「苦しいよ、苦しくてどうしようもない」
少女が言う。
それでもその声は届かず、サーカスの歓声に溶ける。

戦場というサーカスの、断末魔の中に。





story of wishes and collapse ~願いと崩壊の物語~

第6話 『灰の瞳』




『絶対機密事項(レッドコード)』

 ルナヴィアース国家軍に属する兵士なら、一度は聞く単語。
『暴こうとした場合、有無を言わずに抹殺』とされ、それについて語るのは禁忌(タブー)とされている。
 何しろ、実際に『絶対機密事項(レッドコード)』を暴こうとした者が軍から消えているのだ。それでも暴こうとする者はいない。
 入って間もない新人や、敗北を知らない思い上がり以外は。


「レッド、コード……」


目の前の青年は、どうやら後者に当たるらしい。

『ジルト=アーバング』。
 これは、ルナヴィアース国家軍の一握りの特殊系部隊の入隊時に与えられる二つ名だ。
苗字の有無は本人か上部の意思による。
 二つ名を与えられる理由は、恐らく情報隠蔽と俺は見ている(何しろ興味がないから聞いたことがないのだ)。

 『ジルト=アーバング』の本名は『レクイ=コーラクト』。
齢は十四。幼い部類に入るが、クロワ(俺の同輩の女)が連れてきたことにより入隊。
長剣による剣術の才能があり、ついこの間、この『特殊攻撃部隊』に配属されたばかり。
つまり、新人に近い若人というわけだ。


「その通りだ、『レクイ』。だから止めておけ」
「……了解っすよ」


脅すためだけの気配を抑えてやると、レクイは肩を落とす。
緊張が解けたのか、暗黙の了解と受け取ったのか。
 特殊系部隊では、各個人の本名は上司や隊長しか知らない。一種の権力とも言える。
そのため、『本名で呼ばれた場合逆らわない』という暗黙の了解が存在するのだ。

 だが、コイツは切れ者らしい。今までの発言を聞けば。
 だったらもう少し、情報を与えてやってもいい。
要塞の中であの二人が暴れているせいか、最初と違い反撃がこないため暇だというのもあったが。


「……ジルト、『オーバープロジェクト』っていうのに心当たりはあるか?」
「……一応はあるっすよ。それっぽいのから、訳のわからないものまで」
「お前が言う子供、フラル=ホロウヴァードはそれに関わっている、とだけ言っておく」


案の定、レクイはそれきりで黙りこんで遠距離系銃火兵器(カベクズシ)の操作を再開する。
俺の言葉を吟味して自分らしい仮説を立てようとしているらしい。


『オーバープロジェクト』
 『絶対機密事項(レッドコード)』の中にある、と言われる軍事計画(プロジェクト)。
 但し、詳細は全くの不明。
『新たな魔導開発』や『新兵器開発』と言われるときもあれば、
『人の不死化』、『死体を新たな生物に換える』、『人工的な魔導精霊(マギフェアリー)開発』。
挙げ句の果てに『魔獣と人の合成物(キメラ)開発』と言われる。
 つまり、噂の域を出ないモノであり、数多くの仮説がある。


 俺は特攻部隊の上司だが、『オーバープロジェクト』について知っていることは多くない。正しくは殆ど知らない。
本当に上部の極僅かの人間達による軍事計画(プロジェクト)なのだ。
 先程、レクイに言った情報も半年前に知ったことだ。


だが、コレだけは言える。


『オーバープロジェクト』は一般部隊以外、つまり特殊系部隊―――特攻部隊も含まれる―――が対象だ、と。



 チリッ。
 不意に右肩が焼けるように痛む。
この不意な痛みは、数える程しか起こっていない。

 逆に数える程しか起こっていないが、この『兆候』は理解できる。



 ドォォォォオンッ!!!

