果樹が整然と生え揃う豊かな森を、二人の少女と一人の少年が下っていた。
相当な距離を歩いており、初めこそお互いのことをあれこれと詮索していたが、次第にその余裕もなくなった。
とは言え、話しかけていたのは主に髪の短い少女で、少年は二言三言返すだけ、髪の長い少女に至っては頷いたり首を横に振ったりするだけで、自分の名前以外は全く言葉を発しなかった。
会話がなくなってからも、「暑い…」「遠い…」などと愚痴をこぼすのは髪の短い少女だけだった。
無口な少年にも限界がきて、歩みを緩めることなく突き進む少女に勇気を出して休憩を提案しようとしたその時、木々により遮られていた光が突如として三人に降り注いだ。
「着いたー!」
突き抜けるような高音で喜びを露にした少女は、あとの二人を置いて一気に駆け出した。
その先には少年たちの背丈の三倍はある高い塀が左右に果てしなくのびており、その表面は滑らかで、足や手をかける場所などどこにもなさそうだった。
どうやってこれを越えてきたんだろう…少年が当然の疑問を感じて少女を目で追うと、少女の駆ける先に、一部壁が崩れ落ちているところを見つけた。少年は、後ろからもう一人の少女が着いてきているか何度か確かめながら、近づいてよく見てみた。
穴の周りは劣化している様子がなく、壁は崩れ落ちたというよりは、何者かによって打ち砕かれたと考えるのが自然だった。そして、今まさに穴をまたいで向こう側に行こうとしているこの少女こそ、壁に穴を開けた張本人だろうと少年は思った。
塀の向こう側は見渡す限り何もない平原で、少年はあの朝の景色を思い出した。と同時に、世界はどこもかしこもこんな状態なのかもしれないと悲観した。
一方で、少し前をゆく少女の表情は明るく、この先に待っている世界への期待感に満ち溢れていた。
「もうちょっとだからね、リューイン、アオイ」
そして、疲労を感じさせない健康的な少女の笑顔は、リューインの悲観をも打ち砕いてくれた。
しばらく歩くと、こちらが小高くなっていたのだろう、思ったより早く目的地と思われる集落が見えてきた。
「ろくでもない村だと思ってたけど、命がけで帰ってくると、なんか優しくて泣けてくるわ」
少女が誰にともなく呟いた。リューインにとっては意外な言葉だった。少女の今までの落ち着きようから、日常的に今回のような危険な目にさらされていると思っていたからである。こんなたくましい少女にとっても、命がけの出来事だったのだ。リューインは改めて、背筋が凍るように感じた。
集落の目の前までくると、少女は一度立ち止まった。入り口のようなものはなく、平原から自然と村が始まるような雰囲気だった。少女が自分の家に向かって駆け出すと思っていたので、これも意外だった。
リューインが三角屋根の建物に目を奪われていると、少女が急に大きな声を出した。
「帰ったよ!」
無愛想だがよく通るその声に、建物の中から聞こえていた物音が一斉に止まり、数秒間沈黙が流れた。と、今度は十数軒あると思われる建物の扉が一斉に開き、中から老若男女、たくさんの人たちが飛び出てきた。食事時だったのだろう、食器を持っている者や、口の周りに食べ物をつけている小さな子もいた。
「ユリちゃん!」
「ユリ!」
出てきた者たちは皆、あとの二人には目もくれず、ユリのもとに駆け寄ってきた。
「ごめんね、遅くなっちゃった!」
少女の表情が、再び解れた。