Buon giorno♪
ますます趣味の様相が濃くなってきたこのブログ。
今回は中世のキリスト教絵画を通して現代文学を読み解きます。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
みなさん「デミアン」という本をご存知でしょうか?20世紀ドイツの文学者ヘルマン・ヘッセの作品です。
![]() | デミアン (新潮文庫) 497円 Amazon |
ヘッセというと「車輪の下」が有名です。
残念ながら「車輪の下」は読んだことはありません。
しかし「デミアン」は無人島に持って行きたい私のバイブルの一冊。
「デミアン」は自分の中の善と悪を統合させていくようなストーリーです。
ポイントは善と悪の統合というか超越であって、悪の克服では決してない点です。
というかむしろ自分の中の悪を善と同じくらい受け入れる、といった方がいいでしょうか。
主人公エミール・シンクレールの学校にある日、大人びた転校生が入学します。
デミアンは母親と住んでいるのですが、当時の一般的なドイツの価値観とは違う価値観で生活しています。
学校の宗教の時間の後にデミアンがこんなことを言います。
「キリストの磔刑の時に改心した罪人より、罵った方の罪人の方が信頼できる」
サン・マルコ寺院の壁画より。
この絵では少しわかりにくいのですが、向かって左の人には光輪があり、右にはありません。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
このデミアンの言葉を理解するために少し聖書を見てみましょう。
新約聖書のルカの福音書によるとゴルゴダの丘でキリストが十字架に架けられている時、キリスト以外に2人の罪人も十字架に架けられていました。一人は民衆に便乗してこう言います。
「あんたがユダヤ人の王だったら自分自身を救って、ついでに俺たちも救ってくれよ」
キリストの右の人。
それを聞いた左の罪人は
「俺たちは罪を犯したからこうなっても仕方ないけど、この人は何にも悪いことしてないんだぜ。キリストさん、あんたが天国に行ったら俺のことも思い出してくれよな」
キリストの左の人のセリフ。
それに対してキリストは「あなたは今日私と一緒に天国にいますよ」と言います。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
従来のキリスト教ではこの左の人は犯した罪を反省し許しを乞うたとしてキリスト教の教えに帰依した人として扱われます。
実際にそれに異議を唱える人はないでしょう。
しかしヘッセはデミアンに冒頭のように言わせるのです。
デミアン曰く、
「途中でいい人ぶった人なんかより悪を貫いた人の方が信用に価する」と。
ヘッセが「デミアン」を書き上げたのは1919年。
第一次世界大戦が終わった直後です。
この戦争はヘッセに多大な影響を及ぼしたと言われています。
彼の人生や思想が作品に色濃く反映されたのはもちろんですが、時代的背景も重要です。
同じドイツ出身のニーチェが「ツァラトゥストラはかく語りき」を書いたのは1885年。有名な「神が死んだ」はこの本からの出典です。この時点でもうキリスト教の行き詰まりが感じられていたのだと思います。
ドイツで機械の大量生産を後押しする第二次産業革命が起き、ドイツ帝国が建国され拡大まっしぐらの時代。ルネサンスで人間に光が当たってからその力はどんどん大きくなり人間の力過信とも言われるような現象が起きていました。
もはや従来の宗教には人は救いを求められなくなっていたんですね。そこで少しずつ表に出てきたのが「黄金の夜明け団」を始めとする自分に神性を見出す動きが出てきます。ニーチェもツァラトゥストラの中で力を肯定する「超人」になることを提唱します。「超人」とは死後の神の世界ではなく今生を生きることを肯定する人です。
その後帝国主義はさらに拡大し、第一次世界大戦に発展。大戦中は第二次産業革命で拡大した大量生産大量消費が最大限に利用されました。それまでの戦争になかったような兵器で死んでいく人たち・・・人間の欲望が拡大した結果の惨劇。そんな中でヘッセがデミアンを通して人々に新しい「生きる」という意味を与えたのだと思います。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
イタリアでは至る所で目にする宗教画ですが、もともとは文字が読めない人たちに聖書を説明するために描かれました。本来は偶像崇拝禁止でした。16世紀以降の宗教改革ではそれが守られ、人の姿ではなく静物画を通してキリスト教の教えが説かれるようになりました。
神様(一番上)を人間の姿で描くのも本来の教えからは外れているそうです。
現在は美術品となってしまった絵画ですが、もともとは信仰の対象として使われていたものです。その頃に戻った気持ちで内容を読み解きながら見るとまた新たなものが見えてくるかもしれません。
「デミアン」のように聖書は現代に至るまで文学などに大きな影響を及ぼしています。膨大な量がある聖書を読むことは難しいですが、絵画を手掛かりに現代文学を読み解いていくのはいかがでしょうか?