この娘、どこかが変だ

『エスター』
[Orphan]
(2009年)アメリカ映画
<あらすじ>
3人目の子供を流産したケイト・コールマン(ヴェラ・ファーミガ)とその夫のジョン(ピーター・サースガード)。彼らはその苦しみを癒すため、孤児院からエスター(イザベル・ファーマン)という9歳の少女を養子として引き取る。少々変わってはいるが年齢の割にしっかり者で落ち着いており、すぐに手話を覚えて難聴を患う義妹のマックス(アリアーナ・エンジニア)とも仲良くなるエスター。だが共に生活する中で、やがて彼女は常に手首や首にリボンを着けていたり、入浴の際は必ず入り口を施錠したりと、謎の習慣を垣間見せ始め、それらと同時に徐々に恐ろしい本性を見せ始めるのだった。
 
<スタッフ>
監督 ジャウム・コレット=セラ
脚本 デヴィッド・レスリー・ジョンソン
製作 ジョエル・シルバー
    スーザン・ダウニー
    レオナルド・ディカプリオ
製作総指揮 スティーヴ・リチャーズ
    ドン・カーモディ
    マイケル・アイルランド
音楽 ジョン・オットマン
撮影 ジェフ・カッター
編集 ティム・アルヴァーソン
 
<キャスト>
ヴェラ・ファーミガ(ケイト・コールマン)
ピーター・サースガード(ジョン・コールマン)
イザベル・ファーマン(エスター)
ジミー・ベネット(ダニエル・コールマン)
アリアーナ・エンジニア(マックス・コールマン)
CCH・パウンダー(シスター・アビゲイル)
 

感想

原題の「Orphan(オーファン)」は「孤児」の意味。
邦題「エスター」とは主役の少女の名前。
 
ある夫婦が孤児院から
少女を引き取って家族に迎え入れたが、
その子の周りで奇妙な事件が起こり、
やがて殺人事件まで発生する。
これはおかしいぞと
母親が調べて行くうちに
ある秘密に辿り着く……という話。
 
いや~この少女が怖い!
可愛いからこそ怖い!
最初はネコかぶってるんだけど
だんだん凶悪になってくる。
クラスメイトを突き落としたり
シスターをハンマーで殴り殺したり。
ツリーハウスにダニエルを閉じ込めて
放火して見上げる表情がやばい。
 
怖いオバサンというと
『ミザリー』のキャシー・ベイツだが、
怖い少女の決定版が
『エスター』のイザベル・ファーマンだろう。
 
言葉が発せない妹マックスちゃんが
逆らうことができずに
巻き込まれていくのが可哀想。
そして母親だけが
エスターを怪しいと思って
調査するんだけど
夫もカウンセラーも信じてくれない。
終いにはお前の方が狂っていると
精神異常者に仕立て上げられる始末。
本当イライラが募った。
 
どんでん返しがすごいと聞いていたが
個人的にはイマイチだったかな。
サイコ・スリラーとしては良作.
 
☆☆☆☆ 犯人の意外性
☆☆☆☆ 犯行トリック
★★★☆☆ 物語の面白さ
★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し
 
笑える度 -
ホラー度 ◎
エッチ度 △
泣ける度 -
 
総合評価(10点満点)
 6.5点
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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※ここからネタバレあります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】
ブレンダ ---●エスター ---憎悪【骨折:滑り台】
シスター・アビゲイル ---●エスター ---口封じ【撲殺:ハンマー】
ダニエル・コールマン ---●エスター ---口封じ【窒息死(未遂):枕】
ジョン・コールマン ---●エスター ---憎悪【刺殺:ナイフ】
エスター ---●ケイト・コールマン ---正当防衛【溺死:池】
 

<結末>

エスターは自分の秘密を探る

シスター・アビゲイルを殺し、

ダニエルをも殺そうとした。

ケイトはエスターが犯人だと責めるが

夫ジョンたちはケイトの精神の方が

おかしいと言って聞く耳を持たない。

 

