金田一少年の事件簿から
本家の金田一へ・・・
というわけではないが
雪の夜の足跡の無い殺人といえば
本陣殺人事件を
読んでおかなくてはいけないだろうと
この機会に横溝作品に
手を出してみた。

『本陣殺人事件』  
横溝正史(1946年)


作者の横溝正史(せいし)は
金田一耕助シリーズが有名。
その金田一の初登場が
この『本陣殺人事件』

この本では
25歳くらいの
風采のあがらない青年として
描かれている。

 

あらすじ&解説&欠点

◆長編『本陣殺人事件』(1946年)
◆短編『車井戸はなぜ軋る』(1949年)
◆短編『黒猫亭事件』(1947年)

この3作品が収録されている。

『本陣殺人事件』 

あらすじ
事の発端は
三本指の男
一柳家を訪ねたことだった。

昭和12年。
宿場の本陣である一柳家の
長男・一柳賢蔵
嫁をもらうことになった。
相手は久保克子という女教師。

家柄にこだわる母の糸子
妹の妙子、従兄弟の良介らは反対したが、
賢蔵は克子の純粋さに惚れて
強引に結婚の運びとなった。

事件は11月25日の深夜から
明け方にかけて起こったが
その時家にいたのは、
新郎の賢蔵、新婦の克子、
一柳家の刀自・糸子、
三男の三郎、次女の鈴子
従兄弟の良介とその妻・秋子
新婦の叔父の久保銀造
長女・妙子は嫁に行き、
次男・隆二は式に出席しなかった。

23日頃から
三本指の怪しい男がうろつき始め、
25日には
マスクをした三本指の男が
一柳家の台所へ現われて
賢蔵に紙片を渡してくれと頼んだ。
その紙片を読んだ賢蔵は憤慨し
紙片をズタズタに破り捨てる。

婚礼の式は終わり、
賢蔵と克子は
家の西側にある離家に宿泊する。
午前4時頃、
銀造は女の悲鳴で目を覚ました。
続いて琴の鳴る
ピンピンピンという音。

あわてて離家に駆けつけるが
戸が開かない。
良介や糸子たちも
何事かと起きだしてきた。
斧で雨戸を壊して中に入ると、
血まみれの中に
男女が折り重なって倒れている。

賢蔵も克子も
刀で斬られて死亡していた。
現場には婚礼に使った琴が置いてあり
糸が一本切れて
糸を支える琴柱がなくなっている。
金屏風に
血のついた琴爪で
三本の指の跡が残っており、
三本指の男と思われる指紋も出て来た。
そして庭に凶器の日本刀が
突き刺さっている。

銀造たちが踏み込んだ時、
犯人は離家のどこにも
隠れていないうえ、
雪の上には
誰の足跡も残っていなかった。

この不可解な事件に、
銀造は探偵の金田一耕助を呼ぶ。
ヨレヨレの帽子と
しわだらけの着物を着た
風采のあがらない青年。
彼がこの事件で
最も重要な役割を果たすことになる。

解説
大雪の降った夜、
離家で寝ていた新郎と新婦が
日本刀で斬り殺される。
鍵の掛かった離家に犯人の姿はなく、
雪の上には足跡もなかった。
密室の本格ミステリー。

金田一耕助シリーズ長編第1作。
1948年第1回探偵作家クラブ賞受賞。

●金田一耕助のキャラクターがいい。
昂奮するとどもったり、
頭をぼりぼり掻く癖に好感。
横溝氏が言うには
この一作きりで
作ったキャラだったらしいが
好評だったためシリーズ化する。

●「三本指の男」「日本家屋」
「名家の結婚式」「琴の音」
「日本刀」「雪」
こういった道具立てが
雰囲気を盛り上げている。

●密室トリックの成功率は低そうだが
俺はこういうの大好き。
ただし状況が文字だけで伝わらない。
作中に同趣向の有名作品が
ネタバレされているのがマイナス。

●古い表現が多い。
「本陣」「刀自」「琴柱」「欄間」
「雨戸のこざる」「屏風」など。
すごくわかりにくい。

●地名を「久-村」(久代村)
「清-駅」(清音駅)
「岡-村」(岡田村)など
伏せ字にする意味がわからない。

●三郎との探偵小説問答で
密室トリックを
あれこれ引用している。
ここにネタバレはない。

●動機が現代人には理解しがたい。
面白い動機ではある。

●すうちゃん(17歳)が可愛い。

●磯川警部の
「そうです、そうです」が
妙に頭に残る。

●語り手が
あそこはああだと
はっきり書いていないとか
言葉のニュアンスで
読者にフェアだったでしょと
ドヤッてるのが少し気にいらない。
別にどっちでもいいよ。

★★★☆☆ 犯人の意外性
★★★★★ 犯行トリック
★★★★☆ 物語の面白さ
★★★☆☆ 伏線の巧妙さ
★★☆☆☆ どんでん返し

笑える度 △
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -

総合評価
 8点

 

