正直者は何を見る?
もちろん、正直ということが正直であるという証明になる訳ではない
正直者は何を見る?
大抵の者は馬鹿しか見えない。

今見エテイルモノハ何?

story of wishes and collapse ~願いと崩壊の物語~

第三話  『前日』



「作戦名『城落とし』、ですか……」
「そうらしいな」
「うむ。今回は『特功部隊』、4名で向かってもらう」


薄暗く、湿度の高い牢獄を思わせる会議室にて、言葉を交わす人間が3名。
一名は暗い部屋に溶け込みそうな黒髪の人間。
一名はボサボサの茶髪に2本の刀を帯刀した男。
一名は濃い藍色の軍服をきっちりと着込んでいる年老いた老人。

一名はもちろんわたし。
一名は上司、ライカル=バイグロア
一名は第4指揮官、通称『審判《ジャッジ》』。本名『アグ=ノーヴァ』
わたしとライカルは、任務を受けていた。


それは、最近猛攻を始めた国―――シルフルー―――が半年前に築いた要塞の破壊。
要塞を破壊すれば、ある程度攻撃前線は後退する。それが狙いらしい。


「つーか審判(ジャッジ)、俺らの他のメンバーはそちらの指名なのか?」


ライカルがアグに尋ねる。
……大丈夫なのか、そんなに砕けた口調で。


「そうさせてもらうぞ。……『フラル』、『ザキ』、『ジルト』、『ヘイズ』。以上の4名だ」
「「了解しました」」


どうやら大丈夫だったようだ。……けれど、わたしとライカル以外の二つ名は聞き覚えがない。
作戦決行は2日後の夜らしく、すぐに出発するように言い渡し、アグは退室していった。


「フラル、よく聞け」


急に声を掛けられる。


「なんですか?」
「……いや、とっとと行け」


ライカルは何か言おうとした言葉を飲み込み、退室するように指示した。
そのとき、彼が言葉を飲み込んだ理由も知らず。




「『城落とし』っすかぁ……」
「洒落た名前やなぁ。内容は物騒やけど」
「黙れ『ジルト』、『ヘイズ』。夜が明ける前にはつかなきゃならねぇ」
「「へーい」」


……何なんだこいつら。頭の回路は無事なのか。
それが知らない二人に対しての感想。

「~っす」という口調で笑っている、緑がかった茶髪に長刀を持った青年が『ジルト』。
でたらめなイントネーションで言葉を紡ぐ、両手に何かをしこんでいる籠手を装備している青年が『ヘイズ』。
初めて見たが、わたしと同じ部隊の『特殊攻撃部隊』のメンバーらしい。


わたしを含めた4名と御者、武器、爆破物等が1台の大型の幌馬車―――キャラバン―――に乗り込んで、荒野を渡っていた。


目的地までは遠い。乗り込んでから休息を入れながらとはいえ、すでに1日経っている。
馬車につながれた動力源である馬は、休息時以外、休まず全力で疾走している。
馬の脚には軍で独自開発した魔法陣が刻まれており、寿命が数年潰れる代わりに疲れを感じず、四六時中全力で駆けることが出来るように作用するらしい。


「そっちの嬢ちゃんは初めて見たなぁ~、なんていうん?」
「……フラルと言います」


ヘイズがわたしの名を聞き、ふーんと相槌を打つ。
……何なんだ一体。


「結構幼く見えるな……、おいザキ、この子いくつなんや?」
「確か11だっけ?」
「……はい」
「幼っ!?」
「大丈夫なんすか、子供を連れて行って」


わたしが返事をすると、次々に身勝手な意見を交わす。

……ふざけるな。

だって、お前らが………!!


怒り、憤怒、憎しみ、憎悪。

背に背負っていた剣に手を掛けたことに気付いたのは、ザキことライカルがわたしの肩をつかんだときだった。
彼の眼は、作戦遂行時の『上司』としての眼だった。


「ジルト、作戦メンバーの輪を乱すような発言はするな」


諌めるような一言。だが、凡人が聞けば震えあがると思う。
殺気が入っているのだから。


「……わりぃっす」


殺気をむけられたジルトは、相変わらずの口調だが止める気はあるらしい。こちらに頭を下げる。
わたしに赦す気なんて、ない。剣に掛けた手を降ろす。ライカルが『止めろ』と言う趣旨の言葉を発したのは、ジルトだけではない。わたしもだからだ。


「わかりゃいい。……ついたぞ」


ライカルが前を指す。いつの間にか馬車は止まっている。
そこには小規模の城に似た、シルフルーの攻撃要塞。


名を、ニトロ。

シルフルーにおいて、『絶対の勝利』をつかさどる男神の名からとったらしい。



神に頼った勝利なんて、くだらない。

……人の手により荒れ果てた大地。
虚ろな視線で見つめる少女は、

一体、何ヲ想ウ?


