刑事コロンボ

#19『別れのワイン』

[ANY OLD PORT IN A STORM]

(1973年10月7日放送)アメリカ

(1974年6月29日放送)日本

 

 

 

<あらすじ>

ワインづくりに半生を捧げてきたエイドリアン・カッシーニ(ドナルド・プレザンス)は、ワイナリーのオーナーである腹違いの弟リック・カッシーニ(ゲイリー・コンウェイ)から会社を売却することを聞かされ激昂、置物で彼を殴り倒した。昏倒したリックをワイン貯蔵庫に運ぶと、数日で窒息するよう空調を切るエイドリアン。そして彼は、予定していたニューヨーク旅行へと出発していった――。

 

<スタッフ>

監督 レオ・ペン

脚本 スタンリー・ラルフ・ロス

原案 ラリー・コーエン

ストーリー監修 ジャクソン・ギリス

制作 ロバート・F・オニール

音楽 ディック・デ・ベネディクティス

撮影 ハリー・ウォルフ

編集 バド・スモール、ラリー・レスター

 

<キャスト>

ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部

ドナルド・プレザンス(エイドリアン・カッシーニ)ワインコレクター

ゲイリー・コンウェイ(リック・カッシーニ)ワイナリーのオーナー

ジュリー・ハリス(カレン・フィールディング)エイドリアンの秘書

ダナ・エルカー(ファルコン)ワイン協会会員

ロバート・エレンスタイン(スタイン)ワイン協会会員

レジス・J・コーディック(ルイス)ワイン協会会員

ジョイス・ジルソン(ジョーン・ステーシー)リックの婚約者

 

感想

今回のコロンボの相手は

熱心なワイン・コレクター。

家族で経営するワイン工場を

義弟が売却しようとしていると知って、

怒った兄はとっさに

置物で殴りつけて気絶させ、

手足を縛ってワイン貯蔵庫に閉じ込め

ニューヨークへと旅立った。

 

これが噂に聞く

コロンボファンが愛するベスト1作品か。

犯人を追い詰めていくやりとり、

手掛かりの出し方と

ロジックは安定していたが

トリックや伏線回収を重視する

俺の好みとはちょっと違ったかな。

可もなく不可もない、

何か1つ飛び抜けたものが欲しかった。

最後どうやってひっかけるのか

読めてしまうのももったいない。

 

エイドリアンの吹替えの声が

落ち着いていてすごく優しい印象。

金を無心する弟が悪く描かれているが

この兄貴も結構クソだと思う。

(下の欠点の項で)

 

今回コロンボは

「もう1つだけ」と言って戻ってくる

いつものパターンに加えて

ドアから出て帰った後

窓から戻って来るという

変則パターンで攻めてきたので

これには笑ってしまった。

しつこい!(笑)

 

よくコロンボが目をつけた容疑者の家に

検死結果や事件の進捗を報告させて

その電話の会話をこれ見よがしに

容疑者に聞かせる手をよく使うが

この効果ってどれくらいあるのだろう?

今回の秘書カレンが

エイドリアンへの疑惑を抱いたのは

コロンボの電話を

2回もそばで聞かされたせいかも。

 

前評判の高さからハードルが上がり

正直がっかりだったが、

犯人を逮捕するために

ワインの勉強をするコロンボの姿は

ワインを愛する犯人に対し

敬意を持っているのが伝わります。

そして「よく勉強されましたな」と

こちらも敬意で返す犯人。

逮捕後のコロンボの

粋なはからいはとても印象に残りました。

 

☆☆☆☆☆ 犯人の意外性

★★★☆☆ 犯行トリック

★★★★☆ 物語の面白さ

★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ

★★☆☆☆ どんでん返し

 

笑える度 △

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 △

 

評価(10点満点)

 7点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

リック・カッシーニ ---●エイドリアン・カッシーニ ---障害の除去【窒息死:ワイン貯蔵室】

 

<結末>

リックが帰った姿を

秘書のカレンが見たという証言で

エイドリアンを疑ってしまって

申し訳ないと謝罪するコロンボ。

お詫びにカレンも誘って3人で

レストランで食事をすることに。

 

高級なポルト・ワインが出て

エイドリアンは一口飲んで

こんな汚らしい水が飲めるかと激昂。

酸化してしまって

味がまずくなっていると言う。

それは先週40℃の暑い日があったから

そのせいでしょうと返すコロンボ。

 

