娘を検索する―――はじめて知る闇

『search/サーチ』

[searching]

2018年(アメリカ映画)

 

 

 

 

<あらすじ>

忽然と姿を消した16歳の女子高生マーゴット・キム(ミシェル・ラー)。最初は友達と出かけただけかと思われたが、誰もマーゴットの行方を知らない。やがて行方不明事件として捜査が始まる。家出なのか、誘拐なのかわからないまま37時間が経過した。娘の無事を信じる父デビッド・キム(ジョン・チョー)は、彼女のPCにログインしSNSにアクセスを試みる。インスタグラム、フェイスブック、ユーキャスト……。
そこに映し出されたのは、いつも明るく活発だったはずのマーゴットとはまるで別人の、自分の知らない娘の姿だった……。

 

<スタッフ>

監督・脚本 アニーシュ・チャガンティ

脚本・製作 セヴ・オハニアン

製作 ティムール・ベクマンベトフ

    アダム・シドマン

    ナタリー・カサビアン

製作総指揮 マリア・ザトゥロフスカヤ

    アナ・リサ・ムラヴィナ

    イゴール・ツァイ

音楽 トリン・バロウデイル

撮影 フアン・セバスティアン・バロン

編集 ウィル・メリック

    ニック・ジョンソン

 

<キャスト>

ジョン・チョー(デビッド・キム)

ミシェル・ラー(マーゴット・キム)

ジョセフ・リー(ピーター・キム)

デブラ・メッシング(ローズマリー・ヴィック)

スティーヴン・マイケル・アイク(ロバート・ヴィック)

サラ・ソーン(パメラ・ナム・キム)

リック・サラビア(ランディ・カートフ)

 

感想

デビッドは妻パメラに先立たれ

高校生になった1人娘マーゴットとも

最近うまくいってない。

ある時マーゴットが外泊し

デビッドの就寝中にかかってきた

3回の着信を残して姿を消してしまう。

 

友人たちは誰も行方を知らず、

娘のSNSアカウントにログインすると

ピアノレッスンを退会していたり

ネットでライブ配信をしていたり

ドラッグに手を出していたり

父は娘のことを何も知らないことに気づく。

ヴィック捜査官と協力して

なんとか手掛かりをつかもうと

必死の捜索を続ける父親だが……。

すべてPC画面の映像で展開する

サスペンス・スリラーの傑作。
 

 

本作がチャガンティ監督の映画デビュー。

2018年1月のサンダンス映画祭で

プレミア上映され観客賞を受賞。

8月に劇場公開された。

映画評論家から絶賛されて

話題になった作品。

 

これは斬新。

パソコンのデスクトップ画面に

映し出される情報だけで物語が進む。

(『ブラック・ハッカー』

『アンフレンデッド』など前例あり)

チャガンティ監督は27歳で

元々Googleの社員。

撮影の7週間前に

PC画面上に展開する

映画の基本構成を考え

監督主演で1本の映画を作って

それを全員に見てもらって本番を撮るという

異例の製作方法で完成した作品。

 

俺は英語苦手なので

字幕が無いと読めず、

しかも画面の情報量が多すぎて

どこを見ていいのか混乱しましたが、

FaceTimeでビデオ通話したり

カーソルを動かして

視聴者にわかりやすく誘導したり

文字を書いたり消したり

心の動揺を表したり

なかなか工夫されている。

 

例えば「ママが帰って来る!」と

カレンダーにメモしている娘が

それをドラッグ&ドロップで

後ろの日付に動かして

容体が悪化したことを表現。

そして削除することで

ママが亡くなったことが伝わる。

それから

ある人物の写真に既視感があり

その写真を横にずらして

下のウインドウにある写真の顔と

一致するシーンとか鳥肌。

画面の使い方も上手い。

 

それでもパソコンや

SNSをやらない人には厳しめ。

パスワードをリセットして

再登録するところとか

いったい何をやっているのか

多分難しすぎると思う。

 

