連続する猟奇殺人。この結末は脳内を破壊する…。

『アイデンティティー』

[Identity]

(2003年)アメリカ映画

 

 

 

<あらすじ>

嵐により一軒のモーテルに閉じ込められた11人。極限の状況下、護送中の囚人が脱走し、一人また一人と惨殺され始める。元刑事のエド(ジョン・キューザック)は刑事ロード(レイ・リオッタ)と協力し、犯人を捜し出そうとするが、犯人と目星をつけていた囚人も死体となって見つかった。残された誰もが疑心暗鬼になる中、彼らにある共通点があったことが判明する。一方、時を同じくして死刑を直前に控えた猟奇殺人鬼の再審理が行われていた。その男にも同じ共通点が……。
二つの事件が一つに繋がった時、想像を絶する衝撃のラストが待っていた!

 

<スタッフ>

監督 ジェームズ・マンゴールド

脚本 マイケル・クーニー

製作 キャシー・コンラッド

製作総指揮 スチュアート・ベッサー

音楽 アラン・シルヴェストリ

撮影 フェドン・パパマイケル

編集 デヴィッド・ブレナー

 

<キャスト>

ジョン・キューザック(エド)

レイ・リオッタ(ロード)

アマンダ・ピート(パリス)

ジョン・ホークス(ラリー)

レベッカ・デモーネイ(カロライン)

クレア・デュヴァル(ジニー)

ウィリアム・リー・スロット(ルー)

ジョン・C・マッギンリー(ジョージ・ヨーク)

レイラ・ケンズル(アリス・ヨーク)

ブレット・ローア(ティミー・ヨーク)

ジェイク・ビジー(ロバート・メイン)

プルイット・テイラー・ヴィンス(マルコム・リバース)

アルフレッド・モリーナ(マリック医師)

ホームズ・オズボーン(テイラー判事)

 

感想

嵐の夜に立ち往生して

偶然モーテルに逃げ込んだ

11人の男女が

一人また一人と殺されていく。

嵐の夜の

クローズド・サークル系ホラー。

 

これを観る前に他の作品で

○○に似ていると名前が挙がった中に

この作品もあったので

終盤で意外な事実が判明しても、

ああなるほどね、

それで○○に似ているのか~と

わりと冷静に見れた。

 

ところが!

これで終わるかと思って

完全に油断してたところに

超どんでん返しが待っていた。

 

そうかーこんなオチだったか……。

これはビックリするわなぁ。

というわけで

俺も完全に騙されたので

かなり高く評価します。

どんでん返し度でもかなり上位。

 

どんな映画か調べようとして

Wikipediaを見ないように。

完全にネタバレが載っています。

人が何人も殺されて

血もドバドバ出て、

最後の後味も悪いけど

個人的には超おすすめです。

ドラム式洗濯機の中の生首は

かなりトラウマなので要注意。

 

★★★★★ 犯人の意外性

★★☆☆☆ 犯行トリック

★★★★☆ 物語の面白さ

★★★★★ 伏線の巧妙さ

★★★★★ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 ○

エッチ度 -

泣ける度 -

 

総合評価(10点満点)

 9.5点

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

カロライン ---●ティミー ---憎悪【刺殺:ナイフ】

ルー ---●ティミー ---憎悪【刺殺:ナイフ】

ロバート・メイン ---●ティミー ---憎悪【刺殺:バット】

ジョージ・ヨーク ---●ラリー ---事故【衝突死:車】

アリス・ヨーク ---●ティミー ---憎悪【窒息死:手】

ジニー ---●ティミー ---憎悪【爆死:車】

ラリー ---●ロード ---口封じ【射殺:銃】

ロード ---●エド ---防衛手段【射殺:銃】

エド ---●ロード ---口封じ【射殺:銃】

パリス ---●ティミー ---憎悪【斬殺:三本爪の鍬】

マリック医師 ---●マルコム・リバース ---憎悪【絞殺:手と鎖】

 

<結末>

モーテルに集まった11人は

死刑囚マルコム・リバースの人格。

多重人格者の彼の中に

殺人鬼の人格がいて

エドが犯人を捜すことになる。

 

エドはロードを疑い

相討ちで死亡し、

パリスの人格が残った。

それを確認した判事たちは

マルコムの死刑を取りやめる。

 