 遠距離系銃火兵器(カベクズシ)の銃口が新たな火を吹く直前に響いた轟音と、
要塞の一部の壁が『内側』から崩れ去ったことにより、確信へ代わる。
レクイが隣で驚愕しているが、ほぼ無意識に俺は吐き出す。





「あの野郎、『暴走』しやがった……!」






――――――――――――――――――――――



 一言、子供のような単純さで言えば、すごい。
 単純さを無くせば、筆舌に尽くしがたい。
ぼとり、と俺の前に転がってきたのは人体の一部である腕。右か左はわからなかった。
何故ならすぐにもう一本と首が、自分の後ろの壁に血と臓物の臭いを撒き散らして、叩きつけられたからだ。


壁にぶち当たり、足元に跳ね返ってきた首についていた顔は苦痛と未練で歪んでいた。
 吐きそうになり、口を押さえる。
 自分も確かに、たくさんの兵士の身体をバラバラにして殺したし、これからも殺す。
だから、血や臓物が持つ特有の鉄臭さや生臭さ、断面から溢れるモノには耐性があるはずだ。
が、目の前の惨劇、いや殺戮は、その耐性を遥かに上回った。


 顔を縦に真っ二つに泣き別れした断面から、びちゃびちゃと音が鳴りそうな脳や神経が撒き散らされた死体。
全身がひしゃげ、肉と肋骨とズタズタにされた赤い赤い心臓が胸から覗く死体。
腹の中心から、ぼたぼたと胃袋やピンク色でぶよぶよした腸が溢れている死体。
 その他、さっきの隠密部隊(インビジブル)以上に生身の部分が多い、炭化した死体に、身体に大きな穴が空いた死体、身体の一部を潰された死体。
死体のグロテスクさも正直ある。
 だが、俺が本当に吐きそうな理由は。



「あははっ、誰もいなくなっちゃった」



 この殺戮を、俺より幼い、同じ部隊の少女が行っているという事実だ。


 『壊したくなった』
 数刻ほど前、隠し扉の先(武器倉庫)で言い、少女―――フラルが豹変。
一瞬、本当に刹那の瞬間。
 武器を持って飛び掛った二名の兵士の首から血飛沫が噴き、後ろの三名が炎柱に飲まれて消し炭と化した。
 その後、轟音。
 奥の扉が開いていて、フラルがいないことに気づいて進んだのが運の尽きだった。

 先は大きな廊下になっていたが、一部、いや片方の壁が廊下の端まで崩れ去り、
廊下は死体の山が積み上がっていた。
 死体の山を踏みつけ、血みどろになった頂点に立つフラルは笑ったのだ。


「さて、次に行きますか。あははっ、あはははははっ!」



フラルが軽やかに死体の山から飛び降りた先、次の部屋である『第五広間』が今の現在地だ。


俺は見ているしかできない。
入った途端、振り回される剣の軌跡に巻き込まれるのは分かりきっていたし、なによりも。



左の瞳だけ。


左の瞳だけ黒から灰色に変化したその両目に見られるのが、恐怖以外の何物でもなかったから。






さぁさぁ、どの世界にも夏がきた。

夏の定番と言えば?
それはもちろん、祭りでしょう。



夜闇に映える、光に照される会場。


彼らも、夏に駆り出されるようでして。






異次元三滅亭物語

出張品 露店にて




「……何故こうなった」
「あぁ、それは私も思う」


今回の舞台は、時空の狭間ではなくどこかの世界の神社付近。
そこで開かれる祭り会場にて、呟く影が2つ。

片方はしっかりした執事服の青年。
片方は着物をモチーフにした和風のゴスロリを着た青年。

執事服の人物の名は『デウス』、和風のゴスロリの人物の名は『カプリチオ』と言います。


彼らは、その気になれば世界を壊せる、というとんでもない能力を持っています。
というか、今も世界を壊し狂わせるために暗躍中。
そのため、今いない一名と共に『三滅帝』とも呼ばれます。


何故そんな彼らが、祭り会場にいるのか。


理由は1つ。
夏の祭りに便乗して、『三滅亭』の売り上げを伸ばすため。
なのですが……。


「レルのやつ、露店開いたところで何を売るつもりなんだ?」
「俺は何も聞いていない。あぁ、金魚すくいで使う容器をだして水を入れておけとは言われたが」
「じゃあ金魚かヨーヨーなのか?」
「さぁ……」


