全ての謎が解けるまでこの島から出ることはできない

『シャッターアイランド』
[Shutter Island]

 

 

<あらすじ>
連邦保安官のテディ・ダニエルズ(レオナルド・ディカプリオ)チャック・オール(マーク・ラファロ)は犯罪者を収容する精神科病院があるシャッターアイランドを訪れる。失踪した女性患者を捜すため捜査を始めたテディたちだったが、彼は不吉な展開をすぐに見始める。捜査が進むにつれこの島にまつわるショッキングで恐ろしい真実を暴き出していくテディ。そこには一度足を入れたら二度と出ることができなくなる場所があると知る。
<スタッフ>
監督・製作 マーティン・スコセッシ
脚本 レータ・カログリディス
原作 デニス・ルヘイン『シャッターアイランド』
製作 ブラッドリー・J・フィッシャー
    マイク・メダヴォイ
    アーノルド・W・メッサー
製作総指揮 クリス・ブリガム
    レータ・カログリディス
    デニス・ルヘイン
    ジャンニ・ヌナリ
    ルイス・フィリップス
音楽 ロビー・ロバートソン
撮影 ロバート・リチャードソン
編集 セルマ・スクーンメイカー  
 
<キャスト>
レオナルド・ディカプリオ(テディ・ダニエルズ)
マーク・ラファロ(チャック・オール)
ベン・キングズレー(ジョン・コーリー)
ミシェル・ウィリアムズ(ドロレス・チャナル)
エミリー・モーティマー(レイチェル・ソランドー)
マックス・フォン・シドー(ジェレミア・ナーリング)
ジャッキー・アール・ヘイリー(ジョージ・ノイス)
 

感想

原作はデニス・ルヘインの
ミステリー小説。
 
精神障害の犯罪者を収容した孤島で
外部からやってきた連邦保安官2人が
行方不明の女性の捜索を依頼されるが
嵐で帰れなくなり、
医者や精神病患者たちの
奇妙な世界と
この島で行われている秘密に
足を踏み入れてしまう
というストーリー。
 
衝撃のラストと聞いて観ましたが
確かに衝撃的で良かった。
○○オチは多いけど
見せ方が上手いので
特に2回目の観賞が楽しい。
 
ディカプリオの妻役で
当時30歳の
ミシェル・ウィリアムズが可愛い。
 
★★★★☆ 犯人の意外性
☆☆☆☆ 犯行トリック
★★★★☆ 物語の面白さ
★★★★☆ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し
 
笑える度 -
ホラー度 △
エッチ度 -
泣ける度 -
 
総合評価(10点満点)
 8点
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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※ここからネタバレあります。
 
 
 
 
 
 
 
 
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1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 ---動機
テディ・ダニエルズ ---●病院の医師たち ---治療
 

<結末>

テディは人体実験を暴くため

誰も立ち入ることができない灯台へ。

そこにはコーリー院長がいて、

テディに真実を話す。

テディ自身が67番目の精神病患者で

この島で2年間も治療していたが

結局治らなかったという。

テディの本名は

アンドリュー・レディス。

 

そんなのウソだと怒るテディだが

チャックことシーアン医師も

これが真実だと告げる。

テディは2年前に

娘たち3人を

溺死させた妻を殺して以来、

精神が病んで

妄想の世界に閉じこもっていた。

現実との矛盾を教えるために

医師たちが大掛かりな芝居を打ったが

完全には戻らず。

テディは手術の道を選ぶことに……

 

どんでん返し

この映画のどんでん返しは
実は主人公が精神病患者だった
というものです。
 
それが視聴者にわかるのは、
灯台の中に乗りこんで
医師たちの悪行を暴いてやろうとしたら
コーリー院長だけがいて
体調はどうかねと聞いてくる場面。
すべてを見透かされていることに
視聴者は戸惑う。
 
そして医師の口から
次々と真実が明かされる。
実はテディが精神病患者で
2年前からこの島で治療していたこと。
現実から目をそらすため
空想の物語を作りあげている……と。
 
