すべてが、伏線。

『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』

相沢沙呼

(2019年)

 

 

この小説が単行本で出たとき

「すべてが、伏線。」という

伏線回収マニアの俺の心をくすぐる

一文に惹かれて即購入したが

読む時期が合わずに放置していたら

その年のミステリランキングで

1位を独占して話題になった。

 

話題になりすぎたものは

他の方が十分に解説しているため

今更伏線を調べる必要もないと

今まで読むのを避けていましたが

裏旋さんに伏線解説してほしいと

ありがたい言葉をいただいたので
この本を読んでみることにしました。
やるからには徹底的に――。

 

あらすじ

「娘を殺した犯人を見つけてほしいのです」

連続死体遺棄事件の被害者遺族から

ミステリ作家の

香月史郎(こうげつしろう)に依頼があった。

霊媒師と組んで

いくつもの難事件を解決していると

ネットを中心に話題になっていたからだ。

 

香月は迷っていた。

霊媒師・城塚翡翠(じょうづかひすい)

死者の魂を呼び寄せることができるが

殺人は死んだ場所の確定が必要だ。

連続死体遺棄事件の犯人は狡猾で

今まで全く証拠を残していない。

それに翡翠は

自分の死が間近に迫っていると言う。

もしかするとこの依頼を受けると

翡翠の身に危険が迫るかもしれない。

 

香月は翡翠との

最初の出会いの事件を回想する――。

 

 

 第一話 泣き女の殺人

 

初夏、香月は大学の後輩・倉持結花から

霊能者と会ってほしいと電話を受けた。

占い師に見てもらってから

泣く女の霊が夢に出るようになって

不安に怯えているらしい。

 

千和崎というアシスタントに出迎えられ

通された薄暗い部屋に

西洋人形のような美しい女性がいた。

彼女は城塚翡翠と名乗った。

いきなり倉持の職業を当て

香月が作家だということも当てる。

そして部屋の写真を見た後

香月だけを呼び出し

結花に危険が近づいていると告げた。

 

帰り道、

翡翠に見せた写真を一緒に見る。

来週金曜日に翡翠が

結花の部屋を調べに来る段取りになり

香月も一緒に行く約束をして別れた。

それが結花の笑顔を見た最後になった――。

 

6月の金曜日、

駅で翡翠と待ち合わせた香月は

結花が電話に出ず

メッセージに既読もつかないことが心配になる。

結花のマンションの部屋は鍵が開いていた。

ドアを開けるとコーヒーの匂いが漂い、

窓が開いていてカーテンが揺れている。

そして結花がテーブルの間に

頭から血を流して倒れていた。

すでに体は冷たくなっている。

現場の状況を見て翡翠は言った。

「香月先生、犯人は、女の人です」

倒れた結花のそばに水滴があった……。

 

 

 第二話 水鏡荘の殺人

 

香月の目の前に

黒越篤(くろごしあつし)の死体が倒れている。

バーベキューパーティーに招かれた

水鏡荘での出来事……。

犯行場所は黒越の仕事部屋で

凶器はトロフィーだ。

デスクに血で書いた奇妙な印がある。

翡翠が言った。

「わたし、犯人を知っています。犯人は、別所さんです」

 

一週間前、推理作家の黒越から

別荘に霊障が起きるので

霊媒師を紹介してほしいと頼まれ

黒越の別荘「水鏡荘」にやってきた2人。

別名「黒書館」と呼ばれる洋館で

西洋の魔術師が建てて

完成と同時に失踪したという曰く付きの館。

以後の買い手も次々と不幸に見舞われている。

 

バーベキューが始まり

集まった若い作家や編集者たちと談笑する。

黒越の元教え子の新谷由紀乃

黒越の手伝いをしている別所幸介

黒越担当の編集者の有本道之など。

黒越は宅配便で届いたばかりの新刊

「黒書館殺人事件」の文庫を

上機嫌でみんなに配っていた。

 

食後しばらくして

来客は東棟の客室に戻って行った。

リビングに残った香月と翡翠は

夜通し霊の見張りをしていたが

一向に霊障が現れる気配が無い。

翡翠がうとうとしていた午前0時前、

香月は鏡の中に

青い目の白人女性を見た気がした……。

 

翌朝、家政婦の森畑貴美子

仕事部屋で黒越の死体を発見。

知り合いの鐘場正和警部に聞くと

死亡推定時刻は午前0時から2時。

黒越の仕事部屋のある西棟へは

香月と翡翠が寝ずの番をしていた

リビングを通らないと行けない。

 

実はあの夜リビングを

3人の人物が通っていた。

それは有本、別所、新谷。

翡翠はその3人が出て来たという

“不思議な夢”の話をする――。

 

 

 第三話 女子高生連続絞殺事件

 