赤い文字で『三滅露店』とかかれた露店で、彼らは様々な想像を巡らせます。
鉄板モノの金魚すくいか、ヨーヨーすくいか。
はたまた別のモノでもすくうのか。

けれど、それらの想像は一気に砕かれました。


「……おいデウス、塩はどうした塩は」


空間が捲れるように歪み、そこから現れたセーラー服の人物によって。
現れたのは、この三滅帝の紅一点である『レルヴァニカ』。
顔には左半分を隠すように白磁のお面を引っかけ、手には彼女の『本体』ともいえる黒い本をもっています。


「し、塩?お前が言ったのは水のことだけだったと思うぞ?」
「ふむ、そうだったか?」
「いやそうだっただろう!?」
「というかちょっと待て、何で塩なんだレル」


疑問で一杯のデウスと、あくまで淡々と会話を続けるレルヴァニカにカプリチオは突っ込みます。
それは、状況が把握出来ないデウスにも読者にもありがたい突っ込みでした。


「決まっているだろう、使うからだ」
「だから何に使うんだって」


カプリチオとデウスと読者の疑問に、レルヴァニカは笑って、行動と共に答えました。


「……コレだが?」


律儀なデウスが用意した、水が入った大きな容器の真上で本を開きページを水面に向けると。


どさどさっ。


「「……え゛っ?」」


本から零れるように大量に何かが落ちて、水面を叩きました。
落ちてきたモノは球体で、緑と黒色をしており、夏の風物とも言われる……



「スイカだ」



フフン、とどこかの寮で感染しているらしいそれを言い、レルヴァニカは得意気に笑いました。
腰には片手を当てています。


「………」
「スイカか、斬新だな」


その大量のスイカとレルヴァニカの発言に対して、
デウスは固まり、カプリチオは楽しそうに呟きます。


「……何故そんな反応をする。特にデウス」
「当たり前だろ!?祭りと言えば普通金魚すくいとかわたあめとかじゃないのか!?」
「そんな鉄板モノをやったら売れないだろうが。こういう変わったモノに人間は群がる」
「あぁー確かにな。賛成だ、面白そうだし」
「お前らマジかよ……。あぁ分かったよスイカでいい」


露店でスイカを売る気満々の彼らを見て、デウスは直感します。


駄目だこいつら話が通じない。



「で、どうやって売るつもりだ?」
「ブロック状と8分の1に切ったモノを売ろう思っている」
「御意。……そういえばお前さん、スイカは何処で仕入れたんだ?」
「ノア=クリエイティスの屋敷の庭だ」
「ちょ、レルヴァニカ。屋敷の庭って、それは立派な犯罪じゃ……」
「我々に犯罪は通用しない」


やっと会話に復帰したデウスの問いは、あまりにもあっけらかんとした答えで返されました。


あれ、レルヴァニカってこんなキャラだったか?
と、デウスは密かに思ったとか。





――――――――――――――――――――――


あれから数十分後。


「意外と繁盛するものだな、スイカ売り」
「我が選んだからな」
「……なぁ、接客変わってくれよ」
「却下」
「即答!?」


意外にも三滅露店はそれなりに繁盛していました。
やはり、祭りの会場でまさかのスイカという組み合わせがおいしいのでしょうか。
ちなみに作者の住んでいる地域の祭りでは、きゅうりの浅漬けがあるらしいです。
しかも人気。どういうことなのでしょう。