嫌な予感がしたエイドリアンは

ワイン貯蔵庫のワインを調べて

殺人の時に空調を切ったせいで

ワインが全部ダメに

なってしまったことにショックを受け、

ワインを海に投げ捨てるところを

コロンボに見られて自供する。

レストランで出されたワインは

コロンボがワイン貯蔵庫から

こっそり1本盗み出した

エイドリアンのオールド・ポルトだった。

 

トリック解説

エイドリアンの使った

「犯行トリック」

被害者をワイン貯蔵庫に

縛って閉じ込めて窒息死させ、

自分はアリバイ作りのため

旅行に出るというもの。

 

しかし殺人のきっかけは

偶然やって来た弟リックが

エイドリアンの経営するワイナリーを

勝手に売却すると言い出したからだ。

会社の経営はエイドリアンだが

父は会社の権利は弟に相続させていた。

身売り先のマリノ酒造は

安酒を大量に売って儲けている会社で

ワイン作りにすべてを懸けてきた

エイドリアンは激怒し

とっさにトロフィーでリックを殴ってしまった。

 

ワイン協会の有力者を待たせているため

ワインを持って試飲室に戻る。

秘書のカレンにも弟がさきほど

ワイン貯蔵庫を見に行ったと

嘘を教えて追い払う。

 

全員が帰った後で

気絶しているリックの手足を固く縛り

ワイン貯蔵庫の空調を切って閉じ込める。

リックのスポーツカーを車庫に入れ

自分の車に乗って空港へ出発。

その日はニューヨークの競売に

行く予定だったので

予定通りに行動することでアリバイになる。

 

1週間後、

帰宅した彼は車庫の車を入れ替える。

貯蔵庫のリックの死体を

スキューバのウェットスーツに着替えさせて

リックの車に乗せ、

トランクに折り畳み自転車を積み込む。

そのリックの車で海に行き、

崖から死体を投げ落とす。

適度に頭を打ちながら落下し

飛び込んだ時に頭を打って気絶して

酸素が切れて窒息したという偽装になる。

(一応、気絶した時に頭を打撲している)

そうして車から

自転車を取り出して乗って帰る――という計画だ。

 

金庫に閉じ込めて

窒息死させるという殺害方法の

「古畑任三郎」の『死者からの伝言』

手が震えるから他の人に大事な役を任せて

いつもと違うことをしてしまう

『さよなら、DJ』などにオマージュがみられる。

 


 

コロンボが犯人を

自白させるために仕掛けた

「逆トリック」だが、

コロンボは犯人の

ワインへのこだわりを逆に利用する。

 

疑いを向けたお詫びと称して

高級レストランで食事をする

コロンボとエイドリアンとカレンの3人。

しかしレストランで出されたポルトは

加熱のために酸化していた。

一口で味が落ちていることを

見抜いたエイドリアンは

立腹して食事をやめて立ち上がる。

 

高温でワインの質が落ちることを

エイドリアンが気にしないわけがない。

先週カミさんと子供と一緒に

ピクニックに行った日は

40度という暑い日だったことを

コロンボがエイドリアンに話すと

彼は急にソワソワしだした。

 

殺人の時に空調を切っていたので

ワイン貯蔵庫のワインが

全部ダメになっていたのだ。

それを処分するために

海に来たところを捕まえる。

 

もしもエイドリアンが

ワインの違いに気づかなかったら

決定的な証拠にはならなかっただろう。

ワインを愛する犯人自身が

些細なワインの味覚で

墓穴を掘るというオチは素晴らしい。

 

真相を知ったカレンに結婚を迫られて

「結婚よりも刑務所のほうがマシだ」と言って

素直に出頭するエイドリアン。

『古畑任三郎』の「汚れた王将」では

飛車が成らなかった理由を

感想戦で説明ができなくて悩み、

「合理的な説明ができないくらいなら

自首したほうがマシだ」と言うのは

「別れのワイン」のオマージュになっている。

 


 

犯人がミスをしたり

些細な矛盾点から

コロンボが真相に近づいていく

「発覚トリック」をピックアップ。

 

