Zuzu Angel in Brazil | Ready Steady Go!

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   ~ London Eye ~

ブラジルの歴史の中で、60年代から80年代はまさに過酷な時代を過ごして来たと言わざるを得ない。

インフレの急騰や左派と右派の政治的対立により、2年半にわたる政情不安や社会的混乱、経済危機が生じた後、グラール大統領は極左派と結びつき、それを懸念した軍隊による1964年3月31日のクーデターにより、グラール政権は倒れたとある。

それから、ブラジルは長い軍事独裁政権時代へと突入して行き、1964年から1985年にかけては軍政が敷かれ、この20年間の間に大統領になった5人共が軍出身であったことから、反共産主義のうねりの中、政権に就いた初代大統領カステロ・ブランコ氏は、政治と経済を安定させるため、政府の権限と体制強化を目的として、広範な憲法改正を行なった。

次期政権以降1968年から1983年までには、いくつかの軍政令が打ち出されたことで、個人と集団の多くの権利が奪われ、団体交渉は排除され、ストライキは違法となり、労働運動は制限されて行き、ブラジル国民は発言の自由を奪われ、窮屈な生活を強いられていた。

そん中、ニューヨークショーでも活躍するベロ・オリゾンテ出身でリオで活躍するひとりのブラジル人ファッションデザイナーAngel Johns/エンジェル・ジョーンズの映画は、ここ数年ブラジルファッションに携わる私にとって、かなり衝撃を受けるノンフィクションストーリー。

不幸にも愛する息子の為に勇敢にも軍事政府と戦うこととなる。

彼女はZuzu/ズズという愛称で親しまれたこの時代では珍しいブラジル人ファッションデザイナーで彼女の息子スチュワートは反政府運動に身を投じていて、不幸にも軍の拷問に遭い、殺害される。

ズズは愛息スチュワートを奪われた激しい怒りと悲しみに、政府と戦う決意を固め、それまで南米らしいカラフルな彼女のデザインを彩っていた美しい花や小鳥などが、血にまみれた十字架や檻に閉じ込められた太陽など、これまでのメッセージをいっぺんさせた哀しい色に変わっていく。

そして1976年、彼女は謎の自動車事故で死亡するという哀しい結末で生涯を遂げるが、90年代になってから、ブラジル政府は彼女の死が軍による殺人だったことを正式に認めた。

1921年に生まれ、わずか55年の生涯であったが、彼女の生き様は胸が熱くなるほど、素敵過ぎる。

写真で彼女のルックスを見るとドレスのカワイイ色目といい、表情といい、厳しい環境下でもこれだけ個性豊かな雰囲気を持った女性であったことに拍手です。

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彼女が自分の店の前を歩く隣人に『これを読んで! あなたの生きている国の現実はこうなのよ』と抗議文を叩きつける場面が、『それはやりすぎよ』とたしなめられた彼女はこう言います。

『自分もかつてはああだった。自分のすぐ近くに被害が及ぶまで、自分には関係ないことだと思っていた。日々の生活のほうが大事と言い訳をしていた。でもそれは間違っていた。』

『 見て見ぬふり、目の前に見せられても、見なかったふり。』 

自分の日頃意識していることが、間違っていないことを彼女の言葉から感じられ、心地いい休日の午後。

彼女の存在が今のブラジルファッションにいかに多大な影響を与えているかを感じさせられた貴重な時間。

亡くなられたトンネルには、彼女の名前が使われているそうで、次回の訪伯では、これまでと少し違った意識でブラジルファッションにふれてみようかと、、、、、、、、、、、、、、、

エレガントで強い意志を持った素敵な彼女に合掌。