香月のサイン会にやって来た

セーラー服の少女藤間菜月が言った。

「お願いがあります。あたしたちの学校が巻き込まれている殺人事件を解決してくださいませんか」

 

最初の被害者は武中遙香

塾から帰宅せず、

翌日公園で死体となって発見された。

紐状のもので絞殺されて

性的暴行はなかった。

被害者の爪が深く切られているのは

DNA検出を恐れたためだろうか。

 

2人目の被害者は北野由里

帰宅しない娘を心配して通報し

深夜1時頃に高校近くの

建設現場跡地で死体となって発見された。

またも絞殺で爪が切られている。

今度は着衣が乱れていたが

性行為の跡は無かった。

 

殺害現場で霊視をする翡翠。

「先輩……どうして、こんなこと、を」

苦しそうに喉を掻きむしる翡翠は

息が落ち着いてからこう言った。

「先生、犯人は、女の子です」

 

菜月に話を聞くと

武中遙香は同じ写真部に所属し

北野由里はクラスメイト。

2人とも同級生なので菜月は先輩ではない。

 

警察の蝦名刑事と一緒に

学校に聞き込みに向かい、

朱色のスカーフの3年生

写真部の部長・蓮見綾子

図書委員長の藁科琴音に出会う。

 

翡翠は菜月と友達になり

とても嬉しそうだった。

そんな矢先、

第三の犠牲者が発生する。

公園で絞殺死体となって発見されたのは

藤間菜月であった……。

 

 

 最終話 VSエリミネーター

 

香月が翡翠と

関わって解決した3つの事件を経て

翡翠の霊媒の力を確信した香月は

連続死体遺棄事件に挑む決意をした。

 

一方で事件の犯人「鶴丘文樹」は

次のターゲットに翡翠を選ぶ。

彼女で実験をしたい。

その欲望には逆らえない。

 

そして、

彼は、

その通りにしたのだ――。

 

 

解説

推理作家・香月史郎は

死者を霊視できる霊媒師

城塚翡翠と出会い、

翡翠が霊能力で導き出した犯人に

香月が論理的に証拠を結びつけて

いくつもの難事件を解決していた。

その2人が世間を騒がす

連続死体遺棄事件に立ち向かう。

証拠を残さない犯人に辿り着けるとしたら

翡翠の超常の力しかない。

しかし殺人鬼の魔手は

すぐそこまで伸びていた――。

先に霊視で犯人がわかってから

そこに論理的に証拠をそろえていく

新感覚オカルト・サイコミステリー。

 

単行本発売の年、

好評を持って迎えられ

ミステリランキングを席巻。

「このミステリーがすごい!」1位

「本格ミステリ・ベスト10」1位

「第20回本格ミステリ大賞」

「ミステリーベスト10」1位

「ベストブック」選出と五冠を達成した。

 

本書の構成はメインとなる

「連続死体遺棄事件」の間に

過去を回想するような形で

連作短編のように

別のエピソードが挟まれている。

 

○プロローグ

●第一話 泣き女の殺人

○インタールードⅠ

●第二話 水鏡荘の殺人

○インタールードⅡ

●第三話 女子高生連続絞殺事件

○インタールードⅢ

●最終話 VSエリミネーター

○エピローグ

 

短編3話の間にあるインタールードは

連続死体遺棄事件の犯人

「鶴丘文樹」の視点で語られ

次の獲物として狙われた翡翠の身に

刻々と危険が迫る様子が描かれている。

 

霊媒師のヒロイン城塚翡翠は帰国子女で

15歳になって日本に来るまで

ニューヨークに住んでいたお嬢様。

曾祖母が英国人というクォーターで

その美しい容姿に惹かれない男性はいない。

殺害現場で死者の魂と共鳴することで

死者を降霊して声を聞くことができるらしい。

 

相棒となる香月は20代後半の推理作家で

大学の後輩・倉持結花の事件で

翡翠と出会い、

その時に霊視の力を体験して以来、

ともに警察の依頼で

難事件を解決していくことになる。

 

2人の友達以上恋人未満の

甘酸っぱいやりとりには

青春ミステリーの香りがあった。

 

そしてラストに待ち受ける

殺人鬼との対決にて

読者は今まで読んできた物語が

ある人物の掌の上で

踊らされていたことに愕然とするだろう。

 

感想

なーほーね。

とにかく伏線回収が素晴らしくて

“これ”をやるために書いた小説。

 

全然違うかもしれないけど

2018年にヒットした映画

『カメラを止めるな!』を連想しました。

それは下のネタバレで触れます。

推理と霊媒のコンビだと

『逆転裁判』が有名ですね。

 

探偵小説に

あまり恋愛要素はいらない派の俺は

とにかく2人のやりとりがきっつい。

犀川と萌絵を見ているみたいで

なかなか感情移入できませんでした。

まあそれも1つの狙いだったわけで……。

 