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第二話前編 『物語り』


あの場所から立ち去り、いつもと同じ道をたどると城下町に着く。城下町の名前は、『ルナヴィアース』。この国と同じ名前だ。
……ちなみに、この城下町の中心に建っている青白い外壁で覆われた巨大な城の名前も『ルナヴィアース』だ。

城下町はそろそろ夕暮れということもあって、人が多い上に騒がしい。
だけど、服や剣のあちらこちらに返り血が付いたわたしの姿を見ても反応しない人がほとんど。当たり前だ、この城下町は『国のために戦う』兵士がよく訪れる。そして訪れる兵士のほとんどは血まみれ。
よくそんな兵士を見るから慣れてしまった、ということなんだろう、きっと。


……もっとも、わたしは『国のために戦う』わけじゃないけれど。


人ごみの中をすり抜け、表通りからいくつも伸びる路地に入って裏通りへ。
いくつもの細い路地を歩いた後、一つの行き止まりの壁の前で立ち止まる。

行き止まりの壁には、特に何も変わった部分はない。地面近くにまるで鍵穴のような穴が開いている事以外は。
わたしは屈みこんで、その穴に懐から取り出した小さく折りたたんだ紙を入れる。……数十秒後、小さい、だけどよく通る低い声がわたしの耳に届いた。


「……天より舞い降りしものは」


今日は「その」合言葉ですか。


「『人類への希望、それと表裏(ひょうり)を成す絶望』」
「神々の手に堕ちし……、モノは」
「『神へ抗う権利、力』」
「世界、の……分岐点は」
「『未来への可能性と選択肢の数だけ存在する』」
「……。転生……を繰り返す、者は」
「『やがてその身に宿る灯(こころ)を消し、底知れね無に還されるだろう』」
「…………」


あれ、ちょっと。まだ合言葉は続くはずだ。なんでそこで黙る。というか、さっきから変なところで区切れてる。
……もしかして、合言葉を忘れた?


「…………やべぇ、この先忘れた」


ぼそっと呟いた声が聞こえる。
やっぱりか馬鹿野郎。貴方はそれでもわたしの上司ですか。

……話し出す気配も思い出す気配も無し。仕方がないか。
自分でこの先を紡ごう。


「何者でも止められないものは『始まりと終わりの崩壊』。
 輝きを失った人間が描くものは『永遠擬き(もど)の夢物語』。
 やがて、自らで紡ぎし夢物語に取り込まれ『己の存在を見失う』」
「……。やがて、象(かたち)有るものは崩れ」


やっと思い出したか。こんな人が番人をやっていて良いのだろうか。


「『象(かたち)無きものは忘却の彼方に流される』」
「己の解答は」
「回答は、『たとえ我が心を殺してでも』」
「あ、なんだよ『フラル』じゃねぇか」


最後の合言葉……、いや、それぞれを識別する言葉の羅列を並べると、壁の向こう側からまるで『拍子抜け』とでもいうような声が聞こえる。

ちなみに、『フラル』というのはわたしの名前だ。


「……合言葉、忘れていたじゃないですか」
「あー……悪い悪い」
「『悪い』じゃないです。早く開けてください」
「相変わらずだな、フラル」


少し間を開けて、目の前の壁がまるで硝子(ガラス)のように透ける。
壁に向かってぶつかることもいとわずに歩き、透けた部分に体が触れると、
まわりの景色が行き止まりの通路から洞窟のような場所に変わった。




洞窟のような場所にいたのは、茶髪に茶色い瞳、ラフな服にマントを付けたものを着て、腰に計2本の刀を差した男。
名前は『ライカル=バイグロア』。わたしの上司にあたる人物。


