時空を超えたラスト・ミッションに隠された衝撃の真実とは?
『プリデスティネーション』
[Predestination]
(2014年)オーストラリア映画
<あらすじ>
1970年、ニューヨークの酒場に現れた青年ジョン(サラ・スヌーク)がバーテンダー(イーサン・ホーク)に奇妙な身の上を語り始める。
女の子「ジェーン」として生まれ、孤児院で育った"彼"は、18歳の時に恋に落ちた流れ者との子を妊娠する。しかしその男はある日、忽然と姿を消し、赤ん坊も何者かに誘拐されてしまう。そして、出産時の危機から命を救うため、自分は男になったと話す……。
青年の哀れな境遇に同情したバーテンダーは、自らの驚くべき素性を明かす。なんと彼は未来からやってきた時空警察のエージェントだった。青年に自分の人生を狂わせた者への復讐のチャンスを与えるため、バーテンダーは1963年にタイムスリップし、さらに青年をエージェントにスカウトする。
エージェント引退を決意しているバーテンダーの真の目的は、因縁ある連続爆弾魔フィズル・ボマーの犯行を阻止すること。はたしてバーテンダーは爆弾魔を発見できるのか?彼はなぜ青年をリクルートしたのか?そして時空を超えた壮大なミステリーの背後に隠された衝撃的な“宿命”とは――。
<スタッフ>
監督・脚本:マイケル・スピエリッグ
ピーター・スピエリッグ
原作:ロバート・A・ハインライン『輪廻の蛇』
製作:パディ・マクドナルド
ティム・マクガハン
マイケル・スピエリッグ
製作総指揮:ゲイリー・ハミルトン
音楽:ピーター・スピエリッグ
撮影:ベン・ノット
編集:マット・ヴィラ
<キャスト>
イーサン・ホーク(バーテンダー)バーテンダー
サラ・スヌーク(ジョン/ジェーン)雑誌ライター「未婚の母」
ノア・テイラー(ロバートソン)航時局局長
クリストファー・カービイ(マイルズ)
クリス・ソマーズ(ミラー)
クニ・ハシモト(フジモト)医師
ケイト・ウルフ(ベス・フェザレイジ)養護施設の女性
ベン・ブレンダガスト(クラーク)医師
フェリシティ・スティール(ローゼンブラム)先生
マデリーン・ウエスト(ステイプルトン)
モニーク・ヒース(10歳のジェーン)
フレイヤ・スタッフォード(アリス)骨董品屋
感想
凶悪犯罪を未然に食い止めるために
過去に戻って犯罪者と戦うエージェント。
連続爆弾魔を追いかけていた彼は
ある夜バーに現れた青年の人生を狂わせた
謎の男が爆弾魔かもしれないと思い、
2人はタイムマシンで過去に戻るのだが
そこで青年は信じがたい因果関係と
自らの宿命を知ることになる――。
というタイムトラベル・サスペンス。
原作はSF作家
ロバート・A・ハインラインの
『輪廻の蛇』
自分の尻尾に食いつく蛇
「ウロボロス」をモチーフに、
「卵が先か、鶏が先か」という
パラドックスに挑戦した作品。
これは……複雑な映画だ。
とにかくタイムマシンで
時間が飛びまくるので
視聴者は今何年にいるのか混乱するし、
作者も矛盾のないようにするため
つじつま合わせが大変だったと思う。
でもそれが理解できたら
ますますこの映画の面白さが増幅する。
イーサン・ホークが演じる謎の男は
連続爆弾魔を捕まえるために
携帯型タイムマシンで時空を移動する
時空警察のタイムトラベラー。
渋くてかっこいいです。
男性役もこなした
サラ・スヌークの演技がすごい。
女として生まれて育った彼女が
出産時に男性器と女性器がある
半陰陽が見つかって
子宮を切除しなければ助からない状態から
男性器に尿道を通す再建手術をし
望んでもない男性にならざるを得なかった。
必死に男言葉に矯正する姿が
痛ましくて悲しくて泣かされてしまった。
監督たちは当初、
女性の時と男性の時で
俳優を男女変えようか悩んだ末に、
理想的な女性
サラ・スヌークと出会って
彼女に2役やってもらう決断をしたという。
男性ホルモン打つだけで
顔が別人に変わってしまうのは
いくらフィクションといえど
説得力がなくなってしまう。
運命的な出会いを果たした。
タイムトラベルものなので
伏線回収がすごくなるのは
ある意味当たり前ですが
人間ドラマとしても秀逸で
考えさせる内容だった。
「記憶を消してもう1度観たい映画」として
よく話題に上がるけど、
俺は何度も観て理解が深まることで
さらに面白くなっていく映画だと思います。
■予告編。
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★★★☆☆ 犯人の意外性
★☆☆☆☆ 犯行トリック
★★★★☆ 物語の面白さ