ところが残っていたのは

パリスだけじゃなかった。

死んだと思われたティミーが

姿を現してパリスを殺し、

マルコムを乗っ取り

移送中の医師たちを襲うのだった……

 

どんでん返し

この作品のどんでん返しは

「状況」「真犯人」の2つある。

 

まずは「状況」から説明。

嵐のモーテルは実在せず、

マルコム・リバースの

頭の中の出来事だった。

そして、

マルコム・リバースは

「解離性同一性障害」で

集まった11人は

彼の11の人格を視覚化した姿だった。

 

この物語は

「嵐のモーテル」と「死刑囚の再審理」の

2つの場所で同時に進行しているが、

「嵐のモーテル」が「意識(夢)の中」

「死刑囚の再審理」が「現実」です。

 

死刑囚マルコム・リバース

彼は自分の中に

11人の人格を持っていた。

その人格の1人が彼を操り、

4年前に6人を殺害して

死刑判決を受けている。

 

彼の中のどの人格が殺人鬼か

特定するために、

弁護団は彼の人格同士を

一か所に集めて

人格の殺し合いをさせた。

 

モーテルに集められた11の人格。

①雇われ運転手(元刑事)エド

②女優カロライン。

③娼婦パリス

④新婚の夫ルー。

⑤新婚の妻のジニー

3人の親子。

⑥父ジョージ、⑦母アリス、⑧息子ティミー

⑨モーテルの主人ラリー

⑩刑事ロード。

⑪護送中の囚人ロバート・メイン

彼らが実在すると思わせることが

ミスリードになります。

 

この別人格の視覚化でよくあるのが

自分以外には見えていなかった、

というパターンですが、

この作品では

視覚化して視聴者に見えているうえに、

全員が見えていることを認識しているから

別人格などとは疑いようがない。

 

「嵐のモーテル」と「死刑囚の再審理」が

同じ日の夜の出来事だと思わされるのは

どちらも外が嵐で雨が降っているからだ。

 

 

「解離性同一性障害」の

伏線については

冒頭のテープレコーダーで

提示されている。

 

彼らの繋がりは

5月10日という誕生日。

冒頭のマリック医師のテープレコーダーで

マルコムが

「5月10日は俺の誕生日だ」と言っている。

中盤でエドが5月生まれと言い、

終盤でパリスが年齢を言う場面で

やっと全員の共通点が判明する。

 

この「実は多重人格でした」

夢オチみたいでがっかりする人もいる。

しかも現実じゃなかったなら

殺人なんて意味が無いし

もう何でもよくなってしまいかねない。

 

しかしこの映画はそこで終わらず

このルールを理解したうえで、

残った人格の中に

4年前の殺人を行った殺人鬼を見つける

「犯人捜し」に展開しているのが秀逸だ。

 

 

そしてラスト2分、

「真犯人」が姿を現す。

 

偽刑事ロードとエドが撃ち合って死亡し、

パリスの人格だけが残った。

判事は殺人鬼の人格が消えた事を確認し、

マルコムの死刑中止を決める。

 

フロリダの果樹園で

念願のオレンジを育てるパリス。

何気なく土を掘っていると

終わったはずの

ルームプレート「1」が出現する。

 

これはまさか……!?

振りかえったパリスが目にしたものは

三本爪の鍬を持った少年。

 

真犯人は

子供のティミーだった。

なんとも恐ろしい真相だ……。

 

ティミーは子供なので

普通は犯人として考える人はいない。

子供ということ自体が強いミスリード。

そのうえで

自分も死亡しているのが上手い。

 

よく思い出してほしい。

死体を確認できなかった

2人の人物がいる。

ジニーとティミーだ。

 

この2人が死んだ(と思われた)

爆発事故の直後に

死体が全て消えるという

不思議な現象が起きている。

そのために死体を

確認しなくても死亡扱いになった。

 

立て続けに

5月10日の誕生日の謎に辿り着き、

この時点でモーテルの11人が

多重人格のそれぞれの人格だったという

最初のどんでん返しを明かしている。

この衝撃で完全にティミーは

ノーマークになった。

怪しいのはロード刑事だと

誰もがミスリードされる。

 

ロードを疑わせるミスリードは

「ルームキー」が強力だ。

殺された人が

「10」「9」「8」……とルームキーを

順番に持たされているが、

「10」はロードの部屋の鍵で

「8」のルームキーを拾い上げたのも

「6」のルームキーを拾い上げたのもロード。

「7」はロードが

ジョージのポケットから取り出したが

自分で入れて取り出したようにも見える。

 