「すべてが、伏線。」の帯は

かなりネタバレですが

力を抜いて読むべき。

奇術師のマジックを見るときのように――。

 

★★★☆☆ 犯人の意外性

★★☆☆☆ 犯行トリック

★★★☆☆ 物語の面白さ

★★★★★ 伏線の巧妙さ

★★★★☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 △

エッチ度 △

泣ける度 △

 

評価(10点満点)

 8.5点

 

 

 

 

 


 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

3分でわかるネタバレ

第一話 泣き女の殺人

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

倉持結花 ---●小林舞衣 ---憎悪【打撲死:テーブルの角】

 

<結末>

「あの子が何か落とし物を探している」

という翡翠の霊視から

犯人が眼鏡を

割ってしまったことに気づく香月。

 

犯人は女性で

グラスの破片にまぎれた

何かを探すなら

眼鏡のガラスだと香月は思った。

 

結花の死の翌日から

舞衣の眼鏡が新しくなったことから

彼女が犯人と断定。

問い詰めると罪を認め

自分が好きだった西村を振ったあげく

悪口を言った結花を許せなかったらしい。

 

 

第二話 水鏡荘の殺人

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

黒越篤 ---●別所幸介 ---憎悪【撲殺:トロフィー】

 

<結末>

翡翠の見た3人が顔を触ってくる夢が

キャビネットの鏡側の視点だと気づき、

香月は別所にしか殺せなかった

という論理を組み立てる。

 

幽霊を怖がっているという

有本と新谷の行動と鏡の指紋、

パソコンのメールを削除した新谷……。

1時間でパスワードロックがかかるなら

新谷が削除した1時間半以上前に

リビングを通った有本は不可能。

新谷だとしたらわざわざ血をぬぐったのに

鏡に指紋を残すのは不自然。

 

よって1番合理的な犯人

別所を問い詰めると、

黒書館殺人事件に

自分のアイディアがパクられて

口論になってとっさに殺したと自白した。

 

 

第三話 女子高生連続絞殺事件

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

武中遙香 ---●藁科琴音 ---実験【絞殺:スカーフ】

北野由里 ---●藁科琴音 ---実験【絞殺:スカーフ】

藤間菜月 ---●藁科琴音 ---実験【絞殺:スカーフ】

 

<結末>

3人目の被害者・菜月が殺されて

香月と翡翠はお互いに

自分の責任だと落ち込む。

 

3人と接点のある蓮見綾子が疑われるが

トイカメラのフィルムが抜かれていて

それは専門の知識が無いと難しいこと、

犯人はレンズの蓋を落とした形跡があるが

綾子はネオ一眼でレンズ交換できないし

ストラップがついているため綾子ではない。

 

写真の知識から

写真屋の娘・琴音が犯人に浮上。

指紋も一致し逮捕寸前に追い詰めたが

琴音が第四の殺人を実行してしまう。

翡翠の霊媒で現場を見つけて

ギリギリで阻止することができた。

あの時さくらの姉の霊が

女の人を引き留めてくれなかったら……。

香月は翡翠の能力のすごさを実感した。

 

 

最終話 VSエリミネーター

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

(未遂)①城塚翡翠 ---●香月史郎(鶴丘文樹) ---利己主義【刺殺未遂:ナイフ】

 

<結末>

連続死体遺棄事件を捜査する香月は

翡翠と良い雰囲気になり

別荘に連れ込んだ。

そこで突然本性をむき出し

翡翠を縛り上げる。

世間を騒がすこの事件の犯人は

香月……いや鶴丘文樹だった。

 

しかし翡翠は、あはははっと笑い出す。

「わたしが本物の霊媒だってずっと信じてらしたんですか?」

何を言ってるのかわからない香月に

翡翠はすべて論理的に推理して

導き出した結論だと

順を追って説明を始める。

 

泣き女の事件、水鏡荘の事件、

女子高生絞殺事件――。

死体を発見した状況から

香月より先に犯人を特定した翡翠が

霊媒で犯人や証拠品に誘導して

香月に謎を解かせていたのだ。

 

あざとい女もドジっ子もすべて演技。

最初に香月に会った時に

殺人鬼の匂いを感じたため

ずっと彼をマークしていたという。

そして翡翠の罠は香月の手を読んでいて

この会話は全部警察に聞こえていて、

直後に警察が踏み込んで香月は逮捕された。

 

事件後、

しばらく落ち込んでいた翡翠。

ゴミ箱には夏に香月と行った

遊園地の半券が捨ててあった――。

 

香月史郎の正体

この作品の

メインのどんでん返しは

香月と翡翠の正体の2つ。

 

