刑事コロンボ

#1『殺人処方箋』

[PRESCRIPTION:MURDER]

(1968年2月20日放送)アメリカ

(1972年8月27日放送)日本

 

 

 

<あらすじ>

精神分析医レイ・フレミング(ジーン・バリー)は、患者である映画女優ジョーン・ハドソン(キャスリン・ジャスティス)と愛人関係にあった。年上の妻キャロル(ニナ・フォック)は夫の浮気を許さず、ついに財産を差し押さえて離婚したうえで社会的地位も奪うと宣言する。それを巧みに懐柔し、アカプルコへの「第2のハネムーン」に誘うフレミング。しかし、すべては彼の周到な殺人計画の一部であった。

 

<スタッフ>

監督・製作 リチャード・アーヴィング

原作・脚本 リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク

音楽 デイヴ・グルーシン

撮影 レイ・レナハン

編集 リチャード・G・レイ

 

<キャスト>

ピーター・フォーク(コロンボ)警部

ジーン・バリー(レイ・フレミング)精神分析医

ニナ・フォック(キャロル・フレミング)その妻

キャスリン・ジャスティス(ジョーン・ハドソン)フレミングの愛人、映画女優

ヴァージニア・グレッグ(ピートリー)フレミングの秘書

ウィリアム・ウィンダム(バート・ゴードン)検事

 

感想

ピーター・フォークが演じる

「刑事コロンボ」シリーズの

記念すべき第1作目。

原型は1960年の短編小説で

舞台の脚本をテレビ用に書き直した。

 

前半で犯人側の視点で

殺人に至るまでを描き、

後半に探偵役が出てきて

逮捕までの流れを描く形式。

これを「倒叙(とうじょ)」といい

このタイプを「倒叙ミステリー」と呼ぶ。

 

古くはフランシス・アイルズ『殺意』

リチャード・ハル『叔母殺人事件』

F・W・クロフツ『クロイドン発12時40分』と

名作があり

日本ではドラマ『古畑任三郎』が有名。

 

『刑事コロンボ』の記念すべき

最初の犯人は精神分析医フレミング。

若い女優ジョーンと浮気していた彼は

邪魔になった妻を殺害し

ジョーンに妻の変装をさせて

アリバイ工作を企んだ。

そこに現れたコロンボ警部が

些細なことから真実をたぐり寄せていく。

 

「もう1つだけ聞きたいことがあるんです」

と言って戻ってくるやり方や

遠回しに犯人扱いしてるのに

「私を疑ってるんですか?」と聞かれたら

「とんでもない」と白々しく返す。

おなじみのイライラさせる

やり口はこっちが本家。

さらに言うと

実は被害者がまだ死んでいなくて

いつ意識が戻るか

犯人が焦るパターンを

この第1話ですでに持って来てる。

 

電話の受話器の上に

ハンカチを忘れてる!

……と思わせて

しっかり犯人が戻って回収するという

演出の上手いこと。

くっそ視聴者を手玉に取るじゃないか。

 

追い込まれた犯人が

コロンボを捜査から外すように

検事局を使って圧力をかけてくるが

上司はそれに屈さず

「コロンボ君、

君は事件の核心に触れている。

このまま続けたまえ」と

後押ししてくれるのはかっこいい。

 

犯人が実に抜け目ないし

1対1の心理的な駆け引き

最後の「逆トリック」と

第1話にして基本が完成されてる。

 

☆☆☆☆☆ 犯人の意外性

★★★★☆ 犯行トリック

★★★★★ 物語の面白さ

★★★★☆ 伏線の巧妙さ

★★☆☆☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 -

 

評価(10点満点)

 8.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

キャロル・フレミング ---●レイ・フレミング ---障害の除去【扼殺:手】

 

<結末>

共犯者ジョーンの口を割らせようと

コロンボが近づいて来て

たまらずジョーンがフレミングに電話し

明日オフィスで相談することにしたが

時間になってもジョーンが現れず

ジョーンに電話したら

何やら事故が起きたと騒がしい。

 