 


 


『車井戸はなぜ軋る』  

あらすじ
K村の名主は三家あった。
本位田(ほんいでん)家、
秋月家、小野家・・・
そのうち
本位田の一族が繁栄し、
秋月、小野の両家は没落した。

本位田大三郎には
3人の子供が生まれている。
長男の本位田大助
次男の本位田慎吉
長女の本位田鶴代

大助と同じ年に
秋月家にも男児が生まれた。
この子は実は
妻の秋月柳が不貞をしてできた子で
その相手が本位田大三郎だった。
生まれた子は伍一と名付けられ、
父は妻の浮気を知り絶望して
車井戸に身を投げ、
その一年後、
母のお柳も伍一を親戚に預けて
車井戸に身を投げた。

そうして育った伍一は
同じ父の血を引いていたため
大助とそっくりであった。
むしろ伍一の方が
本位田大三郎の特徴の
二重瞳孔を受け継いでいたため、
より本位田家に近く、
自分に相続権があっても
よいはずだと考えていた。
伍一の姉のおりん
家を没落に追い込んだ
本位田家を恨んでおり、
昔から幼い弟に
本位田一族に対する復讐を
言い聞かせて来た。

昭和16年に
大助は梨枝という女性と結婚したが
以前は伍一と付き合っていて
金に目がくらんで
鞍替えしたという噂もある。

昭和17年
大助と伍一は召集で戦場へ。
そこで2人は仲良くなったらしい。
2人が並んだ写真を戦地から送ってきた。
瓜二つだった。

大助の両親が無くなり、
慎吉が結核で療養所に通い、
本位田家には、
祖母の本位田槇
長女の鶴代、
大助の妻・梨枝、
女中のお杉
下男の鹿蔵の5人だけになった。

昭和21年7月3日。
突然、大助が帰ってきた。
しかし様子がおかしい。
戦地で顔に火傷を負い、
やけに虚ろな目をしている。
聞けば両目を失い
義眼をはめているのだとか。
その姿は
小野家の家宝だったという
葛の葉屏風に描かれた
狐が人に化けて
瞳がない女の絵そっくりであった。

すっかり人が変わってしまい、
口数の少なくなった兄に
妹の鶴代は疑問を抱く。
はたして今の大助は
本物なのだろうか?
瓜二つだった伍一が
本位田家を乗っ取ろうと
しているのではないか?

不安な気持ちを手紙に綴り、
療養所にいる兄・慎吉に
相談するのだが・・・。

解説
繁栄した一族と
没落した一族。
両家の同い年の息子が戦地に行き、
片方だけ帰ってきた。
同じ血を分けた
異母兄弟の2人は瓜二つで
しかも帰ってきた男は
唯一の特徴の目を負傷し、
義眼になっていた。
帰って来た男の正体を探る
サスペンスミステリー。

第3回探偵作家クラブ賞短編部門の候補作品

●帰ってきた兄が
偽物かもしれないと
疑心暗鬼になっていく様子が
ハラハラして面白い。

●逆転の発想を使ったトリックは見事。
カーの有名作品が元ネタだと思われる。
車井戸に死体を投げ込む理由も納得。

●動機が理解できない。
疑いすぎだし、
やたら行動力あるし。

●鶴代ちゃん(17歳)が可愛い。

●梨枝の痣は夫の大助なら
知っていなければいけない。

●おりんがよくわからない。
真実を知っていたのか
知らないのか・・・。
昭治もよくわからない。
29日は何をしに来たの?

