出会うたびに、好きになってくれて、ありがとう

『忘れないと誓ったぼくがいた』
(2015年)日本映画
<あらすじ>
大学受験を控えた平凡な高校三年生・葉山タカシ(村上虹郎)の前にふと現れた少女・織部あずさ(早見あかり)。タカシはあずさに一目惚れしデートを重ねてゆくが、ある時、あずさはタカシに不思議な告白をする。「私に会った人たちは全員、数時間後には私の記憶が消えているの。ただ理由もなく私のことだけが記憶から消えているの」と。そんな馬鹿げた話を信じるはずもないタカシだったが、ふとしたときに、あずさのことを忘れていることに気づく。昨日、自分は誰と会っていたのか?今日これからデートする相手は果たして誰だったか……。あずさと会った日の出来事や、デートの約束などを細かくメモに書き留め、自分だけは絶対あずさを忘れないと奮闘するタカシだったが……。
<スタッフ>
監督・脚本 堀江慶
脚本 おかざきさとこ
原作 平山瑞穂『忘れないと誓ったぼくがいた』
製作 椋樹弘尚
    渡邉尊俊
音楽 三枝伸太郎
撮影 板倉陽子
編集 村上雅樹
 
<キャスト>
村上虹郎(葉山タカシ)
早見あかり(織部あずさ)
西川喜一(ヒロト)
渡辺佑太朗(岸田ケンイチ)
大沢ひかる(藤村かなえ)
池端レイナ(タカシの姉)
ちはる(タカシの母)
国枝量平(葉山文雄)
山崎樹範(担任の先生)
今本洋子(岩井希恵)
ミッキー・カーチス(岩井老人)

感想

平山瑞穂の
青春ファンタジー小説の映像化。
 
あずさに一目惚れし
付き合うようになったタカシだが、
あずさに関する記憶だけが消えていく
という不思議な現象が起きる。
すでにクラスメイトも親も
彼女の存在を忘れてしまったという。
運命に抗うように
タカシは「あずさを絶対に忘れない」と
あずさの動画を撮りまくって
名前をノートに書いたりするが
やがて顔と名前が一致しなくなる。
「あずさって誰だ?」
避けられない運命に向かって
必死にもがく2人の切ない恋物語。
 
これはさすがに泣きます。
だって泣かせる気満々の設定ですから。
 
この作品の泣きポイントは
「タカシの部屋」と「最後の選択」。
全てを理解したうえで
あずさの視点で
最初から映画を観直すと
より泣けると思います。
キャッチコピーの
「出会うたびに、
好きになってくれて、ありがとう」も
深い意味があります。
 
でもね……
俺には少し物足りなかったかなぁ。
古いエロゲに
『ONE~輝く季節へ~』というゲームがあります。
俺はプレステに移植された
『ONE~輝く季節へ~』をプレイしたが
この「記憶と存在が消える」系の話だと
やっぱり『ONE~輝く季節へ~』を
越えることはできない。
それぐらい先人が偉大すぎる。
 
オチも「そうか……」となるだけで
もうひと捻りほしかった。
この現象の謎も解明されなかったのが
俺としては納得いかない。
ファンタジーだからと
言ってしまえばそれまでだが
『輝く季節へ』は
原因の説明があっただけに
もう少し説得力がほしかったなぁ。
 
主役のタカシ役・村上虹郎くんは
ナチュラルな演技ですごく上手い。
小柄で可愛い系男子。
『あの日見た花の名前を
僕達はまだ知らない』の実写化で
仁太役をやった時もハマっていたが
これからもっと活躍しそうだ。
 
早見あかりさんは
ももクロ時代から知っていますが
虹郎くんが相手だと顔立ちが大人すぎて
お姉さんになってしまう。
(実際2歳年上。実は誕生日が同じ)
メイキングで
「虹郎の双子の姉です」と言うくらい
意気投合していた。
 
劇中であずさが
「幼稚園の先生の名前思い出せる?」
「小学校の友達は何人覚えてる?」と言う。
時間が経てば人の記憶は薄れていく。
 
俺も忘れっぽい性格なので
こうやって詳細にブログに書くことで
記憶を維持している。
ブログを読めば思い出せるので
書いた数日後には
内容ほとんど忘れています。(おい)
 