①リックはスキューバ・ダイビング中に

頭を打って気絶してそのまま水中で

空気が切れて死亡したと思われたが

死亡推定時刻の6日前の

18日の火曜日は雨が降っていた。

コロンボは「火曜日に雨が降っていたか誰か知らない?」と片っ端から火曜日の天気を聞いていたのは、雨が降っているのにスキューバに行くのはおかしいからだ。それに6日間も崖の上に真っ赤な車が置きっぱなしだと目立つはずだが誰も見ていないのも不自然。エイドリアンはあそこは人気がないし、近頃は他人に無関心ですからと納得させようとする。

 

②リックは車が大のお気に入り。

あの車はオープンカーで

コロンボが現場に駆けつけた時

車には幌がかかっていなかった。

死亡した火曜日は朝から晩まで雨なのに、オープンカーの幌をかけないというのはありえない。エイドリアンは秋雨の時は突風が吹くから閉め方が甘くて幌が外れたのではないかと説明した。それだと中がビショ濡れになってしまうが、中は全く濡れてすらいなかった。刑事が「敷物がふかふかでいいですねぇ」と羨むくらいに、雨に濡れた形跡は無い。新車のようだったという。ちなみにリックの愛車は「フェラーリ330GTC」

 

③解剖の結果、

リックは胃の内容物がからっぽだった。

2日間ほど何も食べていない。

スポーツマンのリックは大食家で

とくに食事療法もやってないと

恋人や友人は言う。

2日も飲まず食わずでスキューバやるなんて考えられない。殺人の可能性が高い。

 

④エイドリアンは

ワイン協会の仲間が来た時

一瞬だけ席を外している。

その後とっておきのクラレットを

みんなにふるまった。

デカンターに移す役目は

他の人(ファルコン)が行った。

コロンボはエイドリアンが目の前でデカンターに注ぐ姿を見て「これだけは誰にも任せたことがない」と言っていたのを聞いていた。なぜこだわりのある大事な役目を他人に任せたのか?エイドリアンは良い知らせを受けた感謝の印に譲ったと弁明したが、この役目は手が震えていてはできない。つまり犯行の後なので、手が震えてしまうから他の人に注がせたのだとわかる。

 

⑤弟の結婚祝いに

5000ドルもの小切手を送ったが

エイドリアンはニューヨークの競売で

5000ドルでワインを落札している。

5000ドルまでなら「返ってくるアテがある」ということ。弟に送った5000ドルが返ってくるから。死んでいることを知っていたから。


⑥エイドリアンの秘書カレンは

コロンボの聞き込みで

日曜日にリックが来た姿も

帰る姿も見たと言った。

彼女はエイドリアンの秘書になって

12年もそばにいる。

秘書カレンはコロンボがエイドリアンを殺人犯と疑っていることを察して守ろうとしている。当然コロンボもそれに気づいて彼女が嘘をつく理由を探ろうとする。

 

⑦レストランで出された

フェリエ・ヴィンテージ・ポルトは

加熱のために酸化していた。

一口で味が落ちていることを

見抜いたエイドリアンは立腹して

食事をやめて立ち上がる。

コロンボの仕掛けた今回の「決め手」。エイドリアンが怒ってけなしたワインは実は自分の貯蔵庫のワインだった。コロンボ自身にはこの些細な味覚を判別できなかったが、犯人自身が「ワイン貯蔵庫の空調を切った」ことを証明してしまった。

 

 

伏線解説(★は巧妙なもの)

【スキューバの趣味】

アカプルコで結婚式を挙げると

エイドリアンに報告する弟リック。

「荷物もスキューバの道具も積んだ」

  • さりげなくリックがスキューバダイビングが趣味だと言わせて、この後の偽装でスキューバのウェットスーツが出ても不自然ではないように伏線を張っている。

 

【カレンの気持ち】

エイドリアンの秘書を12年務めるカレン。

ニューヨークの帰りの飛行機で

カレンがタクシーを呼びましょうと言うと

エイドリアンは自分の車があると断り

君はタクシーか?と聞かれたカレンは

タクシーだと答えた。

「そうか」と返すエイドリアンに

カレンは何も言わなかった。

  • この微妙なやりとり。カレンはエイドリアンに「車で送ろうか」と言って欲しかったわけです。すでにこの時点でラストに繋がる2人の気持ちのすれ違いが見て取れます。エイドリアンとしては、早くリックの死体を始末したいので仕方ないところではありますが。