●金田一耕助は
終わりにだけ登場する。
探偵役ではない。

★★★★☆ 犯人の意外性
★★★★☆ 犯行トリック
★★★★★ 物語の面白さ
★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ
★★★☆☆ どんでん返し

笑える度 -
ホラー度 △
エッチ度 △
泣ける度 -

総合評価
 8点

 

 


 


『黒猫亭事件』  

あらすじ
探偵作家ののもとに
金田一耕助がやって来た。
彼を主人公にした
小説を書いていた私だが
この時が初対面だった。
すぐに打ち解けた私たちは
顔のない屍体
というテーマで論じ合う。
そこで約束した通りに
後日金田一耕助から
「顔のない屍体」の事件の
手紙を受け取ったので紹介しよう。


昭和22年3月20日。
東京の辺鄙な場所にある
G町の裏通りの坂を
巡回していた長谷川巡査
夜中に土を掘る物音を聞いた。

「黒猫」という酒場は
一週間前に前の主人が店を畳み
今は空き家同然になっている。
その「黒猫」の裏庭で、
男が土を掘って
何かを発見し悲鳴を上げた。

長谷川巡査が近づくと
その男は隣の
蓮華院の日兆という僧で、
穴の中から女の屍体が見えている。
女は全裸で身元を示す物は無く、
顔は識別できないほど腐乱していて
誰だかわからない。

屍体は死後三週間。
日兆はなぜ掘っていたか?と聞かれ
裏庭に人間の足が見えていて
気になって掘ったと答えた。
屍体のそばに
黒猫亭の飼い猫の
クロらしき黒猫の屍体があるが、
もう一匹黒猫が裏庭にいた。

前の主人
糸島大伍(いとしまだいご)
その妻・糸島繁子(いとしましげこ)、 
住みこみでお君という少女の
3人がここに住んでいた。
それに加代子珠江という
通いのホステスが2人を合わせて
5人がこの酒場で働いていた。

糸島夫婦は店を辞めて
神戸に行ったというが・・・。
最後に目撃したのは14日。
お君と加代子と珠江から
糸島夫婦の話を聞く。

糸島夫婦は
中国からの引き揚げ者で
先に日本に帰ったお繁は
金持ちの愛人になっていたが
糸島が後からやって来て
相手の男に手切れ金を渡して
お繁と結婚した。
しかし最近までお繁は
この男に会っていたらしい。
一方亭主の糸島も
愛人がいて
同じ中国からの引き揚げ者で
お繁の前に同棲していた女がいる。

夫の様子をあやしむお繁に
糸島の尾行を頼まれたお君は
最近その女と
糸島が会っているのを見た。
口許にほくろのある派手な女で
鮎子という名前らしい。

警察は黒猫亭の居間に
血を隠した跡を発見し
2月末頃にここで
女を殺したと推測する。

不思議なのは
お繁が3月に入ってから
六畳の座敷で伏せって
誰にも顔を見せなかったことだ。
ドーランで顔がかぶれて
見せたくないと糸島が説明した。
最後に立ち去る時も
ショールで顔を隠していた。
いつの間にか
黒猫が入れ替わっているのもあやしい。

死んだ女は「鮎子」だったのか?
それとも・・・?

屍体を掘り返した日兆を問い詰めると
新証言が出てきて
事態は一変する-----。

解説
黒猫亭の裏庭で発見された
顔のない女性の屍体。
酒場の亭主と妻の過去と
妻が最近姿を見せなかったことから
亭主が浮気相手と共謀して
妻を殺して埋めたと思われたのだが
終盤で意外な展開をみせる
本格ミステリー。

金田一耕助シリーズ3作目。
発端は「獄門島」事件の
直後となっている。

●探偵作家Y(横溝正史)と
金田一耕助が初めて顔を合わせる
ファンには重要な作品。
『本陣殺人事件』では人からの
伝聞で小説を書いていたが
ここから公認になった。

●「顔のない死体」に
ひねりを加えたトリック。
複雑ではあるが
現実的ではない。

●動機はそれなりに納得。
中国からの引き揚げ者という設定が
意外と重要になっている。

●黒猫のクロが可哀そう。
よく躊躇なく殺せたなと思う。

●お君ちゃん(17歳)が可愛い。

●10年以上前の
女性の写真はアテにならない。
証拠能力はない。

●金田一だけが知っている
情報の後出しがせこい。
(犯人の前科やらお君の日記など)

●風間の二号だか、
三号だか~のくだりは
ちょっと面白かった。

★★★☆☆ 犯人の意外性
★★★★☆ 犯行トリック
★★★☆☆ 物語の面白さ
★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し

笑える度 △
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -

総合評価
 7点

 