★★★★☆ 物語の面白さ
★★★☆☆ 伏線の巧妙さ
★★★☆☆ どんでん返し
 
笑える度 -
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 ○
 
総合評価(10点満点)
 7点
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
※ここからネタバレあります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

1分でわかるネタバレ

<結末>

タカシがあずさのことを忘れたまま

9月1日の誕生日を迎えた。

パソコンにあった「あずさ」の動画を見て

実は1年前からあずさと付き合っていたが

高校2年生の終わりに一回

あずさのことを忘れてしまったことを知る。

 

今度こそ忘れまいと

約束の「恋人の丘」で待ち続ける。

そこにあずさがやってくるが

タカシはあずさを見ても

本人だと気付かない。

それを見たあずさは

あずさの「友達」と嘘をついて

もう現れないとタカシに伝えた。

 

あずさの「友達」が去った後、

スマホを落としたタカシは、

外れたカバーの裏側に貼ってあった

プリクラの写真を見て

さっきの女性があずさだと気付いた。

「あずさ、ごめん!」

夢中で夜の街を走りだすが

あずさは二度と彼の前に

現れることはなかった……。

どんでん返し

どんでん返しのポイントは、
実はタカシとあずさは
1年前から恋人で
すでに一度あずさのことを忘れてしまい、
これが2回目の出会いだったということ。
 
あずさは一度は諦めて
タカシと距離を置いたが
あの夜の偶然の出会いを
最後のチャンスだと思い
もう一度やり直せると信じていた。
 
しかし2回目も上手くいかず、
最終的に別れる決意をする。
それがお互いにとって
最善の選択だと受け入れて……。
 

伏線解説

2人が前から恋人同士だった伏線。
 
あずさが付けているネックレスは
1年前のタカシ自身が
あずさの誕生日にプレゼントした。
 
タカシがあずさを
「なんか見た事がある」と感じたのは当然。
 
あずさが自分の名前を
タカシになかなか言わないのは
言っても忘れるから期待したくないのと
同じことの繰り返しに耐えられないから。
 
他の人があずさのことを
すっかり忘れているのに
どうして自分はまだ覚えているのかと聞くと、
「それはタカシが特別だから」と答えたのは
彼氏として付き合っていたという意味。
一番強いつながりのあるタカシだけは
忘れて行くスピードが遅い。
 
タカシの姉が煙草を吸うのを見て
「禁煙辞めちゃったんですね」
初対面のはずなのになぜ知ってるの?
みたいな表情の姉。
あずさは前に会ったことがあるし
その時禁煙してるという話を聞いた。
 
その後、
家に飾ってある写真が映る。
今日とは服が違う。
もちろん前にタカシと
付き合っていた時に
撮った写真である。
ところでこの写真誰が撮ったの?
 
タカシが同じ台詞を言ってしまうことで
あずさの最後の選択に繋がる伏線がある。
 
あずさが「恋人の丘」と言うと
⑦タカシが「ベタだねえ」と言った時、
タカシも少しずつ忘れてきて
同じことの繰り返しを予感した。
 
【過去形のタイトル】
最大の伏線は
『忘れないと誓ったぼくがいた』という
過去形のタイトルだろう。
  • 忘れないと誓ったぼくが「いた」と過去形なのは、1度忘れてしまった過去があるからだ。
 

名場面・名台詞

タカシがあずさに名前を尋ねる場面。
“「忘れない?
え?
名前……忘れない?
忘れないよ
絶対?
もちろん
織部あずさ
織部?……同じクラスになったことないか。織部あずさ……あずさ。いい名前だね」”
 
別れ際、
タカシが家まで送ると言うが断られる。
どうやって連絡取ればいいのか尋ねると……
“「偶然に賭けない?
どういうこと?
出会えたのも奇跡なんだし、もしまた次会えなかったらそれまでだったってことだよ
でも会おうとしてくれたよね?
そりゃあ多少の努力はするよ。ほら宝くじだって買わないと当たんないじゃん。ねえ……賭けてみない?
はは……君ってほんっと変わってるよね
そう?
うん、わかった。いや……わかんないけど、わかった
ふふ、ありがとう」”
突然タカシの頬にキスをするあずさ。驚くタカシ。
 