急いでフレミングが向かうと

水着のジョーンが遺体となって

運ばれるところだった。

睡眠薬を飲み過ぎたらしい。

 

共犯者が自殺したのでもう

フレミングを捕まえる証拠はなくなったと

コロンボは観念する。

あの愛人と結婚するために

殺したのだろうと尋ねると

フレミングはジョーンとの関係に

愛は無かったと言う。

 

するとそこにジョーンが現れ

フレミングの本心を知って気が変わり

すべて告白するとコロンボに言う。

呆然となるフレミング。

偽物を使ったコロンボの罠に

はまってしまったのだ。

 

トリック解説

まずはフレミングの使った

「犯行トリック」を分析する。

 

これは共犯者に

被害者のふりをしてもらい

犯行時刻を遅らせる

「一人二役のアリバイトリック」です。

 

あらかじめ翌朝10時に

メイドに家に来るよう電話しておく。

(事件の発見者にするため)

妻を殺した後

共犯者のジョーンがやってくる。

物取りの犯行に見せるため

金目の物をトランクに詰めて

ジョーンにキャロルの青いドレスと

手袋とかつらとサングラスで

夫人のふりをしてもらい

2人は空港に出掛けた。

そして離陸直前の機内で

夫婦喧嘩の芝居をして

夫人(ジョーン)は飛行機を降りる。

 

フレミングは1人でアカプルコに行き

ジョーンは着替えて

フレミングの家に戻り

翌日洗濯物を

クリーニング屋が取りに来るので

玄関前の袋に青いドレスを入れる。

これで夫人が

帰宅後に襲われたことになるから

死亡時刻が後ろにズレて

犯行時に飛行機にいたという

鉄壁のアリバイが完成するのだ。

 

この場合の問題点は

ジョーンは夫人の変装をしているが

夫人を知っている人が見たら

顔も声も違うから

一発でバレてしまうこと。

しかしフレミングは言う。

「人の持つ先入観」を利用すれば簡単だ。

キャロルの服装をして

自分と一緒にいる君は

誰もが妻だと認識するから大丈夫だと。

 

その読みは当たっていて

2人の喧嘩を見た客室乗務員に

(本物の)夫人の写真を見せると

この方で間違いないと答えている。

実際は別人なのに……。

 


 

しかしこの話の

1番の見所は犯人逮捕のため

コロンボが仕掛けた「逆トリック」

 

共犯者のジョーンを落とせば

フレミングを逮捕できる。

コロンボはジョーンを味方につけるために

ジョーンを自殺したことにして

フレミングの本音を聞き出そうとした。

 

無理矢理か説得したのかわからないが、

ジョーンに事故があったと知らせて

フレミングを誘い出す。

プールサイドで水着のジョーンが

担架に乗せられて運び出されていた。

 

コロンボがジョーンの死を伝え

愛人をどう思っていたか聞き出す。

ジョーンには愛情は無かった

結婚も考えていなかったという本音を

生きていたジョーンが聞いてしまい

すべてを話す決意をする。

 

なぜフレミングは失敗したのか?

「プールから引き上げられた死体を

ジョーンだと思い込んでしまった」からだ。

ジョーンの水着を着た女性が

プールで死んでいたら

誰もがジョーンだと思う。

彼自身がアリバイトリックに使った

「先入観」を逆手に取られたというわけ。

(水着のジョーン役の人はもちろん生きてる)

このオチが実に上手い。

 


 

それ以外だと

「発覚トリック」がいくつかある。

犯人がミスをして

発覚に繋がるトリックのことです。

 

①家に戻った時に「ただいま」すら言わず

妻に声をかける様子がなかった。

死んでいたことを知ってたから。一応、喧嘩していたため声をかけづらかったのだろうと友人バートは助け船を出した。それよりも妻がまだ生きていると知ったフレミングの微妙な反応でコロンボにはこいつが殺ったんだろうとわかったと思う。