★★★★★ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し
笑える度 -
ホラー度 -
エッチ度 △
泣ける度 〇
評価(10点満点)
8.5点
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※ここからネタバレあります。
1分でわかるネタバレ
<事件概要>
日付:1970年3月2日/1970年11月6日/1985年8月12日~13日/1963年4月3日/1964年3月2日/1992年2月21日/1945年9月13日/1963年6月24日/1975年1月7日
場所:クリーブランド/ニューヨーク
○被害者 ---●犯人 -----動機【死因:凶器】
①爆弾魔フィズル・ボマー ---●バーテンダー ---憎悪【射殺:銃】
<結末>
バーテンダーは
自分の後継者にジョンを指名し
これからやらなければならないことを
テープレコーダーに残した。
それは自分自身にこれから起こる出来事で
バーで過去の自分に会い、
その自分を過去の自分とくっつけて
赤ん坊の自分を孤児院に預ける――、
「自分」という人間は
タイムパラドックスで生まれた存在だった。
引退した彼は爆弾魔を発見したが
それは未来の自分で、
ジャンプの後遺症で精神がおかしくなって
大きな被害を防ぐために小さな爆発で
被害を最小限に抑えるという
英雄気取りの妄想に取り憑かれていた。
彼は運命に抗おうとして
未来の自分を撃ち殺した。
自分がこれからどうなるのか、
宿命からは逃れられるのか……。
それはわからない。
わかっているのは
自分が最高だということ。
一人四役のどんでん返し
この映画のどんでん返しは
物語の主要人物である、
ジェーン、ジョン、バーテンダー
そして爆弾魔フィズル・ボマーが
4人全員同一人物だったというもの。
一人四役というと
探偵・証人・被害者・犯人の
セバスチアン・ジャプリゾの
『シンデレラの罠』を思い出すが
あれとは違ってガチで4人が登場する。
顔を整形して別人に見せるという手法は
ミステリではよくあるが、
そこに性転換も加えることで
さらに同一人物と思わせないようにしている。
そんな無理のある設定を可能にしたのは
「タイムマシン」の存在だ。
持ち歩いてもとくに不自然に見えない
バイオリンケースみたいな形の
携帯型のタイムマシン
「USFF(時標変界キット)」
実は1981年に航時局で開発されて
そのゼロ地点から未来へも過去へも
最大で53年まで飛べる。
ダイヤルで時代を設定し
USFFに触れた状態なら
2人でもタイムトラベル可。
最初のジャンプは負担が大きい。
時系列を整理してみよう。
↓は通常の時間の流れ
はタイムマシンの移動
【時系列図】
【考察①】
撃ち殺されたフィズル・ボマーの
様子からすると、
コインランドリーで会うことも
自分が殺されることも知らないようだった。
フィズル・ボマーがバーテンダーの時に
同じ事をやっていたら
絶対に警戒するからです。
辿り着くとわかっていたら
コインランドリーにも行かないかもしれない。
だから前の世界線とは違う選択をした
ということでしょうか。
今回の物語の中で違法ジャンプが
1回あったことを思い出してみる。
1975年3月2日の爆破現場で
フィズル・ボマーを止めようとしたこと。
あそこで時限爆弾の破片を拾って
その部品の出所から発注書を辿って
コインランドリーへ行き着いた。
それで歴史が少し改変されたのでしょう。
フィズル・ボマーと出会って
宿敵を撃ち殺したが、
タイムトラベルの後遺症で
バーテンダー自身が
絶対にああならないとは言えない。
それはこれからの彼次第。
――という結末と理解しました。
【考察②】
もう1つは、
すべて歴史通りでループから抜け出せず
あの後バーテンダーは必ず
フィズル・ボマーになってしまう説。
違法ジャンプも実は計算通りで
あそこでUSFFを動かさなかったら
ジョンが死んでいたし、
航時局も爆弾魔のおかげで
うちも成長できたと言っていたので
あえて泳がして共存していたように思える。
気になるのはコインランドリーでの
フィズル・ボマーの反応だが、
痴呆症という伏線を拾うと
まあ一応は筋は通る。
――しかし、
骨董屋アリスの尻のアザを覚えていたり
事件を防ごうとする様子は痴呆症に見えない。
ましてや自分がバーテンダーの時に
フィズル・ボマーを殺していたら
そんな大事なことを
忘れてしまうとも思えないのだが……。
結末はどちらが正しいのだろう?
