【注意】
スマホから見る方はgamp(簡易版)になります。
正しく色が表示がされないため、1度「前の記事」を選び、「次の記事」で戻って再表示させてみてください。
入間人間さんの『昨日は彼女も恋してた』(上巻)
『明日も彼女は恋をする』(下巻)を読んで
ネタバレなしで一応の感想は書いた。
>入間人間『昨日は彼女も恋してた』
『明日も彼女は恋をする』感想(ネタバレなし)
しかし、
タイムトラベルの複雑さに
混乱している人もいるだろうし
自分の頭を整理する意味で
あえてネタバレで解説をしてみる。
解説というか
自分はこう思うという解釈。
当然、
ここから先はネタバレなので
未読の方は見てはいけないよ。
見てはいけないよ。。。
ネタバレ解説
※注意
『昨日は彼女も恋してた』を上巻、
『明日も彼女は恋をする』を下巻とします。
※主要な人物は
●玻璃綾乃=ヤガミカズヒコ
●井上真理=マチ=鶯谷
●裏袋美住=みぃちゃん
●林田近雄=ニア
この物語は
男の語り手と女の語り手が
交互に語りながら進む物語で
一見すると、
「僕」がニアで「わたし」がマチの
ように錯覚させているが
実はどちらでもなく、
「僕」は玻璃綾乃(はりあやの)で
「わたし」は裏袋美住(うらぶくろみか)である。
この形式を「叙述トリック」といい、
姿を想像させる小説でのみ通用する
映像不可能のトリック。
この作品では
「登場人物錯覚」と
「時間交錯」の
2種類の合わせ技になります。
そんなバカな、
たしかに上巻を読んだ時は
つじつまが合ってたと思われるだろう。
上巻は
綾乃と真理(マチ)の
一回目のタイムスリップを描いていた。
そこに
『綾乃によって変化した2周目の世界』の
裏袋と近雄(ニア)のタイムスリップを
自然な感じで混ぜ込んでいたというわけだ。
これは綾乃とマチのカップルと
裏袋とニアのカップルが
ともに仲が悪いため
『相手が自分の名前を呼ばない』からこそ
成立するトリックといえる。
ニアとマチという
2人の名前しか登場しないからだ。
これは上手い。
ここで時系列を整理する。
わかりやすく
それぞれの『世界』を
分類してみよう。
『世界A』(近雄が死んだ世界)
●9年前に近雄が海でおぼれ
自転車レースで綾乃と真理が喧嘩した世界。
●真理は車いす。
●タイムマシンは軽トラ
●この世界は綾乃と真理がタイムスリップで
やって来た時に『世界B』へ改変される。
(本来いない人間が介入したため)
『世界B』(真理が死んだ世界)
●祖母の運命を変えたり
綾乃と真理の喧嘩を止めたり
近雄の命を救った世界。
●真理が海で溺れる。
●近雄は海に行かない。
●裏袋が車いす。
●タイムマシンは外車。
●裏袋と近雄が
過去にタイムスリップするのは
この世界から。
●綾乃が2回目に
タイムスリップするのも
真理が死んだとわかったこの世界。
『世界C』(真理が生きてヤガミがいる世界)
●近雄が死んで
真理が生き残ったのでこの世界に改変。
●裏袋が未来にタイムスリップしたのがここ。
●逆に綾乃はヤガミカズヒコとして残る。
●小学生の綾乃と真理は生きている。
●誰も車いすに乗らない。
●松平は島を出ていくため
タイムマシンも無くなる。
わざわざ分類したのは
この作品の独特の
タイムスリップルールにある。
●過去を改変したら未来が追加される。
●過去にタイムスリップした場合、
自分の肉体と意識や記憶も
そのまま過去に出現する。
(自分が2人になる)
●未来にタイムスリップした場合、
自分の肉体があればそこに意識と記憶が
合体してしまう。
(自分が1人になる)
●同じ世界の過去に戻るには
過去の記憶がないと正確に戻れない。
世界Cから世界Bの過去には
戻れないということ。
作者の入間氏は
自分の作品を解説するのは
恥ずかしいようなので
俺の適当な解説で
お茶を濁すとしよう。
伏線はあったか?
●表紙のカバーイラストが違う
『昨日は彼女も恋してた』綾乃と真理

『明日も彼女は恋をする』近雄と裏袋

そう言われれば違うが
未来にタイムスリップして
オシャレになったんじゃない?