かなえたちに
あずさを紹介したら「誰?」と言われ、
D組だと言ったら笑われる。
逃げ出したあずさを追って
どういうことか説明を求めるタカシ。
「言っても信じてくれない」とあずさ。
“「忘れてるの。みんな忘れてるの。あたしのこと
は?
あたし3年D組だよ
でも、かなえもDじゃん。会わないわけが……
2年の終わりくらいかな。家族も友達もみんなあたしのことを忘れてったの。あたしに関することだけ綺麗さっぱり抜け落ちていくの。他はそのまま残るのにあたしのことだけ全部。初めは顔を見れば思い出してくれたの。けどそれもどんどん駄目になっちゃって。春休みあけたら、あたしのこと覚えてくれている人誰もいなくなっちゃった。お父さんももう駄目。今は無理矢理家にいさせてもらってるけど
あまりのことに言葉が出ないタカシ。
そんな話あるかよ。だって俺たち今までだって……
思い出せた?……それはタカシが特別だから
いや待てよ。ふざけんなよ。誰がそんな話信じるんだよ。……俺は信じないよ。忘れないし。俺は、俺は信じないよ」”
 
昨日会ったはずのあずさを友達が覚えてない。
D組の名簿には
確かに織部あずさが在籍している。
あずさの言ったことは事実だった。
今あずさを認識できるのは
自分だけと知り、
あずさを元気づけるタカシ。
“「俺は忘れないよ。……あずさのこと、俺は忘れない!
タカシは金網によじのぼって叫ぶ。
例えみんなが忘れようとも!葉山タカシは!織部あずさのこと!ぜったいに忘れませんっ!!!」”
 
忘れないと誓ったのに
タカシの記憶力も限界に近づいていた。
待ち合わせにやって来ないタカシを心配して
家に行ったあずさは、
タカシの部屋の中を見る。
そこには織部あずさの写真と
絶対に忘れないように書いた
メモがびっしりと壁に貼ってあった。
タカシがあずさを忘れないように
必死に努力していることを知って
涙がこぼれるあずさ。
 
 
老人ホームの岩井があずさに
認知症の妻のことを話す場面。
“「あいつもついにさ、わけわかんなくなっちゃって、俺の顔見てどちらさまですか?なんて言うんだよ。……でも、時間だけは残るんだよ
え?
例えどんなに記憶がなくなっても、2人で過ごした時間だけは奪えないんだよ」”
 
高校2年の終わり、
タカシがあずさのことを忘れた
1回目の別れ。
あずさがタカシのスマホに
最後のメッセージを残す。
タカシのスマホ黙って借りてます。ほんとにごめんなさい。タカシ……あたしに最後のチャンスをください。タカシはもうあたしのこと忘れちゃったよね?なんでこうなったのか正直わかりません。何かバチが当たったのかなぁ。もうこれ以上タカシに話しかける勇気がありません。いつか必ずって頑張ったけど、あなたの“知らない”って顔は、もう辛いから。でもね、こんな風になったからって言ったらおかしいけど、あたし生まれて初めて必死でした。この人に忘れられたくないとか、ずっと一緒に居たいとか、そういうことに必死だった。人を好きになるってこういうことだったんだね。タカシ……
 
9月1日。
「恋人の丘」で待ち続けるタカシ。
そこにあずさが現れるが
あずさは他人のふりをする。
“「葉山タカシくん?織部さんから、伝言頼まれたの。あなたがもしかしたらここに居るかもしれないって
あずさは?
もう、ここには来れないって
あずさは今どこにいるんですか?会いたいんです。話したいんです。どうしても会いたいんです!……俺、忘れちゃって。忘れないって言ったのに、忘れちゃって……それであいつのこと、いっぱい傷つけて。会いたいんです。お願いします!
頭を下げて泣くタカシ。
つらそうな表情のあずさ。
伝言頼まれただけだから……ごめんなさい
そのまま立ち去ろうとするが
思いなおしたように振り返って言う。
でも彼女、ありがとうって……。すごく感謝してた」”
 
あずさが去った後、
スマホを落としてしまい、
カバーが外れて
裏側に貼っていたプリクラが……。
全てに気づいたラスト3分前。
彼女の「ありがとう」は
「さよなら」の意味だった。
 

よくある疑問

Q,お好み焼き屋の外から
あずさが中を見て、
働いているポニーテールの子を
じっと見ているのは何の意味が?
 
