『少女と青年の王国めぐり話』
久しぶりだなぁ。
レンガなどで作られ、どこまでも統一された国。
見ていると、美しい街並みだと思う。
けれど、この国には時間が存在しない。
時計を持ってきても、針は先へ進まない。
少し、いやかなり不思議なこの国は『幻想の移動王国』
ほとんどの人々が、異世界から来たという王国。
おとぎ話のような国。
あたしがここへ来たのは2度目。
1度目は、気づいたら迷いこんでいた。
そして、今回も迷いこんだ訳じゃない。
自分の意志だ。
「一緒に、移動王国を歩かないか?」
とある人に、誘われたから。
王国はあたしにとって、ある意味思い出の場所だから少しだけ違う服で来た。
トレーナーはトレーナーだけど、隅っこに鳳仙花(ホウセンカ)が刺繍されている。
なんで鳳仙花なのかは、あたしも分からない。
でも、あたしを象徴する花らしい。
加えて、マジックバーストの代わりに『虚ろいのレウニカ』。
マジックバーストはもともと母さんのだし、もう返してきたから取りに行く気もない。
……いや、取りに行ったらいけないんだ。
とにかく、マジックバーストは手元にない。
だから、別にわざわざ剣を背負う必要はないのだろうけれど、落ち着かなくて結局背負ってる。
あとは、前に入院しているときに貰った『歌唱石』という透明なクリスタルのペンダント。
貰ったときから、すごく気に入ってる。
握っていると、あの人の温かさが感じられるような気がするんだ。
包帯を巻いた左手でそっと握って歩くうちに、広場に出た。
中央に大きな噴水が設置されていることから『噴水広場』と呼ばれ、親しまれている思い出の場所。
「……お、来たか」
暗い茶髪に、同じような色の瞳。いつも通りの姿。
なんだろう。ものすごく安心した。
「ごめん、イクス。待たせた?」
目の前の人は、『イクシオン・クローディア』。あたしは『イクス』って呼んでいる。
あたしにペンダントをくれた人であり、移動王国に誘ってくれた、大切な人。
「いや、俺も今来たばかりだ。……歌唱石、つけてくれていたのか」
手を振って答えたあと、イクスは微笑んで言う。
何か、嬉しい。
「あ、うん。イクスに貰ったから……、つけたいなって思って」
「……そうか。じゃあ行くか」
「うん。……ところで、どこに行くんだ?」
「んー……、特に決めてはないな。適当に歩くだけだ」
「わかった。行こう?」
とりあえず話をしながら、広場から伸びる大通りを歩く。
相変わらず、人が多い。
「そういえば、イクシオンは?」
「あー、アイツは確か『陛下のところ行ってくるわー』とか言ってどっか行きやがった」
「陛下に?……というか、あんなにフレンドリーな王様ってそういないんじゃないか?」
「多分な。というか俺も思うわ、あんなんでよく国を治められるなーって」
「確かに……」
話しているうちに、いつの間にか周囲の人が少なくなった。
どうやら裏路地に入ったらしい。
大通りには人が多いのに、1本でも外れた裏路地だとばったり人がいなくなる。
初めは驚いたけど、そういう国なんだ。
ちょっとした商店街のような場所で、1つの楽器屋が目に入る。
「……どうしたんだ?」
あたしは立ち止まっていたらしく、ついてこないのに気づいたイクスが振り返る。
「あ……、えと、ほらあそこの楽器屋、ずっと前も行ったことあるだろ?」
「そういえば、そうだったな。……入るか?」
「……うん、楽器見たいし」
少し古風な、小さな楽器屋。
あのときは確か、あたしが先に見つけたんだっけ。
カランコロン
「おじいさーん、いるー?」
「……おぉ、お前さんたちか。久しいのう」
あたしが声をかけると、店の奥からバンダナにエプロンという服装のおじいさんが出てきた。
話すと面白いことを聞かせてくれるし、話しやすい。
「ねぇ、また楽器見てっていい?」
「もちろんじゃ。だが壊さぬようにな」
おじいさんに許可を貰い、楽器を眺める。
フルート、クラリネット、トロンボーン、トランペット、チェロ。
どれも不思議な色合いで、なんというか惹かれる。