ぐらいに最初は感じる。
下巻でもうひと組の
タイムトラベラーが出て
それがこの2人だとわかる。
端に見えている
車が違うのもポイント。
●最初の場面で登場するが・・・
「僕」が坂道を車いすのマチを
無視して通り過ぎる描写の後、
語り手が「わたし」に移る場面。
“あいつの名前はニアという”
“かけたら吐きかけるつもりだった
唾を飲み込む”
“さっき通り過ぎた癖毛の元同級生、
玻璃綾乃という男も自転車で通りすぎる際、
派手にこちらを振り向いて不愉快だったけど、
ニアの方は格別だ”
(上巻15P)
伏線と騙しのテクニック。
語り手が移って
車いすの少女が語っているなら
当然「マチ」だと思う。
僕が声をかけたら
唾を吐きかけて来るだろうと
言っているのも
「唾を飲み込む」という
セリフと符合する。
ここで「僕」の語り手の
玻璃綾乃の名前が出て来る。
しかし、
この時「僕」は自転車に乗っていない。
(時間軸がずれているから)
自転車に乗ってくればよかったと
後で嘆いている。
なのでこの玻璃綾乃は
「僕」ではないと
騙されてしまうのだ。
●後部座席の伏線
タイムマシンは
1回目の世界Aでは「軽トラ」
2回目の世界Bでは「デロリアン似の外車」
この2つの書き方の違いを見れば
手掛かりがある。
綾乃はタイムマシンを一貫して
「軽トラ」と呼んでいる。
裏袋はというと、
「車」とだけ表現している。
“わたしなんか四つタイヤが
くっついていれば、
どれも車であると認識してしまう。
種類とかは一切気にしたことがない”
(上巻39P)
裏袋、上手いこと言って逃げやがって。
ついでに
松平が綾乃のことを「助手A」
裏袋を「助手B」と呼んでいるのも
2人がコンビのように思わせる罠。
しかし次の一文は重要な伏線である。
上巻の軽トラのタイムマシンで
過去にタイムスリップする場面です。
“後部座席の方でなにか音がした、
ように聞こえた。
積んであるなにかが崩れたのだろうか。
「よい旅を!」
窓の外で松平貴弘が手を振っている”
(上巻43P)
ここだけ抜くとわかりやすいが
軽トラに
「後部座席」があるはずがない。
後ろには荷台しかないですから。
だけどこんな段階で
矛盾に気づくはずもない。
これは上手いなぁ。
おまけで
松平が車のCDドライブを直して
音楽を聞けるようにして
「わたし」に怒られるくだりがある。
もちろん
軽トラにそんな高価なもん
ついてないわな。
あれも伏線だったか。
●賽銭箱の百円玉
おそらくこの辺で何かおかしいとわかる。
上巻で「わたし」とニアが
神社の賽銭箱に百円玉を見つける場面。
下巻で「僕」が松平さんから
百円をねだった時にピンときたはず。
こっちが先だったことに・・・
ちなみに百円ねだるのは
下巻106Pだ。
ここで「謎はすべて解けた!」人は
金田一少年だろう。
●子供の言葉遣い
「みなのしゅー」とは
裏袋がよく使う言葉らしい。
しかし、もう言葉遣いが
みんな似すぎているのは卑怯だ。
小さな島の集落だから
似てしまうのもわかる気はするが。
●玻璃綾乃の両親
綾乃が自分の両親について語る場面。
上巻217Pに母が海女で
父が小学校勤務と言っている。
下巻で「わたし」が小学校に
言った時に玻璃先生に出会うが
この人がその父親。
しかし読者は
この時点ではまだ「わたし」がマチだと
思っているので
“先生の息子とは
特別に仲が良いわけじゃなかった”
(下巻78P)
といわれたらスルーしてしまう。
ニアの死を他人ごとのように
(他人なのだが)話すのもあって
ただの脇役だと思わされる。
その他の雑感
●書き間違いか伏線か?
上巻のラスト、
裏袋が未来に戻ってきたシーンで
最初に車いすに乗っていたとある。
それはおかしい。
この時、裏袋は『世界C』にいる。
近雄がいなくて足は9年間
歩ける状態だから、
一度も車いすに乗ってるはずがない。
“車いすの人間が通れそうな
広さが廊下にない。
二階へ続く階段も
廊下の途中にあって
横幅を狭めている。
車いすにすわっていたわたしを
無視した造りだ”
(下巻87P)
自分の部屋の蛍光灯も
立たないと紐が引っ張れなかったのだから
車いすであそこにいたはずがないのだ。
そもそも車いすもないはず。
●スコップとシャベル
上巻で筋トレしてるマチがいる。
“「ダンベルなんてないから
スコップを借りたの」
「スコップ?シャベルだろ?」
「違うわ、スコップ・・・って」”
(上巻119P)
つまり綾乃はシャベル。
真理(マチ)はスコップ派なのね。
ところが冒頭の
ミー婆の描写でおかしい部分が。
語り手は綾乃。
“青いスコップを片手に
ミー婆が急げ急げと囃したてる”
お前、自分も「スコップ」って
言ってるじゃねーか!