「任務はどうだったんだ?」


洞窟のような場所―――いや、本部への地下道?―――を進みながら、唐突に聞かれた。


「……南の五番基地は殺り終わりました」
「うわ…、下手すると俺より成果上げてんじゃねぇか」
「貴方はどっちかというと単独ではなく複数で任務を受け持ちますからね」
「まぁ、そう言われちゃそうだけどな」


今言った通り、だいたいこの人が受け持つ任務は複数というか部隊ごと。
その仕事の多くは、
『戦場へ行ってなるべく多く敵勢力の数を減らす』というもの。

つまり、使い捨ての、相手の駒の数を減らすだけの、駒。

……彼と比べて、わたしは単独任務を受け持つことが多い。
単独任務の内容は、一人で敵地に忍び込んで相手方の情報などを手にしたり、重要なモノをとってきたりすること。もちろん、たった一人で敵の基地を壊滅させたりすることも、単独任務の中にある。
…だから、優秀な人材は軍の幹部に重宝されて単独任務を受け持つ。


ちなみに、わたしの今回の任務は後者の内容だ。


「おい、フラル着いたぞ。今日も賭けをやるのか?」


考え事をいていたら、いつの間にか着いていたらしい。
着いた場所は、少し薄暗いが人が多い酒場。
ここではよく、軍人たちがトランプなどを使って金貨などを賭けて楽しんでいる。
わたしもたまに賭けをやることがある。だから「今日『も』やるのか」と聞いたのだろう。


……どうせ、明日はやることがないから、いいよね。


「そうですね、やりますか。……貴方はどうするんです?」
「俺は……、今日『アイツ』がいるから、遠慮しておく」


一応、ライカルもやるのかと確認をとるが、今日は(人間関係ではなく、賭けの勝ち負けの方で)苦手な人物がいるらしく遠慮した。


そのままの流れで別れを告げ、適当に空いてるテーブルに座りトランプを切る。

しばらくすると、真っ赤な紅を唇に塗り毒々しい服を着た女と、口元の髭が印象的な男と、安っぽい葉巻を銜えた若い男の計三人が同じテーブルに座った。
わたしが一番年下(多分)なので、切っていたトランプを中央に置いて尋ねる。


「賭け、何に致しましょう?」


一瞬、わたしのあまりにも丁寧すぎる口調に殺気のこもった眼差しを受けるが、そんな生ぬるい視線に怯えるほど、わたしは弱くない。


「……賭け、何に致しましょう?」


もう一度尋ねる。
先ほどの視線にこもっていたものとは比べ物にならないほどの殺気と、「何度も言わせるな」という怒気をこめて。


「それじゃ、ポーカーにしないかい?」


もともと空気が読めるのだろう、若い男が一番無難な遊戯(ゲーム)を挙げる。
わたしが頷くと、直ぐ様男と女がテーブルに置いたトランプに手を伸ばす。多分、自分がシャッフルして配るときにイカサマをしやすいようにだろう。

だが、二人がトランプに触れる前に若い男が手にして、シャッフルし始めた。


「一回ずつ、交代で配りましょう」


という言葉と一緒に。

若い男が言った言葉に無言で頷く二人。
……ここで『此方にカードを渡せ』等をしつこく言う事は、『自分はイカサマをする』と言っているようなものだ。
だから、二人も食い下がったのだろう。

配られたカードを見て、思った。




「……貴女、またですか」


何回か繰り返したころ、わたしは毒々しい服を着た女に言った。


「『また?』……あんた、アタシより勝ってる癖になに言ってんの?」


今のところ、一番稼いでいるのは意外にも若い男で、二番目に髭の男、三番目はわたし。僅差で彼女が下になっている。


「…今日はうまくいっていないみたいですし、止めたらどうです?」
「はぁ?あんたなに言ってんの?
 ……まさか、あんたに負けてるアタシがイカサマでもしてるって言うの?」


……うん、今のカオでわかった。



「えぇ、そうですよ。袖からカードが丸見えですから」



次の瞬間、いつの間にか移動していた男が彼女の後ろに回って、手首を捻り上げる。
彼女の手首から、今使っているトランプよりも遥かに多いカードが床に散らばり、隣のテーブルで賭けをやっていた人々が騒然とこちらを見る。
落ちているカードはキングやジャックなどの強いものばかり。