まずは香月。

推理作家・香月史郎

連続殺人鬼・鶴丘文樹だった。

鶴丘が本名で

作家としてのペンネームが香月です。

2人を別人のように思わせるため

叙述トリックが使われています。

 

そのためのミスリード

 

合間の「インタールードⅠ」で

出て来た鶴丘は

★①営業マンらしい地味な短髪、

眼鏡とスーツ(P.119)で

誰の印象にも残らないような地味な男だった。

“らしい”という書き方が巧妙で

嘘をつくことなく読者に

鶴丘が営業マンだと思わせている。

 

これに対して香月の容姿は

ほとんど描写が無い。

後輩の倉持結花が好きだったり

翡翠がキスを嫌がる様子がないので

20代後半のそこそこモテそうな

優男だと想像できる。

 

②香月が連続死体遺棄事件の

犯人像をプロファイルして見せたときも

「犯人は会社員で高い役職」

「自宅に家族が居る可能性がある」

間違ったプロファイリングで

自分から犯人像をそらしていた。(P.144)

 

③鶴丘が見ている翡翠の写真に

見切れてが写っている。

翡翠を狙うには

彼女の側にいる人間が邪魔だと言って

それが香月だと思わせている。(P.214)

話の流れで

邪魔なのは香月だと思ってしまうが

実際の写真の男は水鏡荘の時の別所で

翡翠の側の邪魔者は千和崎真のことだ。

 

ミスリードはこの程度ですが

名前がはっきり違うからというのが

1番騙されやすいところだろう。

①しかし作家には

ペンネームという偽名があります。

  • 作家という職業自体も伏線でしょうか。

 

続いて香月が殺人鬼である伏線、

香月と鶴丘を繋げる伏線を

できるだけ拾って解説します。

 

【犯行の手口】

「インタールードⅠ」で鶴丘は

被害者の体をシャワーで洗っている。(P.123)

これは最近のことで

それまで徹底していなかったが

★③警察で二件前から

犯人の手口が変わった

香月と翡翠が話を聞く場面がある。

香月は二件前の被害者の資料に目を落とす。

被害者が失踪したのは、初夏のころだった。

ちょうど、香月が翡翠と知り合った時期になる。

「被害者の身体を、シャワーかなにかで念入りに洗い流すようになったんだ。肌からは漂白剤の成分まで出ている」(P.341~342)

 ↓

ここに繋がるのが

最初の泣き女事件。

★④【香月のDNA】

死体の第一発見者の香月は

事情聴取を受けて

仕方なくDNAを提出した(P.55)

  • この時に自分のDNAを警察に提供したので、その後の殺人で体液を残すわけにはいかなくなってしまった。DNAを提供したことを香月がかなり嫌がっている様子が見てとれる。

 

【香月の後悔】

香月は結花の死に憤り、

結花の気持ちに答えてやれなくて

こんなことになるなら

もっと早く行動すればと悔やむ。(P.104)

どうしてこんなことになったのだろう。

なにもできず、理不尽さに怒り狂うだけで、取り戻すことは叶わない。

こんなことになるなら、もっと早く――。

もっと早く、自分がこの手で――。

「この手で、彼女を抱きしめてあげたかった――」

  • 初読の時、こいつキモ!っと思ったが、よく読んだら文章が変。もっと早く、この手で、自分が殺したかった。そんな風に言いかけてやめた感じ。

 

【殺人者の共鳴】

編集者の有本は

香月が殺人鬼の心理描写が上手いと言い(P.143)

翡翠が香月に犯人役をやらせて

「殺人鬼の役ですよ。お得意のはずです」とふざけ(P.234)

犯人・琴音も香月には話をした。

「どうして、鐘場警部じゃなくて、僕に話したいと思ったの?」

「え、だって」

少女は不思議そうな顔をした。

それから、考えるように眉を顰める。

あなたなら、わかってくれるかなって、そう思って

「わからないよ」(P.323)

  • 犯人が香月に同じ匂いを感じている。だが少しあからさまかなとも思う伏線。翡翠は香月を殺人鬼だと知っているから反応を見ている。

 

【香月の仕事】

連続死体遺棄事件の

8人目の死体が見つかったのは、

女子高生連続絞殺事件で

3人目の被害者・菜月が殺された前日。(P.342)

 ↓

ではその日、

香月はどうしていたかというと

★⑩自分の仕事を済ませていたのである。

正午には新しい企画の打ち合わせを兼ねた会食があり、午後には雑誌のインタビューを受けた。珍しくスケジュールが目白押しで、事件の捜査は警察に任せて、二日間、片付けるべき自分の仕事に集中していた。(P.267)

  • 殺人という仕事をね。これはさりげなくて上手い。

 

【アナグラム】

最後に

香月史郎(こうげつしろう)は

鶴丘文樹(つるおかふみき)の

アナグラムだった。(P.462)

