こんにちは。筑波大学漕艇部で学生コーチ兼トレーナをしている社会工学類B2の菅野です。 時間の経過というものは早いもので、前回のブログ執筆から約三か月、五大学レガッタから一か月も経ってしまい、自分でも驚愕しております。
今回のブログでは漕手を指導し、チームを運営していく立場として、そして一人の学生研究者として春に考え、行動したことについて書いていこうと思います。少し長くなりますが、もしよければお付き合いください。
漕艇部の中の私
端的に言えば、今春の私の目標は、五大学エイトを指導して能力を高め、東京科学大学(旧・東工大)に19年ぶりの勝利を収めることでした。そのために、現時点で自分が使える技術はほぼすべて投入したつもりです。論文や科学的エビデンスに基づくトレーニングアプローチ、人工知能を用いたフォーム解析システムの開発・運用、練習管理ソフトウェアなど、できる限り多くの手段を試しました。実際、テクノロジーによるフィードバックの向上に加え、野村コーチのご指導も相まって、今年の五大学エイトはかなり完成度の高いチームに仕上がったと考えています。しかし結果として、筑波大学は東京科学大に0.25秒差で惜敗し、連敗を止めることはできませんでした。
実は試合前に、コックスの萩庭さんともう一つ取り組んだことがあります。筑波と東京科学の本番における推定タイムの導出と、それに基づくレースプランの構築です。私と萩庭さんは理工学群の社会工学類に所属しており、その学術領域の一つにオペレーションズ・リサーチという分野があります。詳細は割愛しますが、手元のデータから実際のパフォーマンスや挙動を統計的に予測する手法、とだけ述べておきます。我々はこの手法を用いて、お花見レガッタの成績、通常練習のUTタイム、技術的練度、当日の気象条件などを加味し、二艇のタイムを推計しました。その結果、筑波大は6:38〜6:55、東京科学は6:50〜7:00程度というレンジを得ました。お花見レガッタではタイム・決勝グループともに科学大を上回っていたため、この数値にはある程度の説得力があったと今でも考えています。しかし蓋を開けてみれば、筑波は6:53程度で科学大に敗れました。この推計が正しいとすれば、我々は期待されたほどの力を発揮しきれず、逆に科学大は実力を十分に出し切ったと言えます。さらにこれは後から聞いた話ですが、科学大は風や水流がほぼ同条件の荒川での2000mトライアルで筑波とほぼ同等のタイムを出しており、お花見以降にむしろ大きく差を詰められていた可能性が高いようです。(すなわち先ほどの推計値についても筑波大を過大評価しすぎていた可能性がある。)
つまりこの結果から言えるのは、お花見後の練習計画や、自分たちの現状を正確に把握する力に課題があったのではないか、ということです。
組織論に立ち入るつもりはあまりないのですが、それでも、結果を残してこそ部としての存在意義が示せるのではないか、と私は考えています。もちろんその根底には、人間的な成長や人材育成という教育的な目標があります。ただ、それを高い水準で達成するためにも、相応の結果——すなわち勝利——が必要だと思うのです。
このチームは、学生だけで運営しているわけではありませんし、そもそも学生だけで成立する競技でもありません。宿舎の管理、艇の維持・更新、大会や生活面の補助など多くの費用がかかっており、ありがたいことに、桜川の新艇庫をはじめとする練習環境の改善にまで、OB・OGの方々が力を尽くしてくださっています。私はこれを一種の「投資」だと捉えています。企業など他の経済主体を見ても明らかなように、投資を受けた以上は、いずれそれに見合う成果を支援者へ還元していく責任があると思うのです。中学生や高校生であれば、感謝の気持ちを伝えること(それももちろん大切ですが)で十分かもしれません。しかし我々はすでに大学生であり、成人です。数千万という多額の支援をいただいている以上、結果を出せない理由を並べ続けるのではなく、OBさんや野村コーチを含め、チームを支援してくれる方々に少しずつでも成果という形でお返ししていきたい、と私は考えています。
そしてもう一つ、私がこの組織にとって最も大きな課題であり、同時に最も改善の余地があると感じているのは、自分たちに対する自己評価——セルフリスペクトの低さです。「未経験者が多い」「環境が十分に整っていない」「いつも戸田で練習できるチームではない」といった声を耳にすることが少なくありません。こうした気持ちも理解できないわけではありません。ただ、私が伝えたいのは、蹴球やラグビーといった他の部が結果を出している以上、漕艇部に結果を出せない理由などないはずだし、事実として昔は今以上に結果をだしていたということです。(懐古厨ではありません笑) むしろ、こうした後ろ向きな姿勢を抱え続けることは、競技だけでなく、これからの学業、そして社会人としての一人ひとりの成長にも影響しかねないと思います。私自身、どうしても勝ちたかった科学大に敗れたこと以上に、こうしたブルーな(?)空気が悔しく、そしてそれに最後まで気づけなかった自分のコーチとしての未熟さを痛感しています。だからこそ、このメンタリティーだけは、自分が現役でいるうちに必ず変えていきたいと心に決めました。