 

②空港の手荷物の重量が

行きは6キロオーバー

帰りは2キロオーバーだった。

4キロはどこに消えたのか疑問を持たれる。

アカプルコの海で銀製品や宝石を処分していた。医学雑誌や薬のカタログを持って行って帰りに置いて来たと説明したが苦しい。

 

③キャロルの着ていた

青いドレスと手袋がどこにも無い。

盗まれたにしてもそんな高い物じゃないし、手袋とセットで消えていることもコロンボを悩ます。すでに真相に気づきつつある。

 

④青いドレスと一緒に

手袋をクリーニングに出し忘れる。

ドレスと一緒にいつもはめるからと渡された手袋だが、ジョーンは準備段階でそのことを知らず、本番直前で渡されたため手袋のことを忘れて持って帰ってしまった。2つセットの物が1つだけ無いのは疑惑を招く。

 

⑤扼殺の痕が後ろからついている。

自供したトミーは正面から襲ったから違う。そんなことはフレミング自身が犯人だから知っているが、あえて目の前で言うことでコロンボは反応を見ているっぽい。

 

伏線解説(★は巧妙なもの)

【ジョーンの黄色い水着】

「逆トリック」に繋がる

重要な伏線が

前半のフレミングがジョーンに逢いに行き

プールで2人が抱擁する場面。

ジョーンが黄色い水着を着て

プールで泳いでいる。

  • 詰めの逆トリックでフレミングを騙すためでもあるが、視聴者をも騙すために黄色い水着を印象づけしている。

 

【ジョーンが欲しいものは「愛」】

計画を持ちかけられたジョーンが

フレミングに質問する。

「レイ、本当に愛しててくれる?」

「愛してるとも」

  • ジョーンがフレミングに求めているのは愛情のみ。それがこの事件の綻びとなった。

 

【睡眠薬】

計画の前によく眠れたか聞いて

1~2時間しか寝れなかったと

ジョーンが答えたら

フレミングが睡眠薬を渡す。

「帰ったら1錠飲むんだ。睡眠薬さ。少し眠っておくことだ」

  • 逆トリックでジョーンが睡眠薬を大量に飲んだと聞き、フレミングがあの時に渡したやつかと思わせて……。

 

★④【金曜日の午後2時の約束】

コロンボと会話中、

フレミングの家の電話が鳴る。

ジョーンからの電話だったが

患者の診療予約のふりをして

「今日の診療は無理です。

金曜の午後2時に来てください」

誤魔化して電話を切った。

  • 刑事がそばにいるのでとっさの判断でうまく切り抜けた。……ように見えるがよく考えてみて欲しい。ただの患者が医者の自宅にまで電話をかけて来るはずが無いのである。そしてコロンボはこの会話を覚えていて、金曜日の午後2時に来た人物がジョーンであり、彼女と深い仲だと分析した。

 

欠点や疑問など

  • 事件の解決方法はスッキリしない。犯人を自白させるために「逆トリック」を仕掛けるのだが、共犯者の女に一芝居させるのは難しいはず。それに「1人になって人生楽しみもない」「吐き出しませんか」と誘導の仕方が強引。
  • 仲の冷え切った状態でアカプルコへの旅行に前向きになると思えない。その後「ねえ来て」とか色っぽくなってるけど、あなたさぁ。何か企んでると普通は思うぜ。
  • 売れない女優にしてはプール付きの家は豪華すぎる。
  • ガラスを割ったバカでかい音に誰も気づかないのは変。
  • 手袋にジョーンの指紋が残っていたらまずいのでは?
  • 殺人を自供するトミーはコロンボの仕掛けた罠であった方がいい。
  • キャロルが殺されて倒れた際に手がピアノに触れたが、とくに意味がなかったのは……。
  • コロンボの攻めが粘着質。嫌みを言ったり言葉の揚げ足を取ったり、勝手にドア開けて入ろうとしたりかなりウザイ。
  • コロンボがフレミングの部屋の鍵を開けようとしたとき、中でジョーンといちゃついていたので耳をすませば話し声が絶対に聞こえていたと思う。