 

★③【Any Port in a Storm】

サブタイトルの原題

“Any Old Port in a Storm”は、

慣用句「Any Port in a Storm」

(嵐の中の港=窮余の策)」

「Old Port(古いポルトガルワイン)」を掛けたもの。

  • オールド・ポルトはコロンボがレストランで一芝居打った時に使用したフェリエ・ヴィンテージ・ポルトのこと。コロンボが決定的な証拠を見つけるために「窮余の策」でオールド・ポルトを使ったことに掛けてある。エイドリアンが秘書の結婚の強要に困って「窮余の策」で犯行を自白することや、会社の身売りを計画した弟の「窮余の策」とか、すべてこの題名に掛かっている。邦題の『別れのワイン』も愛する全てのワインを捨てることになってしまったという別れを意味していた。

 

欠点や疑問など

  • ワインの銘柄が多数登場するため知識が無いと理解が難しいかも。
  • 「マリノ酒造に売るだと!」と机を叩いた音や弟を殴った音が全く他の人に聞こえなかったのかしら。あそこ吹替えだとわりと控えめだが、オリジナルの字幕だとドナルド・プレザンスがめっちゃ大声。
  • 競売のところ、5000ドルでエイドリアンが手を上げた様子も5000と言った声も無い。
  • ワイン貯蔵庫のドアを閉めて空調を切ったくらいで窒息死するのだろうか?ドアに隙間がありそうで、それほど密閉していた感じに見えなかった。熱中症で窒息死したなら猿ぐつわをしていたらその可能性は高くなるが、出る時には手足しか縛っていなかったのでこれは不思議。なんだかおかしいなぁ~。
  • リックはもっと抵抗できたはず。転がってワイン棚を倒して大事なワインを全部割って滅茶苦茶にしてやればいいのに……。と、思って自分で手と足を固定して転がろうとしてみたが勢いは出せなかった。確かに立てないのはきつい。出発前と帰宅後を見比べてみたら、リックはほとんど動けていなかった。網のカゴが3つだけ移動していたが、手前の1個が不自然に大きく移動したように思える。
  • ↑この時、カゴを顔の前に置いてあるのは、死体の顔を見せないためです。窒息した顔は見て楽しいものじゃない。チラッとゴーグル姿の死体は出てきましたが、あまり視聴者に見せないように着替えさせる場面はカットしてあった。その横顔は左からのアングルで、発見時の死体が右側を下に向きを変えてあったのは暴れたからという理由ともう1つは死斑が右に出るから右からのアングルだと気持ち悪くなるからだろう。――という推理は深読みし過ぎ?それから「腐敗」に関して。死後5~6日間高温の貯蔵庫で熱された死体は腐らないのか?との疑問がネットで見られたが、通常3日前後で死体は腐敗し、気温が高いと腐敗速度はさらに進行するためエイドリアンが帰って見た時は本来もっと酷い状態です。でもさすがにそれを映像で出せないからリアルにしていないだけでしょう。また高温だと死後硬直は起こらないので着替えさせるのは無理では無いことを付け加えておきます。
  • リックの手足にきつく縛った痕が残っている。死に物狂いで抵抗してロープが手首に食い込んだだろう。真っ赤になっているから警察が見落とすはずないのに全く触れないのはおかしい。
  • 温度に気を遣っているのに空調を切ったらワインがどうなるか全く気づかなかったというのはワインコレクターとしてあまりにも不整合です。そこまで暑くならないだろうと思っていたにしても、一週間後、戻って来た時に汗をかくほど暑いのだから、その時点でワインがどうなったか心配にならないというのは、さすがに?