そこはシャベルだろ。
●自転車レースの廃止時期
語り手が裏袋の時、自転車レースが
廃止されたことについて話が出る。
“自転車レース。
わたしとニアの運命を
大きく歪めたもの。
九年後には廃止されるそのレースは
この時代に、まだ存在している”
(上巻237P)
これは裏袋のセリフとしてはアンフェア?
裏袋はこの翌年の
自転車レースで事故にあって
以後の開催が中止になることを
知っているのだから
ごまかした言い方になっている。
正しく言うなら
「二年後には」と記述したほうが良い。
二年後でもおそらく
誰も真相に気づかないと思うが
マチは翌年島を出るので
自転車レースが中止になった
正確な時期を知らないため
上巻でネタバレすることを
避けたのかもしれない。
もしここが
「二年後には」だったら
かなり綱渡りの伏線であっただろう。
●ミー婆は裏袋か?
ネットではミー婆が裏袋説というのがある。
みぃちゃん=ミー婆の由来だと。
これは俺の意見だが
ありえないと思う。
ミー婆は
まず世界Aで綾乃が遅刻してるのを見てる。
これが裏袋の老後ではない理由が
前述の世界構造にある。
最終的に『世界C』にいる裏袋が
誰も改変する前の『世界A』には
関与できないのだ。
もしそれが出来るようなら
勝手にしてくれと言うしかない。
タイムスリップルールなんか
最初からないことになるし
作品世界が崩壊するよ。
何でもアリにしたら駄目だと思う。
●ラストの老婆は裏袋なのか?
じゃあ最後の『D.S.』で出て来る老婆は
裏袋じゃないのか?
こちらが
おそらく裏袋だろう。
ミー婆と関連付ける人もいるが
ミー婆なら「見知らぬ老婆」ではない。
問題なのが
これ裏袋が未来に戻って
近雄が死んでいるのを知って
ヤガミを探して・・・っていう
一週間前だということ。
一見すると
自転車レースで裏袋が勝った後、
綾乃が一週間前の回想を
しているように思える。
いやいや、
これ綾乃も気づいてるが
『2周目の9年後』でしょうね。
残念だけど
綾乃の物語は
ここでは終わらないという暗示。
『世界C』の裏袋はこの世界の
過去の記憶がないので
簡単に過去へ戻れないでしょう。
しかし、松平を越える性能の
タイムマシンを作ったとしたら?
過去の自分に接触して
さらに過去へと飛ぶことも
あるかもしれない。
独学でできるとは思えないけど。
そうしたら
世界Aにまで裏袋が干渉して
本当にミー婆になってる可能性もある。
D.S.(ダル・セーニョ)マークに
戻ってくるわけだ。
卵が先か鶏が先か問題になってくるので
もうこの話は考えたくないが
もうひとつの考えとして
老婆は「左門先生」という
考えもある。
“「元気な老婆はいつ見てもいいものだな、
左門先生を思い出すよ」
「さもん?ほうさく?」
「師事していた科学の先生だ。
恐らく、人類初の
タイムトラベラーだぞ」”
(下巻35P)
松平の師匠は
老婆らしい。
裏袋がタイムマシン設計図の
松平の癖字を解読して
タイムマシンを作るのは無理もあるし
もしかしたら、こちらが真相かも。
だとしたら、
なぜ左門が裏袋に協力するのか?
また謎が生まれてしまう。
左門=裏袋・・・
まさかね。
●最初のマチはどうなったのか?
上巻のラスト、
綾乃と真理は9年後に戻る。
しかし、
近雄を助けたため
2週間後に真理が死んで
9年後には真理の肉体がなかった。
真理はそこで
消滅してしまったのだろう。
綾乃のことが好きだったのに
自転車レースで喧嘩して
ルービックキューブ型時計を投げつけて
車いすで生活して
一緒にタイムトラベルして
未来に戻ったら
うどんを食べようと約束した
18年間も綾乃と過ごした真理は
あの瞬間に消えてしまった。
冒頭やD.S.で綾乃が
回る車輪を目にするたびに
思い出すこと。
それは自分と同じ時を過ごした
車いすのマチのことを
想っているのかもしれない。
そう思うとすごく悲しい。。。