エスターの持っていた聖書と

挟んであった写真から

昔居たという精神病院を探しだし

担当者と連絡が繋がって

そこでケイトはエスターの秘密を知る。

彼女は少女の外見をしているが

実は33才の大人の女性で

ジョンを奪う為に

周りの邪魔者を殺したのだ。

 

ケイトを追い払ったエスターは

ジョンを誘惑する。

しかし拒絶されて逆上し、

ナイフでめった刺しにして殺害。

そこに駆けつけたケイトと格闘して

凍った池の底に蹴り落とされて死亡した。

 

どんでん返し

エスターは
見た目は9歳の少女だが
実は33歳の大人だった。
 
中身(精神)が大人という意味ではなく、
「下垂体機能不全」という珍しい病気で
ホルモンバランスが崩れて
身体が成長しなくなったのだという。
 
本名はリーナ・クラマー
エストニアの精神病院で生まれ
アメリカの家族の養子となり、
父親を誘惑して失敗すると
家族を皆殺しにして放火した。
1年前に施設を脱走して行方不明になる。
これまでに7人を殺している。
 
 
エスターを子供だと
思わせる方向がミスリード。
 
①エスター役を当時12歳の
イザベル・ファーマンが演じているので
当然ながら見た目では
子供にしか見えない。
外見自体が強力なミスリードだ。
 
孤児院の書類が
ロシア出身の9歳の少女になっているので
まあ疑う人はいないでしょう。
 
ケイトがジェシカのことを話す時、
涙を見せるなど(嘘泣き)
心優しいところや
歯医者を嫌うなど
子供らしい振る舞いをしている。
 

伏線解説

エスターが大人である
という方向が伏線だが、
はっきりと大人を示す証拠はない。
夫ジョンへの
好意の寄せ方が異常なので
うっすらと気付くかもしれない。
 
両親がセックスしようとすると
邪魔しに割って入るのは
ジョンが好きなので嫉妬している。
 
子供が見てはいけないものよと
注意すると
「知ってる。ファックでしょ」とマセた発言。
 
愛した男性の写真を
未練たらしく残すのも
子供の感情とは違う。
 
最も伏線らしいのは
「歯」についての2つの伏線。
歯医者に行くことを拒否したのは
歯で年齢がばれるのを恐れたため。
徹底的に嫌がっていた。
ダニエルが
エスターが肉を細かく切り分けて
食べるのを馬鹿にしていた
歯が治療を受けれずボロボロなので
大きい肉は食べにくいから。
エスターは入れ歯をしている。
 
⑥子供にしては
拳銃の扱い方がやけに手慣れている。
アメリカの子供はそういうもんだと
日本人は思ってしまう。
ちなみに
本物の子供のマックスが
最後に銃を撃つが
あれはエスターが撃つのを見て
やり方を覚えたからでしょう。
 
エスターの異常性を示す伏線は
描いている絵にブラックライトを当てると
火が燃えていたり血が出たり
セックスシーンを描いたりと
エログロテスクな絵になること。
どうやらエスターの
抑えきれない衝動を
絵にぶつけているようだ。
 
手首と首にいつもリボンをつけていて
外そうとしないこと。
この下に拘束具の傷跡があった。
 
裸を見られるのも嫌がり
入浴中は鍵をかけたのも、
傷を見られるが嫌だから。
 
⑩ペイントボールが当たって瀕死の鳩を
「楽にしてあげて」と石を持って
ダニエルに言う場面。
「できないよ」と尻込むダニエルに対し
躊躇なく石で鳩を殺すエスター。
 
その他の伏線では
⑪エスターがマックスを連れまわした
凍った池が最後のバトルの戦場になる。
 
マックスとの会話で手話を使うが
手話自体が命を救う場面がある。
 
耳の聞こえないマックスが
エスターに狙われている時、
ケイトが天窓から
下の温室にいるマックスに
「そこを動かないで」と
手話で指示を出したことで
マックスがエスターと
鉢合わせするのを防いだ。
 
手話なら声を出さないで窓越しでも
意志を伝えることができることを
上手く利用している。
 

よくある疑問

Q,エスターは孤児院では
問題をおこさなかったのか?
 