途中で父親の無茶な行動に

イライラも募ったが

巧妙な伏線があったり

結末まで予想を裏切り続けて

そして最後はちょっと泣ける。

これは良い映画です。

 

 

★★★★☆ 犯人の意外性

★★☆☆☆ 犯行トリック

★★★★☆ 物語の面白さ

★★★★★ 伏線の巧妙さ

★★★★★ どんでん返し

 

笑える度 △

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 ○

 

評価(10点満点)

 8.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

マーゴット・キム ---●ロバート・ヴィック ---衝動【転落死未遂・渓谷】

※ロバートの母・ローズマリー・ヴィックが事件の隠蔽に加担している。ランディ・カートフを麻薬で自殺に追い込んだ疑いあり。または殺人に関与。

 

<結末>

マーゴットを殺したと言う

カートフの告白で

事件は終わるかに見えたが

それでも死体を確認するまでは

デビッドは諦めていない。

 

葬儀屋のモデルの顔に見覚えがあり

気になって検索すると

汎用のモデルだった。

この顔はYouCastの

「fish_n_chips」という人物が使って

マーゴットと親しくやり取りをしている。

ヴィック捜査官は警察で調べて

関係無いと言っていたが……

何か違和感がある。

ヴィックの写真を確認すると

カートフが隣に映っていることで

疑惑が確信に変わった。

 

ヴィックの息子の

ロバートが「fish_n_chips」で

昔からマーゴットに恋心を抱いていた。

あの夜尾行していたロバートは

姿を見たら逃げられて

突き落としてしまったのだという。

ヴィックは息子を庇って

事件を間違った方向に

誘導しようとしていたのだ。

 

逮捕されたヴィックは全てを告白し

落ちた渓谷を捜索すると

マーゴットは奇跡的に生きていた。

父と娘は和解し

マーゴットはもう1度

ママが好きだった

ピアノを続ける決意をする。

 

どんでん返し&伏線解説

最初に驚くところは

弟のピーターが

マーゴットと繋がりがある場面だろう。

車内に残っていた服の「FINS」ロゴから

それまで全くあやしくなかった

ピーターに繋がった時は

まさか!?と思った。

 

と言っても肉体の繋がりではなく

大麻(マリファナ)を

マーゴットに渡していたことだ。

 

【ピーターのマリファナ】

ピーターが料理のレシピを

デビッドに質問する場面で

テーブルに瓶詰の草が出ていて

デビッドからマリファナと誤解されて

オレガノだと答えた。

  • ピーターはオレガノだと誤魔化したがマーゴットとマリファナを吸っているのでピーターが嘘をついている可能性が高い。

 

終盤でマーゴットを殺したと言う

カートフの告白から急展開。

マーゴットは湖で

変質者に襲われて死んだ。

しかしどうも告白内容に謎が多い。

ヴィックが幕引きを

しようとしているのも気になる。

 

【カートフの目線】

カートフは自白動画で

スーツケースと一緒に死体を捨てたと言う。

そして目線を下に外す。

  • そんなスーツケースは全く出て来ない。カートフが目線を下げているのは下にある紙を読んでいるため。真犯人に自白を強要されている。

 

デビッドは娘が死んだと思い

メモリアル・ワンという葬儀屋に

娘の動画や画像を使ってもらおうと

アップロードした際に登場した

女性の写真に既視感があった。

 

その女性は写真のモデルで

ウエイトレスでもない。

ヴィックが彼女に事情聴取した

というのが嘘だとわかり、

しかも警察に事情を聞くと

彼女は自分からこの捜索の

主任に名乗り出たと聞き、

さらにヴィックがカートフとは

顔見知りだったこともわかった。

 

