「……はぁ」

ため息が漏れる。あたし何やってるんだろうなー、とも思う。


ノスフェラの屋敷で、あたしにあてがわれた部屋。
あたしの趣味で白色と黒色しかない部屋。
その中で、白でも黒でもないたくさんの色の本が並んでいる扉付きの本棚を見つめる。


本棚の一番上の段。
そこには、こっそりノスフェラの目を盗んで書庫から持ってきた本がずらりと並んでいる。

もっとも、書庫は書庫でも禁書庫の禁書。
禁書庫を見つけたのはついこの間。
たまたま開いていた場所に入ったら、以外にも面白い物語や魔導書がたくさんあった。

……まぁ、一回だけヤバイのを開きかけてひどい目にあったけど。


なにより一番嬉しかったのは、父さんの書庫にあった物語があったこと。
……なんで禁書なのかはわからない。
でも嬉しくて気付いたときには数冊、とは言えないぐらいの数の本を部屋に持ってきていた。



悪ノ召使


少女の空想庭園


歌姫の消失


転がり続ける少女


時の探検隊


神喰らいの話


愛に満ちた双子の冒険


少女と猫が見せたやさしい世界


引力を操る青年の物語


時忘れの街の忘れられない物語


大いなる王国の心


ひぐらしが鳴く村の奇跡


うみねこが鳴く島の幻想


二度目の年代記《Chronicle 2nd》


喪失の幻想《Lost》


屋根裏の幻想《Thanatos》


少年は剣を…


そして、あたしが手に持っている楽園の幻想《Elysion》




これらが全部禁書だということが驚きだ。面白いのに。
加えて、なぜか一部の本には最後のあたりに歌が書かれている。
……まぁ、歌が好きだから嬉しいけど。


何となくいくつかの本を抜き取って、歌の部分を眺める。
……ついでに、歌ってみる。


「あぁもう一回、もう一回 『私は今日も転がります』 と

 少女は言う、少女は言う。言葉に意味を重ねながら!

 「もういいかい?」 「まだですよ」 まだまだ先は見えないので

息を止めるの、今」


これは『転がり続ける少女』に書いてあった『ローリンガール』という歌。
次は『喪失の幻想』の『緋色の花』。


「唯守るべきモノの為「私」は戦う けれど大地に縛られた身体は動かない…

忘レモノ在リマセンカ…?

少女の囁きは森の魔性 我を穢す者には災いを 終わりなき呪われた輪廻を

忘レモノハ在リマセンカ…?

彼らの法則 大切なモノを守る為に大切なモノを奪い続けるという矛盾

ねぇ 本当に大切な物って何?

指針となるのは主観と謂う名の怪物《Monster》

嗚呼…また一輪… 兵隊が花を踏みつけて行く…


忘レモノハ在リマセンカ?」



次は『うみねこのなく島の幻想』の『幻耀の蝶』。



「光ゆれる蝶逹は また狂った

世界の扉 開けて誘う 嗚呼 愛も迷わせ

憂い残された言葉だけ ただ刻んで

交わした誓い 果てなき祈り 嗚呼 胸に眠らせて

光まとう蝶逹が 呼ぶ幻想

世界は壊れ 夜へと隠し 嗚呼 愛が見えない!

海に響くあの声たちを ねえ 返して!


儚き奇跡 幾憶の夢 嗚呼 乗せて舞い踊れ!!」



……あぁ、まただ。


歌い切った後、ベットに倒れこむ。
どうしても、歌いすぎると感情を込めて疲れきってしまう。
でも、解っていても感情を込めずにはいられない。


理由なんて、もう知っている。
だけど、解りたくない。






だから『あたし』は、『わたし』に嘘をつき続ける。





「……もう、眠ろうか」




何とか身体を動かして、出した本を本棚にしまう。
そしてノスフェラが開けられないように封印術を掛け、もう一度ベットに倒れこんで瞼を降ろす。


月明かりに照らされた本棚と彼女の頬に、数滴の雫が零れていることにも気付かずに。










―――少女が手を伸ばすのは、いつ?―――



・あとがき
なんとなく後日談……という名の、ルライトに歌を歌わせたかっただけ(←
しっかし、歌詞打つのめんどい。コピペすればよかった……;;


