ついに始まった2024大河『光る君へ』。おもしろくなるかどうかはまだ分からないが、昨年とは大いに違って、丁寧かつ真摯に制作されている印象を受けた。
人気の戦国大河でもなく、チャンバラ要素もなければ、派手な合戦シーンなどもないだろうから、視聴率的には苦戦するかもしれないが、大河の新しい地平を切り拓いてくれそうな予感もあり、期待は膨らむばかりだ。
さて、ここ(第三回)まで見て気になったことを三つほど。
一つは初回(1/7)の放送において、まひろ(吉高由里子さん)の目の前で母のちやは(国仲涼子さん)が殺されて、いきなり大きなトラウマを抱えさせられてしまったことだ。この瞬間、私たちが知る紫式部とは違う、悲しい過去を背負ったヒロインになってしまったわけで、今後の展開を考えるとき、本当にこれでよかったんだろうかと思わずにはいられない、
二つ目はまひろ一家の貧しさが強調されていることだ。現代の生活レベルとは比べようもないことはいうまでもないが、乳母がいたり、従者を抱えているなど、同じ時代の人たちから見れば、兼家(段田安則さん)の家ほどではないにせよ、十分に豊かといえるだろう。江戸期の貧しいお公家さん像からの連想だろうか。少々違和感を覚えた。
違和感といえば、道長(柄本佑さん)がいとも簡単に屋敷を抜け出し、町中を徘徊しているのも違和感を禁じえない。お互いを知らないまま、まひろとめぐり逢わせるには不可欠な演出ということなのかもしれないが、暴れん坊将軍や遠山の金さんじゃあるまいに、こういう安直で、嘘っぽい演出はせっかくの筋を台無しにしてしまいかねない。もう一工夫してほしかったところだ。
とはいえ、今のところは十分に先を期待させてくれそうだ。
ところで、見ていてまず目についたのは衣装(位袍)だ。碁盤を囲みながら、談笑する道長ら三人の若手貴族たち。四位の公任(町田啓太さん)が黒(橡)の袍を身に着け、五位の道長と斉信(金田哲さん)、後で出てくる道兼(玉置玲央さん)たちは少々鮮やかすぎる気もするが、深緋(蘇芳)の袍に身を包み、といった具合で、有職故実に准じた演出がドラマを盛り立てている。同じ四位の実資(秋山竜次さん)の位袍が緑っぽいのは頭中将(近衛中将=武官を兼ねる蔵人頭のこと。蔵人頭は天皇の秘書室長のような役職)ゆえに、禁色(麹塵)、いわゆる青色の袍を許されているということなんだろうかなどと、あれこれと妄想をさせてくれるのだ。位袍や位色なんてことは、知らなくてもドラマを見る上ではまったく困らない知識ではあるけれども、知っていればそれだけリアリティを感じられて、より話に入っていけるだろう。もしかしたら、制作側が隠れたメッセージを忍ばせていることだってあるかもしれない。そんな想像ができることもリアリティあふれる上質な史劇だけがもたらしてくれる楽しみ方の一つといえるだろう。
そういえば、まひろの父為時(岸谷五朗さん)の位袍が緑なのはどうしてなんだろう。このころには、六位以下の官人も縹色の袍を着ていたんじゃないかという気もするのだが、違うのだろうか。お詳しい方がいらしたらご教示ください。
ここでは今後も、まひろや道長たちを取り巻く平安貴族の世界に関して、些細でどうだっていいようなことかもしれないけれど、妄想を逞しくするための、あれこれを書いてみたい。
先週時点(永観二。984)の『公卿補任』はこちら。道長の父兼家(56歳)に加えて、お兄ちゃんの道隆(32歳。井浦新さん)も非参議 従三位として公卿の仲間入りをしている。