歌で褒められた話
あれは小学一年の冬の話。
音楽の時間に、「たき火」という歌を歌った。あの、「かきねのかきねのまがりかど〜」で始まるあの曲。担任のイナガキ先生が、オルガンで伴奏をして、一人ずつ発表する時間だったのだと思う。
今でもよく覚えている。教室に設置された石油ストーブの匂いや、湿気で曇った窓、オルガンの音から漏れる空気の音。
人前で歌ったので、手に汗をかいていたこと、ちょっと緊張したこと、そして自分の息づいかいまでも。
歌い終わった後に、イナガキ先生がこう言った。
「のびのび歌っていてとてもいいですね。」と。
先生のそのコメントに私の体がもっと暖かくなった。嬉しかったというより、「身体がぽかぽか」した。
それが初めて私の音楽を褒められた記憶。
私はその後、音楽が大好きになり音大を出て、今も音楽の仕事についている。
イナガキ先生は10年くらい前に、病気で亡くなったと聞いた。先生が亡くなる前に、一度この思い出を話しておきたかったなとたまに思う。
子供は先生の何気ない一言を覚えていて、それがその子の人生を大きく変えてしまうことがある。
それではまた。
まるいまど