孤児院では人との関わりを
最小限にしていたから
問題が表面化しなかった。
シスター・アビゲイルも
それを個性だと受け止め
エスターの自由にさせていた。
 
Q,エスターが白いバラをプレゼントした時、
どうしてケイトは怒ったのか?
 
あの白いバラはケイトが
死産したジェシカのために
大事に育てていた花。
エスターにはそのことを教えていたのに
わざとバラを切って渡したので
怒りが頂点に達した。
 
Q,おっぱいの大きい近所のおばさんは
ジョンを誘っていたのか?
 
ジョイスという女が
椅子を運ぶのを手伝ってと言ったのは
下心あって近づいたとしか思えない。
息子を連れていたので
おそらく未亡人なのだろう。
ジョンは誘いに乗らなかったが
エスターは嫉妬していた。
あれ以上近づいたら
殺しの対象になっていたかもしれない。
 
Q,銃に1発だけ弾をこめて
マックスに向けたのは何の意味が?
 
シリンダーを回転させて
「遊びたい?」と聞いているので
ロシアンルーレットをするつもりでした。
 
しかし時間がないから
(シスターが帰りそうなので)
マックスは殺されずに済んだ。
あの銃に慣れた様子は
大人であることを示す伏線でもあります。
 
Q,ブレンダを突き落としたり
アビゲイル殺しも犯行を堂々と行い
そこまで隠そうとしていないのはなぜ?
 
エスターは子供の姿を利用して
「どうせ子供だから」で
済むのを利用している。
マックスを連れて共犯にして
偽証させているから
疑いをそらすことができる。
しかもジョンがアホすぎて
エスターはそんな子じゃないと
庇ってしまうのが最悪だ。
 
Q,エスターが万力を使って
自分の左腕を折ったのはどうして?
 
その日にケイトに左腕を掴まれて
「痛い!」と芝居したうえで
症状をひどく見せて
ケイトを追い込むためにやった。
 
しかしいくら何でも
女性が掴んだ程度で
腕は折れない。
ジョンは馬鹿すぎて
すっかり騙されている。
 
Q,ジョンはどうして
妻の意見を信じないのか?
 
ジョンが妻の発言を信用しないのは
アルコール依存症があるからだ。
昔マックスが池に落ちた時
酒で酔い潰れていて
ジョンが助けるまで気付かなかった。
それ以来お酒は絶ったのだが、
夫がエスターの味方をするから
ついワインを買ってしまった。
買ってしまったら
飲んでないと言っても信用されない。
ケイトも馬鹿なことをして
自分で墓穴を掘ったものだ。
 
それでも
エスターを怪しいと言ったのは
ケイトだけじゃなく、
シスター・アビゲイルも
彼女には問題があると指摘したし、
そのシスターが誰かに殺されて、
孤児院にエスターの記録もなく、
精神病院で生まれたこともわかり、
ツリーハウスが燃えた時は
エスターかダニエルしか犯人はいなかった。
ここまで状況が揃っているのに
エスターの言うことを信じるのはアホすぎる。
 
ケイトには申し訳ないが
ジョンは死んで当然。
めった刺しにされた時に
自業自得だと思った。
ついでに
あのクソカウンセラーも
殺されてねーかな(希望
 
Q,エスターに枕で窒息させられた
ダニエルは助かったの?
 
助かったと思います。
病院内だし、
心肺停止状態が長くなければ
AEDで蘇生できるでしょう。
 
Q,ダニエルとケイトが病院に入院した夜、
エスターがマックスの
補聴器を持っていくシーンの意味は?
 
今から下で
私とジョンが愛し合うから
邪魔しないでという意味で
聞こえないようにしたのでしょう。
 
あるいは今夜
マックスも殺すつもりで
物音が聞こえないように
補聴器を持ち去ったかもしれない。
あなたには
もうコレ(補聴器)いらないでしょ、
という意味で……。
 
Q,エスターは本当に死んだの?
 