伏線でありミスリードでもあるのが

ロードのシャツの背中に穴が

空いているのが

彼を決定的に怪しく思わせる。

 

実はロードは

死んでいるのではないか?という

某映画のオチを思い出して

勘違いさせる狙いもあったらしい。

(脚本家のコメンタリーより)

 

護送中の囚人が

死刑囚だと思わせているのも

ミスリードのひとつ。

顔が違うのですぐバレるが。

 

ラリーを怪しく思わせるミスリードは

冒頭のテープレコーダーの声の主が

母が娼婦でモーテルに

置き去りにしたトラウマがあり、

異常なまでに娼婦を嫌う様子から

冒頭の人物と同一人物じゃないかと

思わせている。

 

 

伏線解説

次は伏線を分析。

 

ある共通点をもった10人が

次々と殺される小説

『そして誰もいなくなった』を

ジニーが口にしたこと

内容を知っている人には伏線になるだろう。

  • 連続殺人の中で犯人が自分を抹殺して嫌疑をそらすやり方を「バールストン・ギャンビット」と言います。この映画の犯人も自分を死亡扱いにしている。

 

子供の動きに注意して見ると

いろいろ怪しい動きを

していることがわかる。

 

母アリスが車に撥ねられた時、

窓から離れたから

アリスが真似して撥ねられた。

あれは作為的に殺そうとしたのだ。

 

カロラインが

愚痴を言っている場面、

雷が光った瞬間、

窓の外に人の姿が!

  • そうです。ティミーが狙っています。これに気付いた時、超怖かった。

 

この直前の場面でティミーが

ぐっすり寝ている映像が出るため

まさか出歩いているとは思わない。

父親の目を盗んで

一体どうやって抜け出したのか謎です。

 

ルーを殺す前、

一人でトイレに入っている。

  • いつもは母がティミーのトイレに付き添う。一人ではうまくできないから時間がかかるらしい。殺人に行けるくらいの時間が。

 

父ジョージが死ぬ場面。

わざとラリーの車の前に飛び出し

「危ない!」とやってくるジョージを

まんまと車に撥ねさせる。

 

母アリスを殺す前も、

ふらっと立って姿を消している。

その後、アリスの死体を見て

わざとらしく

泣こうとするのが憎たらしい。

自分が殺しておいて

すげえなお前。

 

ジニーを爆破で殺した時の

炎をバックに立ち去るところは

無駄にかっこよくて笑える。

 

 

ティミー以外では

ロードが偽刑事であるという

軽いどんでん返しがあって

それにも伏線がある。

 

囚人がロードに

「おめえもツイてないな」と言ったのは

せっかく逃げれたと思ったのに

逃げれなくてツイてねえなという意味。

 

無線を使わせなかったり、

パリスをナンパしようと近づくあたりも

刑事らしくない。

 

上のミスリードで挙げた

シャツの背中の穴

偽刑事の証拠。

 

それより何より

レイ・リオッタの顔が悪人顔なので

刑事に見えないんですが。

 

よくある疑問

Q,車の中でカロラインが

電話で話していたエージェントとは?

 

実はパリスと遊んでいた

中年男だそうです。

(脚本家のコメンタリーより)

腹の上にケーキを載せたあいつ。

 

Q,それぞれの人格が初めて出会ったなら

エドはどうして女優の運転手をしているの?

 

あれは医師の暗示で

「組まされた」からだそうです。

つまり元々エドもカロラインも、

ジニーもルーも繋がりの無い人格だった。

それを死刑まで時間がないから

医師が暗示で夫婦などに仕立てたらしい。

(脚本家のコメンタリーより)

 

Q,ジニーとルーが6号室に入った時、

ルーがドアを蹴って、

「6」が「9」になったのに意味はあるの?

 

ドアを蹴ったルーは

皮肉なことに

「9」のルームキーを

持たされて殺されました。

そしてルームキーは出てないが

ジニーは「6」番目に殺されています。

 

Q,囚人ロバート・メインは

モーテルから逃げたと思ったら

またモーテルの近くに

戻っていたのはなぜ?

 

それはここが

不思議な空間という伏線。

逃げようとしても逃げられない。

先住民の墓地が出てくるのも

霊的な力を暗示しているが

ジニーがやたら幽霊の仕業と

思わせる発言をするのは

ただのミスリード。

 

Qラリーが持ち場を離れて

事務所に行ったのはなぜか?

