何を隠そう辞書好きである。
最近はその機動性からついついWebで何でも調べてしまい、紙の辞書はほとんど使わなくなったが、形は変われど辞書の存在は不滅だ。
一番ポピュラーな辞書と言えば国語辞典だろうが、中身はどれでも同じかというとそうでもない。
マニアから「新解さん」と呼ばれている三省堂の新明解国語辞典ようにユニークな語釈でひときわ異彩を放つものもある。
そんな辞書の中にある言葉一つ一つに向き合い、情熱を傾ける人達がいることを三浦しをん原作の映画「船を編む」は教えてくれた。
玄武書房では国語辞典『大渡海』の出版を計画していたが、辞書は金がかかるわりに儲からず、社内では肩身が狭い思いをしていた。
監修の国文学者松本とともに辞書作りに長年携わってきたベテラン編集員荒木も定年間近となり、自分の意思をついでくれそうな編集員を探していたところ目に止まったのは、営業部でうだつの上がらない男、馬締光也だった。
人との会話が苦手で営業の才能はなかったが、言葉に対して強いこだわりを持っていた馬締は、次第に辞書編集者としての才能を開花させていく。
なんだろう見終わった後のこの達成感は!
費やされた長い年月を一緒に過ごした気分にさせられながら辞書と共に人間として成長し、少しずつ人との関わりを築いていく馬締の姿にいつしかぐぐっと感情移入していた。
下宿屋の大家の孫娘・香具矢(かぐや)との恋の行方は笑えるシーン満載で、とんちんかんな例えで慰めたり、達筆過ぎて読めない毛筆でのラブレターを戦国武将のような巻紙で書いたりする不器用さがなんとももどかしく応援せずにはいられない。
辞書作りで言葉の居場所を探し続けながら、馬締は一生のパートナーを見つけて自分の居場所を探し出したのだった。
言葉を言葉で解きほぐす辞書。
その難しさを改めて考えさせられる。
映画では「右」の語釈について議論する場面があったが、誰もが知っている簡単な言葉ほど語釈は頭を悩ませる。
紙の質へのこだわりにも驚いた。
映画のパンフレットには一部辞書用の紙が使用されているのだが、めくってみるとなるほど薄いが裏映りがほとんどなく、1枚1枚が手に吸い付くような「ぬめり感」と呼ばれる感触がある。
これは紙以外では得られない心地よさだ。
完成した辞書は映画のタイトル通り「船」の例えがふさわしいが、この船に最終目的地はない。
辞書の完成披露パーティーでの馬締と荒木2人の会話が印象的だ。
溜まった用例採集カード(辞書の基になる単語とその意味を書いたカード)をお互いに取り出すと笑い合う。
「どうやら明日から改訂作業に入らなければいけないようですね」
辞書作りは完成した直後から新たな旅が始まる終わりなき航海。
永遠に続く言葉のオデッセイに壮大なロマンを感じた。