いまの状況を補足しておくと、レルヴァニカとデウスがスイカ切り、カプリチオが接客に回っています。


「私だってスイカは切れるぞ。何故却下なんだ」
「貴様が一番接客に適しているからだディアーノ、諦めろ」
「え、えぇー………」
「ドンマイだな」


いい加減に接客をするのが嫌になったカプリチオですが、代わってくれと言ってもすぐに却下されます。
どんまいですね、デウスが言った通り。

と、そんな時。


「スイカあったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


通りを彷徨っていた一人の白髪の青年が叫び、いや叫んで発狂しながら露店に転がり込んできました。


「客か」
「客だな」
「何でそんな冷静なんだお前ら!!」


あっさりと、その白髪の青年を『客』とみなしたレルヴァニカとカプリチオにデウスが突っ込みました。
本日2度目です。

が、


「「金が取れれば問題ない」」
「此処に常識人はいないのか!?」


綺麗にそろった無慈悲な言の葉に屈し、デウスは悲痛に叫びました。
その叫びのせいでどこかの世界の負が強まったらしいのですが、それはまた別の話。


「スイカ一玉売ってくれぇ!!じゃないと私の頭割りが始まってしまう!!」


と、転がり込んでそのまま放置された青年は必死の形相で土下座しました。
あれ、それだと表情が見えませんね。


「一玉だと?」


青年の一言に眉をひそめるレルヴァニカ。
露店の入り口には大きく『ブロック切り:350円 8分の1:400円』と書いてあるからです。
ハッキリ遠まわしに言うと、一玉では売っていないということですね。


「そうだ!ゴロゴロそこに浮いてるだろ!?いくらでも払うから!!!」
「何……だと……?」


青年の魂の叫びに、驚愕するデウスが一名。
まぁ二名いたら怖いですね。

何故デウスが驚愕したか。
それは至って単純なモノでした。


「ほぉ……、『いくらでも』?」
「くくく……言ったな?炒ったなお前さん?」


この―――片方は通常運転、片方は祭りに酔っている―――二名の笑みによって。
さりげなくミステイさんが仕事をしていましたが、気付く者は誰もいないのでした。


「ディアーノ、ちょっとこい」
「あぁ、勿論だ」


不気味な笑みを浮かべた2名は隅の方に撤退し、ブツブツと何かを話し合い始めました。
怖いです、気配が。
肝試しに混じって出てきそうな本物の幽霊でさえビビりそうな勢いです。


「……あれっ?」
「終わったな、お前」
「それは何となく予測できる。だが……私の頭を割られるよりマシだ」
「……不遇だな。ところで名は?」
「ブ、ブロウ。……今更だが、何で露店でスイカ売ってるんだ?」
「あそこで不気味な気配を醸し出している中の、セーラー服のヤツの提案にゴスロリが乗った」
「はっ?えーっと……つまり?」
「……」


分かりやすく説明したはずなのに、質問をぶつける目の前のブロウを、デウスは呆れと哀れみの眼で見ました。
そこへ、あの問題である2名が戻ってきました。
笑みを浮かべて。


「そこの小僧、スイカを一玉売ってやる。ただし、値段は次の内のどちらか選べ」
「マジすか!?」


この会話に「ん?」と首を傾げたデウスが1名。
2名いたら怖いですけどね。
大切なことなので2回繰り返しました。

そして、レルヴァニカはカプリチオに発言を譲り、譲られた彼は言いました。


「代金、お前さんの『魔力全部』と『財布の中身全部』のどっちがいい?」
「後者でお願いいたします!」


笑顔で言うカプリチオにブロウは即答しました。
魔力なんて取られたら、最後の可能性へつなげなくなる。
そんなことを瞬時に考え、この決断にいたったのでした。
気配が怖いから、みたいな本能ではないと思います。

多分、きっと。




と、そんな中。



「見てイクス、スイカ売ってる!」
「えっ?……えぇっ!?」
「本当だ、マジで売ってるッス!」
「不思議ですね……、露店にスイカなんて」
「ん……? ちょっと待て、アレ阿呆じゃないッスか?」
「……本当だな。何やってんだか」
「あほーって、海月?」
「いやそうじゃない、マジモンの阿呆だ。……害がないうちに逃げるか」
「触らぬ神に祟りなし、ですね」


そんなリア充(×2)が遠目に見ていたとかいないとか。







・あとがき

やっと書き終ったよ!これから後半戦へ逝きます(
某隙間部屋で募集した方々は、後半戦で登場してもらうのでお楽しみに!