 

名場面・名台詞

愛人ジョーンがキャロルに変装するも

キャロルを知っている人に見られたら

ぜったいバレてしまうと不安になる。

大丈夫だと言い聞かせるフレミング。

フレミング「人は固定観念によって物を見る。連想の基本さ。君はキャロルの服装をして僕といる。つまり僕の妻さ」

 

フレミングにつきまとうコロンボを

うっとおしくなり

検事に頼んで捜査から外したら

コロンボがやってきてこう言う。

コロンボ「こういうのはどうでしょう、私を患者にしてもらえませんか?」

フレミング「君を?」

コロンボ「本当悩んでるんですよ。どこかおかしいに違いないんです。とにかく人様を怒らせたりイライラさせたりしましてね。何が悪いのかおわかりかと思って」(中略)「私の問題は疑り深くて人を信じない。これが問題なんです。例えば担当から外されたりすればすぐ誰かの圧力じゃないかと勘ぐるんです。裏に何かあるなってね。どうすりゃいいんですかね?」

フレミング「職務をよく考えるんだな」

 

コロンボはフレミングと

巧妙な犯罪者の精神分析をして

そういう犯人をどうやって捕まえるか尋ねたら

フレミングは「無理だね」と答えるが

コロンボはこう返した。

「かもしれませんね。ずいぶん頭が良さそうだし刑事は秀才揃いじゃない。それでも私たちだってプロですから。例えばその殺人犯にしても、頭はいいが殺しは素人です。1回しか経験してないわけです。ところが私らにとって殺しは仕事でしてね。年に100回は経験してます。これはたいした修練です」

フレミング「君の場合役立ってないね。それだけの経験がありながら間違った結論に飛びついてる」

コロンボ「結論って?」

フレミング「僕は妻を殺してない」

コロンボ「そんなこと一言も言ってませんよ」

フレミング「たしかにそうだ。仄めかしてると言うべきか」

 

ジョーンの口を割らせるため

帰り際に忠告する。

コロンボ「ハドソンさん、これからが本番だ。私だってこんなことやりたくないが、これからはあんたを参らせるためにありとあらゆる手を使うつもりだ。フレミングは1つだけミスをした。精神の弱いあんたを使ったことだ。今日は気丈だったが、明日はどうか、次の日もある。その次の日もある。遅かれ早かれあんたはしゃべる。その時が来るまで、質問され尾行されかりたてられる。先生は助けてくれない。あんた1人が頑張るしかない。私はあんたを落としてあいつを逮捕します。これは約束します」

 

好事家のためのトリックノートトリック分類表

1-A、人間「一人二役トリック」

●共犯者が被害者に化ける

【殺人の後】

自宅で被害者を殺し強盗に襲われたように部屋を荒らし、共犯者が被害者に変装して犯人と一緒に空港へ行く。離陸直前の機内で2人は喧嘩の芝居をして共犯者が飛行機を降り、犯人は1人でアリバイ作りのために出発。共犯者は自宅へ戻り、翌日クリーニング屋が取りに来る洗濯物袋に変装に使用した被害者のドレスを入れる。翌日メイドが来て被害者は発見される。

 

8-C、発覚「犯人自白、告発トリック」

【共犯者の自殺】

共犯者の身に何かあったと思わせて犯人を共犯者の家に呼び寄せる。プールから引き上げられる共犯者の死体を見せて、犯人に共犯者との間に愛はあったかと質問し、愛は無かったと言わせたところで生きていた共犯者が登場。代役に死体のふりをさせて犯人のボロを出させる作戦。

 

 

『刑事コロンボ』各話レビューまとめ