  • 香(かおる)月(つき)史(ふみ)に男の「郎」を加えて出来たペンネーム。さすがにこれに気づく人はいるとは思えないが(笑)

 

城塚翡翠の正体

そして、

もう1つのどんでん返し。

城塚翡翠は霊媒師ではなく

探偵だったこと。

それも死体を見た瞬間に

真実を見抜くレベルの。

彼女は裏で警察と協力していたが

香月には霊媒師だと思わせていた。

 

そのための

ミスリードとして

まずプロローグで

翡翠の霊媒の力を使って

事件を解決していることを

香月の口から語らせて(P.10)、

死体や現場を見ただけで

ずばり犯人を当てたり、

3つの事件を通して

超常的な力を見せること

読者に信じ込ませようとしている。

 

ただ霊媒師と思ってもらうよりも

探偵としての優れた能力を

隠したいのが本音なので

次の伏線解説の方がメインになる。

 

【タイトルと表紙】

まずは「霊媒探偵」とタイトルで

きちんとネタバレしていること。

表紙の翡翠の指を組み合わせる絵は

シャーロック・ホームズの

イメージでよく使われる。

 

しかし翡翠はホームズ役ではなく

ワトスン役として

香月の推理を誘導していく。

 

【「あの子がなにか探してる」】

結花の霊を降ろした翡翠が

「冷たい冷たい」と泣き叫ぶ。

香月の言葉で少し落ち着いて

周囲を見回してこう言った。

「あの子がなにか探してるみたい……」(P.101)

  • 結花が「あの子」と言うのは親友の舞衣で、探している物があるなら「割れた眼鏡のガラス」だと香月も辿り着いた。

 

【キャビネットの鏡の視点】

翡翠が見た3人が顔を触る夢。

何を意味しているのかと悩む香月に

翡翠が奇妙な感覚だったと話す。

「まるで物にでもなったみたいな……」

そう言って翡翠はコンパクトを取り出した。(P.191)

  • 水鏡荘にある顔を見る物……そうか鏡か!と馬鹿でもわかるように誘導している。コンパクトで化粧を確認するふりもわざとらしい。

 

【写真屋さん】

被害者3人を結びつける接点が見つからない。

悩む香月に翡翠が言う。

「写真屋さん、というのは……。どうでしょうか」(P.297)

  • 行き詰まった香月に痺れを切らした翡翠が「写真屋」の娘・琴音に辿り着くように誘導する。指示厨か。

 

【翡翠の死の予感】

翡翠は自分には防ぐことのできない死が

待っているということを事あるごとに口にする。

普通の死は迎えられないとか(P.11)

死を呼び寄せた報いを受けるとか(P.168)

  • これは餌を撒いている。自分を殺すことがあなたの運命だと、運命に従いなさいと誘惑している。そうして本性を現すのを待っているのだ。

 

翡翠が名探偵だと見抜く伏線としては

★⑰【翡翠への電話】

女子高生連続絞殺事件で

菜月が殺された直前に

香月のボックス席に翡翠が訪ねて来た。

その時に香月が電話に出れなかったのは

今バッテリーが切れていて

充電中だと言う場面がある。

2人が食事しながら談笑していると

蝦名から翡翠に電話がかかって来た。

菜月が死んだという電話だった。(P.274)

  • ここは一見、何の違和感もないように思える。香月の充電が切れているから翡翠の方に電話をかけ直した。……だが、本当にかけ直したのか?香月のスマホのバッテリーが切れていることを知った翡翠がそれを利用してそう言っただけではないのか?充電中でも電源を切っていなければ着信音は聞こえるはずだ。そして、なぜ翡翠の電話番号を蝦名が知っているのか?――実は彼女も裏で警察に協力している。ここの場面は、蝦名が翡翠に電話して、とっさに翡翠が香月の顔を立てる感じに持っていき、同時に読者をも騙そうとしているのだと、俺は読み取りました。

 

その他の伏線解説

この作品、

細かい伏線の数が半端ないので

重要なものを簡単に紹介する。

 

「泣き女の殺人」

 

【防犯カメラ】

鐘場警部から翡翠のマンションには

いたるところに防犯カメラがあって

翡翠のアリバイは完璧だという話が出る。(P.65)

  • その防犯カメラや音声を翡翠が利用して、直前の会話から職業を当てていた。

 

【笑いをこらえる翡翠】

香月が泣き女の話を信じていて、

泣き女が泣いたから結花が死んだのか

結花が死ぬから泣き女が泣いたのか

どちらなのか真剣に悩んでいた。

それを聞いた翡翠の反応。

「霊的なものに理屈を求めるのは滑稽なのですが――、鶏が先か、卵が先か……。つまり彼女は、泣き女に泣かれたから死んだのか?それとも、彼女が死んでしまうから泣き女が泣いたのか?その疑問を、解決したいのです」

