我らが住み暮らすはれるやはいつの大家は元看護師である。
とかいうとじゃあばばあの大家なんだね、と多くの人はのたまう。
まあ、半分あたっている。女ではあるがばばあというほど老けてはいないのである。
その名を笹焼彩子という彼女は50とも60とも噂されるが、実年齢は46才である。
その笹焼彩子、名に反してその声はいつもでかい。
「すーさーん!」
ある朝、そんな声で目覚めさせられたくらいである。
目覚めて出勤の支度をして外へ出たら、また、
「すーさん、おはよう!いってらっしゃい!」
鈴木さんとか澄子さんとか、そんな名称の人物がそばにいるんだろう、
そう思い、声のほうをば見やれば、声の主とばっちり目があった。
「おはようございます」
とりあえずそう言った。
そしてわたしはいずれ知るに至る。
彼女にとってはすべての店子、5名がすべてすーさんなのである。
なしてや、とわれ彼女に問う。したらのたまうではないか。
「だってさ、あれよ、いつもそう呼んでたらさ、みなさんに一斉に用がある時、一言ですむっしょ」
ああ、と俺は思った。なるほどね。
つづく、か?