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2008ニューヨーク・アラブ&サウス・アジアン・フィルム・フェスティバル

タイトル:American East 「アメリカン・イースト」 ★★★★★

3月15日(土曜)7時、マンハッタンのトライベッカに位置するトライベッカ・フィルムセンターのスクリーニングルームで「アメリカン・イースト」を観た。120人ほどの小さな部屋は満席。この作品は5日から16日迄開催された、2008ニューヨーク・アラブ&サウス・アジアン・フィルム・フェスティバルの1本。トータルで、ショートから長編迄合わせて70本くらい、うち長編は40本位上映されたと思う。アラブとサウス・アジアンと言っても半分近くの作品がアメリカで製作されている。そう、半分はアメリカに住んでいるという事。従って、アメリカに暮らすアラブ人一家の話を描いた「アメリカン・イースト」では、地元ニューヨークのアラブ系の観客で埋め尽くされていた。こんなにアラブ人を一辺に見るのは始めてだが、以前撮影で入ったクラブでインディアン・ナイトをやっていて、沢山のインド人を見てびっくりした事を思い出した。実はニューヨークではごく当たり前の事だったのだが。

映画は9.11のワールドトレードセンター崩壊後のアラブ系一家の話を痛烈且つユーモラスに描いたドラマだ。ロスアンジェルスを舞台に、アラブ人街でデリ(何でも売ってる商店)にちょっとしたカフェの付いた店を営むムスタファはエジプトからの移民。ティーンエイジャーの娘はパンクの女友達といつもつるんで遊び回り、下の男の子はモハメッドという自分の名前を嫌い、クリスマスツリーを買って欲しいとねだる…。店のエアコンは壊れ、修理の費用もない。上の美しい娘は看護婦をしていて、病院の医者に惚れられているが、家族のしきたりで、父が決めた顔も見てない親戚との結婚で心が塞いでいる。店には近所のアラブ系常連が集まり、TVを見ながら、ニュースで報道されるイラクでのテロの爆破に怒りを押さえられない。そして不法で雇っている使用人やムスタファのタクシーを使ってタクシー・ドライバーを生計としているオマー(カイス・ナシェフ:パラダイス・ナウの主役)。彼には金髪のフィアンセがおり、役者を目指しているが、いつも回ってくる役はテロリストだ。これらの登場人物に加え、ムスタファの念願の店づくりに投資するビジネスパートナー、ジューイッシュの友人、サム(トニー・シャルハブ)がいる。

ストーリーは3つの要素を持っている。ひとつには9.11以降のアラブ人に対する世間一般の目がどう変わったのか。それによって彼らはどんな影響を受ける事になるのか。二つ目はアメリカナイズされた子供達を通して、一家のしきたりや信仰心に疑問を投げかける。そして3つ目は
アラブ人とジュイッシュの友情。本来敵対し合う筈の2人のパートナーシップは実現するのか。これらの要素を幹に、様々な出来事が枝となり、しっかりした大作に仕上がっている。更に個性的なキャラクター作りが葉や実となってインディとは思えないくらい、エンターティンメントに仕上がっている。ラブ・シーンやFBIがらみのアクション・シーンもあり、笑うセリフもたっぷりと、この手のテーマとしては最後迄一気に見せられてしまう希有な作品だ。

ティーンエイジの娘がパンクの友達にせがまれて、アラブ人とジュイッシュの歴史について話す場面では、モンティパイソン風なアニメに変わる。監督曰く、もちろん、マイケルムーアのボーリング・フォー・コロンバインを意識した、と。またタイトル文字の古くささを疑問に思ったが、文字の種類と映画タイトルそのものの理由を、もっとも最後のシーンで知るという仕掛けはよくある手法とはいえ、なかなかチャーミングだ。

上映終了後にトニー・シャルハブと握手!(彼はMONKというTVシリーズの主役、エミー賞を3回受賞した、とっても普通のおじさんです。レバノン生まれで今作のエグゼクティブ・プロデューサーでもある。)また、今作が長編始めてという監督ハシャーム・イサビとも話ができた。東アジア人は私ひとりだったので目立ったのかもしれない。日本でぜひ公開される事を願いたい。

アメリカン・イースト 2007年/アメリカ作品
主演:シド・バドレイヤ
監督:ハシャーム・イサビ


American East