  • カレンは忠実な秘書のままで良かったのに、なぜ最後あんな脅迫みたいなことをやらせたのか。急に印象が悪くなってしまった。そもそもはエイドリアンが名前で呼ばせたり、慎ましやかだった彼女の枷を外してしまったことも原因。
  • コロンボがワイン貯蔵庫に閉じ込められた時に、ワインを1本くすねたと言うが出て来たコロンボがワインをどこに隠しているかわからない。コートの内ポケットだとすれば左側が怪しいかな。左手をズボンのポケットに入れて、コートの左側をガードしているように見える。ただし1本でも重そうだから、口で言うほど簡単に持ち出せるとも思えないが……。『溶ける糸』もこういう「嘘」シーンがあって、納得できなかった。ミステリーファンは「嘘」には敏感です。
  • 「そりゃもう真っ先に教えますよ」とコロンボが右手を挙げてさよならの挨拶をした次のシーン、なぜか左手を挙げているという編集ミス。
  • 刑事があなたを疑ったお詫びにご馳走しますと言って高級レストランで一緒に食事する……おいおいおい、ツッコミどころ満載なんだが?コロンボが、疑ってすみませんこれはお詫びですと言ってくすねたワインを差し出し、これは酸化してるじゃないかと言わせて、いやぁ~あなたのワインですよと追い詰めるのが今までのパターンだった。エイドリアンは証拠を突きつけなくても自供してくれるという読みがあったんだろうか。
  • 「コロンボが共感し得る犯人」とのことだが、俺はエイドリアンに共感も同情もしなかったし、むしろクソ野郎だと思った。とくに閉じ込めて窒息させるという殺害方法がひどすぎる。弟の気持ちになって想像してみてくださいよ。明日は結婚式という幸せの絶頂から一転、2日間も地獄のような思いをさせられて高温で蒸し焼き。しかも窒息死の死体をスキューバ事故に偽装までしている。こんな奴のどこに共感しろと?
  • 見過ごしてはいけないポイントが、「弟がオーナー、兄が経営者」ということ。なぜあの金遣いの荒い弟に大事な会社を相続させたのか?4分20秒あたりで2人が言い争う会話を聞いて推理すると――父は金を弟に使わせたくなくて兄に全額残して弟に会社を継がせた。しかし兄はワインにその金を遣い込んで金が無くなり、弟は兄に経営を任せたほうが楽だし儲かると思って、弟が金を失った兄に役職を与えている。ところが兄のワインコレクターぶりは治らず、今回の身売りも元々はエイドリアンが会社の金をヴィンテージ・ワインにつぎ込んで経営が傾いたようだ。マリノ酒造は安酒で儲けている会社で、ワインにこだわりのある兄にとって許せないだろうが、弟の判断が正しくて身売りで全従業員が救われる可能性もあった。弟は社交的で友人も多い、アマチュアレーサーで活躍したがプロで金を稼ぐことはしなかったのは、女に金を貢がせればいいので多少の金なら苦労はしていなかったからだ。つまり父親は、弟の方がマシで、ワインにしか興味の無い兄の方がスノッブでどうしようもないクズ野郎だと見抜いていたということです。――ここまで考察を伸ばすと、兄に共感するのは難しいですね。
  • 上の「コロンボの共感」はビジネスパートナーの秘書に結婚または脅迫されて、刑務所の方がマシだというところにコロンボは共感したという意見もあります。そっちはわからないが、大事なワインが全部ダメになってしまって、もう生きがいが無くなってしまった気持ちはわかる。俺も1万円以上出して集めた絶版の推理小説コレクションや、FANZAで購入したVR動画1000本が全部見れなくなって、このブログの記事もアメーバに何かあって全部消えたらさすがに絶望するわ――。『別れのVR』か。んっ、共感!

