トムとジョーダンとニックが、ギャツビーの車に乗る前に、ギャツビーはガソリンが足りなくなる心配をしていたことを、ニックは思い出し、ちょうどウィルソンの看板が見えてきた所だったので入れようと提案しました。トムは充分に持つと言って止まりたがらなかったのですが、ジョーダンがこの暑さの中、立ち往生するのはいやよと言ったことで、ウィルソンでガソリンを入れることにしました。
トムがガレージに車を止めて少したってから経営者のウイルソンが現れました。彼は虚ろな瞳hollow-eyedで車を見つめました。
「具合が悪いんです」と言いながら車にガソリンを入れました。彼の顔は太陽に照らされて緑色をしていました。
お金を払いながら、「どうしたんだ?」とトムが訪ねると、
先ほどのランチタイムに電話してきたのは、ウイルソン夫人ではなく、夫でした。お金に困り、どうしてもトムの車が欲しくて電話してきたのでした。トムが「この車(ギャツビーの車)ではどうか?」と尋ねると、この車は黄色くて立派だけれども、以前のクーペ(トムの車)のほうがお金になるといいました。
「なんでお金が必要なのか、そんなに急に。」とトムが尋ねると、西部に引っ越したくなったのだといいます。ウイルソンは最近になって、妻のマートルが自分の知らないところで浮気をしていることに気づいて精神的に参ってしまったのでした。しかし、相手がトムだとは気づいていません。
「あの車はお前に任せるよ。明日の午後、持ってこさせよう」
トムは、自分の妻が気づかないうちに浮気をしていたというウイルソンの気持ちが今となってはよくわかるのでした。
この場所は、T.Jエクルバーグ博士の巨大な瞳が書かれた看板が、いつも見つめているように建っていましたが、その時、ニックは自分たちを鋭く見つめる、別の視線に気づきました。
ガレージの2階の窓のカーテンがほんの少し開かれていて、そこからマートル・ウイルソンが車のほうを窺っていました。
そしてニックは気づいたのでした。嫉妬心に大きく見開かれたその瞳が捉えているものは、トムではなくジョーダンだと。マートルはジョーダンがトムの妻だと思い込んだのでした。
トムは車を走らせ、ガレージを遠ざかりながら、自分の妻と愛人が、1時間前までは安全で不可侵な存在だったのに、今まさに、自分から離れていくのを感じたのでした。