創作コラボ企画「オトメ酔拳」スピンオフ

蜂蜜酒の精霊ベレヌス=メブミードの過去の物語です。

 

前→【小説】流浪のマレビト(47) - 再会2

 

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どれくらいの時間が経ったのだろう。メイブはミードの腕の中で静かな寝息を立て始めた。ミードは彼女の体をそっと横たえて上掛けをそっとかけると、櫛を通すことすらされていない髪を優しく撫でる——名も与えられずまともな食事も与えられず、暴言や暴力にさらされ続けた彼女の心の傷は深い。ミードの言葉を理解してはいるが、発語や体の発育には問題がある。彼女がこの先どのような道を望むかはわからないが、いずれにせよ心と体を癒し、言葉や知識を身につけておく必要があるだろう。

そのためにはメイブの身の安全を確保する必要がある。もしメイブを連れ出すことが可能であればそうするのが最も良い方法なのかもしれないが、現在の状態ではそれは難しいだろう。そもそも、ここを去ることはバイルン公国の世継ぎとして生きる道を放棄することに近い。この地を継ぐか放棄するかはメイブ自身が決めることであり、ミードに出来ることは彼女がどんな選択もできるよう支えることだけなのだ。

大臣がメイブをこの塔に幽閉しているのは彼女を生きたまま手元に置いておきたいからだ。これはミードにとって好都合といえる。言い換えると「メイブを死なせるわけにはいかない」という意味でもあり、その点においてはミードの願いと一致しているからだ。

さらに、ミードも彼らも幼いメイブが権力闘争の道具として利用されることを望んでおらず、現時点では彼女の存在を可能な限り秘匿したいと考えているという点も一致している。もちろん、ミードと彼らではそう考える理由は全く異なるが、利害がここまで一致しているのであれば彼ら利用しない手はないだろう。

要は、メイブが健全に成長できるだけの十分な食事や衣服などは彼らに用意させ、直接的な養育は全てミードが行えばよいのだ。メイブに直接干渉できないようにしてしまえば、彼女を暴力や暴言から守ることができるし、彼女に必要な教育を施すこともできる。

ミードはぐっすり眠ったメイブを起こさないよう注意しながら静かに部屋を出ると、ゆっくりと階段を下りながら今後の策を練り始めた。

階下にはバイルン公国ゆかりの品々が雑多に詰め込まれている。フランはなぜこれらの品々を七年間も放置しているのだろうか。年代物ではあるが質が良く、手入れをすればまだまだ使用できる品ばかりだ。調度品などはいくらでも売却できるし、売却できないのであれば壊して焼却してしまえばよい。だが、なぜそうしないのか?

考えられる理由は二つある。一つは、再度使用することを想定して保存しているというもの。しかしこの場合、保存状態には細心の注意を払うだろうし、定期的な手入れや補修も行っているはずだ。少なくともあのように乱雑に詰め込むようなことはしないだろう。

もう一つ考えられる理由は、心理的な理由で売却や処分ができないというもの。状況から考えてこちらの線が正しいだろう。フランはバイルン家の品々を目にしたくなかったが処分することもできなかった。だから見えない場所に隠した。隠すことしかできなかった。

ミードは階段の上から暗い部屋を見渡し、そして見つけた。フランが最も隠したかったものを。

「……なるほど」

大きな布で覆われたうえ、家具や調度品の後ろに隠されたその品を見てミードは口元に微かな笑みを浮かべる——フランを御するのはそれほど難しくはなさそうだ。

 

 

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