翡翠はしばらく、ぽかんと唇を開いて、唖然としたような表情で香月を見ていた。

「僕はそこが妙に気になるんです。翡翠さんは、それをどう捉えていらっしゃるんですか?」(P.83)

  • 香月がすっかり泣き女の話を信じているのが面白すぎて、翡翠は笑いをこらえるのに必死だった。

 

【ペーパードリップのアイスコーヒー】

結花はペーパードリップで

アイスコーヒーを作るのに

ハマっていると語る。

大学生のときアルバイトしていた喫茶店で、ペーパードリップのやり方を教えてもらって、それからハマっちゃってて。アイスコーヒー、急冷式で作るとすっごく美味しいんです。一杯分だけ作るのが難しいので、カフェインに弱いくせに、ついたくさん淹れて飲み残しちゃうんですよね。作り置きすると味が落ちちゃう気がするし、今はちょうどいい容器もなくて」(P.32)

  • わざわざ自分のために1杯分淹れた可能性よりも、来客のために2杯分アイスコーヒーを淹れた可能性が高い。来客があったはず。今は容器もないので作り置きもしていない。

 

【涼しい夜】

結花が死んだ夜は朝にかけて

とても涼しかった。

約束の金曜日の早朝だった。

香月史郎は駅のホームを歩きながら、腕時計を確認した。七時五十分。約束の時間まで、まだ十分ほどある。こんな時間に人と待ち合わせるなんて、最近は滅多にない。六月ではあるが、今朝はかなり涼しかった。たぶん、深夜からそうだったのだろう。寝冷えしそうになり、夜中に目を覚まして窓を閉ざしてしまったのを憶えている。(P.41)

  • 急冷式で作るため氷を使用したのでその氷が床にこぼれてしまった。涼しい夜だったので、氷が完全に気化しないうちに香月たちがやってきて死体を発見し、泣き女の涙と勘違いした。

 

【並んで座る2人】

結花の部屋の

四人がけのダイニングテーブルは

東側の2つの椅子に荷物が置いてあった。

二人がけのソファもある。(P.50)

  • この部屋で2人が座るなら、荷物をどけていないなら椅子でもソファでも並ぶように座るしかない。その相手は恋人または親しい友達に限られる。会社の上司なら荷物をどけて椅子に対面で座るだろう。

 

【丸テーブルの周りだけカーペット】

二人がけソファの前の

背の低い丸テーブルの周りだけ

カーペットが敷いてあった。(P.50)

テーブルを挟んでテレビが置いてある。

  • このソファに座るならアイスコーヒーのグラスは背の低い丸テーブルに置くはず。しかしテーブルの周りだけカーペットが敷いてあるためグラスが落ちても割れにくい。しかも背の低い丸テーブル。ということは、犯人がわざとグラスを割ったという推理が成り立つ。

 

「水鏡荘の殺人」

 

【霊障にあった2人】

別所と翡翠の会話で

有本と新谷が霊障を体験したから

怖がっていると聞く。(P.142)

  • この有本と新谷の2人が霊障を怖がってキャビネットを開いたことで推理のきっかけになる。

 

【「読んじゃいましたよ」】

家政婦の森畑がやって来て

黒越の新刊をちょっと読んだと言った。

黒越は新刊をみんなに配りはじめ

ちょうど全員分配ることができた。(P.147-148)

  • 新刊が宅配便で届いたが、森畑が無断で包みを開けて読んだとは思えない。森畑が読んだのは黒越が包みを開けた後で、机の上にあった本を読んだということ。
  • あの場所にいた人数は、香月、翡翠、黒越、新谷、別所、有本、赤崎、新鳥、灰沢、森畑の10名。ちょうど行き渡ったなら文庫本は10冊あったはず。当然、黒越が1冊持っていないと数が合わないが、仕事部屋にも寝室にも無かった。1冊だけどこに消えたのかが重要な鍵になる。

 

【本棚に自著は入れない】

黒越は仕事部屋には

集中したいから余計な物は置かない。

本棚も自著はおろか

余分な本を入れる隙間も無い。(P.127)

  • この事件の冒頭の死体発見の場面で香月があたりを見回して、黒越が自著も本棚に入れないことを思い出すのだが、この些細なことを思い出せる読者がいるのだろうか。

 

【トイレに行かなかった別所】

パーティーの間中、

翡翠が気に入った別所は

べったり翡翠にくっついて

1回もトイレに行かなかった。(P.146)

  • 他の人はトイレに行くために西棟に行ったついでに黒越の部屋の黒書に触る機会があったが、パーティーの間も後もずっと翡翠についていた別所が、黒書に触る機会は、殺人の時刻以外にありえない。

 

「女子高生連続絞殺事件」

 