俺は前者の方であってほしいと思う。
なお原作『輪廻の蛇』には
爆弾魔フィズル・ボマーは出て来ない。
映画のオリジナル追加要素。
爆発で顔が焼けて整形もしない。
そのため映像化の際には
この爆発の整形があることで
別の役者を使って別人だと思わせる
ミスリードがやりやすくなった。
原作は最後1993年の地下基地に戻り
自らを生んだお腹の傷を撫でて
ウロボロスの指輪を見ながら、
俺の出所はわかっているが
お前たちゾンビはどこから来たのかと
問いかけて終わっている。
伏線解説(★は巧妙なもの)
自分が自分とセックスして
自分が生まれて、
最後は自分が自分に殺されるという
とんでもないパラドックスが起きている。
そうなると自分は最初
どこから誕生したのか?
★①【鶏が先か卵が先か】
ジョンに「なにかジョークを言ってくれ」
と言われたバーテンダーが
笑えないジョークとして
「鶏が先か、卵が先か」という問題を出す。
- この映画のパラドックスの象徴。ジェーンとジョンの間に生まれたジェーン。どこから始まっているのか誰にもわからない。本当に笑えない。
- 同じ例えに「自分の尻尾を食いつづける蛇」つまりウロボロスの話も出る。
②【名無しの人物】
クリーブランド養護施設で拾った子供を
とりあえずで「ジェーン」と名付けた。
- 外国では「名無しの権兵衛」のような名無しの人物名を、男性は「ジョン・ドゥ」女性は「ジェーン・ドゥ」と呼ぶ。つまりこの映画の主役には正式な名前が無い。
③【帝王切開の手術痕】
男性になったので
スペースコープに宇宙飛行士の
志願を出したが不適格と判断された。
その時に
帝王切開や乳房を切除した手術痕を
医者がじろじろ見ていた。
- ジョンがバーテンダーと同一人物だとわからせるための伏線。引退したバーテンダーが服を脱いだときにまったく同じ手術痕があることで同一人物と確定する。
④【ゴツい腕時計】
冒頭の現場で
タイムマシンを寄せてくれた人物の腕に
ゴツい腕時計が見えるが
これは後に航時局で渡される時計。
- この時計はどの時代に移動しても正確にその時間を差す特殊な腕時計。これを付けているということは、この人物がタイムトラベラーである証拠。未来の自分が助けてくれていた。
⑤【まるで別人】
ジョンは爆発で焼けた顔を整形して
まったくの別人になってしまった。
「お袋でもわからないだろうな」
- お袋が過去の自分であることを知ったうえでの台詞。ちょっとしたジョーク。
⑥【1度だけの恋】
ジョンが初恋をしたという話をして
バーテンダーにも質問する。
ジョン「恋に落ちた経験は?」
バーテンダー「……一度」
ジョン「ならわかるだろ?」
バーテンダー「わかる」
- ジョンもバーテンダーも恋は1度だけ。ジョンとバーテンダーは同一人物だから同じ人の話をしている。
⑦【過去や未来に繋がりのない人間】
ロバートソンが
もう1度あなたをスカウトしたいと
勧誘にやって来る。
その時に「君のように
家族がおらず天涯孤独の身で
過去や未来に繋がりの無いこと」を
重視していると言った。
- ロバートソンはジェーンがパラドックスから生まれた人間だと知っている。いつどこで気づいたのかは謎のまま。
⑧【1963年の服】
バーから1963年にジャンプした時、
100ドル札の束や服をジョンに渡した。
「どうして服があるとわかった?」
「気にするな」とバーテンダー。
- バーテンダーから見れば過去の出来事。ここに100ドル札と服があることをジョンの時に見たからバーテンダーの時に事前に用意して取りだしただけ。
⑨【精神病】
爆発で顔を焼かれて整形した
その時の診断に
「精神病の初期段階」という
文字が見えていた。
- 男が最後に妄想に取り憑かれて爆弾魔になる伏線。数々の違法なタイムトラベルをしたことで体と精神に負担がかかって「壊れて」しまったのだ。ロバートソンも「ジャンプによるダメージで精神疾患や痴呆症になる確率も高くなる」と警告してくれていたのに……。
⑩【けんかっ早い性格】
小さい頃から優秀だったため高慢になり
男にも喧嘩で勝っていた。
文句を言ってきたらキレて
自動車のライトも破壊した。
- 自分の正義感を押しつけ始めて、大きな被害を防ぐために小さな爆発を起こしても平気な考え方に染まっていった。幼少期からその傾向はあった。ジョンの時もフィズル・ボマーの考え方に賛成していた。