じゃあ今までの医師たちの
人体実験だの
失踪したレイチェルの話は
一体何だったのかと言うと、
それが医師たちの行った
ロールプレイ治療だった。
 
テディは前に一度回復したが
また戻ってしまった。
ジョージ・ノイスとの暴力事件で
危険人物と判断されたが、
理事会にもう一度チャンスをもらい、
空想を作り上げた患者に
同じ設定の物語を
実際に自分で演じさせてみて、
空想と現実との矛盾に
気づかせるというゲームを試した。
 
暴力的なので何か
間違いがあっては困る。
その監視役に
シーアン医師(チャック)を同行させた。
 
この作品は
精神病オチによくある
「今までのは全て妄想だった」と
いうのとは違います。
妄想を現実化して演じさせられて
全員がグルで主人公を騙したパターン。
 
芝居に翻弄されたテディを
被害者とするなら
病院の医師たちが全員犯人になる。
大人数の犯人トリック作品としても
なかなか秀逸です。
 
 
病院側が何か企んでいると
思わせる方向がミスリード。
 
視聴者は
どうしても主人公側から見るので
医師たちの仕掛ける矛盾
「罠にはめられているのでは」と思わせる
ミスリードとして効いている。
 
とくにポイントなのが
チャックが消えてコーリー院長に
「俺の相棒チャックはどこに?」と尋ねると
「相棒などいない。
君は一人で来た」と返される。
  • 実は院長は嘘を言っていない。二重にとれる言い方で視聴者をミスリードしている。レディスとして一人でここに来たし、チャックという相棒は元からいないのだ。
 
崖の横穴で出会うレイチェル医師
ミスリード要員。(後で詳しく解説します)
 
 

伏線解説

すべて芝居だったと
示唆する方向が伏線。
 
最初にレイチェルの担当医として
名前だけ出ていたシーアン医師
実はチャックの本名だった。
  • この場面も衝撃的だ。お前だったのか!?っていう。
 
そういえば②チャックは
入り口で銃を外すのに
やけに時間がかかっていた。
  • 保安官じゃないので銃の扱いに慣れてない。
 
看護師がシーアンの名前が出た時、
ついそっちに目線が行く。
  • 右側にチャック(シーアン)がいます。
 
水に苦手意識があるのは
子供たちが湖で溺れてしまったため。
  • 灯台まで泳げたので「ちょっと」だけ苦手。
 
レイチェルが周りの人間を
「牛乳屋」「郵便配達人」と
妄想の世界を作っているという話は
そっくりそのままテディのこと。
 
テディが死んだ妻などの
幻覚を見るのは
過去にあるトラウマの伏線。
 
 
ピーターの尋問で
鉛筆でグリグリする音を聞かせて
相手が嫌がる。
  • どうしてそれが嫌だと知っていたかといえば自分もここの患者だから。
 
C塔でテディが患者に襲われた時、
テディより患者の方を心配するのは
テディが暴力的だと知っているから。
 

名前のトリック

テディ・ダニエルズと
レイチェル・ソランドーは
アナグラム(綴り替え)で作った
架空の名前。
 
EDWARD DANIELS(エドワード・ダニエルズ)
ANDREW LAEDDIS(アンドリュー・レディス)←本名
 
RACHEL SOLANDO(レイチェル・ソランドー)
DOLORES CHANAL(ドロレス・チャナル)←妻の本名
 
レディスという奴を追いかけていたが
それが自分の名前だったことすら
気付かなかった。かなり重症だ。
 
エドワードの略称が
なぜ「テディ」なのか?
エディがテディになった経緯は諸説あり、
「ロバート」を「ボブ」とか
「マーガレット」を「ペギー」とか
そう呼ぶことにいつの間にか
なってしまったようだ。
日本人には謎だ。
 
ちなみにタイトルの
「SHUTTER ISLAND」を並べ替えると
「TRUTHS AND LIES(真実と嘘)」
真実(現実)と嘘(妄想)になる。
また別の並べ方をすると
「Truths / Denials(真実を拒絶)」になる。
 

よくある疑問

Q,テディが幻覚を見るのはなぜか?
 