イクスは、店のおじいさんと何か話していた。
そのうち、あたしが探していた楽器を見つける。
「なぁなぁ、これ覚えてる?」
「なんだルライト。……あぁ、アコースティックギターか。あの時も持ってきたな」
「うん。今は弾けるようになったよ」
イクスたちの前まで行って、この前覚えた『朝と夜の物語』のメロディーを弾く。
さすがにまだ、伴奏は弾けない。
いつか、他の曲も弾けるようになりたいと思う。
イクスがいつか演じていた、『黄昏の賢者』も。
「お前さん、弾けるようになったのか」
「そういや、この前も寮で練習してたな」
「うん。前からずっと練習してたんだ」
そのまま少し会話してギターを戻した後、楽器屋を出た。
また、来れるといいな。
―――――――――――――――――
楽器屋を出た後は、大通りに沿って歩いた。
だから、次にたどり着いたのは、陛下が住んでいる王城だった。
王城は王国の中心部にあり、大きいし広い。
劇のときに中に入ったとき、迷いそうになった。
外見はとても芸術的で、本当におとぎ話みたいだ。
実在はしているのに。
中には勿論、国の頂点に立つ陛下が住んでいる。
でもこの国では、お城の外でも陛下をよく見かける。
どういうことなんだろう。
「……ねぇ、イクス」
「なんだ、急に」
「このまま後ろを振り返ったら、陛下がいるっていうことはないよな?」
「おい、それなんというか、明らかにフラグ立ってないか?」
「あはは………、やっぱり?」
思い付いた冗談を少し苦笑いした表情で返され、何となく後ろを振り返る、と。
「やぁ、御機嫌よう」
「………うわっ!?」
「どうした、ってなんだ只のレオン…………、えっ!?」
白銀の髪に黒と赤のオッドアイという珍しい瞳を持つ人、『レオン』こと陛下が本当にすぐ後ろにいた。
イクスなんて、思わず二度見している。
「ほ、本当にいた……。びっくりした、いつからいたんだ?」
「そうだな、お前らがこの王城に着いた直後」
「「結構前からいた!?」」
まったく気がつかなかった。
というかイクスと声が重なった。
驚いているあたしたちをスルーして、陛下は喋ってる。
……本当に大丈夫なのだろうか、国に関わるという意味で。
「大丈夫だろ。いやー久々に見たなー。2人っきりってことはデートか?」
「んなっ!?ち、ち、違うこれは……!」
心を読んだのかよくわからないけど、あたしの疑問に答え、陛下は若干笑いながらイクスに話しかける。
話しかけられたイクスは、よくわからない単語を聞いた途端慌てて否定し始める。
いや、それ以上に。
「……イクス、『でーと』ってなに?」
「…………えっ?」
「…………マジで?」
……なんだろう。
時間が存在しないはずなのに、一瞬だけ時間が止まった気がする。
「えっ、嘘だろ……、知らないとか……」
「……なぁ陛下、あたしのことを馬鹿にしてないか?」
「してないぞ、全然。ほらイクス教えてやれよ」
「な、なんで急に俺に振るんだ!ルライトは知らなくていいっ、知らなくていいから!」
陛下がイクスに言うが、ものすごく慌てふためいている。
そこまで言うなら、聞かないほうがいいのかと思ったけれど、
「『デート』っていうのは、男の人が女の人を誘って一緒に出掛けることだ」
陛下の後ろの方から顔を出した、意外な人物が教えてくれた。
イクスに似ていて、どこかハイテンションなのは『イクシオン・ライトニング』。
たまに寮で会うけれど、すぐにどこかに消えていくという結構謎(?)な人物。
「なるほど。……じゃあ、イクスが誘ってくれたから『でーと』だね」
「ほらみろ、やっぱりデートじゃないか。イクス、やるなお前」
「ちょ、ルライト違う!意味違う!つかライトお前何教えてるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
イクシオンの説明を聞いて言ってみたけれど、何かが違うらしい。
イクスはなんか全力で陛下とイクシオンに叫んでいる。
対する2人は笑って……、いや、ニヤニヤしてる?