★⑪【壁に貼られた教訓】
爆発に焼かれたジョンが目覚めた
航時局の部屋の壁に貼られていた教訓。
「明日すべきことを昨日やるな」
「成功したら二度と試すな」
- これはジョンがバーテンダーとなってこれから経験する未来への警告。
- 「明日すべきことを昨日やるな」は爆弾魔フィズル・ボマーは明日(未来の終点)で倒せばいいから昨日(ミッションの途中)で殺そうとするなという意味。バーテンダーは違法ジャンプをしてでも捕まえようとして結局は失敗してしまった。警告文の言う通りだった。
- 「最終的に成功したら二度と試すな」は最終ミッションが終わったらもうタイムトラベルをするな、またはコインランドリーで追い詰めて殺すことに成功するけど、その後タイムマシンを使ってお前が爆弾魔になるなよという警告だろう。航時局はどこまで知っているのか……。
欠点や疑問など
- こういうタイムトラベルものを見慣れている人は、バーテンダーとジョンが同一人物と気づく可能性が高い。俺もかなり早い段階でわかったし、ボマーの正体も当たっていた。登場人物が少ないのも原因。
- 1981年にタイムマシンが出来るわけがない。原作がそうだったのかもしれないが(原作は1959年に発表)2000年以降に作った映画なら開発時期はもっと未来に設定すべき。2015年に車が空を飛んでいる『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と同じ違和感。
- 自分が犯罪者になってしまうのは後味が悪い。実はロバートソンが爆弾魔で、イレギュラーなUSFFのエラーによってもう1回跳躍できた主人公が最後に宿敵を倒して終わってほしかった。
- 組織の目的が曖昧。どこまで干渉していいのか、そもそも過去を変える目的じゃないのか、なにがやりたいのかわからない。改変しすぎたら死刑ってのもひどい。
- USFFの終点がいつなのかわからない。ジャンプ回数が決まっているのか、航時局に設定されているのか、そもそも終点がなんなのかもわからなかった。
- 爆弾魔の正体も組織は知っていて、あえて主人公を泳がせているように見えた。歴史を変えてはいけないのだろうが、ひどいなと。
- 宇宙飛行士のための性処理役って今の時代だと確実に批判される。従軍慰安婦と同じ。原作通りとはいえ、現代風に改変してもよかったのではないか。
- 性転換して鏡を見た時に自分の顔を見て「あの憎い男だ」とは思わなかったのか?少し似てるなくらいは思っただろう。
- ジェーン時代は眼鏡だったが、ジョンの時は眼鏡をかけたり外したりしている。バーテンダー時代はほぼ眼鏡かけてないがちゃんと見えてるの?レーシックした?
- 赤ちゃんがジャンプの衝撃に耐えられるか?22年のジャンプでジョンが昏睡状態になったのだから19年をジャンプした赤ん坊も相当ダメージがあったはず。
- 幼少期の役者がすきっ歯だったが大人役で歯が整っていると歯列矯正をしたことになってしまう。
- 不条理である。みなさんは自分だとわかっている相手に恋をしてセックスをすることができますか?それが自分だとわかっていなければあり得る。しかしわかってしまうときっと倫理観が邪魔をする。近親相姦と同じで、それは不条理だと拒絶してしまうでしょう。
名場面・名台詞
大火傷を負って整形した男が
7年前の自分宛てに
ボイスレコーダーに言葉を残す。
???「今日ついに指令が届いた。これが宿命だったんだろう。7年前の君に忠告しよう。最初の任務は最後の任務と同じぐらい重要だ。そしてすべての任務が終点への道しるべとなる。(中略)過去から逃げることはできない。それはこの職につく者も同じだ。俺たちは有能だと思う。……この言い方はちょっと傲慢だったかな。よし、じゃあもっといい表現をしよう。俺たちにとって、この仕事は天職だ」
バーに来た男性客が
バーテンダーに奇妙な話を語りだす。
ジョン「俺が少女だった頃……」
バーテンダー「……え?」
ジョン「話を聞きたいんだろ?」
バーテンダー「俺はてっきり……悪い、続けてくれ」
ジョン「……1945年9月13日。俺は生まれてすぐ、児童保護施設の戸口に捨てられた」
慈善病院で女の子を出産したジェーンに
医師から衝撃の事実を告げられる。
