PhotoScanを極める 1. UAV写真測量の魅力と解析設定の難 | 山口大学 空中測量(UAV写真測量)研究室の技術ノート

山口大学 空中測量(UAV写真測量)研究室の技術ノート

UAV写真測量, ドローン測量, フォトグラメトリ, SfMなどと呼ばれる技術の情報を掲載します。
1. 効率化・高精度化に関する研究速報・マニュアル
2. SfM/MVSソフトAgisoft Metashapeの使い方
などなど。

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【このテーマの記事に関する注意事項】

  • このテーマの記事は、UAV写真測量に必要な解析や、そのためのAgisoft PhotoScanの操作について解説しながら、適切な設定の探し方を提案することを目的とする。
  • 写真測量・統計学やPhotoScanの用語の定義は緑色・斜体・太字で、本ブログ独自の用語の定義は紫色・斜体・太字で示す。できるだけ初出の際に定義を述べる。
  • 強調したいことのうち、問題点や注意点は赤字で、その他は青字で示す。
  • 私の研究用途に偏った記述や、私の知識不足や勘違いによる誤りを含む可能性もあるが、本ブログを参考にして生じた不利益に関する一切の責任を負えない。
  • 私が現在使っているPhotoScanのバージョンは1.3.1だが、将来のアップデートにより記事の内容が古くなる可能性がある。

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測量(地物の形状・位置関係を測ること)は土木工事や地図作りに欠かせない基礎技術である。その1つである写真測量(重なりのある複数の写真から、幾何学的な解析により地物の形状・位置関係を推定する技術;原理は、カメラを測角器として使った三角測量)は、起源は19世紀に遡る古い技術である。航空機で下向きに撮影した写真を用いる空中写真測量も、昭和の時代から地図作りに重用されてきた。

 

この「枯れた」はずの技術が、いま再び脚光を浴びている。私のいる土木の世界で、UAV(ドローン)による地物の空中写真測量(UAV写真測量)が、急速に普及しつつある。その背景にあるのは、最近のUAVの高性能化・低廉化だけではない。撮影した写真をコンピュータに読み込めば、半ば自動的に地物の3次元形状を推定してくれる(通常、数万~数千万点の座標を推定してくれる)、便利なソフトウェアの普及も大きい。

 

その代表格が、Agisoft社の商用ソフトPhotoScanであり、企業・大学などで広く使われている。Webで検索すると、色々な適用例の画像が出てくる。私の研究でも、清澄で浅い水底を対象としたUAV写真測量の研究に活用している。

 

図. 佐波川・人丸橋下流区間で、MVSにより生成された密な点群の例。

陸上はもちろん水面下の起伏までとらえている。


こうしたソフトによる自動処理の核心は、土木工学ではない分野で開発された画像処理技術、SfM (Structure from Motion)MVS (Multi-View Stereo)である。SfMとは、次の一連の処理である:

 

  1. 各画像における特徴点(特徴的な点)の検出。
  2. 各特徴点の特徴量(特徴点周辺の情報を用いて特徴を記述する変量)の計算。
  3. マッチング(画像間で、特徴量が似ている特徴点どうしを対応付ける処理)
  4. 画像間の特徴点の対応を幾何学的拘束条件とした(幾何学的矛盾の最小化による)、次の情報の同時推定。
    • タイポイント(対応付けられた特徴点)の位置(3次元座標)
    • 各画像の撮影時のカメラの外部パラメータ:位置(3次元座標)と向き(姿勢)
    • カメラモデル(3次元空間の点の2次元の画像上への投影を記述したモデル)に含まれる内部パラメータ:
      ・画面距離(画素単位で表した
      「光学中心とイメージセンサの距離」)
      ・主点のオフセット(
      「イメージセンサの中心」からの「光軸との交点(主点)」のずれ)
      ・歪みを記述するための画素座標の多項式の係数など

 

図. UAVで撮影した重なりのある4枚の画像の例.山口大学工学部キャンパス.

 

図. SfMの直後のPhotoScanの画面.山口大学工学部キャンパス.

 

MVSは、SfMで既知となったカメラパラメータ(外部・内部パラメータ)を使って、SfMより密なマッチングを行い、密な点群の3次元座標を推定する処理である。上手くいけば、上記の河道のように非常に密な点群が得られ、その点の数は百万以上の桁になることも多い。SfM・MVSの結果得られる点群の3次元座標は、世界座標系(地球上に固定された座標系;測地系、地図投影法による直交座標系など)とは異なる座標系に属するが、GCP(Ground Control Point;対空標識など画像上で目視判読できる点で、現地測量により世界座標が既知となった点のうち、ジオリファレンスなどに用いられる点;標定点;「コントロールポイント」)を3点以上用いることで、座標系のスケール・向き・原点を世界座標系に合わせること(ジオリファレンス;7自由度の線形変換)が可能である。

 

SfMやMVSは本来、マッチングの品質管理やカメラモデルの詳細さなど、結果の良さ(SfMについてはカメラパラメータの推定精度、MVSについては点群の密度と座標推定精度)に複雑に影響する多くの設定項目(状況に合わせた選択の余地)を含んでいる。設定項目の組み合わせ(以下、単に「設定」と呼ぶ)は無数にある上、最も良い結果を与える設定は状況(対象地物、カメラ、各種撮影条件)次第でいくらでも変わるため、個々の状況で最適な設定など探せないのはもちろん、そこそこ適切な設定を探すだけでも膨大な試行錯誤が必要である。


PhotoScanなどのソフトは、このような厄介さに触れずに済むように工夫されていて、色々な設定項目が内部で固定されている。それでも、いくつかの最低限の設定項目はあって、その設定により結果は大きく変わる。特にSfMの段階の設定項目については判断に迷いやすい。

 

自動車の適切な速度が交通の状況、道路の状態で変わり、不変の推奨速度などないように、またカメラの適切なホワイトバランス・露出・フォーカスが対象物や状況によって変わるように、

SfMにも、常に良い結果を得られる推奨設定などあり得ない。推奨設定に関する議論は、状況を細かく絞らない限り不毛である。

 

こうして、デフォルト設定による結果が思わしくない場合や、時間の許す限り精度を高めたい場合、PhotoScanのユーザーは設定に悩むことになる。しかし、状況に合ったSfMの設定を試行錯誤で探すとき、設定の候補のどれが良いかを判断する合理的・効率的な方法については、あまり議論されていないようである。

 

そこで、この方法を提案することが、このテーマの連載の最終目標である。