そう。

最大のどんでん返しは

犯人の正体。

真犯人は捜査に協力していた警察官

ローズマリー・ヴィックだった。

ヴィックの隣にカートフが映っている

問題の写真が開始26分の

ローズマリー・ヴィックを検索した時に

視聴者の目の前に登場していた。

これが重要なものとは全く思わないだろう。

 

【母の愛は強し】

ローズマリーのフェイスブックの

トップページにこう書いてある。

「A mother's love for her child is like nothing else in the world」

(自分の子供に対する母親の愛情は世界でも他に類を見ない)

  • これも開始26分の検索した時に視聴者は見ていたはずだ。子供のために何でもする伏線。

 

【デビッドに何もするなと命令】

彼女はことあるごとに

デビッドに動かないように言う。

  • 自分で事件を解決して真実を隠蔽する目論見があるから。ただ視聴者から見ても、デビッドは普通に行きすぎた捜査で邪魔だったから牽制するのはわかる。

 

【息子を溺愛するあまりに…】

彼女は息子が25ドルを

募金詐欺で盗んだことを庇い

それを事実にしてしまった。

「チャリティーの話は事実でみなさんに感謝していると話した」

  • デビッドと同じような境遇で共感させようという話では無く、ローズマリー・ヴィックは息子を溺愛するあまり事実すらも捻じ曲げてしまうことを示唆している。マーゴットが金と偽造IDを持って逃亡したように見せかけた。

 

【事件現場が湖だと知っている】

夜中3時に電話してきたデビッドが

娘の行き先がわかったと言うと

ヴィックは「湖にいるの?」と聞く。

  • なぜ向かった先が湖だと知っているのか?知っている情報をつい言ってしまう犯人のよくあるミス。

 

【湖の西側を捜索させない】

バルボサ湖の西側は

険しい渓谷で危険なため

警察で捜索済みと言って

他の場所を捜索させる。

  • 西側にマーゴットが落ちたため、捜索隊が近づかないようにしている。

 

【名前の由来】

映像特典で監督が小ネタをばらしている。

『ローズマリーの赤ちゃん』と

『ザ・シールド』の汚職警官

ヴィック・マッキーを足した名前。

  • 悪魔のような子供を守る母親、そして汚職警官。

 

事件の発端は息子のロバートが

昔からマーゴットが好きで

SNSで他人のふりをして

近づいたことにある。

 

【小学校時代のロバートの「いいね」】

冒頭の4分頃に

マーゴットがピアノを弾く動画を

ネットに上げていて

Robbie Abolt(ロバート)が

「いいね」とコメントしている。

  • 初見だと絶対に気づかない。小学生時代からロバートはマーゴットに好意を持っている証拠。

 

【親が警官、マーゴットを好き】

マーゴットの友人を探そうとして

パメラのアカウントにログインし

中学の同級生の連絡先が出た。

Robbie Abolt(ロバート・エイボルト)

そのロバートの備考欄に

「親が警官、マーゴットを好き」

パメラがメモを残している。

  • ここのロバートが後のロバートに繋がる。親が警官=ローズマリー。中学時代まではロバート・エイボルトだが、これは父親の姓。離婚して現在はロバート・ヴィックになった。全部同じじゃないのが上手い。しかし、母親は子供をよく見ていますね。

 

【fish_n_chips(フィッシュ・アンド・チップス)】

ロバートがYouCastで使用していた名前。

アイコンは女性の写真モデル。

デビッドが間違えて

配信ボタンを押した時に

1人だけ配信を視聴した人物がいる。

それがfish_n_chipsだった。

  • 崖に落ちたマーゴットが無事だったのかと思って配信に入ったら、父親だったのでびっくりしてすぐ退出してしまった。

 

fish_n_chipsの質問「好きなポケモン教えて」

初めてライブ配信したマーゴットに

好きなポケモンを聞くという行動。

  • マーゴットがポケモン好きだと知っているロバート。マーゴットは「ユクシー」と答えた。に住む。記憶を消すことができる。ロバートは「カクレオン」が好きと答えた。カラダの色を景色と同化させたり、自身に対する攻撃を代わりに受ける「身代わり(分身)」が使える。