 

死体を冷凍庫に隠したが

鍵を掛けたくても鍵がなかった。

そこで事務所に

南京錠が無いかと取りに戻っていた間に

食堂の囚人が殺されてしまい

殺人の濡れ衣を着せられた。

 

Q,ルー・イジアナや

パリス・ネバダのように

名前がアメリカの州の名前なのは

何の意味があるの?

 

彼らの人格に

元から名前は無い。

誕生日も無かったが

マリック医師が州の名前と

5月10日の誕生日を

彼らに植え付けている。

 

その目的は

この不思議な共通点に

気付いた奴を現実に呼び戻し、

殺人鬼の人格を殺させるため。

 

Q,マルコムは男なのに

最後にパリス(女性)の人格が残ったら

医師は疑問を抱かないか?

女性の人格で安定すると思うか?

 

そんなこと言ったら

世の中のオカマにボコられるぞ。

身体は男、中身は女。

確かに不便ですが

彼は19時間後には死んでいた人間。

死刑を免れたのですから

生きているだけマシ。

最後に誰が残っても

自分の生みだした感情であり

もう一人の自分なのだから

たとえパリスが残っていても

上手く生きていけると思いますよ。

 

Q,ティミーは一言もしゃべっていないので

医師や判事たちは

子供の存在に気付かなかったのか?

 

いいえ、気付いてます。

「我々は今夜、

10人の死を見届けた」

弁護士が言っているから、

パリスが最後に残って

他の10人が消えたと思っている。

もちろんティミーはジニーと一緒に

死んだと思っていますよ。

 

Q,脳内の出来事に12人目の人物がいる。

二人の殺人犯を移送していた警官

(後に衣装だけ奪われる人)。
あれも12人目の別人格というならば、

なぜ彼だけはモーテルに辿りつけなかったの?

 

それを入れると

モーテルの前の主人も

パリスが寝た親父も

数に入れないといけなくなる。

 

そうじゃなくて

医師の治療法で人格を

「嵐のモーテル」に集めるように

マルコムに指示しました。

すなわち

ここに入って来た人物、

出て行けなくなった人物だけが

マルコムの別人格となります。

 

Q,マルコムはマリック医師を殺したの?

 

Wikipediaのあらすじでは

残念ながら医師と

もう一人の男も殺したようです。

脚本家も

「最後の殺人」だと言っています。

 

人格を一か所に集めて

殺し合いをさせたのは

マリック医師です。

最後にマルコム・リバース

死んだはずの人格が

医師を殺しに戻ってきたのは

因果応報の結末でした。

 

 

なぜ子供が犯人なのか?

どうして子供を犯人役にしたのか?

これが最も多い疑問ではないかと思う。

 

監督のジェームズ・マンゴールドは

オーディオコメンタリーでこう言っている。

“ポイントは「実は子供が犯人だ」ではなく、「ずっと間違った人格を追っていたこと」だ。マルコムの別の人格を消して安心していた。この痛々しい殺人犯の中に潜む、悪意、怒り、敵意、孤独感は、どの大人の人格でもなく、悲しい子供の人格の中にあった。

 

脚本のマイケル・クーニーのコメンタリー。

“ただ恐怖感をあおるためのひねりじゃない。無垢な少年が悪魔だったというオチじゃない。もう少し深い理由があるんだ。多くの人格が作り出されたが、元の人格は「虐待された少年」だ。すべての元になっているのは少年(ティミー)なんだ。少年がすべての人格を作りだした。だから彼を殺人鬼に選んだ。彼は自分以外の人格が現実じゃないと認識していたかも。だから、自分が生き残るために次々と殺していったんだ。”

 

このティミーという少年は

母アリスの連れ子で

前父から虐待されていた。

2年前にジョージと再婚したが

誰にも全く心を開いていない。

モーテルでも一言もしゃべらない。

 

アメリカでは

解離性同一性障害の

患者が増えている。

その多くが

幼少期の虐待によるものらしい。

耐えられないほどの

心にダメージを受けた結果、

感情や記憶を切り離し

別人格を形成してしまうようだ。

 

少年の人格が

マルコム本来の姿であり、

自分以外の人格の存在に

気付いている唯一の人物なら、

最後にティミーが残るのも

犯人であることも納得できます。

 

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