首を蹴られて変な方向に曲がって
池に落とされましたから
普通の人間は死んでますよね。
 
シリーズ化するなら
ゾンビみたいな化物となって
蘇ってくるしかないかと。
 
Q,もうひとつのエンディングが
あるって聞きましたが?
 
池から戻ったかどうか、
ケイトたちを殺したかは不明ですが、
二階でひび割れた鏡で
化粧をしたエスターが
駆けつけた警官が包囲する中、
階段を降りてきて
「ハロー。マイネーム・イズ・エスター」と
血だらけの顔で自己紹介して終わる。
 
ライトに照らしだされた顔は
あまりにも不気味なので
ここには掲載できない。
是非DVDの特典映像で確認してください。
 

可哀そうなマックス

生まれつき難聴で
言葉が話せず手話で会話する
ケイトの娘のマックスちゃん。
エスターがやってきて
お姉ちゃんができたと喜ぶ。
 
しかしそのエスターが
とんでもない女だった。
マックスを脅して言いなりにして
嘘の証言をさせる。
 
エスターはマックスを利用した上で
口封じに何度か殺そうとしていた。
アビゲイル殺しでは
車の前に突き飛ばして
轢かれそうになったし、
車に閉じ込められたまま
坂道をサイドブレーキ外して
バックで事故にみせて殺そうとした。
 
口止めされているので
エスターがやったと言えず、
母親がちゃんとサイドブレーキを
引いていなかったせいにされる。
 
真実を言いたくても
言ったら殺されるし、
エスターに抵抗する力も無い。
大好きな母まで殺されるかもしれない。
 
それでも大事な場面で
エスターに抵抗する。
ダニエルが石で殺されそうな時は
タックルで助けた。
ケイトが凍った池で襲われる場面で
泣きながら銃を撃って(外れたが)
池の氷が割れた。
その結果エスターを
池の底に沈めることになる。
 
いや~映画を見ていて
本当に可哀想だった。
でも最後は
生き残れたので良かったよホント。
 

エスターという女性

少女の外見をして
実は大人だったというオチは
意外とインパクトが弱い。
33歳という微妙な年齢も
驚くほどではなかった。
 
どうせなら少女の外見で
60歳くらいの高齢者だったら
「ええ~!?」っていう驚きがあったと思う。
病気の設定上そこまで高齢になると
顔のシワを消すのが難しかったり、
声や髪の問題もあるのかもしれないが
どうせならもっとオーバーにして
意外すぎる真相にしてほしかった。
 
この映画を高く評価する人は
死産したジェシカの霊が
エスターに憑依していたという
悪魔憑き系ホラーだと思ったら
特殊な病気で意表を突かれて
驚いたということなのだと思う。
俺は誰も知らないような
特殊な病気を出されると
逆にアンフェアに感じてしまうので
高くは評価できなかった。
 
 
それにしても
イゼベル・ファーマン
演技力は凄かった。
憎たらしいぐらいに
エスターという悪役を演じていた。
 
大人っぽくメイクして誘惑したり
正体がわかった時、
メイクを落として
老けたエスターになるが、
逆に老けメイクで
本当に30歳にみえるように
なるのが凄いと思う。
 
 
観終わって思ったのは
エスターは障害を持った孤児のため
いつも子供扱いされて
男女の愛情を知らずに育ったのだろうと。
 
ブラックライトで浮かび上がる絵には
男女の性行為が描いてあったが
果たして彼女は
セックスしたことがあるのだろうか。
欲望だけが肥大して
狂気的な愛し方しか
できなくなったのではないか。
 
エスターはジョンだけに
気に入られるような行動をとったが
彼女の中には
幸せな家族を作りたい意志はなく
ただ男だけを求めていたように思える。
普通の33歳の女性の意志と
9歳の身体のギャップに
悩んでいたのではないだろうか……。