※鬱注意





「水面に眠る月に憧れて、凍える手で、掬い上げる様な
 きっとどこにも行き着けはしない、そんな恋をしていたのだろう

 時の歯車が終幕を告げ、逃れついた、この夢の中で
 涙をなぞり指で書く文字は、あなたへと届けたサヨナラ」


森の中、響く歌声が1つ。


「救いなんて、きっとない。この想いは沈みゆく
 闇の先、照らすため。思い出に火を放ちましょう

 okiya va nydei rha no dath tull is rha
 cenu diera zarita sati issla sati rha

 okiya va nydei rha no dath tull is rha
 cenu diera zarita sati issla sati rha」


その歌声は、夜の闇にとてもよく溶け込んでいた。


「……何をしてるんだ?」
「………歌って、いるだけ」


またそれか。
吸血鬼は夜の中、人知れずため息をついた。


人間が活動するにはあまりにも遅い時間、ある少女が屋敷を抜け出したのがつい先程。
偶然、玄関側の部屋で読書に興じていた吸血鬼が気付くのに時間はかからなかった。
なにしろ、少女が抜け出すのは一度や二度ではないからだ。


「時間が遅いと思うがな。月もない」
「いいん、だ。月、はあまり好きじゃ、ない」


途切れ途切れ、少女は言う。
彼女が言う通り今宵は新月。
この森を照らすのは、あまりにも心細く儚い星灯り。
少女が座るのは大地より高く、夜空より遥かに低い木の上。
吸血鬼が立つのは夜空より遥かに低すぎる大地の上。
ちらほらと照らす星灯りのみを頼る視界で、それは何かを表しているようでもあった。


「戻らないのか?」


そう、例えば。
心と―――



「……血が、全部絞り出、せたら、帰る」



狂気の距離のような。


ぽたぽた、ポタポタ。
ポロポロ、ぽろぽろ。


木の上から次々と滴る雫は、大地に触れた途端に弾けて滲む。
赤みを帯び、明らかに鉄の匂いを含むそれに吸血鬼は自然に顔をしかめる。
それとよく似た状況を、昼間の同じ場所で眺めたことがあるからだ。


「切ったのか」
「関係、ない。ほっといて」
「関係、ある。ほっといたところで妹はどうする」
「アウアは強い、から。あたし、なんていなくたって、いい」


はぁ。
この流れは一体何度目だ?

吸血鬼は思考する。
上から堕ちる液体は、推測しなくとも少女の血液だろう。

原因は少女の自傷癖。
俗にいうリストカットやらアームカットというヤツだ。

こうなった以上、いつもは実力行使をしている。
意地と生命維持、どちらが大事かと言われればもちろん後者だから。
だから今回も同じ手を取るつもりでいた。

軽く足に力を入れ、跳躍。
それだけで吸血鬼は、少女が座る木の枝に乗ることが出来た。


「帰るぞ、強制送還だ。悪く思うな」
「……いや。触ら、ないで」


けれども、いつもなら俯いて応じる少女は拒絶して吸血鬼を突き飛ばす。
突き飛ばされた吸血鬼は、重力に従い大地に叩きつけられるように見えた。
が、そんなことは起こらず、吸血鬼は足元に展開した魔方陣に飛び乗る。
それだけで、吸血鬼は重力に逆らって空中に立った。


「拒否するなんて珍しいな」
「………、だ」
「は?」


「大嫌い、だ」


少女の唇から零れたのは、呪詛になりえる単純な単語だった。
しかし、吸血鬼は一度耳を疑う。
少女は今まで話さないことはあったが、拒否したり不満を言ったりする事がなかったからだ。


「何が、『大嫌い』なんだ?」
「……全部」


耳が狂っていないことを確認してから、吸血鬼が尋ねると、そんな返事が零れた。


「嫌いだよ、全部全部大っ嫌い。今座ってる木も、目の前で浮いてるお前も、アウアも嫌いだ。
 夜も、朝も、昼も、地面も、空も、太陽も、月も、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い大嫌い」


次いで、手首から流れる血液にも負けないくらいの言葉の洪水が起きる。
それはまるで呪いのよう。
吸血鬼に止める術など、在るはずもなかった。


「だって全部があたしよりも綺麗なんだ、血まみれのあたしと違って綺麗な色なんだ、どこも汚れてないんだ。
 だから羨ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましいたまに憎く思うくらいに妬ましくて嫉妬する。
 嫉妬で狂うってきっとこのことを言うんだ、あぁ嫌いだ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、嫌い。
 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、きらい、だ。……でも、でも」


