最初で最後?の気候学論文:日射量変動原因の解析手法 | 山口大学 空中測量(UAV写真測量)研究室の技術ノート

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先月、日射量の経年変化の原因に関する解析手法を提案した論文が、英国王立気象学会の国際誌International Journal of Climatologyで、出版されました

 

地表に降り注ぐ太陽光の量、つまり年間の日射量は、10年~数十年スケールで増減します。その増減は地域・時代によって異なりますが、太陽活動の変化などでは説明できないほど大きい(10年に数%の桁)ことも多く、大気圏内の変化、具体的には雲やエアロゾルの変化に原因があると考えられています。

 

この論文は、このような日射量の経年変化が、雲量の変化のせいなのか、他の要因(エアロゾルなど)の変化のせいなのか、従来より合理的に判断するための手法を提案しました。

 

図. 大阪地方気象台における全天日射量年平均値の経年変化

(パッと見では、20年で20%近い増加!)

 

しかしなぜ、写真測量やリモートセンシングではなく、気候学の論文なのか?

それは、当時はそのような研究に手を出していたからです。

なんとこの論文は、はじめ6年も前に書いたものなのです!

2誌にリジェクトされ、諦めて数年放置した後、共著者の助力で改訂・再々投稿して、ようやく出版されることになりました。

共著者の方々や、3誌の査読者・編集者の方々には感謝しかありませんが、私の気持ちはもう折れかけました。

 

2回目の論文投稿時に書いた、日本語の要旨(アブストラクト)が残っていますので、ご参考としてここに載せます:

 

年平均(または特定月の平均;以下略)日射量は,世界の多くの地域で,10年あたり数%に及ぶ経年トレンドを持つ.原因は雲またはエアロゾルの経年変化であると考えられており,地域別に主要因が調べられている.その際多くの研究では,年平均雲量を「雲量による年平均日射量の減少量」の指標として扱い,雲量の経年変化が年平均日射量の経年変化の一因であるか否かを,年平均日射量と年平均雲量の経年トレンドが逆符号であるかによって判断している.しかし,「雲量による各瞬間の日射量の減少量」が太陽高度に依存し,雲量と線形関係にもないため,この方法は適切ではない.そこで本研究では,「雲量による各瞬間の日射量の減少量」を,日射量を雲量・太陽高度・年で説明する非線形回帰モデルで評価し,その年平均値を「雲量による年平均日射量の減少量」の指標とする方法を提案した.さらに本研究では,年平均雲量と提案指標の実効上の違いを確認するため,年平均日射量が増加トレンドを示した国内42地点の観測データを対象に,年平均雲量と提案指標の経年トレンドを比較した.その結果,年平均雲量の経年トレンドが正であった24地点のうち14地点で,提案指標の経年トレンドは負であった.すなわち,年平均雲量を用いた場合と提案指標を用いた場合では,雲量の経年変化が年平均日射量の増加トレンドに寄与したか否かの判断が,多くの地点で変わることが例示された.

 

書誌情報

Ariyo Kanno, Haruma Ishida, Yoji Tanaka, A new measure of the effect of cloud cover on annual/monthly mean global radiation for investigating the cause of secular trends in global radiation, International Journal of Climatology, 38 (10), 2018, doi: 10.1002/joc.5544.