【プレハブ小屋のハシゴ】

プレハブ小屋の側面に

ハシゴが立て掛けられていた。(P.238)

  • この建設現場跡地の去年の写真(P.290)にはハシゴは写っていなかった。つまり誰かが何か目的があって、ハシゴを掛けたことになる。→犯人・琴音が屋根に登って写真を撮っていた。

 

【綾子のネオ一眼】

蓮見綾子のレンズ一体型のネオ一眼。

本体とレンズキャップに

ストラップがついている。(P.265)

  • 犯人は高所から俯瞰で遺体を撮影した形跡がある。滑り台からレンズのキャップが外れて転がった跡もあった。綾子のネオ一眼はレンズ交換できないし、キャップにストラップがついていて落ちることもない。


【綾子はフィルムカメラに無知】

石内教諭から蓮見綾子は

フィルムカメラのことは

さっぱり知らないという情報を得た。(P.259)

  • 追加の伏線㉛ロモのトイカメラのフィルムを抜くのはコツがいるので知らない者は苦労する。(P.291)そのため、綾子は犯人ではない。

 

【落ちた由里のスカーフに靴跡】

2番目の被害者・由里は服が乱れ

翠のスカーフが地面に落ちていて

由里のローファーの靴跡がついていた。(P.225)

  • これは下のセーラー服の伏線に繋がる伏線。逃げようとした由里の靴跡がスカーフについているから、先にスカーフを脱がされたことがわかる。
  • これに関連する伏線が㉝1番目の殺害現場の公園にはベンチがあって(P.223、P.229)、2番目の殺害現場には座る場所が無かったこと。つまり、1番目は座った状態で絞殺、2番目は立った状態で絞殺された。2番目はスカーフを手に持っていたため、力が抜けて落下したのだ。

 ↓

★㉞【スカーフ留めのないセーラー服】

翡翠がセーラー服に着替えさせられて

撮影会になった時に翡翠が

スカーフの結び方を気にする。

香月の前に連れてこられたセーラー服姿の翡翠は、顔を真っ赤にして、そう俯いていた。

その恥じらいをごまかすように、襟から垂れる深い翠のタイをいじらしく片手で弄ぶ様子が、とてもキュートだ。

「いや、よく似合ってますよ」

「そ、そうでしょうか……。これ、わたしが中学で着たことのあるセーラー服と、少し違ってて、スカーフ留めがないんですね。タイの結び方、変じゃないです?」(P.264-265)

  • この学校のセーラー服の構造が重要という伏線。スカーフ留めがあるセーラー服はスカーフを通すだけでいいが、スカーフ留めがない場合は結ばないといけない。事件現場にスカーフが落ちていたが、ネクタイ結びは片方を引っ張っても簡単にはほどけない。そのスカーフは犯人が外したと考えるよりも、被害者が自ら外したと考える方が自然だ。とすれば犯人は親しい人物。P.257には、㉟ネクタイ状に垂れた朱のスカーフを弄る琴音が出て容疑者の仲間入りする

 

【琴音の殺意のセーラー服】

藁科琴音の家を訪ねた時、

琴音は学校でもないのに

セーラー服を着ていた。(P.299)

学校がないのになぜ制服か尋ねると

出かける用事があるんですが、私服を選ぶのが億劫で」(P.303)

  • 凶器のスカーフを最も自然に隠せる場所は制服。しかもこれから、殺人に行くところだ。

 

【ドジっ子翡翠】

翡翠がお茶をこぼして

タイトスカートを濡らしてしまい、

化粧室に立った時に

琴音とぶつかりそうになってしまう。(P.302)

  • 翡翠はマジシャンの早業で琴音のスマホを盗み、GPSアプリを入れて位置情報を転送し、琴音の居場所を知った。

 

【千和崎へのメール】

香月と翡翠が公園に居るとき、

蝦名から香月に

琴音につけていた尾行が

巻かれたという電話が入る。

その直前に翡翠が

千和崎へ今から帰るとメールを送っていた。

そして翡翠は何か

嫌な予感がするとも言っていた。(P.308)

  • 翡翠は琴音が尾行を巻いたことを千和崎からのメールで知り、次の指示を与えるためのメールの返信だった。千和崎への指示は、琴音の犯行をできるだけ遅らせるように通行人Aのような役で千和崎が琴音のいる公園で電話がなかなか繋がらないふりをして時間稼ぎするというもの。翡翠は㊴吉原さくらには姉が守護霊としてついているという設定を使い、姉の霊が電波を妨害したように思わせた。

 

★㊵【各話のエンドタイトル】

第一話は“Iced coffee” ends.(P.118)

第二話は“Grimoire” ends.(P.210)

第三話は“Scarf” ends.(P.327)