よくわからないけど、あたしだけ流れに取り残されていることは分かった気がする。多分。
―――――――――――――――――
「では、私は戻るとするか」
「俺もどっか行くわ。じゃあな」
「もう来なくていい……。早くいなくなれよお前ら……」
しばらくしたあと、王様とイクシオンは別々の方向へ去っていった。
「……結局、何しに来たんだろうあの人たち」
「俺らをからかいに来たんだろ……、はぁ」
2人にずっと叫び続けたイクスは、どこか疲れ切っているように見えた。
主に精神面が。すごく、かなり。
「イクス、大丈夫?どこかで休む?」
「いや……、それよりここから離れよう。また奴等に会いそうな気がする」
「あぁ………、わかった」
イクスの言う通り、確かに会いそうだ。
王城から離れ、すぐ近くの通りに入る。
大きな市場が開かれているようで、一番初めに入った大通りより人が多くて賑わっている。
売られているのは食べ物とか、装飾品とか、マントとか、生活に関わるものが主になっている。
たまに、よくわからない薬らしき液体や、骨董品なども見かける。
買う人は、見たことないけど。
「イクス、あのさ……」
…………あれ?
ふっ、と気づくと、あたりと周りの人々しか通りにいない。
いない。
さっきまで隣で歩いていたイクスが、いない。
「……イクス?」
通りを見渡しても、端から端まで歩き回ってみても、見つからない。
茶髪の人はいるけれど、明るい色ばっかりで違う。
「もしかして……、はぐれた?」
口に出して不安になった。
噴水広場のあたりはいつも歩いていたからよく知っているけど、この辺りはあまり歩いたことがないからよくわからない。
どうしよう。
近くの通りも探してみたけれど、影も何もない。
右も左もわからないまま、いろんないろんな通りを歩いた。
足を止めたとき、そこは中心部から外れた郊外、とも言える場所の色あせた公園だった。
中心部から外れるつもりはなかったのに。
時間はないけれど、かなり長い間歩いたんだと思う。
それでも、まったく見つからない。
疲れて、近くのベンチに座る。
公園には、あたし以外の人はいなかった。
まるであたしだけ、現実から取り残されてしまったみたいだ。
………このまま、ずっと会えなくなったらどうしよう。
公園の木に止まって休んでいる鳥を見て、ぽつりと思う。
でも思うにつれて、だんだん本当になってしまいそうに感じた。
いや、もう会えないかもしれない。
こんなに歩き回っても見つからないから、本当に。
イクスに貰ったペンダントを握りしめる。
やっぱり、ほんの少し温かく感じるけど、でも。
「………さみしいよ」
寂しい、会いたい。
このまま会えないなんてイヤだ。
辛い、寂しい。
一体どこに行ったんだろう。
もしかしたら、この王国にいないのかもしれない。
……やっぱり、もう会えないのかな。
……なんではぐれちゃったんだろう、あたし。
考えれば考えるほど、どんどん辛くて、悲しくなっていく。
会いたい、会いたいよ……!
「今晩和(Bon soir(ボン ソワール)――お嬢さん(Mademoiselle(マドモワゼル)」
いつか聞いた、懐かしい台詞。
サヴァン、という少しだけ胡散臭い賢者が悩める女性に初めて会ったときの台詞。
イクスが劇で演じたときに言っていた、それ。
気づかないうちに俯いていた顔を上げて、前を見ると。
「やっと見つけた。……心配したぞ?」
探しても探しても会えなくて、会いたいって思った、イクスが立っていた。
暗い茶髪に、同じような色の瞳。いつも通りの姿で。
……急にじわぁっと目のところが熱くなって、視界が滲む。
「……おい、ルライト?」
「………、た」
「……え? 今、なんて」
「イクス……、やっと、あえた。さ、さみ、さみしかったよぉ……!」
「えっ、ちょ、ちょルライト!?」
耐えきれなくなって、イクスの胸に顔を押し付けて泣いた。
自分でもびっくりするくらい、大泣きした。
イクスは少しの間何か言ってたけど、言い終わったあとに優しく抱きしめてくれた。
すごくあったかくて、嬉しいんだか会えなくて寂しかったんだか、もうわからない。
「……すごく、さみ、しかっ、た!も、もうあえな、いんじゃない、か、って、こわ、こわかった……!」
「………ごめんな、独りぼっちにさせて」
嗚咽と一緒に呟くと、イクスは耳元で囁いてからそっとあたしの頭を撫でた。
その手も、あったかくて余計に涙が零れた。
「あ、あえてよかっ、よかった……!ほんとう、に、あえ、ってよかっ、た……!」