イカサマがバレた女はかなり憎々しげな表情をわたしに向けて、酒場の管理者と複数の大柄な男に連れていかれた。


「ふっ、はははははっ!」


連れて行かれる女を見送りつつテーブルのカードを集めようとしたとき、髭を生やした男が笑い始めた。


「くははははっ!……嬢ちゃんおもしれぇじゃねぇか」
「……、何が面白いんですか?」
「その目だよその目!……よくあの女のカードを見破ったな」
「……御冗談を。貴方の方が先にわかっていたんじゃないのですか?」
「クククッ……、嬢ちゃんこそ先にわかってたんじゃないのか?」


鎌をかけたつもりが、さらに鎌をかけられた。
……そうくるなら、



『そうですか?
……そう思うなら、貴方の懐から見えるそのスペードのキングもバレてると思った方がいいですよ』



音を出さずに唇の動きだけで、その真実を叩きつける。

しばらくの間、鋭い針のような緊張が満ちた沈黙が続く。
話に入れない安っぽい葉巻を銜えた男が何かを話そうとしたとき、その沈黙はとけた。


パァン!!


この場にはあまりにも不釣り合いな銃の発砲音―――銃声―――と共に。


銃を発砲したのは男。
多分自慢のイカサマがバレた事がショックだった上に、管理者に通報されるのが恐ろしかったんだろう。
この酒場で『管理者に通報される』というのは、『二度と酒場に入れない』ことを意味している。
賭けを日常的にやる人々にとって『賭けが出来ない』というのは、ものすごい苦痛だろう。


……もっとも、



「『手を出したり銃を発砲したりした時点で通報される』という事に気付けないのは愚かしいですけど、ね」



キィ ィ ン!


甲高い音がした、と思った瞬間にテーブルのど真ん中に何が突き刺さる。

……それは先端部が尖っている小さな鉛の弾。
つまりは、男がわたしに向けて撃った銃弾。
今度は、さっきよりも広い範囲で騒然となった。
銃声もそうだけど、銃弾がテーブルの真ん中に突き刺さったことに対して。

でも、一番驚いていたのは拳銃にしては少し大きい、鈍色の銃を私に向けた男だった。


「その銃は『00型(ダブルオータイプ)』ですね?
 ……しかもその銃身でありながらも遠距離射撃に適している『00型遠距離量産銃(ダブルオータイプ・エスケープコピーシリーズ)』」
「あ、あぁ……」


わたしの言葉に男は、まるで魂が抜けたような顔をしてうなずく。


「……甘いですよ?
 『00型遠距離量産銃(ダブルオータイプ・エスケープコピーシリーズ)』から発射される銃弾は飛距離が伸びれば伸びるほど威力が増す型《タイプ》です。さすがにその銃身なので150㎞もすれば威力は落ち始めますが。
 ……逆に言えば、その型《タイプ》は至近距離の射撃に向いていません。至近距離では威力が一般の拳銃に少し劣りますからね。……それでも、貴方が今狙った心臓などの急所に打ち込めば死は免れないでしょうけど」


一応、懇切丁寧に説明してみる。
意味のないことだとは知っているけど。


「じゃ、じゃあ……」


説明を受けてなのか、わたしより年上であるはずの男が若干怯えた様子で口を開く。


「じゃあ、お前は一体どうやって銃弾を防いだ!?」
「初級風魔法『ウィンドーム』」


初級風魔法《ウィンドーム》は周囲の風を凝縮し、その塊を対象へ放つ魔法。
それで、銃弾がテーブルの上に落ちるように放ちました。


「は、はぁ!?なに言ってんだ、お前詠唱は……」
「していませんよ?
 ……もしかして貴方、詠唱がないと魔法が使えないと思っています?」


残念ですね、魔力がある程度あれば無詠唱でも魔法の使用は可能なんですよ。


そこまで説明し終えると、先程イカサマをした女を連れて行った奴らと同じような体格の男が数名来て髭を生やした男を連れて行った。

ふっ、とまわりを見る。
葉巻を銜えた男は、すでに手に入れた金貨すら持たずにいなくなっていた。
そして、まわりの人はもうこちらに興味がないようで、すでに賭けに戻っていた。

仕方ないからテーブルに残った金貨を懐に入れていたとき、この場にいる事があまりにも不自然な幼い少女が目に入る。
白いワンピースに少し長い黒髪。そして慣れた手つきで襟やら袖やらからイカサマのカードを引き抜く。
……本当に不自然だ。