感想

古い表現が多く

読みづらい部分もあったけど
それも味だと思うと
すごく楽しめました。

本陣のトリックは
どこかで見ていたのに
思い出せなかったなぁ。
ドラマ化されているので
テレビで見たのかも。
言われてみて
そうそれ!と思い出した。

あと、
横溝氏は処女厨だったのかと
処女大好きな作家と認識しました。

鈴子ちゃん(17歳)
鶴代ちゃん(17歳)
お君ちゃん(17歳)
たまたまかもしれないが
全部17歳。
さすがですね(何

作中に何度も
「獄門島」事件のことが出て来るから
次は「獄門島」を読もうかな。

最終総合評価
 8点



 


 

 

 

 

 


※ここからネタバレあります。
未読の方はお帰りください。 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3分でわかるネタバレ

『本陣殺人事件』 

〇被害者---●犯人---動機【凶器】
久保克子---●一柳賢蔵---憎悪【斬殺:日本刀】
一柳賢蔵---●一柳賢蔵---自殺【刺殺:日本刀】
一柳三郎---●一柳三郎---事故【斬殺未遂:日本刀】

清水京吉---●なし---自然死

<結末>
新婦の克子が処女でないことに
激怒した賢蔵は、
強引に結婚した手前
笑い者になるくらいならと
克子と道連れに自殺を計画する。

そのため、
自動で凶器を外へ運ぶ
水車と琴糸を利用したトリックを
実験していたところ、
三郎に見られたので
協力してもらうことになる。

三郎は三本指の男を
犯人に仕立て上げる偽装計画を立て
その通りに実行して賢蔵は死んだ。

密室の謎を強めようと
三郎は再びトリックを作動させて
自作自演で負傷する。
三本指の男はたまたま通りがかって
自然死した無関係の男だった。

 



『車井戸はなぜ軋る』 

〇被害者---●犯人---動機【凶器】
お杉---●なし---事故【転落死:崖】
本位田梨枝---●本位田大助---憎悪・嫉妬【斬殺:短刀】
本位田大助---●本位田慎吉---正当防衛【刺殺:短刀】

<結末>
戦地から帰って来たのは
本物の大助だった。
しかし伍一が
死の間際に
梨枝と寝たことを告白し
心穏やかではなかった。

おりんからも
梨枝と慎吉の
不貞の話を吹き込まれ
大助は嫉妬に狂う。
目が見えない大助には
梨枝の痣を確かめようも無い。

ついに怒りで梨枝を殺した大助は
慎吉も殺そうと
鹿蔵の自転車で療養所に駆けつけるが
慎吉の返り討ちにあう。
逆に殺された大助の死体を
鹿蔵が持ち帰り
車井戸に投げ入れた。
そのため慎吉には
完璧なアリバイが出来あがる。

この犯罪を見破ったのは
心臓弁膜症で外に出られない
妹の鶴代だったが
重すぎる真相に心臓が耐えられず
17歳で死亡する。
真相を見破られた慎吉は
「恐ろしき妹よ」と鶴代を讃えた。

 



『黒猫亭事件』 

〇被害者---●犯人---動機【凶器】
小野千代子---●糸島繁子日兆---死体が必要となる状況【斬殺:薪割り】
糸島大伍---●糸島繁子日兆---障害の除去【撲殺:不明】

<結末>
糸島を殺したいお繁は
同時に自分も始末するため
一人二役をして
「鮎子」という存在を作り上げる。

身代わりとなった屍体は
小野千代子という女で
28日に千代子を殺し
日兆に協力させて
墓地の隅に埋めた。
この時、
黒猫も殺して部屋の血を誤魔化す。

「鮎子」と「お繁」が
入れ替わったように見せるため
わざと床に伏せって
糸島だけをあやしませる。
14日に最後に目撃された後で
糸島を殺して墓地に埋め、
先に埋めて腐乱した千代子の屍体を
裏庭に埋め直す所を
巡査に目撃させた。

土蔵に身を潜めていたお繁は
追い詰められて
ピストル自殺を遂げる。
耕助のピンチを中学の同級生、
風間俊六が救ってくれた。

 

