして、そんな恋華に取って一番近い存在の新宿ネロからプレゼントを受けとるホントの意味を・・・

 

 

「ゴホゴホ・・・・アイツは、頭は悪いし・・・時々デリカシーの無い事を言う事もあるし・・・ホントにしょーもない奴だけど・・・悪い奴じゃないのよ・・・きっと、アイツなりに・・・みひろんの事を・・・ゴホゴホ・・・・」

恋華は、話を伝える事に必死になり・・・咳をする際に、受話器を押さえる事を忘れてしまっていた。

 

気づかない振りをしていたが、ホントは当人の恋華以上に気づいていた。

 

4月に学校の最寄り駅の待合室で弁当を共に食べているのが目撃され、恋華とネロの恋愛疑惑が学校中に噂になった時・・・真っ先に恋華は、校舎の外で大崎秀に公開告白をした。しかし、それはネロを庇う為の恋華の身を削る行為だったとも考えられる・・・

告白自体は、ホンキだったのかもしれないが・・・恋華自身に、新宿ネロの疑いを早急に晴らしたいというキモチがあったのは間違いない・・・

 

 

「・・・・・・フフフフ・・・・・解ったよ☆」

実尋は、少しだけ目を閉じた。

 

ラーメンの器などを片付けながらレイジは、チラっとだけ電話をしている実尋を見た。

 

「・・・クリスマス会には出れないかもだけど・・・新宿クンのプレゼントは受け取るよ☆」

実尋は、恋華の必死の訴えに努めて明るく答えた。

 

「ホント~??みひろん☆」

恋華の声は嬉しそうに弾んだ。

 

「恋華とワタシの約束だ!ワッハッハッハ☆」

 

 

 

次回・・・

ついに、☆聖夜の鐘-angel song-☆ 編のクライマックス

 

 

 

 

つづきは、こちら

https://ameblo.jp/rum-xxx-03/entry-12566204323.html

URLをクリックすると読めます☆