学校に来たとき、キミはいなかった。
まわりの同級生に聞いても、「知らない」とよく似た言葉を返されるばかり。
どうしたんだろう。
いつも突拍子もないことをするけど、学校を休むなんてことはしないのに。
空くことがなかった空席を見ていると、
「……やっぱ、アイツ頭おかしいもんな」
不意に声が聞こえて、振り返った。
喋っていたのは、同級生の男子数名。
距離が近いせいで、声はイヤでもあたしに届いて鳴り響く。
「ついに学校来なくなったなー。ま、どうでもいいけどさ」
「アイツがいてもいなくても変わらねぇもんな。……つか、何やってんのか気にならね?」
「あれだろ廚二病だから、『俺は世界を支配するんだ!』とか言ってどっか旅出たんだろ」
「あー、あー、あー、あー。一理あんなそれ!つか、いなくていいけどなっ!」
「……あの人のことを、そんな風に言うな!!」
気づいたときには、立ち上がって、話していた男子の一人を思いっきりビンタしていた。
あたしがビンタした男子とその取り巻き、教室にいた女子どもが、こっちを見ていた。
とても気持ち悪い目で、不快な声で何か紡ぎだす。
耐えられない、こらえられない。
あの人もこんな目で見られているなら、余計に。
探したい。
いなくなったキミを。
意志を持ったあたしを止める理由なんて、どこにも無かった。
教科書が入ったままのカバンを取って、うるさい大人たちの声を置き去りにして外へ飛び出した。
――――――――――――――――
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
いない。いつもの公園、空き地。
あの人の姿はなかった。
家にも行ったけど、誰もいなかった。
そこであたしは、答えを出す。
「家出したんだ……」
いなくなったあの人を探して、親の人も探しに行ったから誰もいないんだ。
探さないと。
ため息をついて、今度は街の駅に走り出す。
「……うわっ!」
駅まで残り数分、というところで小石に躓いて我ながら見事に転んだ。
制服のスカートのままだったので、むき出しの膝を擦りむく。
少しだけど、ものすごく痛い。
こんなとき、あの人ならなんて心配してくれるだろう?
自然に考えて、首を振る。
だっていないんだ。心配できないじゃんか。
嫌いになってしまいそうだった。
……でも、あきらめたくない。それに、勝手にいなくなるなんて赦せない。
絶対に探し出してやる!
――――――――――――――――
立ち直ってから、疲れたので歩いて駅に来た。
電車に乗って行ってないか心配になったけど、ずっと前から動いていないらしい。
明日からまた運行するんだとか。
それでいいと思った。
電車に乗って行ってしまったら、本当に追いかけられなくなる。
高架橋の下。
少し薄暗くてキミが好きそうだけど、いなかった。
壁に描かれたラクガキは、いくつもいくつも重ねられて見続けるだけで最悪の気分になる。
駅の周辺にいないということは、少し先の、ビルの多い電波の街に行ったのかもしれない。
「俺、いつかヒマなときにでも、電波の街に行きたいんだ」
ふと、あの人の言葉を思い出す。少し笑いながら言っていた。
次は電波の街に行こう。
もし見つけたら、ぎゅっと手を握って抱きしめて、「心配したんだよ、バカ」って。
言って、涙ぐむかもしれないけど。
――――――――――――――――
一時間くらいかけて、電波の街についた。
そのままキミを探して歩いたけど、『やっぱり』いない。
なのに、知らない人は溢れかえるくらいいて、自分が迷子のように思えた。
あたしがこの街に来たことが一度もないから、本当に思う。
……急に視界が滲んだ。立って、歩いて、息をするのが辛い。
近くの細い路地に入って、ビルの壁に背を預ける。
頬を何かが伝って、触ったら、涙がついていた。
そこで初めて、あたしが泣いていたコトに気が付いた。
理解した途端、堰を切ったようにあたしは泣いた。
見つかんない。
見つかんないよ。
寂しい。
辛い。
同じような言葉を何度も繰り返す。
『……ほら、ハンカチ貸すから泣くな。似合わないぞ?』
いつかの思い出。
確か、独りぼっちで公園で泣いていたときに言われたんだ。
『そろそろ暗くなる。……立てるか?』
泣き止んだあたしの手を、キミは掴んで引いてくれた。
キミの手は、とても温かくて。懐かしくて。
「……早く、会いたいよ。どこにいるの?」
誰の目にも留まらない場所で、あたしは泣き続けた。
――――――――――――――――
やっと涙が止まったときには、もう日が落ちていた。
街の白い街灯に照らされても、地面に伸びる影は、あたし独り。
キミがいなかった日。
……そんな日なんて忘れたい。
うん、忘れました。
だから帰ろう?
きっと明日にはキミがいて、いつも通りの日なんだ。
……あれ?何かおかしいのかな?
……きっと、何かがおかしい。
でも、思い出したくない。
大切なコトなのかもしれないけど、思い出しちゃいけない気がするんだ。
(街は過保護なくらい、彼女の願いに忠実だった)
(それが幸せをもたらすかは、わからなかったけれど)
――――――――――――――――
家に帰りながら、キミがいないか探す。
ビルの間をくるくる廻ったりして、迷子になりながら探す。
一度忘れてしまった、大切な記憶も探す。
けれど、見つかったのは一番最後だけ。
家の近くの踏切で、あたしは全て『思い出す』
本当は、もうキミは……
あたしは認めたくなかったんだ。
だから、探しても探してもいないキミを探して、あたしは迷子になりました。
「……イヤだよ」
あたし置いていくなんて、そんなのイヤだよ。
……だから。
「キミのもとへ、いきたい」
キミを最期に見た場所に、もう一度立った。
きっと、もうここには戻ってこれないのかもしれないけど、これでいいんだ。
キミを探して、『迷世』っていう苗字の通り迷子になって、泣いて。
そんなの、カッコ悪い。
少しの振動に、チカチカ点滅する二つの光に照らされる。
ポロッと零れた涙は、安堵だよね。
「キミのいない世界の方が、間違いだから」
やっとここにこれた。
キミも絶対見つかる。
絶対、―――に会える。
……これで、ハッピーエン――
―――不幸ヲ、サヨナラ―――