言葉の洪水が一瞬、止まる。
そしてその呪いは、


「そうやって、まわりの人もモノも恩人も、妹も嫌いだってまき散らす。
 自分が、あたしが、人殺しのあたしが一番、大っ嫌いだ」


紡いだ少女自身に、刃となって還ってくる。



「だから、あたしなんて死んでし、」

「……違うな」


今まで沈黙していた吸血鬼は、最期の呪詛を紡がんとする少女の言葉を遮った。


「違くない。あたしなんて大嫌いだからなくなればいい」
「強がるな。それにほとんど嘘だろう?」



本当に大嫌いなら、泣く必要なんてない。



吸血鬼に言われ、少女は気付く。
何時の間にか自分の頬に涙が伝っていたことに。


「ち、ちが……、うっく、あぅ……」


それでも否定を紡ごうとするが、嗚咽のせいでままならない。
だからこそ、吸血鬼は静かに頭を撫でた。


「嫌い、っていうのは誰にだってある。むしろ、ない方がおかしい」
「で、でも……」
「何かを嫌うことに嫌悪して、自分を嫌いになるな。空っぽになってしまう。

それに、そんな程度じゃお前を嫌いになる人間などいないよ」


少女は沈黙した。
正しくは驚きのあまり硬直した。
でも、1つだけ単語を呟くことは出来た。


「……ありがとう」
「気にするな。今度こそ帰るぞ、血も止まりかかっているしな」
「……うん」








・あとがき
どうして鬱になった(
作業BGMは、うみねこの『どっきゅん☆ハート』だったんだけどな。あっれー?
とりあえずるーちゃんとノスフェラの話。出会って二週間くらい。
自傷癖は健在だな、うん。
というか病んでる。大丈夫かなぁ……



ドウシテ、声ガ出ナイノダロウ?
ドウシテ、涙ガ流レルノダロウ?
ドウシテ、血ガ広ガルノダロウ?

どうして、罪を重ねてしまうのだろう?


―――神呪いの嘆きの歌





story of wishes and collapse ~願いと崩壊の物語~

第5話 『城落とし』


作戦どおり遠距離系重火兵器(カベクズシ)が起動された爆音を聞き、要塞の隠し扉へ駆ける。
扉は弾丸に耐えられる程度の厚さの鋼鉄。熱に耐えられるかは知らないけれど。

「よし、フラルええか?」
「貴方には言われたくないです、ねっ!!」

わたしの武器である、全体的に灰色をした両手剣―――虚ろいのレウニカ―――を構え、
蹴り破って侵入。


「なっ!?し、侵入―――」
「『遅い(ヴェルアード)』」


隠し扉の番人をしていたのだろう、わたしたちの存在を知らせようとしたシルフルーの兵士。
それを出会い頭に焼き殺す。


「意外とえげつないなぁ。幼いのに」
「そうでも無ければ、殺されます」
「確かになぁー」

言い合う間に、扉を蹴り破った際の音に不信感を抱いた兵士が沸いて出てくる。
思ったより、早い。


「『魔を呼び込む月(ルナヴィアース)』のヤツか!?
ッチ、外の隠密部隊(インビジブル)は何をしてるんだ!!」
「誰か、CとE区域から応援寄越すように連絡をっ」
「ハイッ!」
「おーっと、それはさせへんで?」


指示を拾い、背を向け走り去ろうとした者へ、ヘイズは魔斬糸(ワイヤー)を無慈悲に振るう。
殺気に気付き横っ飛びに避けたのはさすがだが、得物は糸。


「ほいっ、とな」
「ぎ、ぎゃあぁあああぁおおぉおお!?」


指の動き1つで軌道を変え、横っ飛びに飛んで転がった兵士の足を切り落とす。
勿論、両足の膝下から。
断面からは勢いよく赤色が飛沫(しぶ)き、激痛ともう立てないことをコチラに伝える。
シルフルー軍がよく取る戦法―――戦術とも言う―――は、集団によるものばかり。
数が満たされれば厄介だが、欠けていればそれほどの力はない。
だからこそ先に足を奪ったのだろう、ヘイズは。
此処にはまだ6人しか来ていない。
シルフルーの集団戦術は、最少のものでも7人必要で、現在戦闘が出来るのは5人。
1人は今、足を落とされている。