とある王国、そのとある場所にて。
短めに切られた黒髪に同色の瞳を持つ少女が、一人佇んでいた。


ここはどこなのだろうか。


あたりを見渡す。
レンガ、城壁、石畳、統一された町並み、人、人、人。
どうやら少し先に見える城の城下町の噴水が設置された広場のようだ。


いつ、どうやってここに来たのだろうか。


首をかしげる。頭に手をやる。
でも、その『何か』を思い出せない。
……いや、その他にも何か抜け落ちている気がする。

まわりの人はせわしなくあちらこちらへ売り物らしき果物を運んでいたり、
道行く人と談笑していたり、子供は噴水のまわりではしゃいでいたり、
老いた男の人が長椅子に座って休息を得ていたりと、さまざまだった。


とにかく、自分に関わる『何か』を思い出さなければ。


そう思って、ひたすらに頭を抱えていたときだった。



♪♪~♪♪~♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪~~



突然、どこからともなく笛の音が響きわたった。

一体誰が吹いているんだろう、と思ったとき異変が起こる。


突然、せわしなく動いていた人ごみから絶叫、悲鳴、怒声などが飛び交い、
この地に住んで居るであろう人々が一斉に、逃げるように去っていく。
この広場には私を含め、旅人やよそ者である人々だけが残る。
皆が皆、状況を理解できずにぽかん、としている。


そうしているうちにも笛の音はどんどん大きくなり、
同時に人……いや、十何人もの人々が大地を踏みしめる音が聞こえる。なんだろう?




「……楽園パレードへようこそ!」




広場に入って来たのは、肩に女の子を乗せ、仮面を被って笛を吹いている男。
それとさっきまで広場にいたのを超える人、人、人、人、人。
老若男女、服装顔立ちも異なる人々が広場に入り、通り過ぎて行く。

さまざまな人々の列……いや、パレードの中では
燃えるような紅い髪の女が踊り、男の肩に座った少女が笛に合わせて歌っている。


「おぉ友よ!罪も無き囚人達よ、我らはこの世界という鎖から解き放たれた」


男は、笛を片手に広場の噴水の近くで立ち止まる。
彼は笛を吹いていないはずなのに、笛の音は響き続ける。


なにか、心が惹かれるような感じがして思わず聞き入ってしまう。


「来る者は拒まないが、去る者は決して赦さない!