テディは過去2年間、
クロルプロマジンを投与されていた。

クロルプロマジンの使用で、

特に頻繁に遭遇する副作用は以下の通りである。

  • 循環器(血圧降下、頻脈、不整脈、心疾患悪化)
  • 血液(白血球減少症、顆粒球減少症、血小板減少性紫斑病)
  • 消化器(食欲亢進、食欲不振、舌苔、悪心、嘔吐、下痢、便秘)
  • 内分泌(体重増加、女性化乳房、乳汁分泌、射精不能、月経異常、糖尿)
  • 精神神経系錯乱、不眠、眩暈、頭痛、不安、興奮、易刺激、けいれん
  • 錐体外路症状(パーキンソン症候群、ジスキネジア、ジストニア、アカシジア)
本来はこの薬を使いたくないが
テディは危険な患者なので仕方なかった。
今回の治療では
投与を中止しているため
反動で禁断症状が出ている。
 
煙草は薬の効果を低下させるのですが、
チャックが煙草を勧めるのは
禁断症状を弱めるためです。
煙草に薬を仕込んでも効果は弱いので
何も仕込んでないですよ。
自分も同じ煙草を吸わなきゃいけないし。
 
Q,テディの額の絆創膏は何?
 
後で出てくるジョージ・ノイスと
争った時にできた傷。
ロボトミー手術の痕だという説もあるが、
この時点で手術していたら
こんな会話はまず無理だ。
これ自体が妄想ということに……
 
Q,ミセス・カーンズが水を飲むシーンで
コップが消えているのはなぜ?
 
彼女は「RUN(逃げろ)」と書いたり、
どうやら主人公に真相を
教えようと思っていたらしい。
このシーンも主人公へのヒントだが、
実は「あなた」へのヒントでもある。
 
右手で飲むふりをして見せ、
左手でコップを置いた。
コップが空になっているから
水を飲んだのだと
視聴者の「あなた」は思いこまされた。
 
これは人がいかに騙されやすいかを
「視聴者自身」に試した監督の遊び
気付いた「あなた」は偉い。
監督がメイキングで言う
「カットの繋ぎ方を楽しんだ」とは
そういう意味でした。
 
Q,子供を殺したのは妻ドロレス?
 
そうです。
ドロレスがうつ病で
アパートが火事になって
引っ越した先の
湖畔の別荘で悲劇は起こった。
 
土曜日の午後、
息子サイモンとヘンリー、
娘レイチェルの3人を溺死させた。
「楽にして」と言うので銃で殺してしまった。
 
彼女がいつから
うつ病になったのかは判明していない。
火事で自殺を図った時に
頭の中に虫がいて
それが這いずりまわって苦しいと
テディに助けを求めたが
仕事が忙しくて取り合わなかった。
 
彼女を助けてやれなかったから
自分が子供たちと妻を殺したと責め、
架空の物語に逃げ込む。
自分は連邦保安官テディ・ダニエルズで
妻は火事で死亡。同時に4人が死んだ。
犯人は放火魔レディス。子供はいない。
シャッターアイランドには
失踪したレイチェルの捜査でやってきた……と。
 
Q,レイチェル医師は実在したのか?
 
崖の横穴で出会う女性
レイチェル医師は
幻覚ではなく、
実際にあの横穴にいました。
しかしあの女性は
「レイチェル・ソランドー医師」に
間違えられた人でしょう。
 
あのレイチェルが幻覚だとすると、
横穴で火を焚いてあること自体が不自然。
人がいなかったら怪現象だ。
火に手をかざして暖まっているのだから
火も幻覚というわけではないだろう。
 
もし仮に
あのシーンまるごと幻覚で
横穴すら入って無いとしたら、
テディは一晩どこで明かしたのか?
 