 

名場面・名台詞

弟の事故はさぞかしショックでしょうと聞くと

今までよく生きた方だとエイドリアンは

弟の無茶な生き方を批判する。

エイドリアン「もちろん気落ちはしてます。弟を失って悲しまぬ者はおりますまい。……ただ、あれが思うままに生きたことを慰めとするのみです。私の選んだ人生とは違うが、あれは幸福でした」

 

ワインを勉強してきたコロンボが

エイドリアンの出したワインの

銘柄を当てようとする。

コロンボ「デリケートな舌触り。豊かな香り。そしてコクがある。バーガンディーでしょうが、ピノ・ノワールかギャメイかはちょっと……」

エイドリアン「ほおぉ……ほほ。いやぁお見事です。驚きましたよ。おっしゃるとおりピノ・ノワールです。なんでわかりました?」

コロンボ「おたくで作る赤(ワイン)は3種類だけ。バーガンディーが2つ。ピノ・ノワールとギャメイ。それにクラレットのカベルネ・ソーヴィネヨン。こないだカベルネはご馳走になりましたがこの味じゃなかった。だからこれはバーガンディーで、ピノ・ノワールかギャメイです」

エイドリアン「なかなか抜け目のない方ですな」

コロンボ「少々研究しましてね」

 

警察に嘘の証言をしたカレンに

エイドリアンが車の中で本心を問いただす。

するとカレンは

「あなたのことだけが心配だ」と話す。

エイドリアン「君まで危険を犯すことはなかった」

カレン「でも……」

エイドリアン「単なる従業員なんだからな」

カレン「……お力になりたかったんです。あたしが黙ってたらお困りになるかと思って。あなたのことだけが心配でしたの。エイドリアン。それがすべてなんです。あなただけが心配で……」

エイドリアン「12年……。12年も有能にして誠実、控えめな秘書が、冷静・無感動な人が今危機に直面してその真の姿を見せる。驚くべきことだ」

 

ワインを海に投げ捨てるところを

コロンボに見つかり

観念したエイドリアンは素直に同行。

警部の車に乗り込む。

コロンボ「自供してくれますか?」

エイドリアン「もちろん自供しますよ。偽らざる真実をね。……実を言うと、重荷を下ろした気持ちなんです」

コロンボ「どうして?」

エイドリアン「つまりですな、カレンが真相を知ってそれを理由に結婚を迫って来たんです。女の人は、こうなると強いですな。……刑務所は、結婚より自由かもしれませんな」

 

車の中でコロンボと会話するエイドリアン。

エイドリアン「あとは一体どうなる?葡萄園や工場は」

コロンボ「何とか続きますよ」

エイドリアン「全生涯を通じて私が真に愛したのはここ(ワイナリー)だけだった。

 

 後部座席に身を乗り出してワインとグラスを取り出すコロンボ。

 

コロンボ「勝手ですがこんなもん持って来たんです」

エイドリアン「ほ、ほほほ。モンテフィアスコーネ。最高のデザート・ワインだ」

コロンボ「お気に召して良かった」

エイドリアン「それに別れの宴にもふさわしい。……よく勉強されましたな」

コロンボ「ありがとう。なによりも嬉しいお褒めの言葉です」

 

好事家のためのトリックノートトリック分類表

4-A、凶器、毒物「凶器トリック」

●絞殺、窒息死

【ワイン貯蔵庫】

殴って気絶させた被害者の手足を固く縛り、ワイン貯蔵庫の空調を切って1週間放置。貯蔵庫の空気が無くなって窒息死させる。ぞの間に犯人は旅に出てアリバイを作る。

 

5-A、隠し方「死体の隠し方トリック」

●一時的に隠す

【ワイン貯蔵庫】

まだ生きている状態で手足を縛った被害者をワイン貯蔵庫に入れて窒息死させる。

 

5-A、隠し方「死体の隠し方トリック」

●死体移動による欺瞞

○犯人が自力で移動させるもの

【スキューバ事故】

数日前に窒息死した死体をスキューバのウェットスーツに着替えさせ崖から投げ落とし、飛び込んだ時に頭を打って気絶したまま酸素が切れて窒息死した事故のように偽装する。

 

8-A、発覚「物理的な手掛かりの機智」

●犯人の失敗

【オープンカーの幌】

被害者の死亡した6日前の火曜日は1日中雨が降っていたが、海岸の近くに乗り捨ててあった被害者の車は幌がかかっていなかった。それなのに中は全く濡れていない。死体と車を発見前日に持って来たものとわかる。

 

8-B、発覚「心理的な手掛かりの機智」

●犯人の失敗

【大事な役目を他人に任せる】

ワインをボトルからデカンターに注ぐ役目は必ず犯人自身が行っていたが、犯行の後に手が震えていたため、その役目を他人にやってもらったことで発覚に繋がる。

 

8-C、発覚「犯人自白告発トリック」

●犯人逮捕直前の自白強要トリック

【ワインの味】

犯人をレストランに誘い、高級なヴィンテージ・ワインを出してもらう。犯人はこのワインは65℃以上の高温で保管したから質が落ち酸化しているではないかと激怒する。実はそれは犯人のワイン貯蔵庫から1本くすねてきたワインで、探偵はあらかじめこのワインを出すようにウェイターに伝えてあった。先週は40℃も気温が上がった暑い日があったことを犯人に教え、犯人が自分のワインがダメになっていることに気づいて捨てているところを逮捕する。

 

 

『刑事コロンボ』各話レビューまとめ