でもわたしは彼女を知っている。


彼女は『国家兵器部隊』所属の、『裏切り殺しの使者《アレス》』。通称『アレス』。



「キミも、こんなになっちゃったんだね」




私の嘆きは、誰にも、彼女にさえも、届かない。


ザンッ!
紅く染まった大地にて、剣を振るう少女が一人。
その少女の瞳に……

映ルモノハ無イ


story of wishes and collapse ~願いと崩壊の物語~

第一話 『紅』


紅い、紅い、紅い、アカイ。

周りの状況を表す文字を何度も繰り返してみる。
……はっきり言って、気が狂ってしまう。
いや、簡単に人を斬れるようになってしまった頃から、もう狂っているのだろう。

そんなことを思いながら、その紅い『人だったモノ』を踏みつぶして帰路をたどり始める。
……帰路をたどる途中、ふと想う。


『こんな日々を繰り返し始めたのは、何年前からだっただろうか』


ひぃ、ふぅ、みぃ……。

指を折ったり、広げたりして数える。
その結果、残ったのは人指し指と中指。つまり2本。

つまり、2年目。


「早いなぁ、もう二年になるんですね」


ぽろっと、口から零れたのはそんな言葉。


「……早かったのか遅かったのか、今の『狂ったわたし』には分からなくなってしまいましたけど」


次いで零れたのは、自嘲のような薄っぺったい言葉。


ガサッ……


後ろから、物音が聞こえた。
それが何の音かは、2年間『こんな事』をやってるわたしはわかってしまう。
十中八九、わたしの姿を見てついてきたところでしくじって物音を立ててしまったのだろう。


……仕方がない。


ザグッ!

物音が聞こえた方へ一瞬で距離を詰め、手に持つ血塗れの剣を振るう。
するとあまり聞きたくないグロテスクな音をたてて、そこにいた人物の首がとんだ。
…本当は見ていなかったけど、感覚でわかった。


首があったところから吹き出す紅い飛沫になるべく当たらないようにしながらその場を去る。



ほんの少し残った、罪悪感に苦しみながら。







・あとがき
とある場所で連載中の小説を移してみた。
現時点で書き終ってるのは三話目まで。
あ、設定も載せないとな……。


「なぁイクス、次はあっちに行こう!」
「別にいいが……、テンション高くないか?」


目の前にいる黒髪の少女は、俺の腕を引っ張って次の場所へ行こうと催促する。
子供か、と思ったが、よくよく考えたら年齢的に子供だった。
俺と彼女――ルライトは、結構大きな遊園地に来ていた。


今回ばかりは、あのオレンジ色の球体に感謝しないといけない。
アイツがフリーパスのチケット2枚を俺に押し付けなければ、多分一生来ることはなかっただろうから。


「なぁイクス、あれって何?」
「えーと、コーヒーカップっていうアトラクションだな」


彼女は遊園地に来たことがないらしく、アトラクションを見ては俺に聞く。
その時の表情が年相応で、思わず笑ってしまいそうになるのをこらえた。


「……?」
「……ん、どうした?」


目の前を歩いていたルライトが急に足を止めた。
どうしたのかと思い視線を追うと、そこには色とりどりの風船を片手に持っているクマの着ぐるみがいた。
クマは、子供を見かけては手に持った風船を配っている。
……それにしても、低クオリティすぎないか?
継ぎ目が見えてるし、チャックもかなり多いし。


「……おーい?」


とりあえず、足を止めたままのルライトに声をかける。


「……あのふわふわしてるのって、何?」
「………はい?」


だから、あれ。

そういって彼女が指したのは、クマが持っている色とりどりの風船だった。


「あれは風船だが……、知らないのか?」


彼女は肯定するように一回頷く。


さすがに驚愕した。
いくら遊園地に来たことがないとはいえ、風船をくらいは色んな場所にある。
この前は『デート』という単語を知らないと言っていた。


「移動王国で何回か見たけど、名前はわからなくて……。フーセンっていうのか」


王国で見たことがあるということは、元の世界では見たことがないのか。
一体、どんな世界に住んでいたんだろう。
今度聞いてみるか。

彼女はまだ風船を目で追っている。
……もしかして。


「風船、欲しいのか?」
「……うん、できれば」


やっぱりか。
遠慮がちに言うルライトを見て思った。
目は口ほどにモノを言う、というのはあながち間違いじゃなさそうだ。

クマのところへ行き、差し出された風船を取ってルライトに手渡す。
色は、鮮やかな赤。
少し彼女には似合ってない気もしたが、傍目に見てもわかるくらいはしゃいでいる姿に、何故か和んだ。