 

【ピアノのレッスン料を送金】

マーゴットはYouCast配信で知り合った

fish_n_chipsが母が

がんで闘病中だという話をする。

その話を信じて

ベンモというサイトを通じて

貯金していたお金を送金(2500ドル)

  • 親に内緒でピアノレッスン辞めたり、逃亡のための資金と思われたが、本当は優しい子だった。

 

【ロバートは2回登場】

そのロバートは

FaceBookの写真や

母親のFaceTime中に

後ろで2回登場している。

  • まあいかにも気弱な脇役っぽい。

 

 

そして最後のどんでん返しは

マーゴットが生きていたこと。

 

【マーゴットがまだ生きている可能性】

行方不明のマーゴットが

まだ生きている可能性を示す伏線が

「遭難者9日目に生還」のネット記事。

  • 56歳の登山者が遭難して救出された記事。さりげないが生還は可能だという重要な情報。マーゴットは1週間経っていた。

 

【失踪5日目に嵐】

失踪して4日目に湖に辿り着いたが

翌日の5日目はあいにくの悪天候

捜索ができなかった。

  • 捜索は進まなかったが、これが恵みの水になりマーゴットの体力が回復した。

 

 

その他の伏線では……

 

【デビッドの抗不安薬】

マーゴットが

フェイスタイムで助けを求めた時に

寝ているデビッドの手前に

抗不安薬の瓶が見える。

  • デビッドがマーゴットのSOSの電話に出られなかったのは、この薬でぐっすり寝てしまったため。

 

【ゴミ箱の写真に映ったノートパソコン】

マーゴットがゴミ箱に

バナナの生ゴミを入れているので

注意してやろうと撮った写真の端に

マーゴットのノートパソコンが

映り込んでいて

捜索の重要な手掛かりになる。

  • 自分の情報の多いノートパソコンを置いて逃亡するとは思えない。何気なく撮った写真に手掛かりを入れてあるのは上手い。

 

【Tumblrのピアノ写真】

タンブラーにお気に入りの場所とともに

「決断」のタイトルでピアノの写真がある。

  • ピアノを止める決断をしたということ。

 

【セヴ・オハニアンからのメール】

脚本・製作のセヴ・オハニアンが

デビッドのメールボックスに

メールを送っていて、

1行だけ表示されてる文章に

「犯人はfish_n_chipsでヴィックの息子だ」

と書いてある。

  • そんなの一瞬すぎて読めないって。製作側の遊びです。

 

最後に泣ける伏線回収

【「Mom would be too.」】

冒頭の失踪した日のやり取りで

テスト勉強頑張っていたから

大丈夫だと元気付けて

デビッドがマーゴットに送った言葉。

「I'm so proud of you. (お前を誇りに思ってる)

それからデビッドは

「Mom would be too.(ママもそう思うはずだよ)」

と書いたがこちらは結局

送信せずに消してしまった。

 

この言葉をラストにもう1度繰り返すが、

前の時には送れなかった

「Mom would be too.

(ママもそう思うはずだよ)」を送信する。

今まで妻のことに

あえて触れなかったデビッドの

気持ちが変化した瞬間です。

 

最愛の妻を失ってから

娘への愛情はさらに強くなったのだろう。

だからこそ悲しい思い出を

避けるように妻の話をしなくなった。

それが娘との距離を生む原因だった。

 

デビッドは娘のことを

何も知らなかったと嘆いていたが、

それは違うと思う。

マーゴットが必死に

勉強していたことも知っていたし、

最後まで娘のことを信じていた。

娘も父の愛情は理解していた。

 

エンディングで

マーゴットがママに教えてもらった

ピアノを再び弾くことを決意する。

止まっていた時間が

やっと動き出した……。

 

 

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