 黄昏の葬列…、楽園パレードへようこそ!」


大きく手を広げ、まるで演説のように、語りかけるように話す。
それもまた、笛の音と合わせて魅力的だった。

ふと周りをみると、まるで憑りつかれたかのように人がパレードへ加わりだす。
一体どこへ行くのだろうか。


……気のせいだろうか。
男がこちらを見て、にやりと口を歪めた気がする。

いや、気のせいじゃない。
そのまま仮面の男は肩に歌い続ける女の子を乗せて、あたしの前へやってくる。



「ごきげんよう、可哀相なお嬢さん」



話しかけられた瞬間、ぞくり、と背筋が震えた。
怖いとか、恐ろしいとか、そういう類じゃない。

なんというか、こう、



すごく魅力的に、そう、魅力的に感じた。




♪♪~♪♪~♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪~~




仮面の男はまた、目の前で笛を吹く。
そしてあたしは気付く。


この音色に、心を惹かれるんじゃない。

この音色が、あたしの心の隙間を埋めているのだと。


笛の音が、心の傷や空白を優しく埋めていく。
真っ暗な深海に一筋の光が射したような感覚。


心が満たされていく感覚に、ものすごく安心する。


あぁ、もうまわりのことなんて、自分のことなんてどうでもいい。
この笛の音を聞いていたい、ずっと、聴いていたい。



仮面の男は、少し微笑むとパレードの先頭へ歩いて行ってしまう。



どこへ行くの?
まってよ、行かないで。


もう少し、笛の音を聴いていたいよ。




彼女は気づかない。


その笛の音が彼女にとって、絶対に抗いがたい魔性の音だということに。




「ごきげんよう、罪も無き囚人達。

 ごきげんよう、幸薄き隣人達。

 ごきげんよう、可哀相なお嬢さん。

 来る者は拒まないが、去る者は決して赦さない。

 楽園パレードへようこそ!」



笛の音を追いかけてパレードに交じり、ちょうどあと一歩で広場を出るところだった。









「おいウマシカ!じゃなくて馬鹿ルライトッ!!」



――――――――――――――――――――――――



腕を後ろに引かれ、立ち止まる。

そこは眼下に荒れ狂う海が広がる断崖絶壁だった。


あれ、さっきまで城下町の広場だったのに。
思いながらぎょっとする。


あと一歩踏み出したら、あたしは海へ落ちていた?


「何やってるんだ馬鹿!一体何を考えている!?」


後ろから聞こえた怒鳴り声。
反射的に振り返ると、そこにはノスフェラがいた。

「……、ノスフェラ?」
「はぁ、やっと正気に戻ったか」
「……正気って、あたしさっきまで城下町に」

いたのに、と言いかけたが途中でノスフェラがあたしの手から何かをもぎ取る。


「ったく、なんでお前が禁書を持ってるんだよ」


もぎ取られたのは、古めかしい古書だった。
いつ読んでたんだっけ?


……あ、思い出した。

確か、さっきまでその本を読んでいて途中で意識がブラックアウトしたんだ。




「……って、ちょっと待って!それが禁書!?」



普通の場所に置いてあったのに!?
思わず出た素っ頓狂な声で叫ぶ。


「あぁ、コレは『楽園の幻想(Elysion)』という物語に入り込んでしまう禁書だ。
 ついでにこの前の『喪失の幻想(Lost』も同じ類の禁書だ」


一拍置いて。


「……ってちょっと待て!!私はちゃんと禁書庫に入れて置いたぞ!?」
「禁書庫って、あのこの前まで無かったテラス付きの場所の事?」




普通に開いてましたけど。




「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




あたしの発言を聞いて叫びながら慌てて屋敷に駆け戻っていくノスフェラ。
忘れてたのかよ。かなり前から開いてたから、ノスフェラが開けたのかと思ってた。



……あ、ノスフェラあたしからもぎ取った本が落ちてる。
なんとなく拾うと、ぱら……と潮風でページが開く。


そこには、こんなことが書いてあった。






喩えば箱舟を信じた少女…


喩えば歪んだ真珠の乙女…


喩えば収穫を誤った娘…


喩えば妹を犠牲にされた姉…


喩えば星屑に踊らされた女…



心に深い傷を負った者、心に深い闇を飼った者にとって、逆らえない魔性の音



誰も仮面の男ABYSSからは逃げられない…










波と風の音に混じって、あの魅力的な笛の音と仮面の男の声が聞こえた気がした。





―――仮初めの終焉、楽園パレードへようこそ!―――




・あとがき
ついにやってしまった。楽園パレードネタを。
楽園パレードが来たら、まず一番始めに加わるのはルライトの気がする。
いろいろ傷を負ったり、いろいろ闇を抱えていたりという意味で。

あと、アレスさんもなんか堕ちそう(←
つか、過去編でアレスさんは堕とします。うんほぼ確定です(←←



「『リフレク・バーストバージョン』!!」


ガラスが割れるような音を立てて、水が壁に当たって飛び散るように
彼女の目の前で、セイントバーストが四方八方に砕け散っていく。


それでも構わない、ちゃんと彼女に負けることが出来るなら。


……ヒュン。


短い風を切る音が鳴ると同時、一部が赤黒く染まったワンピースを身に纏った彼女が
あたしの目の前に現れる。






ザシュ………!!