各話の締めくくりにある。

  • それぞれ本来気づくべきヒントが「アイスコーヒー」「黒書」「スカーフ」だと示唆している。

 

★㊶【mediumの意味】

最終話で翡翠が

シャーロック・ホームズの言葉を引用する。

中間の推理を悉く消去し、ただ始点と結論だけを示すとすると、安っぽくはあるが、ともかく相手を驚嘆させる効果は十分にある……」(P.380)

  • 「medium」とは媒介の意味もあり、中間の意味もある。作者がこの本でやりたかったことは“この台詞”が全てを物語っている。

 

欠点や疑問など

  • 「すべてが、伏線。」とか、「やられた!」とかあきらかに仕掛けがあることを匂わせる帯のコメント。
  • 犯行のトリック自体は目新しいものが無い。
  • 翡翠のキャラクターが苦手。うざい女を演じているのはわかるが……相手を馬鹿にした口調に腹が立つ。
  • 犯人をサイコパスにすると何でもアリになる。
  • 泣き女の事件、翡翠が駅で絡まれた時、水子のことやDVの推理はどこから出したのか?あれは香月を騙すために翡翠が役者を仕込んだお芝居だった方が納得できそう。
  • 眼鏡を使用している人は普通、予備の眼鏡を持っている。気分で替えたり、度で遠近使い分けます。急に眼鏡が替わったのは決め手にならない。
  • 水鏡荘の殺人で、別所が黒越の仕事部屋にあった黒書を持って「ここはどういうことだ」と詰めたというのは苦しい。まず自分の本を持って行くはず。無理して黒越の本に指紋を付けた感がある。
  • 新谷が鏡を見た時にキャビネットを開けて、出る時に閉めて帰ったというが、ホラーの定番はキャビネットを閉めた時、鏡に幽霊が立っているシーンです。幽霊に怯える新谷が鏡を戻すとは思えません。
  • 新谷が死体を発見してパソコンのデータを削除した後、冷静に香月と翡翠と一緒にお茶を飲んだというのは、さすがに無理がある。自分が犯人じゃないんだからすぐ報告すればいいだけ。データ消去に時間がかかっていたとしても、トイレの時間は特定できないんだから、トイレが長くてその後で仕事部屋に入ったら死んでいたと言えばいいでしょう。それと、新谷が仕事部屋に入る理由は何?しかもセクシーなワンピースでしょ。写真を消したいと思っているはずなのに、抱かれに行ったの?それはおかしくないですか?ドアが開いていて気になって入ったのならわかりますが、そうは書いていませんでした。
  • 女子高生連続絞殺事件、あのやり方では指紋の証拠能力が無い。未成年だからとかではなく正直に指紋の提供を依頼すべき。それが次の殺人の抑止にもなる。
  • 高いところに登って上空から死体の写真を撮る必要がどこにあるんでしょうか?え?絶対そうしないといけない理由が書いてましたか?サイコだから。あれれぇ、爪を切るほど痕跡を消したい犯人が余計な場所に登って証拠を残すのはなんだかおかしいなぁ~。矛盾してるなぁ~。う~ん。
  • 翡翠が奇術師で自在に物をすり取ったり、都合の悪いことを全部マジックでゴリ押しするのはいただけない。
  • 香月と最初に会った時に殺人鬼と見抜く推理が弱い。霊視されて困る秘密があると言うが、誰にでも秘密はあるでしょう。
  • 子供のいる家庭で車のナンバープレートを子供の誕生日にするという偏見のソースを教えてください。パスコードを誕生日にする人って実際どれくらいなのかな?
  • 犯人発覚後、残りのページで今までの伏線の答え合わせをするのが長すぎる。伏線のための伏線が多い。傍点が多すぎるのもウザく感じる要因です。それと香月なら、これは翡翠が時間稼ぎしているなと気づけるはずだ。

 

実は2人の正体は囮

香月と翡翠の正体。

実を言うと見破ってしまいました。

しかし……

そもそも2人の正体は

ミステリーを読み慣れた読者なら

だいたい予想がつくと思う。

 

最後の章で明かされる

この2重の解決編の構成は

正直上手いと思いました。

高いレベルのことを

やってる作品に対しては

俺はきちんと評価します。

 

『カメラを止めるな!』に

似ていると思ったのは

前半に「お芝居」を見せて

後半に「裏話で答え合わせ」するという

構成が似ているなという意味。

時期的にも影響を受けている?

 

最後に、

忘れてはいけないのは

翡翠は本当に

香月のことが好きになっていたこと。

 

「奇術師というものは、無駄な動きなんてなに一つとりません」(P.421)

「理由のない行動は一つもありません」(P.440)

君はどこまでが芝居なのか

まったくわからないと言う香月に

翡翠は答えた。

「ええ、ときどき、私にも――」(P.439)

それは、つまり――。

 

 

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