「……俺もだ。……見つけられてよかった」
あたしが泣き止むまで、イクスはずっと抱きしめて、頭を撫でてくれていた。
―――――――――――――――――
「……そろそろ帰るか?」
泣き止んで落ち着いた後ベンチに座り、しばらくしてからイクスはそう言った。
確かに、結構長い時間いたと思う。
きっと外ではもう夜かもしれない。
「そうだね。……出口、どっちだっけ」
「んー……確か向こうだな」
「……わかった」
「あ。……ちょ、ちょっと待ってくれ」
ベンチから立ち上がって歩こうとすると、同じく立ち上がったイクスに止められた。
それで、右手を差し出される。
「? どうしたんだ?」
「い、いやほら、出口に行くまでにまた市場を通らないといけないんだ。
だからさ……、手、つないだほうがいいかと思って」
「あ……。……じゃあ、つないでいいかな。……もう、はぐれたくないから」
本当に、はぐれて寂しい思いはしたくない。
……それと、それだけじゃなくてもイクスと手をつなぎたいと思った。
だから、あたしはイクスが差し出した手を握った。
「そ、そうか。……じゃ、い、行くぞ」
イクスはどこか遠くを見てから、あたしの手を引いて歩き出した。
「なぁ、イクス。なんか顔赤くないか?」
「き、気のせいだ。気にするな」
「……?」
気になったことを聞くと、イクスは気にするなと言って違う方向を向いた。
……気にしない方がいいのかな。
「………、イクス」
「ん、なんだ?」
イクスに手を引かれて歩きながら、あたしは言った。
「また、今度でいいから、一緒にここに来よう?」
「! あ、あぁもちろん。キミが、そう望むのなら」
「……ありがとう」
嬉しくて泣きそうになったけど、頑張って笑って手を握ったら、イクスは微笑んで手を握り返してくれた。
……また、いつかここに来れますように。
そして、イクスとずっと一緒に、いられますように。
―――少女と青年のRomanは、まだ始まったばかり―――
・おまけ
「……ねー撮れた?」
「おぉ、それこそバッチリ。そっちは?」
「一応。公園の部分は時戻しで取り直した」
「あの2人がカップルだったとはな……、というかイクスがなぁ……」
物陰にて、口々に言葉を交わす奴等が4人。
上から順に、『ロコナ』、『イクシオン・ライトニング』、『クロル』、『レオン』
「しかし、ライトに聞くまで知らなかったぞ。あの2人がカップルだったとは」
「つい最近だからねー。異世界なら知らなくて当然だよ」
「そうそう。 ……そういや、いつかの時戻しで撮ったおいしい写真あるぞ?」
「俺もあるぞ、告ったときのやつ。レオン見るか?」
「ガチで!?」
……この会話では分かりにくいので、はっきり言おう。
彼らは、クローディアとルライトのあとをついてきたのだ。
最初から最後まで。ちなみにこれはわかると思うが、かなりの量を盗撮している。
他の国や世界では犯罪になります。
途中でレオンとイクシオンが乱入したのは、クローディアが言っていた通り『リア充爆ぜろ!』という意味も込めてのからかうため。
加えて、陰で待機していたロコナとクロルがそのときの写真を撮るためでもある。
「……残念だったな」
「何が?」
「最後、手つないでただろアイツら。でも恋人つなぎじゃなかったんだよ」
「……あ、確かにそうだな。惜しい。時戻しでもさすがにできないしな」
「でも手をつないでて、ルライトものすごい嬉しそうだったよ? あーもう!リア充爆ぜろ!」
「同感だ。俺も今日来たばっかだけど思った」
「この写真すごいな、他のもあるのか」
「もちろん、写真班の協力も得て」
「いつから俺は写真班になった!?それはレルトだろ!」
「同じだと思うよ~」
「はははっ、外の世界には変わったやつが多いな。……ところで、この写真たちはどうするんだ?」
「ボクは寮の人に見せようかなーって思ってるけど。イクシオンとクロルは?」
「別に。いるヤツがいれば渡すだけにしとく」
「俺はアイツを脅すときにでも使おうと思う。こういうの他にねーし」
「怖いぞイクシオン」
……こんな会話が、あったりなかったり。
2人の恋は、まだまだ前途多難のようです。
・あとがき
てなわけで、ナマコさんの誕生日に隙間部屋で贈った小説をこっちに乗せてみた。
内容的にはとある場所でカップルになったルライトとクローディアさんのデート話。
舞台もお借りしました。
やりたい放題感が半端なかったけど、ご本人には喜んでいただけました。
書いてて思ったことを一つだけ。
リア充爆ぜろ!(