彼女にそっと何かを耳打ちした存在に、気付かずに。




―――――――――――――――――



遊園地とはいえ、やっぱり人混みはあるもので。
この前みたいにはぐれないよう、片手に風船を持ったルライトと手を繋いで歩いていた。
目的地は、『サナトリウム』という名の休憩所。

彼女と繋いだ手からは、優しい温もりを感じる。
出来れば、ずっと手を繋いでいたいと思っていた。



……だが、急にだ。
彼女から、繋いだ手をほどかれた。


また何か、知らないものでもあったのかと振り向き、



「なっ………!?」


凍りついた。



ルライトの瞳は、何も映していなかった。


さっきまで興味津々だったり、疑問に思っていたり、喜んでいたり、はしゃいでいたときの瞳じゃない。
どこまでも無機質で、空虚。

まるで、死んでしまったようで。


「ど、どうした!?」


肩を揺するが、反応なし。
このとき、「ごめん、ボーッとしてた」とか言って笑ってくれればどれだけ安心出来たか。
何も言わず、何も答えない。
片手に持っていた赤い風船は、ない。


「ルライトッ!?どうしたんだ!?」
「ムダだムダ。そこの少女に何言っても、もう何も聞こえやしない」


呼び掛け続けていたとき、彼女の背後から突如現れた人影に身構える。
一見すると、中性的で男か女かよくわからない『管理者』とでもいう感じの服を着た人間。

直感すると、人の皮を被った人外。
いつの間にか、人混みは消えていた。


「……ルライトに何をした」
「あぁ、気づくタイプなのか。……別にちょっと『人形』になってもらっただけさ」


人外は言う。
彼女は自分の言いなりだと。


「ふざけるな!元に戻せっ!!」


俺は迷いなく、護身用に持っていたデザートイーグルを引き抜く。
そしてルライトの手を引こうとするが……、いない。周囲を見ても、だ。


「少女には先にどっか行ってもらった。銃を降ろせ」



さもなくば、少女を殺すぞ。


言われ、銃を降ろすしかなかった。


「……何が目的だ。彼女を返せ」
「返しはしない。……私は雑用がほしい」
「………は?」


茫然とする俺に、人外は近づき紙を突き出す。
アラベールという紙でできたソレは、契約書。

悪魔との、契約書。



「少女は人質だ。……あの少女を助けたいのだろ?」



人外、いや、良い人を装って偽善だらけの笑みを貼り付けた悪魔はササメク。



「……あぁ、そうだ。その通りだ」



だから、俺は悪魔に魂を売った。

それこそ、文字通りに。




―――――――――――――――――



彼女が人質にとられて、数日。
正直、それ以上の時が立っている気がする。

俺のメンタル、精神面は早くも死にかかっていた。

仕事自体は、本当に雑用。たまに裏のゲームの審判。
死にそうな理由は多分、あの契約だろう。
あの契約が、俺のメンタルを削っている。


「ほーら仕事仕事。突っ立ってんなー」


あの人外、いや悪魔は思考にのめりこんでいた俺をせかして消える。
今は園内のゴミ拾いをやらされていた。
とは言っても、そんなにゴミは落ちていない。
楽だとは思うが……。


「……ルライト」


ずっと、彼女の姿を見ていない。
どこにいるのか、無事なのか、考えるたびに心が死にそうになる。


「……?」


ふと、あの日に行きかけた休憩所、「サナトリウム」を見やる。
そこには1人だけ、おとぎ話にでも出てきそうな白いドレスを着た少女がベンチに座っていた。
座っているだけで、動きもしない。迷子か?


「おーい、そこのお嬢さんどう、し……っ!」


凍りついた。あの日と同じように。


そこで座っていたのは、俺の前からいなくなっていたルライトだった。
服が全く違ったので、同じ黒髪でも気づかなかった。
けれどその瞳は、あのままどこまでも無機質で、空虚で。
死んでしまったような瞳だった。


「ルライト!大丈夫か!?」


すぐに駆け寄り、頬に触れる。
やはり、反応しない。
それどころか、ものすごく冷たい。
下手をすると、氷より冷たいんじゃないかと思うほど。

手を離して、改めて彼女を見る。
夜闇を思わせる黒い髪に、死んでしまったような同色の瞳。
来たときには全く違う白いドレス。

場違いなのだろうが、ハッピーエンドを待つ喜劇のお姫様か、バットエンドになりそうな悲劇のお姫様に見える。



「……待てよ?」


悲劇?バットエンド?お姫様?
いや、もっと前だ。
思い出せ、あの悪魔は何と言っていた?