周囲にわたしたちの存在を知られるのは時間の問題。
だが、今此処にいる5人を殺すのには申し分ない時間だ。


「チッ……!かかれ!!」


増援を望むのは無理だと分かったのだろう。
1人の指示の元、残った者が得物を構える。
ある者はサーベル、ある者は杖、ある者は弓。


パキリ。

わたしの中で『また』、何かがひび割れる。
肩に、鎖骨に、他人の指が強く食い込んでいる感覚がする。
それで血管を圧迫されて、くらり、と目眩が襲った気がする。


「……あははっ。……ヘイズ、ここはわたしが殺ります」
「ほえっ?ちょ……まじで?」


わたしの言動に、訝しげに眉を寄せられる。


「はい。貴方はそこで見ているだけでいいです」
「俺は構わへんけど……どしたん?」


此処に来る前と様子が違うように見えたのか、そう尋ねられる。
確かに来る前とは『違う』。
いや、『進んでしまっている』。


「ここまで手厚く歓迎を受けたので、お礼をしたいのと、」





タダ、壊シタクナリマシタ。






ゆらゆらと揺れる視界の中で。
シルフルーの兵士が2人、得物を手に飛び掛かってくる。
わたしの意識は、剣を握ったところで、飲まれる。








――――――――――――――――――――――

「ザキ先輩
「何だジルト、弾切れか?」

攻撃要塞『ニトロ』より1キロメートル離れた地点。
そこでは2人の男が、幾つかの遠距離系銃火兵器(カベクズシ)の背後に居座っていた。
その兵器は、一定間隔ごとに火を吹き要塞を削る。

さて、先にこの遠距離系銃火兵器(カベクズシ)の説明をしなければならない。
これは正式名称(遠距離系銃火兵器)の通り、遠距離への攻撃に適した大型の銃火器である。
現実で言えばロケット砲に近い型だが、銃口は小さく、
同じく弾も小さい(それでも大人の握り拳程度)。
また、使われる銃弾には、着弾時の衝撃で爆発するという特性があり、広範囲に被害を及ぼす。

そのため、ルナヴィアースでも屈指の威力を誇る兵器である。



「いや弾切れはしてないっすよ。ただ、聞きたい事があるんすよ」



遠距離系銃火兵器(カベクズシ)の背後にいる男の片方、ジルトは上司に問う。


「あのフラルっていう子供、何なんすか?」
「何って……、特攻部隊のメンバーだが?」
「いやそうじゃないっす」



どうして子供が、この作戦に駆り出された?



標準語と敬語を入り混ぜた普段の言葉をかなぐり捨てた、『素』の言葉と表情でさらに続ける。


「彼女が手に負えないほど強いのなら納得がいく。だが、そうには見えなかった。
むしろ先に突っ走って死ぬタイプの感じがした」
「……」
「しかも子供。俺より若いヤツなんて今まで見たことがない上、女。
得物は不釣り合いな両手剣と来た。
魔力も多く見積もって、常人より少し多いくらい」
「………」
「理解出来ないんだよ、全部。
 この大規模な作戦に魔獣部隊とかじゃなくて、俺たち特攻部隊の4人しか駆り出されないのか。
 その4人の中に子供が混ざっているのか。ただでさえ少ない人数を半分に割って行動するのか。
 要塞を崩すのにカベクズシしか使わないのか。何で―――」
「…………『レクイ』」


一方的に避難に近い疑問を聞き続けたもう片方の男、ザキことライカルがそれを遮る。



「死にたいのか、お前」



来る前に見せたあの殺気を遥かに上回る、ドス黒い気配を滲ませ懐から取り出した銃を向け。
ジルト、いや『レクイ』は遠距離系銃火兵器(カベクズシ)を操作する手を止め、硬直する。
その気配は、彼が今まで出会った人間の殺意を、凌駕していた。