1年前、ここで働いていて
あずさは看板娘と呼ばれていた。
それが今の看板娘を見て
自分の居場所が無くて悲しんでいる。
 「埋まってくね、パズルのピースが。
本当はあたしだったんだけどなぁ~」
 
Q,あずさが飛びだし坊やのある丁字路で
「この場所わかる?」と聞くのは何のこと?
 
2回目の出会いで
レンタルビデオを返しに行く時、
あそこの丁字路でぶつかった。
つい先日のことを覚えているか?という意味。
これ以上深入りしていいのか
不安なので探っている状態です。
 
もしかしたら1回目の出会いも
この丁字路が関係あるのかと思ったが
2人とも2年F組なので
普通に学校で仲良くなったと思われる。
 
Q,タカシが絆創膏をはがして
あずさのことを忘れてしまうけど、
壁の写真やメモはどうしたの?
 
あずさが全てはがしてしまった。
その意味は
もう無理しなくていいよ。
自分のことを忘れていいから。
ということです。
 
あずさを思い出させるものが
無くなったため
その後のタカシは
完全にあずさを忘れてしまった。
ただしパソコンの中の動画は
消去し忘れたようだ。
あるいは未練があって残したか。
 
Q,あずさの母親はどこに?
 
父親が借金まみれで
母親は離婚して
出て行ったのだと思う。
詳しい設定は知らん。
 
Q,メイキング裏話を教えて。
  • スマホ(iPhone)で撮影したシーンはほとんどアドリブ。
  • 村上虹郎と早見あかりは性格も考え方も近いので、自然で楽だったと語る。2人とも3月17日生まれ。
  • キスシーンは「全然ドキドキしなかった」と早見。
  • 映画はあずさに関する記憶だけが消えるが、原作の小説はあずさ自体が消えてしまうエンディング。堀江監督は完全にファンタジーにするより、もしかしたらありうるんじゃないかという不思議な物語にしたかった。
  • 2人が1年前に付き合っていたというどんでん返しは小説には無い。
  • 老人ホームも小説には出てこない。
  • 早見あかりは中学の時、茶道部のボランティアで老人ホームに行ってお茶を入れたりしていた。
  • ロケ地の学校は神奈川県立綾瀬高等学校。
  • あのラストシーンは、普通に考えればタカシはあずさのことを忘れて、また新しい日常が始まるというエンディングだが、もしかしたらあずさに会えたかもしれないという可能性を残すため、あえて最後まで見せなかった。
  • エンディングについて、村上虹郎は「僕らはこの映画をまだ半分しか作っていません。残りの半分はみなさんが完成されることなので、宜しくお願いします」
  • 原作者・平山瑞穂は男性。
 

あずさの選択は正しいのか?

タカシは最後になんとか
あずさのことを思い出した。
しかしこれが
いつまでも続く記憶ではないことは
あずさが一番よくわかっている。
タカシの他人を見るような顔は
もう見たくない。
 
本当は「恋人の丘」で
姿を現す必要もなかった。
タカシがいつまでも待っているから
あずさが姿を現したが、
「あずさに会いたいんです。
話したいんです」と
あずさ本人に向かって言われたら
これ以上の苦痛は無いだろう。
 
でもこれはタカシが悪いわけじゃない。
この変な現象が全て悪い。
タカシは十分戦ったし、
あずさが自ら身を引いたのは
正しい選択だと思う。
 
最後にキャッチコピーの
「出会うたびに、
好きになってくれて、ありがとう」
これの意味について。
 
タカシはビデオを返しに行って
ぶつかった2度目の出会いの後、
あずさのことを忘れられず
追いかけ続けました。
好きになる必要もなかったのに
それでも好きになった。
「出会うたびに」とは
「2回も好きになってくれてありがとう」
という意味だと思う。
もし3度目に出会ったら、
また2人は好きになるのでしょうね。