それとレイチェル医師は
医学の専門的な話をテディに聞かせた。
ロボトミー手術の方法や痛みのこと、
テディすら知らない医学知識を
幻覚に言わせることができるだろうか?
自分で勉強したとは思えない。
 
 
そしてここからがポイント。
レイチェル役は2人います。
 
レイチェル1は病院の看護師
(エミリー・モーティマー)です。
戻ってきたレイチェル役をしました。
 
レイチェル2が洞窟にいた女性
(パトリシア・クラークソン)です。
その正体は
精神病患者(囚人)でした。
 
本人はレイチェル医師に
なったつもりはない。
テディが勝手に思いこんで
「レイチェル・ソランドーだな」と尋ねたが
相手は何も答えていません。
自分の名前を名乗ってもいません。
そもそもレイチェル自体が架空の人物。
この会話のちぐはぐなところを
再度観ると面白い。
上手いこと錯覚させています。
 
で、問題なのが
この女性は病院側の指示で
ここにいるのか、
逃げ出した狂人なのか?ということ。
 
病院側の人体実験を吹きこんで
間違った印象を与えるので
本当に逃げ出した
精神病患者だった可能性が高い。
しかし
最初の方でこの洞窟を見せて
「あそこは捜索したのか?」
「あそこに人は行けませんよ」
という会話を出したので
テディを混乱させるために仕込んだ
病院側の役者だった可能性もある。
どちらかはっきりわからない。
 
もうひとつ、
テディがこの人物に会ったのは
チャックの転落死体を見て
助けに崖を降りたからだが、
あれはテディの妄想。
 
岩肌が人の形に見えて
チャックの死体だと勘違いした。
飛んで来た受入票も
ネズミの大群も幻覚だった。
 

結末の解釈

多くの人がこの映画の結末は
2通りの解釈ができるという。
 
テディは精神病患者で
結局症状が改善しなかった
という表面通りの見方と、
テディの言うことが真実なのに
医師たちに洗脳されて騙された、
という裏の見方です。
 
実は正解は出ています。
①のテディは精神病患者だった、
が正解でした。
ストレートな解釈でいいんです。
テディが最後に言う
ある台詞にその答えがある。
 
テディとチャック(シーアン)が
これからどうする?と
話している時に
急にテディが
「島を出ようチャック」と言い、
「この島じゃ、とんでもないことが起きている」
再び妄想の世界に入ってしまう。
 
それを聞いたチャックは、
もう駄目だこいつ……と、
コーリー院長に目で合図する。
 
それを見た医師たちは
がっくりして肩を落とす。
このままでは危険だと
最後通告されているので
仕方なく手術の準備をする。
 
その後のテディが言う
台詞に注目してほしい。
“「どっちがマシかな?
怪物として生きるのと、いい人間として死ぬのと」”
 
その言葉を聞いて今度は
シーアンの方が驚いた。
それはなぜか?
 
医師たちにロボトミー手術を
決行させるために
テディはわざと
「症状が悪化したふり」をした。
 
今は正気でも
また暴れる可能性は高い。
前にも回復したと思ったら
また戻ってしまったことがある。
このまま治るかどうかもわからない。
もうこれ以上自分が人を傷つけるのは
耐えられないと感じたからこそ
テディは自らロボトミー手術を受けて
感情を失くして生きることを選んだ。
……というのが真相です。
なんとも切ないですね。
でもちょっとカッコいい終わり方。
 
 
ネットのレビューで
“どの解釈が真実なのか明確な証拠がありません。”
という人がいるが、
明確な証拠はたくさんある。
医者たちの対応は悪人に見えないし、
テディを救ってやりたいという
気持ちは伝わってきたはず。
 
もし本当に保安官で調査に来ているなら
テディを植物状態にして
本土に帰すことはできない。
もしくは本土から誰か
調査に来てしまうと
ロボトミーテディを見て
これはどういうことだ?と責められる。
 
手術する=テディが患者だから、
という簡単なこと。
病院側が手間をかけて
洗脳で手術を受けさせても
何もメリットがない。