犯行トリック解説

本陣殺人事件のトリックは、

文字だとすごくわかりにくい。
と言っても図解できるほど
俺も詳しくないが
ドラマ版の『本陣殺人事件』を
参考に説明してみます。

①水車に琴糸を結んでおき、
欄間から離れの中の
抜き身の日本刀につながっている。
01

②金屏風の後ろに待機する賢蔵。

③午前4時、
米をつくため周吉が水車を動かす。
00

④琴糸が引っ張られて
抑えつけた日本刀が
賢蔵に突き刺さる。
そのまま体を切り裂いて
賢蔵は死亡する。

⑤日本刀は金屏風の上を越え、
雨戸の上の欄間の隙間から外へ。
日本手拭で血と刀の跡を防ぐ。
02

⑥欄間を通り易くするため
2点の方向から刀を引っ張る。
03

⑦欄間を通ると
刀は宙吊り状態になる。

⑧屋根瓦の琴柱。
04
石灯籠。
05
竹筒。
06
この3点で刀を支える。
07

⑨そして3つの中で一番弱い
琴柱が外れる。
支えを失った日本刀は、
大きく移動する。

⑩それに引っ張られて
しなった竹が1本ずつ外れて
琴糸を弾き
ピンピンピンと音がする。

⑪すると日本刀は
樟の木の方に移動。
その幹には
鎌がぶち込んである。
08

⑫耐えきれなくなった糸が切れる。
09

⑬雪の上に落下する日本刀。
10

⑭糸は節を抜いた竹筒をくぐり
11

⑮水車に巻きつく。
12

という
凶器を移動させるトリックです。
殺人現場に凶器が無ければ
自殺とは思われないという
心理をついています。

問題は琴糸に引っ張られた日本刀が
うまく賢蔵を切り裂くかどうか?
ここは賢蔵が自分で調整して
斬られやすく動いたのだろう。
実写版では面倒なのか
賢蔵が自分で刺して
自殺したことに
なっているのが多い。
原作では自分で刺したと
思わせないために
「バッサリ斬られた傷」を作ろうとして
こんなことをしているというのに
活かされていないようだ。

それと刀が欄間の隙間を
そんなに上手く通るかどうか?
欄間の隙間は
木材を加工した際に
大きな隙間と
小さな隙間があると書いてある。
一番広いところで五寸(P.40)
ということは19センチくらい。
刀が通るのは充分な大きさだ。
ただし斜めになったりして
引っ掛かる可能性は高い。
この欄間も雨戸も
紅殻で赤く塗られている
ので
刀の血がついても
見た目に目立たないのは上手い。

実現可能だとは思うし、
こういう自殺トリックは
あのホームズの有名な作品、
ヴァンダインのアレくらいしか
思いつかないので
貴重なトリックだろう。

ただし、
被害者が自分を斬った後で
欄間から刀を出し、
思いっきり遠くへぶん投げたら
これと同じように
樟の木まで飛んで
同じように雪の上に
刺さるんじゃね?
とか言ってしまうと
台無しである。

車井戸はなぜ軋る
アリバイトリック。

犯人が被害者を殺しに
移動したのではなく
被害者が犯人のところに移動して
返り討ちにあう
というものだ。

そのため
殺した側にはアリバイがあり、
嫌疑を逃れることができる。

ひとつ問題なのが
鹿蔵のアリバイを
警察が見逃していることが気になる。
自転車が泥だらけなのは
慎吉を迎えに行ったからで通るが、
療養所の往復の途中で
誰にも会わないというのは
あまりに都合良すぎ。
慎吉をこっそり起こすとか
大助と慎吉の格闘の物音とか
周りに誰もいないのか?

このトリックは
ミステリファンなら
ディクスン・カーの
あの作品を連想するはず。
カーファンの横溝氏らしい
オマージュといったところか。

雨に濡れたことを隠すため
大助の死体を
井戸に捨てたのは秀逸。
ただし、
「午前5時に車井戸が軋る音がした」
というアリバイトリックを見破る
超重要な情報が
解決編で語られるなど、
がっつり後出しです。
タイトルにもなっているのに・・・

終わり方が哀しいけど
正体を探る展開が面白くて
ついつい先が気になった作品。
この本の中で一番好きです。


黒猫亭事件
顔のない死体の偽装に
一人二役の合わせ技。

普通の「顔のない死体」は
被害者と加害者が
入れ替わっているパターンだが
これは入れ替わってないパターン。

その入れ替わってない理由を
説明するために
一人二役して
殺したい男に別の女がいると思わせ
突然いなくなっても
その女と高飛びした
と思わせようとしている。
ついでに自分の存在も消せて
一石二鳥というトリック。

確かに面白いけど、
これは結構無理があるなぁ。
新婚の頃の気分で
「逢い曳きごっこ」とか言われても
普通は「はぁ?」で終わりますよ。
前から一人二役の「鮎子」を
用意していたというのも
不自然な感じがした。