―――別にちょっと『人形』になってもらっただけさ―――


「……ふざけるな」


拳が震える。
人形、それはつまり。


アキレバ、ステラレル。



「おーい、仕事はどうした」


例の悪魔は音もなく現れ、不満を言う。
俺は無視して、微動だにしない彼女の手をとって立ち上がらせる。


「手をつないだら、仕事が出来ないと思うのは私だけか?」
「俺も思った、それは」
「じゃあ、その人形の手を放して仕事しろ」


手を放す?
冗談じゃない。
鼻で笑ってやると、悪魔はさらに不機嫌そうに表情を歪める。


だから言ってやった。



「2度と手を放したりしない。貴様に魂を売ろうとも、絶対にルライトを助け出す!!」


手を取った彼女を横抱きにし、悪魔とは逆方向に向かって駆ける!
横抱き、つまりお姫様だっこにしたルライトが微かに目を見開いたのと、悪魔が素っ頓狂な声を上げたのはほぼ同時で。




―――――――――――――――――


彼女を連れて園内を駆け回っているとき、俺は少し後悔していた。
園内のほとんどが敵に回ったからじゃない。

数日とはいえ、悪魔の言いなりだったことだ。

あの時、すぐに彼女を探していればよかった。
今思えば虫唾が走る。

一度悪魔に屈した俺は、もう人間じゃないのかもしれない。
だが、それでもいい。
腕の中のルライトからは、ぬくもりは感じない。
でも、鼓動は感じる。つまり生きている。それだけで十分だ。


手が、心が冷たいのなら俺が温めればいい。
瞳に光がないのなら、俺が光を灯せばいい。


つまりは、そういうことで。


俺たちを取り巻く異常に気付かない客の人混みの中、誰かが呟く。


「悪魔をあざむくのなら、人間でいろ」


誰が呟いたか、確認する余裕がある訳もなく。



「……悪魔よりも、決意した人間の方が怖いんだぜ?」




―――――――――――――――――



「まーてー!」
「誰が待つか!」


悪魔の手先と化したクマの着ぐるみやウサギの着ぐるみ「だった」モノに追われながら吐き捨てる。
手下自体は少ないらしいが、何度振り切っても見つけて追ってくる。
結構広い遊園地のはずなのに、どういうことだ。

それと着ぐるみだ。
低クオリティだと思っていたが、見えていたチャックを全て外すと中からは異形の化け物が出てくるとか。
化け物が俺たちを追ってくるのに、周囲の客は気づかず、遊園地も通常運転。
ここは本当に遊園地なのか、頭を疑い始めそうになった。



「……イ、クス?」



すぐそばから発せられた声を、聞くまでは。
横抱きにして抱いている彼女は冷たいが、もう死んだような虚ろな瞳じゃなかった。

いつものように、温かい光を灯した瞳だった。



「っ、ルライト?俺が分かるか?」
「う、うん。わかるよ」


彼女は、最後に聞いたときより細い声で答え、頷く。


「……よかった。キミが元に戻って」


涙が出そうになった。
いや、涙でないけどさ。
悪魔が自ら手放したのか、奇跡なのかはどうでもいい。

とにかく、よかった。


「イクス?なぁ、なんで………っ!?」


ルライトが、俺の後ろを見て硬直する。



「まーちーやーがーれー!」


後ろからは、まだ化け物が追ってくる。
ちなみに今まで走りながら話していた。


「あ、あああああ、あれ………!?」


化け物を見て、彼女は青ざめて震える。
今までの記憶はないのか、理解が追い付いていないようだった。


「大丈夫だ、大丈夫」


強く抱きしめ、安心させるために耳元で囁く。



「絶対に、キミを助けるから」


きょとん、としたあとに嬉しそうに表情をほころばせた彼女を見てから顔を上げる、と。


「「いい加減にとーまーれー」」


さっき振り切った時計頭の手下が2人、両方から迫ってくる。
後ろからも化け物が追ってくる。
逃げ道は、前方の大きな城のみ。


「止まれるか!」


堂々と正面から駆け込み、城内へ。
いくつか部屋を通りこし、目の前には螺旋階段が頂上まで続いている。


「ルライト、つかまってろよ?」
「う、うん……」


彼女が俺の服につかまったのを確認してから2、3段飛ばしで駆け上る。
ちらりと下を見やると、手下どもは気づかずに他の場所へ行こうとしている。
このまま見つからなければ……!