研究者としての私
筑波大学には、先導的研究者体験プログラム(以下、ARE)という、学士課程の前半から予算をつけて研究に取り組める制度があり、私は先日これに応募しました。研究内容は、マルチエージェントシステムにおける議論・監査構造と、その精度に関する研究です。どのような分野かと言いますと、人工知能を集団として組織化し、議会やシンクタンクのようなシステムを構築したうえで、その精度や安全性を検証する領域になります。グローバルに見れば、AI safety や AI governance と呼ばれる分野に近いものだと考えています。
以前はバイオ系にもかなり関心があったのですが、専攻の性質上、ウェット研究や臨床研究に取り組むことが難しいという事情がありました。一方で、社会工学類のなかにも進化生物学や生物ゲーム理論という形で研究をされている先生がいらっしゃったため、バイオへの関心はそうした分野に収斂させ、先述の研究へ活かしていくという方向性に定めました。実際、現在開発中のシステムにも、進化生物学や遺伝的アルゴリズムの手法を取り入れている箇所があります。
正直なところ、研究はとても楽しいです。視野を広げてくれますし、なにより世界の最先端に触れることができます。大学教育の現場、少なくとも私の専攻では、五十年ほど前から二十年ほど前に確立された理論を学ぶことが多いのですが、それだけでは面白みに欠けますし、スキルが伸びている実感もあまり得られません。やはり、実務や研究こそが自分の力を伸ばしてくれるものだと考えています。それに最近筑波大のプログラミング、企業家コミュニティと繋がる機会もいただき大変新鮮な刺激を受けているところです。授業や部活、バイトがない日中は基本ラボにこもってソフトウェアと睨めっこする毎日です‼️
ただ、研究プログラムだけでは実務の経験が不足してしまうため、最近はアルバイトを辞め、テック企業のインターンに積極的に応募しています。今はその選考課題に追われて、少々パンクしそうになっているのですが(笑)。昨今のAIブーム、あるいはAI革命(?)の影響もあって競争はかなり厳しいのですが、もしどこかでご縁をいただければ、業界の内側を知ることにつながり、さらに高みを目指せるのではないかと考えています。偏った競争心というよりも、自分のまだ知らない世界、未来の領域に足を踏み入れてみたいという好奇心こそが、私の行動の動機になっているように思います。
プライベートの私
最近、いろいろと興味深いことがありました。そのなかでも二つほどお話ししたいと思います。
先週、全日本出場組のサポートのために戸田へ行っていたのですが、練習を終えた後にチームで雑談していたら、艇庫の裏から突然小さな子猫が出てきました。おそらく生後一か月ほどの、キジトラと呼ばれる柄の子猫だったと思います。きっと親とはぐれてしまったのでしょう。まだ親から教わっていないのか、人間を警戒する様子もなく、かといって生き物が本来持つ「大きなものを怖がる本能」ゆえに近づいてくるわけでもなく、しばらくお互いに微妙な距離を取ったままでいました。
ただ、このまま放っておけば餓死してしまうか、ちょうど木にとまっていたカラスに襲われてしまいそうだったので、見るに見かねて何とか捕まえることにしました。ちょうど筑波の艇庫と東京経済大の艇庫の境界あたりにいたので、図らずも東京経済大との「謎の共同作戦」になってしまいました。私が毛布でくるもうとしたら逃げてしまい、そのまま東京経済側へ走っていってしまったので、最終的に先方に捕獲していただきました。我々の艇庫には子猫に与えられそうな食べ物が何もストックされていなかったので、かえって東京経済さんに保護してもらえて、彼(or彼女)にとっても幸運だったのではないかと思います。
その後、子猫はスーパーの買い物かごに乗せられて、保護センターに引き取られていったようです。本当によかったですね(笑)。東京経済さん、ご協力ありがとうございました! 写真を撮り忘れてしまったので、代わりに実家の猫の写真でも貼っておきます。
実家を縄張りにするキジシロ猫型怪獣 目からチェレンコフ光を放っている。
二つ目は最近の漫画の話題です。最近「天幕のジャードゥーガル」という作品を見つけました。

ジャンルは歴史系です。どうやら13世紀のモンゴル帝国や征服されてしまったイスラム圏を舞台にした物語のようです。ファーティマ・ハトゥン(Fatima Khatun)という実在の女性をモデルにしているとか。私はもともと文化や歴史系の漫画が好きで、例えば森薫先生の「エマ」や「乙嫁語り」などは拝読させてもらったことがあるのですが、こういったジャンルで新しい作品がでてきてくれてうれしいです。作画も版画やイスラム美術を彷彿とさせる感じでいいですし、アニメ化もするそうなのでチェックしたいと思います。
長々と喋ってしまい申し訳ありませんでした。これからも自分の時間やテンポを大切にしつつ、学業や研究に取り組みながら、部にも貢献し高い成果を発揮していく、そういったバランスの取れた高度な人材を目指せるように頑張ります。