そしてあたしは、彼女が持った2本の大剣に斬り裂かれた。


身体中から力が抜けて立っていられず、倒れこむ。
もう何も感じない、何も聞こえない。

喉の奥から湧き上がる液体を何とか吐き出す。苦しいから。



……なんと言うか、疲れた。




感情を持つことが、苦しみを抱くことが、記憶を持ち続けることが。

命じられた通り兵士を殺し、あたしを救おうとした友達を殺し、故郷をも殺し。

わかっているのに、誰かに手を差し伸べられるのに、手を差し伸べない。

苦しいよ、護りたい人の為に自分を苦しめなきゃいけないなんて。

覚えていなきゃいけない記憶を、無理やり消されて。

護りたい人は何も悪くないのに、あたし以上に苦しまなきゃいけなくて。





もう、疲れたよ。
もう、消えたいよ。

誰か、この罪人を消して。


あたしを、殺して。
















彼女が、あたしのすぐ傍に立った気配がする。




「            」




何か言ってる。あぁ聞き取れない。


彼女が持っていた、あたしの血で汚れた大剣を上から振り落とす。



あぁ、やっと死ねる。これで、あたしの物語は終わる。




「さよなら、『アウア=ロスト=メイローゼ』」




……でも、せめてこれだけは覚えていて。

『裏切り殺しのアレス《使者》』という残酷な名前ではなく、







本当の、キミの名前だけは




ザシュ。



















                   「わすれないで」


























―――狂った歯車、終わりはここに―――



・あとがき

バットエンドのフラルさんことルライト目線。
思考が破綻してるって?知るかそんなの(←

次回こそは続き書かないとな……


・神の13属性

かなり特殊な属性。詳細は不明。
神話によると『世界の全てに打ち勝ち、終焉をも乗り越える力を持つ』。
バルフェニティの13の人間にだけ生まれつきで宿り、
宿っている人間が死んだ場合はすぐに別の人物へ宿るらしい。

本当は古代の『13神』と呼ばれた神々が、
運命を覆そうとした際に13神の消滅と共に出来た絶対的な呪い。
この呪いを受けた者は13神の誰かを模した力を手に入れるが、
幸福の人生を歩み始めたとき(大体8~16歳頃)に、報われない運命に囚われる。

神話では、『最高神(一番位の高い神様)が滅びる』という予言を聞いた13神(最高神含め)が
それを阻止しようと、『運命の輪』(意思のある大樹)を亡ぼそうとしたが、
『運命の輪』が運命を歪め、怒りと共に13神を逆に消滅させたと言われている。

13属性は、いわば『歪むはずの無い運命が歪んだことによる歪(ひず)み』。





・聖なる光

ルライトが保持している神の13属性。
元は13神中第5位、『聖なる光による平和を誓う者・女神ホロウ』。
得る力は、膨大な光属性の魔力と魔法の才能。

神話によると『ホロウ』はあまりにも優しすぎる女神で、
たとえ大罪を犯した罪人や下位の神でも、全てに救いの手を差し伸べたという。
また、周囲の神々から利用されることもしばしば。
過去に自身が宿す『聖なる光』ですべての闇を消そうとしたが、
光と闇は表裏一体のために失敗したことがあると言われている。



・万能の力

アウアが保持している神の13属性。
元は13神中第3位、『万能の使者・女神ロスト』。
得る力は、バルフェニティに存在する全属性と全てにおける才能。

神話によると『ロスト』はあまり感情を表に出さない女神で、
それがたたり、第1位の最高神と第5位のホロウ以外の神とは関係がなかった。
第2位の神より最高神とつながっていたらしい。
過去に地上で争っていた一対の善神と邪神を、
最高神の命令で一瞬で沈めたと言われている。