犯人が自分の存在を消したいのも
前科者だからであるが
それは金田一の後出し情報でわかるので
なんだか釈然としない。
風間が日記に逢い引きの日を書くとか、
お君が自分の日記に
お繁が出かけた回数を書いたり
どうも無理矢理すぎる。

日兆が死体を掘りだした時、
実は死体を埋めようとしていた
という錯覚させる発想は良かった。
 

動機の異常さ

この本で目についたのは

犯行動機の異常さだった。

本陣殺人事件
一柳賢蔵は
克子が「処女じゃないから」
殺したという。
おいおい。
そこまで処女にこだわるかよ。
克子は真面目で
いい人だったみたいだから
なおさら可哀そう。

昔の人は
男と交わった女には
その男の血が宿り、
生まれて来る子供も
その男の血を受け継いでしまう
とか信じられていたのかな?
この時代だからこそ
通用する動機でしょう。

しかし、
それでどうして
死ぬしかないという
発想になるのか?
そんなに世間が騒ぐのか?
レッツポジティブ!
ありがとうカツコ!
ぐらいの気持ちで
1年ぐらい休養して
またやり直してほしかった。
(時事ネタ)

三郎は
保険金の金が目当てだったから
仕方ないにしても
普通は止めるよね。
普通はね。

車井戸はなぜ軋る
本位田大助は
梨枝が伍一と寝たくらいで動揺し
梨枝と慎吉が不貞をしていると
騙されて殺人に至った。
お前も嫉妬深いのかよ。

それよりも
おりんは何のつもりで
嘘を吹きこんだのか?
後の証言だと
大助を伍一だと
本気で信じている様子だった。
そうだとすると、
慎吉と梨枝が結婚されては
弟の伍一(大助)が
殺されてしまうんじゃないかと
心配するあまり
忠告したら
こんな悲惨なことになったのだろう。

せめて殺す前に
梨枝に本当のことを聞けや。
愛してないんかい。

目が見えないのに
無駄に正々堂々と
慎吉と戦おうとするとは
よくわからない人だ。

黒猫亭事件
糸島繁子も
夫を殺すために
ずいぶんと
面倒なことをやったもんだ。

二週間も顔を出さずにいて
周りの人間が怪しまなさすぎる。
常連客はどうした?
お店流行ってなかったんじゃないの?

小野千代子という女。
この女が消えても捜索願いも出ず
存在感なさすぎる。
そんな奴いるのか?

飼っていた黒猫を
躊躇なく殺すのもどうかしてる。
飼ってましたよね?
 

伏線解説

そこまで良かった伏線は

なかったかなぁ。

鈴子が事件の前日も
琴の音を聞いた
のはさりげない伏線。

“「昨夜、真夜中に琴の音がしたわねえ。はじめのはコロコロコロシャンって、琴爪をはめた指で、めちゃめちゃに掻きまわすような音だったわねえ。それから二度目にまた、ピンピンピンと、なんかで琴の糸を弾くような音がしたわねえ、小父さん、憶えてて?」
「ああ憶えてるよ。それがどうしたの」
「わたしねえ、一昨日の晩も、おんなじような音を聞いたのよ」”(P.62)
  • 前の日には「予行演習」をしていた。そのことからこれは計画的な犯行であると示唆してある。そしてそれは身内の者でないと行えない犯行である。


『本陣殺人事件』の最後に
やけに叙述に気をつかっていて
アンフェアな書き方をしていないと
言い訳しているが
たいした叙述トリックではないから
「2人の男女」が
賢蔵と克子ではなく
清水京吉と克子だとか、
「殺されていた」とは書いてないとか
すごくどうでもいい。

こういうのを作者がいちいち
指摘するのは
イラッとさせられる原因です。
デビュー作でドヤりたい
新人作家にありがちな傾向。
ほどほどが一番いい。
考察や分析は
読者に委ねてもらいたい。

※補足。
Twitterで
この感想ブログを勝手に引用して、
「本陣」をデビュー作だと
勘違いしていると指摘があるが、
とんでもない!
ウィキペディアを見て書いてるし、
横溝作品はほぼ揃えてますし、
「本陣」がデビュー作でないのは
さすがに知ってます(笑)

“伏線回収を説明したがるのは
デビュー作に気合の入る
新人作家にありがちな傾向”、
というだけのことです。