本「薬指の標本」感想
□これは、大分以前に、SNSで、面白い本を紹介してください、と募ったところ教えてもらったものです。随分月日が経ってしまい、交流する環境が変わってしまいましたが、スケジュール帳にメモしたものを、今頃読んでみたり。たった一二年でも、月日はあっという間、どんどん動いていくものだと実感します。□本の内容は、表題作と、六角形の部屋、という二作入っています。表題作も決して悪いものではないのですが、個人的には「六角形の部屋」のほうが面白く感じました。この「部屋」は、簡単に言うと、心の内に秘めている事をぶちまける密室、といったようなものなのですが、そこで披歴される、主人公の心の内、愛情が変質して嫌悪感になってしまう経緯が、なんともリアルです(笑)こう書くと、おどろおどろしく救いがないかのように聞こえるかもしれませんが、そうでもありません。この不思議な現象(?)と遭遇した人達と共に、「もう少し頑張ってみよう。」というふうな気分になる、読後感のよい一篇です。□この二作、作中にパソコンや携帯電話がどこにもなく、代わりに和文タイプライターとポケットベル。いつごろの作なのだろうと思って巻末を改めると1994年。なるほど、という感じでした(笑)文章に一貫する静寂感は、小川洋子さんが得意とする世界観、空間演出ですが、二十年の間に、通信ツールが発達して、より騒々しくなってしまったのかな?とも。当時だって決して静かじゃなかったけれど、外を歩きながらひっきりなしに不特定多数の人とやりとり、というのは考えてみれば大変な変化です。ひょっとしたら、六角形の密室に吐き出されて消えていた言葉が、今は、無闇に衆目の前に陳列されているのかもしれません。その事の効能と、中毒性を予見しているようでもあり、こうなった今、この懺悔室稼業は、どこで営業してるんだろう、あるいは、まだどこかで営業してるんだろうか?そんな想像をしてしまいました。