『東京優駿大競走編成趣意書』
輓近競馬の隆昌に伴い出場の馬数漸次増加しその資質またようやく改善の域に達し国防ならびに産業上国家に寄与することすこぶる大なるものあるはまことに幸慶にたえざる所とす。かくしてわが競馬界の前途に対する産馬家の期待いまやいよいよ深刻なるべきはここに疑を存ぜざる所とす。
ひるがえってわが競馬界の現況をみるに創業日なお浅く業態いまだ改善を期すべきもの甚少ならざるべし。しかりといえども、いたずらに欧米先進国の範に模して興趣的偏重の弊に堕することを避け一意わが国情に照して毫も国家の要望に反する所なく、すなわち堅実強健にしてかつ持久力に富む馬産を目的として常にその資源に任ずるの覚悟を要すべきは斯業に従事する者の須叟もゆるがせにすべからざる責務なりと信ず。
本倶楽部深く顧みる所ありて業態改善の一端としてここに別記条件にもとづき東京優駿大競走を創設し広く全国に良駿を求めて能力の厳選を試みむとす。しかして本競走に出場せしむべき馬は二才幼駒の秋季において初めて出馬投票申込を受け四才の春季にいたり実際の競走に参加せしめむとするものなるをもって、この間生産者に対しては早期より一定の目途を定て適切なる育成調教をとげしむるの便宜を供するとともに登録により必然馬の価格を向上せしめて経済的採算を有利に導くの一助となるのみならず生産者に対し特殊の刺激を与えて競争心を喚起せしめ、かつ趣味を豊富ならしむるにいたり斯業奨励の方途としてその効果すこぶる大なるものあるべく、その収穫は甚少ならざるを確信するものなり。
(「日本競馬史 第3巻」(日本中央競馬会))
【私的口語訳】
近ごろ競馬の隆盛に伴って出走頭数はしだいに増加し、その資質もまたようやく改善の域に達して、国防や産業の上で国家に役立つことが非常に大きいことがあるのは本当に幸せで喜ばしいことである。このようにしてわが競馬界の先行きに対する馬を育てる者たちの期待がまさに今にも差し迫っているということは疑う余地もないところである。
私たち競馬界の現在のありさまを考え直してみると、競馬が始まってからの期間はまだ浅く、現在でも業態の改善をした方が良いという事柄は決して少なくないだろう。だからといって、むやみに欧米の競馬先進国の形式を真似して、見た目の面白さばかりを重んじるという弊害に陥ることは避けて、ひたすらにわが国の実情に照らして、国家が要望することに少しもそむくことなく―――つまり体が非常に丈夫でその上持久力に富んだ馬の生産を目的として、常にその役目を引き受ける心構えを必要としなければならないということは、競馬に従事する者はほんのわずかの間でもいいかげんにしてはならないという責務があると信じる。
東京競馬倶楽部は深く顧みるところがあって、業態改善の一つとして別記条件に基づいて東京優駿大競走を創設し広く日本全国からより良い競走馬を求めて能力の厳選を試みることにする。それから本競走に出走しようとする競走馬は1歳の秋季に初めて出馬投票の申し込みをし、3歳の春季になって実際の競走に参加するということで、この間生産者に対しては早くから一定の目標を定めて適切な育成・調教をするための便宜に役立てるとともに、出走登録をすることによって必然的に馬の価格を向上させて経済的な採算を有利な方向に導く助けの一つになるだけでなく、生産者に対して特別な刺激を与えて競争意識を呼び起こさせ、その上楽しみを豊富にすることになり、競馬奨励の方法としてその効果は非常に大きいものがあって、その収穫は決して少なくないものになると確信するものである。引用元