医師「君の手術をした時、非常に特異な点を見つけた。実に珍しい例だ。私は君の赤ん坊を取り上げた後、外科部長を呼んで話し合い、その後何時間もかけて処置をした。良い形で再建できたと思う」
ジェーン「再建って?」
医師「君の体には2組の性器がそなわっていた。女性のものと男性のものだ。ともに未熟だが、女性器の方は妊娠できる程度には発達してたんだ。しかし残念ながら……分娩時の出血があまりに多く、子宮を摘出せざるを得なくなった。それで卵巣と子宮を切除した」
ジェーン「……な、なにを、言ってるんですか?」
医師「だが、再建手術によって、男性器の尿路を作り出すことができたんだ。今後も手術は必要になるが……」
ジェーン「(涙が止まらない)男になるため?」
医師「……」
ジェーン「……なにかの冗談ですか?」
医師「残念だが違う」
新生児室で赤ん坊を抱くジェーン。
ジェーン「あなたは最高の贈り物よ」
看護師「もう名前は決めた?」
ジェーン「ああ……ジェーンにしようと思います。この子を生んだ“母親”の名前をとって」
バーテンダーがジョンの話を聞いて
お前の人生を狂わせた男を
知っていると言い出す。
バーテンダー「俺が差し出すと言ったら?お前の人生を壊した男を。しかもお咎めはなしだとわかっていたら……そいつを、殺すか?」
ジョン「……その場で殺す」
バーテンダー「居場所を知ってる」
ジョン「ああ、そうだろうな」
バーテンダー「ハッタリじゃない」
ジョン「どうやってわかるって言うんだ?」
バーの地下室で
バーテンダーが取り出した
バイオリンケースのようなもの。
ジョン「一曲弾いてくれるのか?」
バーテンダー「お前を過去に連れていく。これはUSFF――時標変界キットという装置だ。可動部分はなし。重さはおよそ6キロ。充電済み。俺たちの体重に合わせて調整してある。到着地はこいつが勝手に算出し、出現する時の事故を避けるというわけだ」
ジョン「で、なんなんだ?」
バーテンダー「こいつは時空に航跡を残す装置……」
ジョン「つまり?」
バーテンダー「タイムマシンだ」
1963年にタイムトラベルしたジョン。
待ち伏せしているところで
ジェーンにぶつかる。
ジェーン「あ、どうもすみません。……迷子ですか?」
ジョン「……人を探してるんだ。ありがとう、ここで待ってみる」
ジェーン「そう。待つ人にはいいことがあるって言うものね」
ジョン「(いいようのない既視感)……だがそれは頑張った人の残り物だ」
ジェーン「……私も同じこと考えてた。すごい偶然」
ジョン「……すごい偶然だ」
ジェーン「どうかした?」
ジョン「思ってた顔と全然違う」
新生児室からジェーンの赤ちゃんを盗み
自分の宿命に思いを馳せる。
バーテンダー「これから果てしない旅が始まるぞ。千里の道も君の両足から始まる。こんな言葉を君に贈るとしよう。俺の足は休ませてもらうよ」
爆弾魔フィズル・ボマーが
未来の自分と知って
銃を向けるが……。
フィズル・ボマー「俺たちにとってはお互いがすべてだ。過去にも未来にも頼れるものはない。お前が俺を撃てば、お前は俺になる。わかるか?それが道理ってもんだ。この鎖を断ち切りたいなら、俺を殺しても駄目だ。そうじゃなくて、俺を愛せ。もう1度」
バーテンダー「お前の人生を壊した男を目の前に差し出してやると言ったら……」
フィズル・ボマー「またそれか。それはもういい。忘れろ。俺とともに未来を見よう」
バーテンダー「そいつを殺すか?多くの命のために」
フィズル・ボマー「明日の計画を知りたいか?」
バーテンダー「いいや」
フィズル・ボマーを銃で撃つ。
赤ん坊、少女、ジェーン、
ジョン、バーテンダー……。
すべての人物が1人の人生に収束する。
テープレコーダーが語りかける。
バーテンダー「お前は難しい選択を迫られ、過去を動かす。未来が変わるかどうかはわからない。だが、これだけははっきりとわかる。お前は人生最高の贈り物だ。お前がひどく恋しい」
好事家のためのトリックノート(トリック分類表)
1-A、人間「一人二役トリック」
●その他
【一人四役】
孤児院で拾われた女の子が成長して、未来からタイムトラベルして来た性転換して男になった自分とセックスして、生まれた赤ん坊をタイムトラベルで過去に戻って孤児院に拾わせる。そして未来で主人公の敵として現れる爆弾魔は、年老いた未来の自分だった。