「残念だったねぇ」



ぐるりぐるりと上った先、頂点のテラスにいたのは。


「人形、返してもらうよ?」


中性的で、「管理者」とでもいう感じの服を着た、偽善だらけの笑みを貼り付け人の皮を被った、



「……悪魔」


今まで横抱き(お姫様だっこともいう)だった、白いドレスの少女を降ろして立たせる。


「え、悪魔??」


まだ事態を完全には理解できず、困惑しているルライトの手を握る。
手はもう、冷たくなかった。


「イクス……?」
「このまま、繋いでいてくれ」


小さい声で言うと、「分かった」と言ってくれた。
意志の疎通ができることは、こんなにも温かいものなのか。
今回のことが無ければ、分からなかった。


「何してるんだい?……早く返せ」


イライラしたように、元凶の悪魔は言う。
対する俺は逆に笑ってあるモノを取り出す。

「サナトリウム」で奴から抜き取った、契約書。
期限の無かったそれを、宙に放り投げ……



パァン!



あのとき降ろした、デザートイーグルで撃ち抜いた。
1つの穴が開いただけなのに、一瞬でバラバラになって引きちぎれ、ただの紙くずになる。

そのまま照準を、悪魔へ向ける。


悪魔は、驚愕していた。


「……残念なのは、貴様の方だ」


彼女と繋いだ手をもう一度握り、人差し指に力を込め。




城の頂上にて、どこか軽い銃声と共に悪魔の断末魔が響いた。




―――――――――――――――――



「そうだったのか……っきゃ!?」
「おっと、大丈夫か?」
「う、うん………」


歩きながら小石につまずいてよろけたルライトの腕を引く。
いつもスニーカーである彼女にとって、踵の高いヒールというのは歩きづらいらしい。


悪魔を断罪したあと、数日間のことをすべて話した。
彼女の方は、風船を受け取ってからの記憶がないらしい。
でも、と彼女は続ける。


「冷たかったのは覚えてる。でも、急に頬と手がじわぁって温かくなって」


それで気が付いたら、あの状況だったんだよ、と言った。



「……ごめんな」
「何で謝るんだ?むしろあたしの方が、」
「いや、俺がもっとちゃんとしてればこんなことには……」
「で、でも……、イクスが助けてくれたから、大丈夫だよ」


このとき微笑んだ彼女の姿には、少し救われた気がした。
周囲を見ても、写真班とかはいない。
……ちょっとくらい、ハメを外してもいいか。


「……よっと」
「えっ、ちょイクス!?」


思い切って、お姫様だっこをもう一度してみた。
さっきは必死でわからなかったが、軽い。


「いや、歩きづらそうだったからな。服もそれっぽいし……ダメか?」
「ダメじゃないけど、ちょっとびっくりした……」
「そうか。……どこか行きたいところ、あるか?」


恥ずかしいのか、少し顔を赤くしたルライトに行き先を聞く。
もちろん、このままの状態で行くつもりだ。せっかくだしな。


「え、えと……、お城の頂上」
「城か。了解っと」


どうやら、あのテラスに行きたいらしい。


「……ねぇ、イクス」


城にお姫様か、とか考えながら歩を進めていると、不意に声をかけられた。


「なんだ?」
「……本当に、ありがとう」



ルライトは顔を近づけ、





「………へっ!?」





俺の頬に、キスをした。





―――それは、彼へのプレゼント―――





・あとがき
クロルラもといやりたい放題第2弾!
一応元ネタは、ボカロの『メアリーと遊園地』。聞けばそれっぽいと思います(
ナマコさんから、イクシオンさんもとい現在名クローディアさんをお借りしました。
つかこんなんで大丈夫なのか!?何で最後こうなった!?……と思ったら大丈夫そうでした、まる。

とりあえず、マジで爆ーぜーろー!(