【加筆】ドーム状変形を解消する撮影の一工夫 | 山口大学 空中測量(UAV写真測量)研究室の技術ノート

山口大学 空中測量(UAV写真測量)研究室の技術ノート

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【このテーマの記事は、UAV写真測量について、日々の文献調査や研究で得た、PhotoScanに限らない一般的な情報を掲載していきます。用語の説明は「PhotoScanを極める」に譲ります。】

 

 

<はじめに>

ここで「ドーム状変形」と呼ぶのは、UAV写真測量で地形を推定するとき、対象領域の中央部がドーム状に盛りあがる(または凹む)誤差が生じる現象だ。

 

この問題は国内でも認知されているが、対策は、中央部にも十分な標定点(GCP)を置くということ以外に、論じられていないように見える(私の検索不足であれば指摘いただきたい)。国土地理院の「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」にも、他の対策の記載が見当たらない。

 

GCPは設置・測量・回収しなければならないので、コストに直結する。また、開けた場所に置かないとよく写らないので、どこにでも置けるわけではない。河川の場合、中央部は水の中ということも多いだろう。

そのため私は、GCPを増やすという対策には不満だった。そこで、「自動的なマッチングで得られる誤差の大きいタイポイントに、目視判読による高精度の手動タイポイントを加えて、内部パラメータの推定誤差を減らす」のが良いのではないかと思っていた。PhotoScanにも、手動タイポイントを加えて大きな重みを与える機能がある。しかしよく考えれば、手動タイポイントも、何十点も作るとなると、GCPを増やすのとあまり変わらない労力を要するかもしれない。

そこで今回、重い腰を上げて海外の文献を調べてみた結果、James and Robson (2014)が簡単なシミュレーションによって、「向きに変化をつけて撮れば良い」ことを示していたので、紹介したい。この論文のPDFは公開されている。

 

James, M. R., & Robson, S. (2014). Mitigating systematic error in topographic models derived from UAV and ground-based image networks. Earth Surface Processes and Landforms. doi:10.1002/esp.3609

 


<ドーム状変形の原因は、歪みパラメータの推定誤差>

UAV写真測量では、各画像を撮影した撮影の位置・向き(外部パラメータ)だけでなく、カメラの内部パラメータ(画面距離、主点のずれ、歪みなど)も、バンドル調整と呼ばれる処理の中で推定することが多い。事前/後の精密なキャリブレーションが難しい、もしくは事前/後のキャリブレーションで得た内部パラメータが撮影飛行中に保たれている自信がないためだ。

 

このバンドル調整における、放射方向歪みのパラメータの推定に誤差が生じることが、ドーム状変形の原因だ(他にもあるかもしれないが)。

 

 

<GCPを増やす以外の対策>

ドーム状変形は、平坦な地面を、同じ高さから平行に撮影する場合に顕著になる。地形は変えられないが、撮影の向き・高度に多様性を持たせることが、有効な対策となる。

 

この論文では、歪みパラメータが1つしかない単純なカメラモデルを用いたシミュレーションの結果ではあるが、撮影の向きに変化をつけることに特に効果があることが示されている。具体的には、

  1. 画像1枚ごとに、ジンバルによって向きを5度くらい振って撮影する(Fig. 3b左)。シミュレーションでは自然な向きの変動として、標準偏差5度の正規乱数でピッチ・ロール・ヨーを振っている。
  2. 撮影の向きを鉛直下からUAV前方に5度傾けた状態で飛行する。このシミュレーションでは、1度目の撮影飛行の後、撮影コースを水平方向に20度回転させて逆向きに2回目の飛行を行った状況を想定している(Fig. 3a左)ため、前向き固定でも撮影の向きに多様性が生まれるのだろう。
  3. 対象領域の中央部に向けて、鉛直下から30度の傾きで4方向から斜め写真を取る(回転翼の場合;Fig. 5b左)。

ことで、ドーム状変形がほぼ解消することが示されている。

 

N. Micheletti et al. (2015)の言葉を借りると、平行に撮影するというのは弱い画像の配置"weak image geometry"であり、これを補うために伝統的な航空写真測量では、キャリブレートされた測量用カメラと、たくさんのGCPを使っていた。UAV写真測量でオーバーラップは改善したとはいえ、同じ弱い配置のまま、内部パラメータまで正確に推定しようというのは、無謀だというわけだ。撮影の向きを振るというのは、geometryを強化することに他ならない。

 

さて、現実的な撮り方はどれだろうか?私が机上で思うには、

 

1については、実務で乱数を使うというのはなしだろうから、撮影ごとに左右交互に5度振る、というくらいが現実的だろう。しかし自動飛行のミッションを作るのが煩雑になりそうだ。

 

2も、このシミュレーションのような複雑な飛行ではなく、一般的な「少しずれながら往復」の飛行パターンで、カメラを前方5度に固定するだけで良いのなら、簡単だろう。学生さんの誰かが興味をもってくれたら、より現実的なシミュレーションで、その有効性を検討してみたい。

 

3はあくまで例で、傾きをつけるほど斜め写真は少数枚で済むということらしい。ただし、傾きをつけすぎるとマッチングに悪影響があるだろう。

 

→ 181113加筆:少数の斜め写真の導入効果や傾きの影響に関するシミュレーションを行い、途中経過を学会発表しました。

 

<おわりに>

ドーム状変形の原因と対策に関する論文:James and Robson (2014)を紹介した。

この論文のシミュレーションは単純であるため、その後より詳細な検討がなされている可能性もあるので、この論文の引用文献:

https://scholar.google.co.jp/scholar?q=dome&btnG=&hl=ja&as_sdt=2005&sciodt=0%2C5&cites=2058089278559964216&scipsc=1

を調べ、見つけ次第今後加筆したい。Eltner and Schneider (2015)は、本命の飛行の直前にテストフィールドでキャリブレーションすることを提案しているようだ。