「……!?」
「レクイ、知らないようだから教えてやる」
「な、にを……?」


表情をひきつらせた青年に、男は言う。
言い聞かせるように、有無を言わせないように。




「コレは『絶対機密事項(レッドコード)』に触れるんだよ」
小説と思わせて、まさかの設定というタイトル罠(笑)






○闇の剣、ダージュドゥリア

現状に変化をもたらす効果を持つ。その能力は破壊
破壊により今の状況を変化させる。それ以外に意味などない。
その剣は全てを破壊する為だけに存在する。
形あるものも、無いものも、全てをその剣は破壊するだろう。現状に変化をもたらすのならば。
剣に認められた場合は、いつでも呼び寄せることが出来きる。召喚的な感覚で。
ただし、刃を振いしとき、その瞳の光は失われる。
意志の光と言えど、よほど強くない限り屈するほどの呪いの闇をこの剣は宿している。
例えるならば、恋人を引き裂いた世界への呪いというべきか。


闇に近い、暗い紫色の刀身に銀と黒の装飾が施された鍔と持ち手の両手剣。



なりチャにて、魔竜との試練を越えルライトが所有者として認められ、彼女の専用武器となる。
が、どういう訳かルライトの気力と魔力を少しづつ喰らってる。
呪いの剣のためか、彼女が宿す『神呪い(聖なる光)』と『呪印(陽無下月光祝福の証)』に共鳴してしまったようだ。


『神呪い』はその身に抱くために無意識に気力を潰す。
『呪印』は制御するために意識的に魔力を潰す。
剣はコレに共鳴し、その負荷を倍に跳ね上げて喰らっている。


解決法はいまだに不明。下手をすると心まで喰らう危険がある。というか少し喰ってる。
ここまで凶悪化したのはやはり、ルライトがもとから宿す呪いの所為だろう。
心も少し喰ってしまったがために、彼女の心内環境が自分で制御不能に。
もともと異常だが、それよりも複雑かつ不安定になってしまった。
剣を持っていればそれほど変化は目立たない。逆に持ってないと顕著に現れる。



挙げ句の果てに、彼女の心が宿す過去の闇に反応して、闇に架空の身体を与えた。
どんだけ凶悪化すれば気が済むんだこの魔剣。


闇の名前は『ホロウヴァード』。
ルナヴィアースの古代語で『不幸の鳥』を意味する。
姿は短めの黒髪に黒と紫の軍服。白いマント。
顔には口が三日月状に裂け、不気味に笑う白磁の仮面を着けている。
今のルライトより背が低く、敬語で根暗。一人称は『わたし』。
ただひたすらに、ルライトに対して過去を突き付け、嫉妬をぶちまける。
思い通りにいかないと、自分の指を噛む癖がある。


この闇は、故郷殺し前のルライトの人格(過去)そのもの。
本人はその人格(過去)が大嫌いだから『殺した』つもりでいたが、そう簡単に殺せるはずかない。
今も人殺しや故郷殺しの罪に思い悩んで過去に囚われているのがいい証拠。
身体を手にいれたことで欲望を持ち、今の『ルライト(=人格)』を殺して成り代わろうとしている。

本人と同じく脆いのかと思えば、全然そんなことがない。
むしろ開き直るわ罪は自覚しないわ後悔しないわ自分の思うまま自分が中心、つまり自分勝手。
なので非常に厄介極まりない。


剣が闇に身体を与えた理由は、彼女をもっと強くするため。
何を考えて彼女を強くしようとするのかは不明。
恐らくは、強くなる代わりに溜まる呪いを食らうため。




剣を持つことで、いくつかの闇魔法を発動可能になる。
それは剣の闇を無自覚に自分の物にしてるため。


リネア(線):剣が触れた場所から、闇が混ざった炎が一直線に噴き出す
ノタ(目印):斬った場所の内部から、身体が闇に浸食される(一定時間後に解除。動きが鈍くなる
スピラル(螺旋):盾として使用するか鍔迫り合いのときに発動。足元から針のように硬質化した闇が突き刺す
サクル(円):剣が通った軌跡から弾丸と化した闇が放たれる。弾幕可能。



技とか現在状況は随時増えます。
とにかく、影姫と雪嘩さんに敬礼!(